石上優はもう戻れない 作:顎髭
時が流れるのは、本当に早い。
私だけでなく、皆もそう感じているに違いない。
気付けばもう夏服を着ていて、ほんのちょっと動いただけで汗が出るくらいの気温になっていた。
私が生徒会に入会してから、もうすぐ3ヵ月が経つ。徐々にではあるが、会計の仕事にも慣れて来て、生徒会の仕事に自信がついてきた気がする。
確か近いうちに、生徒総会がある。生徒会の仕事の中でも、トップクラスで大変な仕事らしい。私なんかに務まるのかと思う部分があるが、まあ、あの "彼" にあれだけの勇気をあの時絞り出したんだ。
もう私は、ただの根性なしではない………。
時は遡り………。
「……わ、私がですか……?」
「ああ、そうだ。本来は会長である俺が行かなければならない。けれど生憎その日は、俺達2年はどうしても外せない用事があるんだ。」
「でも……あれですよね……。確か、部活連の方々って………。」
中等部の頃から噂にはなっていた。
「外部入学した昔の生徒会長が失礼を働いて、親ごと海外に飛ばされた」という、とんでもない噂だ。
部活連の部長達の大体は、親がとんでもない権力者。国家権力やアウトロー、そしてどこぞの国の第二王子といった、とんでもない面々の集まりである。
そんな恐ろしい人達を……私が相手するのか……?
「…まあ、気持ちは分かる。俺も一度経験したが、あの人達を相手にするのは、本当に嫌だ。だが、本当に外せない用事なんだ。」
「だとしたら、私でなくても………。」
「………そういうわけにもいかなくてな……。」
確か生徒会の役員は合計6人で形成されていて、その内の生徒会庶務と生徒会会計監査が、3年生だったはず。
2年の白銀さんが会長になったせいで、いづらくなったのかは分からない。けど、入会して3ヵ月経つが、未だにその二人に会っていない。
少々複雑な空気なのだろう。大友はそう思う事にした。
「それに………、俺は大友さんの事を信頼してる。」
「えっ………。」
「会計の仕事も結構スムーズにこなしてるみたいじゃないか。
四宮が言ってたぞ?
『彼女は才能が他人より少ないだけであって、伸び代は十分ある』とな。」
四宮さんが、私なんかにそんな事を………。
「会計の仕事だけじゃない。勉強だってそうじゃないか。日々頑張ってきたから、今のあなたが出来たんだ。俺はそんなあなたを、心から信頼している。
あなたなら、出来る。」
「……………………。」
「……まあ、多少の覚悟は必要だ…。俺も本当にマズいとなった時はあるし……。くれぐれも、粗相は絶対に駄目だ。
でも、それだけさ。それだけ注意すれば、あとはどうにかなる。いつも通りの、生徒会会計・大友京子でいればいい。」
……そこまで言われて、断れる訳ないじゃないですか……。
「……分かりました。私も腹を括ります。」
「………頼んだぞ。」
とは言ったものの………。
「………………………。」
会長、本当に人生終わったかと思いました。
何とか無事に会議は終了した。多分だが、私が海外に飛ばされる事は無いと思う。
しかしだ。異常な位に精神を削り取られた感じがして、私は会議終了後、その場でぶっ倒れてしまった。誰が保健室に運んだのか分からない。目覚めたら保健室のベッドの上だった。
「……こんなのもう二度とごめんだ………。」
部屋に入った瞬間、言葉では表せない圧が私を襲い、私の足を怯ませた。たかだか部活の予算会議だろうにと余裕をこいていた自分を後悔していたが、会長にあそこまで信頼されたんだ。絶対に、期待に応えて見せる。
と、強気でいたのに………。
「………やっぱまだまだだな………。」
最後の最後で倒れるなんて……情けない……。
「あら、目が覚めた?体調の方はどうかしら?」
保健室の先生が声を掛けてきた。
「あ…もう、大丈夫……だと思います。」
「だと思いますって……。」
「……あの、誰がここに私を………。」
「え?あー………、名前は分からないけど、ちょっと目つきが悪い男子だったかしら………。」
「目つきが悪い………。」
「……それよりも、本当に大丈夫なの?」
「ええ、まあ………。」
「確か、生徒会の子なんですよね?大変なのは承知だけど、無茶は絶対駄目よ?自分が滅んだら、意味が無いんだからね。」
「はい………。」
大友は先生に礼を言って、保健室から出た。
時計を見ると、あと1時間程で下校時間だ。会長から、「今日は会議が終わったら帰っていい」と言われた為、そのまま帰ろうとした。が…。
「……そういや、提出しなきゃいけない会議の資料、どこいったっけ?」
会議終了後、すぐに倒れたので、そんな事は知る由もなかった。大友はすぐに会議が行われていた部屋へ向かった。
「(無くなってたらマジでヤバい……。四宮さんに何て言われるか……。)」
そんな事を考えながら、部屋に入ろうとしたが、鍵がかかっていた。
面倒だなと思いながら、鍵が管理されてある職員室へ向かおうとしたら……。
「探してるのは、これか?」
突然声を掛けられた。その方向へ顔を向けると、一人の男子生徒がその部屋の鍵を持っていた。
「あ………うん………。」
普通なら「それ!」と元気良く反応するが、その鍵を持っている相手は、とてもそんな反応が出来ないオーラを放っている人間だった。
「でも、どうしてそれを………?」
「俺もちょうど、ここに用があったんでな。」
「そうなんだ………。ありがとう………小島君……。」