石上優はもう戻れない   作:顎髭

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ご勝手ながら、まだ下の名前が分からない小島君ですが、私の勝手な想像で「慶二郎(けいじろう)」とさせていただきます。
そこのところは、ご了承下さい。お願いします。


大友京子は腹を括りたい②

「………どうした?この鍵を探してるんじゃないのか?」

「あ!うん、ありがとう………。」

 

よそよそしい感じで、大友は鍵を受け取った。

 

「(………やっぱ怖いなぁ……。)」

 

小島慶二郎。

この名前を知らない者は、同学年の中にはいない。現警視庁警視総監を父に持つ、学年内で最も敵に回してはいけない人物。

正直私も、小島君とはあまり関わりたくなかった。どういう訳かは分からないが、私達を見下す態度。鋭い目つき。高校生とは思えない位の威圧感。

この要素があるものだから、同学年の中でもかなり浮いていた存在だったが、彼に関しては嫌われているというよりは、恐れられているという方が正しい。

 

「………。」

 

大友は鍵を開けて部屋に入ると、自分が座っていた席に、提出するべき資料があるはずなのに、どこにも見当たらない。

マズい事になった。

焦りが出てきて、大友は部屋の中を捜索しようとした。

 

「安心しろ。」

 

小島が後ろからそう言った。

 

「お前の探している資料は、俺が代わりに提出しておいた。」

 

変に焦らさないでよー、となど、小島に対して言えるわけがない。

大友は安堵の息を漏らした。

 

「ありがと……う……?」

 

だがここで、大友は疑問に思った。

なら、何故小島はもっと早く、私にその事を言わなかったのだ?

部屋に入室する前に小島は知っていたのだから、わざわざ私が部屋に入ってから言う必要は何も無い。

からかった、とは到底考えにくい。それに、そもそも彼はこの部屋に一体何の用なんだ?忘れ物でもしたのか?

なら、何故彼は頑なにドアから離れようとしないのだ?

 

「……………………。」

「小島……君………?」

「…………もう、いいんじゃないのか?」

 

もう、いい?何がだ?

 

「…………石上の事に関与するのは、もういいんじゃないのか?」

「……………え…………。」

 

小島はドアの鍵を閉めて、大友に近づいて来た。

 

「……お前は、石上に対して相当な負い目を感じているようだが……………、もう気にする必要はないんじゃないのか?」

「な、何を言って…………。」

「知っているぞ。お前が、いや、お前達が石上を元に戻そうと奮闘しているのは。

 だが…………そこまでしてあいつを戻す必要は、あるのか?」

「…………何でそんな事言うの………?」

「………考えてもみろ。 

 自分の事を殺そうとした奴らに助けられる、石上の気持ちを。」

「!!!」

 

心臓の鼓動がいきなり早くなる事に気づいた。

………そうだ。あの時私達は………石上君を……殺そうとしたんだ………。

 

「………どうした?もう、あいつの事で怯まないんじゃないのか?顔が真っ青だぞ?」

「………………………。」

「………お前達の中に、誰かあいつの味方がいれば、こんな事にはならなかったのに………。

 いいか?石上を今の石上にさせたのは、紛れもない貴様らだ。お前達はまんまと荻野の嘘に騙されて、あやうく無実の人間を殺すところだったんだ。お前達の様なバカがいるから、いつまで経っても冤罪が減らない。罰せられるべき人間がノウノウと生きる社会が生まれてしまう。

 なのに今更になって、元の石上に戻すだと?一体どこまでお前らは腐ってるんだ。だったら何故もっと早くそうしなかった?何故あの時、真実に気付こうという姿勢すら示さなかった?」

「………………………。」

「……もう、あの時の石上は消え失せた。お前達のやっている事は……………無駄だ。綺麗さっぱり、もう諦めろ。」

「…………………何で……………。」

「?」

「………何で……決め付けられるの…………?」

「何だと?」

「やってもないのに………何で小島君は無理だって決め付けられるの……?」

「………往生際が悪すぎやしないか……?

 何故お前はそこまで奴に固執する?何がお前をそうさせるんだ?」

「………石上君は……あのままじゃ駄目なの………。」

「はぁ?」

「……誰よりも真っ当に生きなきゃいけない人間なの………。

 誰よりも優しくて、誰よりも思いやりのある石上優こそ、本当の彼なの……。今の石上君のままじゃ………このままじゃ彼は……。」

「………じゃあ聞くが、お前は石上の為に、何かをしたのか?」

「!!」

「もしお前達が本気であいつの事を元に戻したいと思ってるなら、具体的な案が一つでもあって、おかしくはないと思うが……?

 それも無いのだろ?ただお前達は、自分達が石上に対してやった事を、石上の心を開く事でチャラにしようとしてるだけだ。」

「なっ………!!」

「そういうのを何て言うか知ってるか?自己満足というんだ。

 貴様らは心から石上の事など思ってない。お前達の中にあるのは………『心を開かせたから、どうか許して下さい』という、何ともまあ醜い考えだけだ。」

「何ですって……!!」

 

周りから自己満足と言われても、正直気にはしなかった。側から見たら、そう見えてしまっても仕方が無い。

ただどういう訳か、彼の言った事だけは納得いかなかった。

 

「俺からすれば、お前達のやってる事など、馬鹿らしくて仕方が無いよ。」

「何もしていないあんたが何でそんな事言えるの!?何でそんな偉そうな態度が取れるの!?」

「過去の過ちは絶対に消えない。大事なのは、その罪を死ぬまで背負い続けて、次こそは真っ当に生きると決意する事だ。

 なのに貴様らは、その罪を揉み消そうとしている。無かったことにしようとしている。どこまでも醜悪な奴らだよ。」

「所詮あんたからすれば石上君はそんな程度の人間よ!!でも、私達は違う!!私達はちゃんと認知している!!彼は正しい人間だって!!彼はこの先を真っ当に生きるべき人間だって!!」

「荻野の嘘に騙されて石上を突き放したくせして、『私達はちゃんと認知してる』か……。お前は他の連中と違って分別のある奴だと思ってたが、俺の勘違いだったようだな。所詮お前もそんな程度の人間だという事だ。あいつらと同じ、程度の低い人間だ。」

「何ですって……!!」

「さっきも言ったが、じゃあどうしてあの時石上を信じなかった?何で根拠も無い荻野の話を事実と勝手に決め付けた?

 もっと早くにお前らが気付いていれば、あんな事にはならなかっただろ。遅過ぎるんだよ。

 ロクに真実に気付こうとしなかったのに、今になってその罪を揉み消そうとしているお前や小野寺や伊井野。石上の件から何も学ばず、また同じ過ちを繰り返そうとしている同学年共。同じ秀知院学園生以前に、同じ人間として恥ずかしい限りだよ。」

「さっきから聞いてれば偉そうに……!!あんたになんか分からないでしょうね!!いつも私達を見下してばかりのあんたになんか!!いつもお父さんの権力振りかざしてるあんたになんか!!彼がどれだけ真っ当な人間かなんて」

「そんな事俺だって分かっている!!!」

 

そう言ったと同時に、小島は勢いよく机を蹴り飛ばした。

 

「!!」ビクッ

「ああそうだお前の言う通りだ!!あいつは至極真っ当な人間だ!!誰よりも真っ当に生きる権利がある!!

 俺だってあいつを元に戻したい!!俺だって、事件前の石上こそ、本当の石上だと知っている!!

 だが!!…………もう、手遅れなんだよ……。」

 

小島は近くの椅子に腰を掛けた。

 

「………どんなに考えても………もう手遅れだ……。」

「…………………。」

「無理なんだよ……。遅過ぎるんだよ………。どんなに手を尽くしたところで、あいつの苛立ちを増幅させるだけだ………。

 だからせめて…………あいつがああなった元凶の荻野を………。」

 

大友は先程の発言を後悔した。

小島慶二郎も、彼の事を元に戻したいと考えていた……。それなのに………。

 

「……今更何かして、胸糞悪い思いをさせるくらいだったら………何もしない方が賢明だ………。」

「…………………。」

 

小島は歯を食いしばり、苦悩の表情を浮かべていた。

彼も彼で、後悔していたのか……。それなのに私は、感情的になってたとはいえ、彼になんて事を言ってしまったのだろう……。

 

「………俺がもっと………ちゃんとした捜査をしていれば……。」

「………小島君………。」

「………本気であいつの事を思ってるなら…………お前達のやるべき事は一つだけだ…………。

 ……もう何もするな。もうあいつの為に……時間を使うな……。」

「それは………!」

「お前は恨みや憎しみだけでなく、今度は殺意まで奴に持たせる気か?お前だって見てるはずだ。奴の悪意のこもった目を。

 更に悪意を持たせて、お前はどうするつもりなんだ……?」

「……………………。」

「………今一度、考え直すべきなんじゃないのか……?

 自分達のやろうとしてる事は………本当に石上の為になるのか……。俺は………もう奴には干渉しない……。そっとしておいてやるのが………一番だ………。」

 

……何も……しない………。

 

「……何が最善なのか、じっくりと考えろ……。」

 

そう言い、小島は部屋から退室した。

 

「……………………。」

 

この時、大友京子の心が揺らいでいた事に、彼女自身は気付いていなかった……。

……だったら………私は何のために………。

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