石上優はもう戻れない 作:顎髭
以前石上と話をした龍珠。
自身の過去が夢に出てきて………。
気付いたら、体を起こして息を荒くしていた。
「……はぁ……はぁ………。」
久々に過去の事が夢に出て来た。もう、蓋をしたはずだと思ってたのに……。
家着は汗で濡れていて、髪も乱れていた。部屋に置かれていた鏡に目がいったが、病気にでもかかったのかと思う位、顔は真っ青だった。
「……何だよ一体…………。」
龍珠は部屋を出て、リビングの方へ行き、一杯の水を思い切り飲んだ。
「………はぁ……。」
過去はどんな事があっても消えない。忘れたと思った時に、ぶり返してくる。
思い出したくもない。けれど、今も夢の内容が鮮明に頭に残って……。
「あの子とは関わっちゃ駄目よ。ヤクザの子なんだから。」
初等部初めての授業参観の日の事は、鮮明に覚えている。
我が子の為にやって来た親達が、皆揃って私に後ろ指を向けている。
それに同調するかの様に、同学年の皆も、私から離れて陰でコソコソと………。
私は、ただ皆と友達になりたいだけなのに……何もしてないのに……何で……?
「ヤベッ、俺今龍珠さんと目遭っちゃったよ…。」
「ボコられんぞ……。」
そんなつもり無いのに……。
「龍珠さんじゃない?昨日の奴……。」
「ああー、昨日のねー…。お父さんにチクってそー……。」
そんな事した覚えないのに……。
何で……?私……皆に何かした?
中等部の頃からは………もう、友達を作る気すら起きなかった。
起きたとするならば……。
「あ?何ガン飛ばしてんだ?ぶっ殺すぞ?」
彼らに対する敵意。
「私は親父とは違ぇんだよ。同一視してんじゃねぇぞタコが。」
陰でコソコソ言ってくる奴らへの対抗心や反発心。
そう言えば、大体の奴は怖気付いてどっかに行く。
弱い犬ほどよく吠える。あいつらは弱い犬っころだ。そう虚勢を張る事によって、私は孤独感を紛らわそうとしていた。
だが、やはり一人は辛い。
「ねーねー、明日このお店行こーよ!」
「ここってつい最近オープンしたとこじゃん!行こ行こ!」
「誰誘おっか?」
「そうだなー……。」
そんなやり取りを耳に挟む。それだけであった。誘われる事も無く、誘っても避けられる。
私だって………皆と一緒に遊びたい……。もっと……楽しい思い出を作りたい……。
でも、その悲しみを虚勢を張る事によって、ずっと隠して来た。自分に嘘をつき続けていた。
別に一人でも生きていける。一人の何がそんなに駄目なんだ。
そんな虚勢を張って、私は………悲しみを紛らわしていた。
「次の授業遅れちゃうよー。」
え?まさか、私にそれを言ったのか?
「おーい、龍珠さーん?」
耳を疑ったが、やはり私だ。私に声を掛けている。
「どうしたの?そんなキョトンとして?」
「あ、ああ………。」
確かこいつは、中等部からの混院だったはず。成る程、私がどういう奴なのか、詳しく知らないみたいだな。
いや、だとしてもだ。龍珠組は日本でもかなり有名な広域暴力団だ。耳にはしていると思うし、「龍珠」なんていう苗字はそうそうに無いだろ。
「……………………。」
「……ん?ど、どうしたの?」
この頃の私は、まだ彼女に猜疑心を抱いていた。恐らく彼女の事を睨んでいたのだろう。
「………あんま私と関わんない方がいいぞ?」
「えっ……。」
「あんただって、私がどんな奴か知ってんだろ?ヤクザの娘だって。」
「……まあ、知ってるけど………。
だから何なの?」
「……え?」
意外すぎる返事に、思わず間抜けな声が出てしまった。
「いやー、正直さ、親がヤクザだからって、何なのって話だし…。龍珠さんは龍珠さんじゃないの?親がどうこうなんて、関係なく無い?」
………私はこういう人間に、理解されたかったのかもしれない。
親がどうこうなど関係なく接してくれる、彼女みたいな人間に……。
でも………。
「………ざけんな………。」
「え?」
「……皆そうやって最初は接してきたんだ……。なのに……なのに……いつからか勝手に離れていって、ありもしない噂をでっち上げて私を……!!」
「りゅ、龍珠さん?」
「どうせお前も同じだろ!!お前もどうせ私を段々怖いと感じて、いつからかあいつらの一緒に後ろ指を差すんだろ!?分かり切ってんだよ!!もう私に話し掛けてくんな!!
もし次話しかけて来たら……!!」
今思えば、私は一体なんて間抜けな事をしてしまったんだろうと思う。
この頃の私の心は、もう既に真っ黒だったのだろう。だから親柄関係無く接して来てくれた彼女を、なんの偏見も無く接してくれた彼女を………私は………。
「……………………もし次話しかけて来たら?」
「…………………。」
それ以上、彼女は何も話してこなかった。ただ私の方を見て、涙を流していた。
「……………………何だよ?何か文句でもあんのか?」
そして私は、いつも彼らに対して向けていた態度で、彼女の事を睨んでしまった。
「…………………。」
彼女は何も言わずに、私の元を去っていった。
それ以来、彼女が私に話しかける事はなかった。無論、私も彼女の事は、もう微塵も気にしてなどいなかった。
この時の私は、気付いていなかった。
彼女は、本気で私と仲良くなろうとしていたのだ。本気で、私と友達になろうとしていたんだ。
なのに私は……私は……彼女を拒んだ。
私の心の門を開こうとしてくれたのに、私が無理矢理追い返して、自分で門を閉ざしてしまった。
この時の私は、猜疑心の塊だったのだろう。人の善意を、全て悪意のあるものと勝手に思い込み、傷付く必要の無い人間を傷付ける。何の偏見を持たずに接してくれる心優しい人間を泣かせる。
本当に私は愚かだった。大馬鹿だった。どうしようもなかった。
そりゃ友達なんか、出来る訳が無い。
今ならはっきり言える。私がずっと一人だったのは………全て私のせいだ。
私が彼ら全員の事をいつしか、そんな風にしか見ていなかったからだ。全員が全員そうではないというのに……。一人でも、心優しい人間がいたというのに………。
何度でも言おう。私がずっと孤独だったのは、全部私のせいだ。
そして、高等部へと進学し………。
「ふぁ〜………。」
私は天文部に所属し、一年で早くも部長になった。といっても、元々天文部には部員も全然いないし、大した部活でもない為、活動をしようがしまいが、そこまでどうこう言われない。つまり、自由なのだ。
私にとっては、最高の環境だった。ただ望遠鏡をそこら辺に置いて、活動をしている "感じ" を出していればいい。私は寝そべってゲームでもしていればいい。ゲームがつまらなくなったら、そのまま寝ればいい。寝れない時は、それこそ星を見ればいい。
部員の奴らもほとんど来ない。ましてや部長は自分。つまりだ。この屋上は、部活動の間、私の独壇場となる。
そんなある日だった。奴が私の独壇場に、何の躊躇も無く踏み込んで来たのは………。
「やあ。君が、龍珠桃さんだね?ちょっと、僕とお茶でもしないかい?」
龍珠さんも、原作の石上と似た様な境遇にいたので、龍珠さんにはちょくちょくスポットライトを当てにいく予定です。