石上優はもう戻れない   作:顎髭

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石上優は否定したい

面倒だな………。

何で学校に呼び出されたと思ったら、成績の事かよ……。

 

「度重なる無断欠席、勉学の意識の低さ、お前いい加減にしろよ!」

 

ビービーうるせぇな……。

 

「おい石上!聞いてるのか!秀知院生として恥ずかしくないのか!!」

 

出たよ……。

中等部の頃からそうだった。教員らは、僕達生徒の事など微塵も思ってなどいない。彼らは所詮、この名高い秀知院の名誉の事しか頭に無い。現に荻野の件も、都合良く揉み消そうとしたしな。あんなゴミクズが秀知院にいたと知られてしまえば、秀知院の株は大暴落。ただでさえ世間からいいイメージを持たれていないのに、更に評判は右肩下がり。今後の入学者数にも当然影響が出る。

彼らは、秀知院の名に泥が塗られるのを嫌がっている。僕ら生徒の事など………何とも思ってない。

 

「……秀知院生として……ねぇ………。

 ただの噂を鵜呑みにして、苛めまがいな事をした連中の事を指すのかな……?だとしたら、別に恥ずかしくなんかないね。」

「な……何だと……!!」

「所詮あんたらは俺らの事なんて、すこぶるどーでもいいんだろ?結局は学校の名誉の為。下手したら、自分らの評価まで下がるかもしれないしな。

 結局自分の事しか考えてない。そんな奴らに偉そうな事言われてもさぁ………。逆に苛つくだけなんですが?」

「何だその口の聞き方は!!悪態をつくのも程々にしろよな!!」

 

机を叩き、教員は怒号を放った。

 

「はぁ………退学してもいいけど、その後の事は何も計画してないから、まあ勉強はある程度しますよ。あんたらのお望み通り、秀知院生として、恥ずかしくない様にな。」

 

そう言い放ち、石上はその場を去ろうとした。

 

「ちょっと待て!!まだ話は終わってないぞ!!」

 

教員が立ち上がり、石上に掴みかかろうとした。

 

「さっきからふざけるのも大概にしろよな!!あんまりナメた口聞いて」

「あぁ?何だよ?」

 

これ以上言わせるつもりはない様な目で、石上は教員を見た。

教員は身震いをし、石上からそっと手を離した。

 

「…こうやって教師に掴まれるのは、初めてじゃないな………。」

 

『ナメんのもいい加減にしろ!!駄々こねてれば有耶無耶に出来ると思ってんだろ!!謝る気がない内は絶対戻って来させんからな!!』

 

今思えば、ウゼェ事この上ないな……。

でも……。

 

「……確か中等部の生徒指導の奴……俺の一件のせいで、懲戒免職になったんですよね?秀知院では、生徒の不祥事は勿論、教員の不祥事にも厳しい処罰が下るそうで……。馬鹿な奴ですね。

 あ、あと話で聞いたんですが、あいつもあいつで変な言い訳して、俺の事件の事を揉み消そうとしたとか……。

 あんたらも気を付けた方がいいですよ?俺はその気になれば、あんたらの弱み握って、ぶっ潰す事だって平気でしますよ?

 その弱みこそ、自分らが大切にしてる秀知院の名誉に、泥を塗る事だと思いますがね………。」

 

薄ら笑いを浮かべて、石上は退室した。

 

 

 

 

 

 

 

久々に家に足を踏み入れた。

相も変わらず親父は変な意地を張ってるわ、母はか細い声で「おかえり」と……。

本気でおかえりなんて思ってもねぇくせして……。腹立たしい限りだよ……。

 

「……はぁ…………。」

 

久々の自室だ。でも、かつての様にゲームやラノベは一切なく、あるのは机、椅子、すっからかんな棚、ベッドのみだった。

ゲームやラノベにも、もう興味を示せなくなった。だから全部売った。これがまた結構な金額で、家にいない時でも、そこまで食事には困らなかった。

でも、お金は使えば減るものだ。段々と底がついてきた。

だからと言って、親のスネをかじる訳にもいかない。それこそ、あいつらの様なろくでもないボンボンに成り下がってしまう。

最近となっては、奴らの事を見下し始める自分がいた。自分はどんなに堕落してもいい。でも、あいつら程堕落はしてはならない。せめて死ぬにしても、あいつら以上に堕落しては……。あいつらと同類になるのだけは………。

あいつらよりもゴミクズになったら………即刻死のう。まあ…………それでなくても、もう死にたいとは思ってるけど………。

 

「…………優………。」

 

母がノックをしてきた。

 

「優に………電話よ…………。」

 

僕に電話?まさか学校からか?

 

 

 

 

 

 

 

「…………………。」

「………お久しぶりです。石上さん。」

 

とある喫茶店。僕と向かい合って座っている男性と、僕と同じ歳位の女子は礼をした。

 

「………一体……どうしたというんです……?」

 

遡る事5ヶ月前。僕は荻野を徹底的に追い詰める為、彼らの元へ行き、荻野の被害者に聞き込みを行った。

彼らは、被害者のうちの一人と、その父親だった。

でも、彼らが急に、なんで僕と話なんか……?

 

「……今日来てもらったのは、他でもありません。貴方に、改めて礼を言う為です。

 ……貴方があの時訪問してから、娘は少しずつですが、人前に姿を出そうと頑張ってきたんです……。そして先日………初めて高校へと通うことが出来ました………。」

 

涙を流しながら、その人はそう言った。

すると、隣に座っていたその本人が口を開いた。

 

「……正直今も人が怖いです………。周りの人全員が、自分の事を騙してるのではと毎日………。気さくに話しかけてくれるクラスメイトも………敵と思えてしまうんです………。

 でも……その度にあなたの事を思い出します……。周りからどんな事を言われても、屈する事なく立ち向かうあなたの姿を思い出して……。それで何とか平常心を保っています………。

 石上さん。あの時は言えませんでしたが………言わせて下さい……。荻野を追い詰めてくれて、ありがとうございました……!」

「娘がこうして一歩を踏み出せたのも、全てあなたのおかげです……!改めて礼をさせてください……!ありがとう……!ありがとう……!」

「………………。」

 

僕は呆気に取られていた。

わざわざその為だけに、僕なんかに頭を下げに来たのか。

でもお二方……僕は別に……あなた達の為にやった訳じゃない……。全部自分の為ですよ。あの環境から解き放たれたかったから、あなた達の元に訪れただけで………。

頭を下げられる覚えなど、微塵も………。

 

「あなたには感謝しきれません。娘を立ち上がらせてくれた事。もしかしたらまた、娘の笑顔を見れるのではと希望を持たせてくれた事。本当に感謝してます。」

「……たまに荻野の事が、夢になって出てくるんです…。誰かに助けを求めても、誰もいない。ただ一方的に襲われるだけ……。その度に心が折れそうになります……。

 ですが……だからといって、いつまでも立ち止まっててはいけない……。自分から踏み出さなければ、何も始まらない……。あなたは私に、そんな勇気を持たせてくれました。」

「……私達にとって、あなたは恩人です。誰よりも、敬意を表されるべき人間です…。」

「…………そんな大それたものじゃありませんよ……。」

「………えっ?」

 

お茶を一口飲み、石上はため息をついた。

 

「……僕は、あなた方が思っている程綺麗な人間じゃありません。そんな敬意を表されるべき人間だなんて……ははっ……。」

「そ、そんなことは……!!」

「………実際、僕があなた方の元に来たのも、全部自分の為です。一刻も早く、あの状況から解き放たれたかった。その一心だけですよ。」

「……だとしてもです……。そうだとしても、あなたは娘の事を救ってくれたんです……!

 あなたにそんな気がなかったにしても、私達にとってあなたは………命の恩人だったんですよ………。」

「…………命?」

「……自分で言うのも何ですが、私………死のうと思ってた時期があったんです。」

「!」

「……もう人と会うのが嫌だ……お父さんの顔を見るのも怖くなって……。何回か………。」

 

そう言って、彼女左手首を石上に見せた。

 

「………………。」

「……これじゃ死にきれないと思って……首を吊ろうかと思った矢先………あなたが来たんです……。」

「……だから、命の恩人だと………。」

「……ですから、そんな否定する様なことを言わないで下さい!全部あなたのおかげなんです!」

 

なんてことだ。命の恩人だなんて、随分でかく見られたもんだな………。

でも、僕はそんな人間じゃないんですよ………。

 

「……お気持ちだけ受け取っておきます。

 あれから僕は………他人の不幸を見ても、何とも思えなくなったんですよ……。同学年に対しては、ざまぁみろって感情が強くなって………。

 そんな人間を、命の恩人だなんて言わないで下さい。僕は………誰よりも心が汚い人間です。ドス黒い焦げみたいのがこびりつき、拭い切れない闇に覆われてる心の持ち主を、あなた方はまだ、恩人と呼べますか………?」

 

石上は立ち上がり、レジの方へと向かおうとした。

 

「ま、待ってください石上さん!」

 

娘さんが僕の方へ駆け寄り、僕を止めた。

何だ?まだ僕に何か……。

 

「………くどいようですが………ありがとうございました……!」

「………いえいえそんな……。

 荻野のせいで台無しになった生活を、これからの学校生活で全部チャラにして下さい。」

 

石上は笑みを向けて、会計を済まして、喫茶店から出て行った。

彼女から見た石上の笑顔。それは、優しいうっすらとした笑みの様に見えたが、どこか悲しく虚無を思わせる様な笑みだった。

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