石上優はもう戻れない 作:顎髭
期末考査が終了した。
そして、私の学校生活も終了した。とでも思ったら大間違いだ。何とか留年は回避した。まあ、いい成績とは言わないが、中等部の頃に比べれば、かなり飛躍したと思う。それもこれも全て、四宮さんや白銀会長のお陰だ。
「……もうちょっと成績が良くてもいい気がしますが、まあいいでしょう……。」
「相変わらず手厳しい……。」
「まあまあかぐやさん!京子ちゃんも頑張ったんですから!」
「藤原さんはどうしてあんな成績でそんなに笑顔が出せるんでしょうかね……?フフ…。」
「平気で傷抉るのやめてくれません?」
「まあまあ。もう終わったことなんだからいいじゃないか。
だとしてもだ大友さん。ドンケツから30位程上げられたのは、かなりの成果だぞ。更に頑張れば、学年50位以内も夢じゃないぞ?」
「えっ、いえそんな……!それに、私の成績が上がったのも全部、会長や四宮さんの教え方が良かったからで……!」
「そんな事はないさ。少し自信がついたんじゃないのか?勉学の事も、彼の事に対しても。」
会長からの一言に、私は少しビクッとした。
確かに数ヶ月が経ち、もう石上君のことで怯む事は無くなった。あの時は姿を見ただけで気分が悪くなりそうだったが、今となってはもう、そんな恐れは無い。なのだが………。
「……私達は、石上君から教えられました。
上辺だけで物事を判断してはいけない。噂を鵜呑みにして、傷付く必要の無かった人間を生み出してはいけない。時間を戻せるなら、あの時の私達にそう言ってやりたいです……。本当に……あの時の私はどうしようも無い人間でした………。
まあでも、彼からすれば、今も私はそんな人間なんだと思います……。」
「………随分弱気に見えますが……。あなた、彼を元に戻したいのでは?」
「………………。」
小島君とのやり取りから、私は少し揺らぎ始めていた………。
私のやってる事は、彼を更に苦しめているだけなのではと……。
「………………。」
「………大友さん?」
「…………実は…………。」
私は、この前小島君と衝突した事を会長達に話した。
そして、小島君の言う通り、もう彼には関わらない方がいいのではと思い始めている事も、全て……。
「………成る程………。」
「………この際だから、私からもいいですか?」
かぐやがそう言った。
「実は私も一度、石上優と二人で話した事があるんですよ。」
「えっ……!!」
「……同じ境遇にいた人間として、彼の現状を知りたくてね……。
そして、直感でこう感じました。『彼はもう、元には戻れない』と……。」
「………………。」
「彼の心の闇は、想像を遥かに超える程のドス黒さでした。自分で言うのもなんですが、かつての私以上に心を閉ざしています。」
「かつての………四宮………。」
白銀の脳裏には、かつて「氷のかぐや姫」と呼ばれていた頃のかぐやの姿が映っていた。
あの頃の彼女は、自身が許した者しか受け付けない冷めたオーラを出しており、まさに極寒の冷気を発する氷の様な存在だった。
「(あの頃の俺と四宮の仲の悪さは異常だったな……。)」
無論その頃のかぐやは、白銀のことも拒絶していた。
だがとある事がきっかけで、彼女の凍てついた心は溶かされた。もしかしたら石上優も同じ様に、心の闇が晴れるのではと思ってたが……。
「………私達がどうこうするより、本格的な専門家に任せた方がいい気がしてきました。」
「専門家……。」
「徹底したカウンセリングを受けさせた方がいいです。そうでもなければ………彼は死ぬでしょうね。」
「し……死ぬ……!?」
「……彼はもう、誰も他人を受け入れず、期待すらしてません。それは他人にだけでなく、自身に対してもです。」
「それは……どういう事ですか……?」
「……もう、今の自分にすら期待していない。その先の将来にも期待していない。つまり、もうこの先を生きる気が無いということです。」
石上君は………死ぬつもり……。
「……ある意味、小島君の言う事は正しいと思いますね。下手に私達が何かして、彼を更に締め付けてしまうようならば、何もしない方が得策かと思います……。
まあ、だとしても、周りの大人達は何もしようとすらしませんけどね。」
それに関しては、正直共感する部分はある。私も最近だが、教師達に対して不信感を抱いてきた。
五日前くらいだが……。
『石上の件なんですが……、どうしますか?』
『あいつですか……。あの時やっぱり荻野の件は揉み消した方が良かったですよ……。なのにVIP勢がうるさくて……。』
『全く……本当に石上は余計な事をしてくれましたね…。あいつが黙ってれば、秀知院の名誉に傷が付くことはなかったのに……。』
そのやり取りを聞いた途端、彼らは所詮、学校の名誉の事しか頭に無いことを悟った。本気で石上君の事を、いや、我々生徒の事をどうでもいいと思っている。
もし小島君の言う通り、私達は何もせず、大人すら何もしないとなれば、いよいよ……。
「………………。」
「……まあ、少し様子を見よう。もしそれで本当に大事になりそうなら、我々生徒会も動く。今はしばらく、彼を刺激するようなことをしないのが、いいんじゃないのか?」
まだ諦めきれない自分がいる。
そう察したのか、会長は私に「取り敢えず今はそっとしておく」という提案を出した。
けれど、もし何もしてない間に、彼が本当に………。
「…………分かりました……。」
でも、まあ本当に大事になったら、それこそ………。
『秀知院でイジメみたいなのあったって本当?』
『うわっ、マジかよ……。』
『流石秀知院だな。やっぱ民度の低い奴らの集まりだよ。』
『親のコネばっか使って、随分調子に乗ってたんだな。』
『マジでクズの集まりだな、あそこ。』
『何が国が誇る名門校の一つだよ。』
『いい気になんなよな。』
何だ……これは………?
気付いたら自分は、真っ暗闇の中にいた。そして、どこからか聞こえて来る悪意ある声に、戸惑いが隠せなかった。
『おい。あの制服、秀知院じゃね?』
『てかアイツって………。』
『ああ、もしかして大友って奴じゃね?』
『大友って……ああ……一緒にいじめてた奴か。』
!!
『随分虫のいい奴だよなー。嘘ついた荻野ってのに騙されてたものの、それ鵜呑みにして、石上ってのを一緒にいじめてたんだろ?』
『石上って人かわいそすぎー。自分を守ってくれた人をゴミ扱いするなんて……。』
『てかあいつ、荻野って奴に加担してたんじゃね?』
『あー!有り得るかも!』
『一緒に石上を騙して、いじめようって算段だったんじゃ……?』
『荻野が女を襲ってたってのも、全部その計画の為の嘘で……。』
『うわー、正真正銘のクズだな。』
違う……違う……!!そんな事……!!
ていうか、誰がそんな事を……!?
『大友。』
えっ………?その声………。まさか………。
『……………フッ。ざまあみろ。』
その一言を聞いた直後、私は起き上がった。
「はぁ……はぁ…………。」
汗びっしょりだったが、決して暑いからではない。全て夢のせいだ。
「………何これ………。」
悪夢を見たのはいつ振りだろう。ましてや、それでうなされて起きるなんて、生まれて初めてだ。
というか………何なんだあの夢は……?
それに、最後のあの男は…………。
「………………。」
まだ私達の事を恨んでるのは百も承知だ。いつか本当に復讐されるのではと思っていた時期もあった。
「…………石上君も……あの時はこうやってうなされてたのかな…………。」
今度は……こっちが彼によって苦しむ番だ……。そして、信じたくはないが……この夢は………。
「………水でも飲も。」
寝れる感じがしない。
そう思った大友は、台所へ行き、水を飲みに行った。
だが、この頃の大友京子は、疑いはしていたものの、気付いていなかった。
この夢が既に、今後起こる大事態を予感させる前兆だということに……。
次回、オリキャラを出す予定です。
そこの所は少しご了承下さい。