石上優はもう戻れない 作:顎髭
その日、白銀御行は違和感を感じていた。
登校時、白銀は長時間かけて、自宅から自転車で学校に通う訳だが、その際に………。
『あの胸の飾緒って、秀知院の会長さんじゃない?』
『かっこい〜!』
なーんて感じのことを、すれ違う近所の方々や他校の者から言わたり、そういった目で見られるのが頻繁だった。
なのだが………。
「なぁ、やっぱマジなのか?」
「でもあり得そうじゃね?だって、あの秀知院だぞ?」
「そーゆーの普通に起きててもおかしくなさそうだよな……。」
「何が国が誇る名門校よ。ただのろくでもないボンボン達の集まりじゃない。」
「親がちょっと偉いからっていい気になんないでくんないかな?」
「やっぱ民度の低いクズ達の集まりだよ、あそこは。」
何だ……これは………?
その日は、秀知院に対する悪意ある言葉が酷かった。
確かに世間的には、あまり秀知院は良い目で見られてはない。だが今日みたいに、そこまで顕著に悪意が現れているのは、経験したことがない。
一体どうしたというんだ……?
自転車を漕ぎながら、白銀は考えた。
何かまた不祥事を犯した者でもいて、それが校外に流出した……?それとも………。
「やっぱり、会長もそうでしたか……。」
「『も』ってことは、藤原もそうだったのか?」
「はい……。というか、全校生徒に対してだと思います。何というか………秀知院に関する悪い噂が流出した感じがとても……。」
これは一部の人間だけでなく、秀知院全体に関わる問題だと、藤原の証言から白銀は察した。
一体、自分達の知らない間に何があったというんだ……?
「会長!!」
「お、大友さん!?どうしたんだ!?」
生徒会室の扉が勢いよく開き、そこから大友が慌てて入室してきた。
「はぁ………はぁ………。」
「京子ちゃん!朝からどうしたんですかぁ!?」
「………これを………。」
自身のスマートフォンの画面を白銀達に見せた。そこには………。
『何が名門校・秀知院だ。ただのゴミ溜めじゃねーか。』
『あれはマジないわー』
『教員達もなかなかのクズじゃん』
『流石秀知院!ここまでくると尊敬に値する!』
『やっぱ民度の低さだけはピカイチだな』
「これは……。」
ネット上で、秀知院学園に関するアンチコメントが、無数に投稿されていた。今までもちらほらと秀知院に関する悪いコメントはある、と噂されていた。だが、今日に関してはやはり異常だ。普通じゃない位の嫌悪が表に現れている。
やはり察した通りだ。学園全体を揺るがす事態が、自分達の知らない間に起きている。
「何なんだ一体……?」
「……やはり皆さんも、この件について話してましたか……。」
かぐやが入室してきた。
「朝からどうも周りから噂されてるとは思ってましたが……。そういうことだったんですか。」
「……何が起きてるって言うんだ……?」
「……何者かが秀知院に関する悪評をを流出した。しかも、今までのとは訳が違う程の……。今のところ、その可能性が一番高いです。」
「誰が……何の目的で……?」
「………放課後、生徒会でも調査をしてみよう。秀知院全体に関わる大事態になる気がする。これ以上放っておくと……。」
秀知院の名誉だなんてものは、白銀の頭には微塵も無い。これ以上風評被害が広がったら、もしかしたら生徒の安否に関わるまでに悪化する可能性がある。
今はネット社会。その気になれば住所等も特定されて、被害が広がるケースだって、十分にあり得る。
何とかして、元凶を突き止めなければ………。
「………………。」
翌日、大友京子はスマートフォンの画面を見て、絶句していた。
『秀知院でいじめみたいなのあるって知ってた?』
『え、何それ……』
『昨日のといい、マジで秀知院ゴミじゃん』
『いじめって、いよいよ終わってんな』
信じたくは無かった。だが、いじめという言葉を聞いて、思い当たる節がしっかりとあった。
「………まさか………。」
本当に信じたく無い。だが、間違いなくそう思わせる様な文面だった。
「………そんな………。」
この時大友京子は、自分のやった事がどれ程許されない事なのか。取り返しのつかない事をしてしまった事。そして……一人の善人をとことん堕落させてしまった事に対する罪悪感。それらを思い知らされた。
「…………………。」
「………確かに、そう思っても仕方の無い文面だ……。」
「……信じたく無いです……。でも………!!」
「……これは……想像以上に大変な事になりそうだな………。」
大友京子が出した一つの可能性。それは、石上優が復讐に動いている可能性。現段階では証拠が無い為、まだ決め付ける事は出来ない。だが…………。
「……私達が中等部の頃にやった事しか………思い当たる節がありません………。」
大友は中等部の頃の事を思い返した。
私達はあの時から、石上優に何をしてきたか。
いかなる理由があれ、あんな事をしていい理由なんてないのに、私はそれを無視した。見て見ぬ振りをした。というか、一緒に同調して、彼を加害した。あんな最低な人間になら、何をしても構わない。そう錯覚していた。
「………………。」
「……大友さん……?顔真っ青だぞ……?」
「……やっぱり………私達の事をまだ………。」
ようやく過去の過ちを振り切れたと思ったら、またぶり返してしまった。一番思い出したくない過去は、忘れる間際になってまたぶり返して来る。
やはり、過去は消えない。死ぬまで自分に付きまとって来る。こうなる事は少し予感していたが………それでもやはり………。
「………やはり……石上君なんでしょうか……?」
「いえ、その可能性は低いと思われます。」
かぐやがそう言って、生徒会室に入室してきた。
「…え………?」
「……確かにこのネット上にあるツイートは、石上優が復讐に動いていると思っても仕方の無い内容です。ですが………。」
「ですが……?」
「……以前、私が石上優と話した事は知っていますよね?
その際に私は彼に、『同級生達に復讐はしたくないのか』と尋ねました。その際に彼は、『復讐したいとは思っている。けど、したところで反省などしない。やるだけ無駄だ。』と答えました。」
「………でも、それだけでは……。」
「ええ。後に考えを改めたか、もしくは嘘を言っていたか。そう思うと思われます。
ですが…………それにしては、妙な点が一つありましてね……。」
「……妙な……点……?」
「……同級生にいじめの復讐をしたいなら、何故こうも回りくどいやり方をするのかと、少々妙に思いましてね……。
復讐したいとなれば、証拠の写真や動画、自身が被害に遭ったと証明する様なものをネットに晒し、その本人達を徹底的に追い詰めた方が簡単だし手短だと思います。なのにそれをしない。むしろ、ジワジワといじめがあったのではと仄めかす様な感じがあります。」
「…………………。」
「今の石上優ならば、他人が傷付こうが何とも思わない。自身を蔑ろにしてきた人間には、一切の容赦はしない。その為、こんな回りくどいやり方よりは、いきなりいじめの証拠を拡散するやり方を選ぶと思われます。
つまり何が言いたいのか。今回の騒動の犯人は、石上優以外の人間である可能性が高い。」
「………………。」
石上君が…犯人ではない………。
私は愚かだ。まだ何も証拠が無いとはいえ、また彼が悪いのではと決め付けるところだった。何も成長しないな……。そりゃ、あの時小島君にどうこう言われるよ………。
だとしたら………一体誰がこんな事を……?
「……石上優になりすましている人間がいる……という事か……?」
「ええ。」
「しかし………一体何の為に………?」
「……………。」
考えろ。考えろ。
石上君に恨みを抱いてる……いやいや、考えにくいな……。だったら何で秀知院そのものを陥れる様な事をしなくちゃいけないんだ?
もしくは、秀知院そのものに恨みを抱いている……?だとしたら、何故石上君を犯人だと思わせるような事を………?ただの偶然か……?
「………これは、我々生徒会だけでは、少々骨が折れそうだな。」
「ええ………。ですが、あまり大人数では、犯人に勘付かれてしまいます。ここは、"彼" に協力を要請しましょう。」
「え………彼って………誰を……?」
「フフッ。大友さん、あなたが一番知ってるじゃないですか。秀知院で最も犯罪を忌み嫌う人間ですよ……。」