石上優はもう戻れない 作:顎髭
根本は、鼻歌を歌いながら、スマートフォンをいじっていた。
「(いい……とってもいい………。なんだけどなぁ………。)」
時は遡り……。
「………さあ、お返事は?」
「………別にいい。」
「……えっ?」
「……やったところで、あいつらが心から反省するとは思えないし。
人間の性根って、一回腐ったらもう後戻りが出来ないんだよ。俺みたいにさ……。あいつらは信じられない位腐ってるから、やっぱやったところで、無駄なだけだと思うんだよね……。
………ていうか、お前俺の事いいように利用するつもりだろ?」
石上は根本に睨みを効かせた。
「お前のことは本当に信用出来ない。どうせ都合が悪くなったら、切り捨てるつもりなんだろ?
……やるだけ無駄以前に、お前の掌で踊らされるのが嫌だ。やるんだったらお前一人で勝手にやってくれ。じゃあな。二度と話しかけてくんな。」
そう吐き捨てて、あの時あいつは去って行った。
「…………………チッ。本当に……無駄に勘のいい奴だな……。」
乗ってくれると思ってたが………まあいいだろう。
代わりなんざ、いくらでもいるし………。
「………ヘヘッ………。これはこれで、十分楽しめそうだな……。」
「……案外簡単に出来たな〜。適当に秀知院の悪評を広めさせたけど、まさか本当に鵜呑みにするなんて……。ま、最初のはデマだとしても、次のはデマでも何でもない。紛れもない事実なんだからさ……。
………にしても…………。」
根本は思わず声を出して笑いそうになった。
「(あいつらのあの顔……!!ほんっとうに最高だったなぁ〜……!!)」
いじめを思わせる様な呟きがネットに掲載されたのを見た同学年の連中。そいつらのあの焦り様……!皆顔面蒼白状態だったよ……!
一度ネットに載った物は、たとえいかなる権力を使っても、揉み消す事は難しい。仮に消したとしても、履歴までは消せない。つまり、秀知院でのいじめ疑惑は、絶対に消えない。あいつらは………死ぬまで後ろ指を差される。
「馬鹿だよなぁ〜あいつらも。いい年して、やっちゃいけない事の区別もつかないなんて……。何であん時荻野の嘘を鵜呑みにしちゃったんだが……。」
僕はだいぶ前から荻野の悪行について知っていた。だから、あいつらが無実の人間を責め続けていた光景を見て、本当に面白かった。もし真実を教えたら、あいつらは一体どんな顔をするのか。一体どれ程の人間が責任逃れするのか。
まあ、実際はほとんどの奴らが「自分は何も悪くない」「悪いのは全て荻野コウ」と、責任を擦り付け合ってたけど。
本当にいい醜さだよ。最高の醜さだよ。自分の保身しか考えて無い。教師も教師だ。秀知院の名誉の為に、都合良く荻野の悪行を揉み消そうとした。秀知院は生徒だけでなく、教師まで堕落させる学校だ……。もう最高に醜いね。
ましてや石上優の件から何も学ばず、伊井野ミコらに対してまた同じ事をしようとしている。自分らはあの時から既に、立派な犯罪者だってのに、のほほんと平然に過ごしている。
そんないい気になってる奴らが、一気にどん底に突き落とされる様を見るのが………本当に最高だ……。あ〜たまんない………。
「……ましてや、『石上優が自分達に復讐しようとしている』と勝手に錯覚してくれてるもんだから、僕らがまず疑われる様なことは無い。勝手に石上優が犯人だ、と思い込んでくれてる……。
それだけじゃない。石上優はもう、自分が犯人扱いされても何とも思ってない。だから僕に報復が来るわけじゃない。僕にとってマイナス要素が何一つ無い。これで僕は………遠くから心置きなく、楽しむ事が出来る………。………ハハッ。」
とてもいい気分だ。久々に退屈を消す事が出来る。
「……興味本位で撮ってはいたけど、まさか本当に使う日が来るなんて………。」
中等部の時、根本は "たまたま" 女生徒達が石上の机に嫌がらせをしていたところを目撃した。その光景を、根本は面白いと思った。たったそれだけの理由で、根本はその光景を盗み撮りした。
ただ、撮ったはいいものの、使う用途が全然無かった。だが、今なら使える。これを拡散させれば、「石上優が同学年に復讐している」という疑念が、完全に確証に変わる。
そして、同学年だけでなく、秀知院は大混乱。石上優は無実の罪を着せられ、最悪の場合退学。まあそれでも、彼自身は、既に学校を辞めたいと思っているだろうから、万々歳だと思うが。
「……いい……完璧だ……。いい展開になりそうだ……!」
あとはこれを拡散させるだけ。最高のエンターテイメントが始まりそうだ……!!
ピンポーン
「………ん?」
突然家の呼び鈴が鳴った。宅配か何かか?
「……はーい。」
家には誰もいなかったから、自身が応答することとした。
だが………………。
「………根本だな?」
「…………………ヤベ。」
「居留守はもう使えんぞ?おとなしく、俺達と来てもらおうか。」
根本紀明は後悔した。
この呼び鈴に応答するべきではなかった。
玄関前に立っていたのは、大友と小島だった。