石上優はもう戻れない 作:顎髭
遡ること数日前………。
「会長。お願いがあります。」
「ん?どうしたんだ?」
「………近いうちに、根本のところに伺って、話をするんですよね……?
…………私に全て任せてくれませんか?」
「えっ……。しかし、何故……?」
「…………この騒動、元々の原因は私たち一年生にあります。自分の不始末くらい、自分でケリをつけたいんです……。
それに………もう口だけの私でいたくないんです。こんな私を、会長や四宮さんは受け入れてくれた。いつまでも意気地の無い大友京子のままで、いたくないんです………。」
「………………。」
すると、白銀はため息をついた。
「………大友さん。あなたはもう、十分立派な人だと思うが?」
「!」
「確かに過去は消えないさ。でも、あなたはそれに対してしっかりと戦ってるじゃないか。そんな人間のどこが意気地の無い人間だと言うんだ?
……だから、もう自分を追い込むのは止めにしてくれないか?」
「会長………。」
「……でも、やはり今回の件は、自分でけじめをつけたいのか?」
「………はい…………。」
「……そうか。だが、大友さん一人では危険だ。もう調査は終わってはいるが、この根本という男、かなり危険な奴だぞ……。」
「……正直、私も言葉を失いました……。まさか……今回の騒動以外にもこんなに………。」
「下手をすれば、あなたに危害が加わる可能性もある。念の為、小島も同行させるよ。あいつ相手なら、流石の根本もたじろぐだろう。」
「……あの…小島君のことなんですけど……。」
「?」
「………小島君………何か隠してる気がするんですよね……。」
「…………そうか?」
「考え過ぎですかね…?」
「……………考え過ぎだろう。」
「ならいいんですけど………。」
大友は引っ掛かったまま、生徒会室から退室した。
「………………。」
白銀は迷った。
この事を彼女には言わない方が正解なのか………。この真実を知ったら……彼女はますます………。
とあるビルの一室。そこには、根本に向かい合う様に大友と小島が座っていた。
「………………。」
「………………。」
「………………。」
何故この二人が……?特に接点も無いはずだが……。
何故大友京子が……?だが、警察のトップの息子が絡んでくるとなると、やはり………。
「……何故呼び出されたか、分かるよな?」
「………はて?何の事かな?」
「誤魔化さないで。全部あなたなんだね?根本君。」
そうなるよな………。
「………いやいや、だから、一体何がなんですか?」
「………やはりシラを切るか……。」
「シラを切るも何も、僕は何もやってないんですから。」
「ああそうだ。お前は本当に何もしていない。」
「………………どゆこと?」
「お前は全て、そうなる様に相手を唆しただけだからな。」
そう言い、小島は手元のファイルから一枚の顔写真を取り出した。
「………彼女は………。」
「知ってるよな?つい最近、どういう訳か退学をした同級生だ。」
「……あ〜。何か、石上君が復讐したんじゃって噂になった……。」
「……更にだ……。」
今度は三枚の顔写真をファイルから取り出した。
「……この男子生徒三人にも、見覚えがあるよな?」
「………はて?
………てか、この四人と今回の騒動、どう関係してると?てか、何で僕を疑ってる訳?」
「……ここだけの話だが、個人情報保護法スレスレの方法で、お前が全ての黒幕だということを突き止めた。
このアカウント、見覚えあるな?」
大友は一枚の紙をファイルから取り出した。そこには、某ネットアプリのとあるアカウントがプリントされていた。
そのアカウントの名前には、退学した女生徒の名前があった。
「それって………。」
「元々この子には、援助交際をしてるんじゃないかって噂があったけど……。あなたはそれに漬け込んで、彼女になりすましたんだよね?そう思わせる様なツイートをしたり、合成写真を使ったりで……。」
「更には、自身のなりすましたアカウントを、まるで彼女のアカウントかの様に、この三人に教えた……。」
「それにこの男子三人が食い付いて………この子を………。」
大友は声と体を震えさせていた。
「何で急に退学なんかしたのかとは思ってたけど……こんな事……!」
「………………。」
「……こいつら全員、洗いざらい全部吐いてくれたよ。」
『裏は全て取れている。証拠を全部揉み消せたと思ったか?』
『何で……知ってる……?』
『俺を誰だと思ってる?お前達が散々陰で言ってきた、「一年生で最も敵に回してはいけない男 小島慶二郎」だぞ?甘く見ないでいただきたいな。』
『………悪かったから……マジで……!』
『金ならいくらでも払うから……!見逃してく』
『都合の良い事ばかり言うんじゃねぇ!!』
竹刀の音が部屋中に響いた。
『このまま貴様らを逃すとでも思うか?一体どういう経緯でこんな汚らしい事をしたか、全部吐いてもらうぞ。』
『……………………。』
『言うくらいなら………ブタ箱にぶち込まれた方がいいというのか?』
『ひぃ………!!』
『いつまで黙秘を続けるつもりだ?もうお前達が彼女を襲ったというのは明白なんだよ。
……どういう経緯で、彼女を襲った?』
『……………もとだ……。』
『ん?何と?』
『……根本だよ……全部根本から教えてもらったんだよ……!!
「最近溜まってそうだから、彼女とでもヤッてみない?」っつって、あいつのアカウントを俺達に教えて……!!』
『全部根本だよ!!嘘は言ってねぇって!!』
「……と、あいつらは全て俺に教えてくれた。」
「……………………。」
「これでもまだ……自分は犯人じゃないって言うの……!?」
「………まあ、確かにこのアカウントの持ち主は僕だよ。彼女になりすまして、彼らに彼女を襲わせた。ご名答〜!」
「あんたねぇ……!!」
「でも!でもだよ。
……それと今回の騒動、何の関係がある訳?」
「………どうやらあの子は、学校側に自身が襲われた事を告発したらしいよ……。もしかしたら調査してくれる。そんな微かな希望を抱いて……。
けど、教員側は全く相手にしなかった。それも全て、この三人の親が都合良く揉み消したせいなんだけどね……。
挙げ句の果てには、あんたがなりすましたアカウントが教員達に流出して、あの子は完全に『援助交際を行っている』というレッテルを貼られてしまった……!そのせいで、彼女は退学処分となったみたいじゃない……!!」
大友は泣きながら怒りを露わにしていた。
「なのにあんたは……この三人は……今も平然に生きてるってどういう事よ!!」
許せない。許せる訳がない。
あの子とは結構仲も良く、一緒に遊んだりもよくしていた。ちゃんとした友達だった。
そんな子を……こいつは……!!
「秀知院や自分を騙した真犯人の恨みは相当なものだっただろうな。今度はそれに漬け込んで……今回の事件を彼女に起こ "させた" 。違うか?」
「…………はぁ〜……。ここまでバレてるんだったら、もう黙ってる意味ないや。ぜ〜んぶ、話してあげる。
僕は "ある同級生" と会いに行った後、彼女の家に行ったんだよ。その時の彼女のやつれた顔……。たまんなかっなぁ〜……!」
『突然……どうしたの……?』
『いやね、ちょっと君に教えておきたい事があってさ。
このアカウント………君じゃないんだってね?』
『!!』
『あぁ〜ごめんねごめんね!傷を抉るようなことしちゃって…。でも僕さぁ………このアカウントの持ち主、この前見ちゃったんだよね…。』
『だ……誰!!?誰なの!!?』
『……………石上君だよ。』
『石………上…………。』
『そうそう。石上君が君になりすまして、あたかも君が援助交際をしてるってでっち上げたんだよ。酷いことするよねぇ〜?いくら自分が傷付いたからって、この復讐はやり過ぎだよねぇ〜?』
『…………………。』
『君は濡れ衣を着せられて退学になったのに、石上君は今も学校に通ってる。こんな不条理、あっていい訳ないよね?許せないよね?』
『…………あいつ……!あいつ………!!』
「その後はまぁ簡単だったよ。勝手に暴走してくれし、周囲は勝手に『石上優が復讐に動いてる』って思い込んでくれるし、彼女は復讐相手の石上優を犯人に仕立て上げられるし、僕は気楽に皆が混乱してる様を見れる。僕にとっては、良い事だらけだったんだよねぇ〜!楽しみだったんだけどな〜……。
まさかすぐバレるなんて………。小島君はそうでも、大友さんも結構凄いんだね。自分もあんな事しといて。」
「!!!」
「ずっと前から疑問に思ってたんだけどさぁ、君ってどうして生徒会に入ったの?まさか、中等部でやった事を、高等部で良い事して全部チャラにしようとしてるんじゃ……?」
「そんな気一切無い!!」
「君達が石上優をいじめている様を見てて、つくづく思ったよ。こいつら本当に、滑稽だな〜って。
無実の人間を叩いて貶す事で、『自分達は上にいる』『悪人になら何をしても構わない』って本気で思ってるんだからさぁ。憎む必要の無い人間を憎んで、馬鹿過ぎてまぁ〜面白かったよ!!アハハ……!!ハハハハ……!!
君達のそのモラルの無い行いが、周りにどれほどの迷惑を被るか。どれだけの無関係な人間まで巻き込んでいるのか、今回の件でようやく分かったんじゃない?むしろ、僕に感謝して欲しい位なんですけど〜。
君達があんな事さえしなければ、僕だってこんな事しなかったさ。全部、君達が招いたことだろ?
ねぇ?荻野の嘘に乗っかって、一緒に石上優を虐げていた大友京子さん?」
「………………。」
完全に言い負かされてしまった。
根本の悪行には、確かに憤りを隠せない。でも………彼を今まで虐げてきたのは、紛れもない事実だ。それに関しては、ぐうの音も出ない。
「……あ、そうだそうだ。君達さぁ、この件、どう処理するつもりなのさ?」
「……何だと?」
「もう既に秀知院のいじめ疑惑は世間に広まってる。でも、それらはデマでも何でもない。100%の事実だ。
それとも何だい?秀知院お得意の、『都合の良い様に話を揉み消す』を使うのかい?」
「そ……それは………。」
現段階では、秀知院のいじめ疑惑はまだ噂の状態だ。このまま放っておいては、どんどん風評被害がエスカレートしてしまう。
だからと言って、都合の良い様に隠蔽をすれば、いつかボロが出てしまい、それこそ秀知院はバッシングの嵐を受けることになる。
ならばいっそのこと、会見を開いていじめ疑惑を認めるか……?いや、教師達が絶対にそれを許さないし、それはそれで世間からの批判は尋常じゃないだろう。
なんて事だ。完全に八方塞がりだ。まんまと根本にしてやられた。
「………だとしてもだ。貴様が黒幕だという事は判明した。それなりの処罰は受けて貰うぞ。覚悟はいいな?」
「………ま、別に退学なり何なり、お好きにして下さいな。学校なんか通わなくたって、生きてはいけるんだからさ。
てかそうだ小島君、君も本当はせいせいしてるんじゃないの?」
「………どういう事だ?」
「この際さ、自分に正直になっちゃいなよ?君だって、あんな低レベルな同級生が痛い目に遭って、せいせいしてるんじゃないのかい?君は彼らのそんなところが嫌で、見下した態度を取ってるんだろ?」
「………………。」
そうじゃないと言ったら嘘になる。
確かに根本の言う通りだ。俺はあいつらのそんな態度がまぁ嫌で仕方がなかった。その度にモラルの無い行動をしては、世間からの批判を集めて、何も関係の無い人間の評価まで下げる。はっきり言って、本当にゴミクズの集まりだよ。
中等部の頃、確か女子達に「石上をしょっぴいて欲しい」と頼まれた事があった。「ストーカーも立派な犯罪でしょ?だから、少年院に入れてくれない?」「小島君なら、お父さんに頼めば出来るでしょ?」などとまぁふざけた事ばかり……。
というかそれ以前に、散々陰で俺の事もどうこう言ってきたくせして、何でこんな時に限って俺に物を頼むのか……。どこまで都合の良い連中なんだ。俺は奴らのその態度に憤りを感じた。
『悪いが、俺はあんな不確かな情報では動かん。どうしてもと言うのなら、石上がストーカーだという証拠を出して来い。』
『なっ……!!』
『それすら無いのだろ?なら、石上がストーカーだというのは、現段階では事実ではない。貴様らは、何の証拠すらない事柄を事実と勝手に決め付けてるだけなのでは?』
『何ですって……!!』
『今後一切この事で話しかけてくるな。いい加減、その腐った見方をどうにかした方がいいんじゃないのか?
どこまでも醜悪で腐ってる奴らで何よりだよ。』
周りの連中はどうこう罵声を俺に浴びせたが、まぁ馬鹿らしかったよ。どこまでレベルの低い連中なんだと、呆れを通り越して、笑えてしまった。生まれて初めて、自分の汚い部分が表に現れた瞬間だった。
「……その沈黙は、イエスってことかな?」
「………………。」
「…まあ、別にそこをどうこう言うつもりはないさ。むしろ、それが人間なんだから。
人間の悪意ってのはさ、一種のウイルスみたいなもんさ。一度人から悪意が生まれれば、ウイルスが感染していくかの様に、他者から他者へと広がっていく。人間には誰しも、何かしらの悪意があるんだよ。
だから小島君、別にそれは悪い事でも何でもないんだよ。至って正常さ。」
あっけらかんな感じを出して、根本はそう言った。
「………狂ってるな……。」
「狂ってる?いやいやいや、大友さん達に比べれば、全然マシだと思いますがねぇ〜?」
根本は席を立ち、大友の方へ向かった。
「君ってさぁ〜、普段から浮いてる伊井野ミコや大仏こばちに積極的に話し掛けてるけどさ、何が目的な訳?」
「なっ……目的……!?何それ!それじゃまるで、私がミコちゃんや大仏さんを利用してるみたいな言い方じゃない!!」
「うん、そう言ったつもりだけど?」
「あんた……!!本当にいい加減にしなさいよ!!」
久しぶりにこんなに人に怒った。ましてや、怒りに任せて他人に掴みかかるなんて、生まれて初めてだ。
感情的になってはいけないのは承知の上だ。だが、これだけのことをしといて、全く反省してないこいつの態度を見てると、どうしようもなく腸が煮えくり返る思いだった。
「落ち着け大友。」
小島が間に入り仲裁したはいいものの、それでもやはり大友は怒りを表に出していた。
「………あんたみたいな最低な人間……初めて見たわ……。」
「ハハ……最低な人間に危うく騙されて、変な斡旋業者に売られるところだったくせに。」
「………………えっ?」
「どうやら知らなかったみたいだね。荻野が本当は何をしてたか。」
話で聞いた情報だと、荻野は女生徒を騙して、集団で襲っていたと聞いたが………。え?斡旋業?
「…………大友。こいつは一時期、荻野に手を貸していた。」
「………え…………。」
「ま、結構前に "たまたま" 荻野が変な斡旋業者と通話してるのを聞いちゃってねぇ。面白そうだったから、僕もほんの少しばかり情報提供をしてたんだよねぇ〜。」
「………………。」
「でも何か……時が経つにつれて、マンネリ化しちゃって、つまんなくなっちゃってさ。そろそろ切り時かなと思って、今度は荻野を強請ろうかと思った矢先、石上優があの事件を起こした。
せっかく良い駒が手に入るかと思ったけど、石上優のせいで全部台無しだ。あん時はちょっといただけなかったな〜。」
「…………酷過ぎる…………。」
「何とでも言えばいいさ。僕は一切気にしてなんかいないし。」
「…………そうか。」
何か言おうとしていたが、小島は黙って部屋の扉を開けた。
「話は以上だ。それなりの処罰は覚悟しておけよ?」
「ハハ……。君達がどんな対応をするのか、遠くから楽しみにしてるよぉ〜。」
最後まであっけらかんな感じを出して、根本は退室した。
「………………。」
「………思ってた以上に狂ってる奴だったな………。」
「………………。」
大友は下を向いたまま、黙っていた。
「……しかし、どうしたものか。彼女が広めてしまったいじめ疑惑。もう今更『この件については一切何も言いません』は通用しそうに無い。
どっちにしろ、秀知院にとって痛手になる……。お前はどうするべきだと思う?大友。」
「………ごめん小島君……。今……そんな気分じゃない。」
「…………分かった。今日は時間を取らせてすまなかったな。そろそろ俺達も帰るか。」
そう言って、小島は大友と退室した。
「………………。」
「………………。」
普段は明るい彼女が、今は無表情でずっと下を向いている。怒りを抑えているのだろうか。
エレベーターに乗っている最中、小島はそんな事を思いながら、ある事について考えていた。
「(……やはり教えなくて正解だった……。しかしだ………。)」
『……本当なんですか……会長……。』
『ああ。彼女自身がそう言った。彼女は事件前から、石上優に対して異常な憎悪を抱いていた。』
『………あいつが…………。』
「(この事を教えたら、大友はまた自責の念に潰される恐れがある……。
石上が………彼女が襲われている現場にいて、彼女を見捨てた事を教えてしまえば………。)」
『間違いなく、「自分のせいで石上優があそこまで堕ちてしまった」と思うだろうな。だから小島。この事は彼女には絶対に言わないでくれ。』
『………こんな事……軽々しく言える訳ない………。』
「(………奴はやはり……もう………。)」
石上優を元に戻す事は、どんな事をしても無理。
小島は改めてそう悟った。