石上優はもう戻れない 作:顎髭
その後、根本にはある程度の処罰が下る予定だった……が、その前に根本は自主退学を申し込み、忽然と秀知院から姿を消した。
あと、強姦行為を行った男子三人は、小島君によって全てこのことが公になり、当然の如く退学処分となった。後から聞いた話だが、彼らも荻野と関係を持っていたらしい。なんでこの学年の男子はそういう奴らが多いんだが………。
あと、根本に唆され、秀知院の悪評を広めていた彼女は、彼女自身に何かあった訳ではないが、アカウントは凍結させた。
黒幕が明らかとなり、元凶となったアカウントも凍結。この騒動は解決したかと思ったが、まだとっても重要な問題が一つ………。
「……今日もマスコミが来てるな………。」
あの騒動から数週間が経ったが、秀知院のいじめ疑惑は、もう日本全国にまで知れ渡り、ニュースにまで発展していた。
日本随一の名門校で、いじめがあったなんて聞いたら、そりゃマスコミも黙っちゃいないか………。
秀知院の生徒や教員らを見かけたら、すかさず駆け付けてくるもんだから、本当に参っちゃうよ。でも………こうなったのも、全部私達のせいだ。最後まで……しっかりとケリをつけなければ………。
「………そうか………。」
「はい………。」
「だけど、先生達が納得するとは、到底思えません………。」
「……まあ、どっちにしろ秀知院にとってはマイナスな事ですから、この決断だろうがなかろうが、秀知院の評判は右肩下がりでしょうね。」
「…………あの疑惑は、全て真実だと打ち明けましょう。」
根本と話した日から、私の答えは決まっていた。
いじめ疑惑を認めて、もう二度とこんな事はしないようにしよう。その為に、会見を開くべきだ。
これが私の決断だ。
「………しかし、俺達の独断でどうこう出来るものではない。藤原書記が言った通り、教員達が納得するとは………。」
確かにその通りだ。教員達は、極度に秀知院の評判に傷が付くのを嫌う。こんな事を告白してしまえば、今後の入学者数は勿論、世間からの批判の声は尋常ではないだろう。最悪の場合、自分達の首が飛んでしまう可能性もある。
だが、それでもだ。いつまでも黙秘し続ける理由になどならないと思う。
「………私達一年生が石上君にあんな事をしたから、今の状況になってしまったんです……。全ての発端は私達です。
なのにも関わらず、彼らは何も反省せず、責任を擦り付け合い、また同じ事を繰り返そうとしています。もういい加減、目を覚まして欲しいんです。私達のそういったモラルに欠けた考えが、どれ程の迷惑や損害を招くか……。
………そして、もう二度とこんな事はしないと、決意を固めて欲しいんです……。これは同学年だけではありません。純院だの混院だのと差別し、『自分達は上だ』と威張ってる、全ての秀知院生に対するメッセージです。
もう……こんな事は、これで終わりにしたいんです………。これ以上……石上君の様な人間を……出してはいけないんです……。
教員達が何と言おうと、私は絶対に諦めたくありません。いつまでも……こんなんじゃ駄目なんです………。」
すると、生徒会室の扉が開き、校長が入室してきた。
「いやぁ〜素晴らしいデス。まさか一年生にもかかわらず、こんな立派な人がいるとハ……。」
「聞いてたんですか………。」
「エエ。この件に関しては、生徒会も動いてるとは思ってましたが……やはりそうでしたカ。
それにしても大友さん。」
「あ、はい……。」
「………あなたには感銘を受けましタ。自身の過ちを認め、未来の動力へと変えている。並大抵の人間が出来る事ではありまセン。
いつまでもこの事を隠していても、必ずボロが出まス。不祥事は必ず何らかの形で公になる。そうなって更に批判を集める位だったら、早いうちに告白した方がいいでしょうネ……。」
「……ですが校長……そうしたらあなたは……。」
「エエ。間違い無く何らかの責任は取らされるでしょうネ。パリの姉妹校からも、必ず批判の声は来ると思いマス。でも、これくらいの事は、承知の上デス。それくらいの覚悟が無ければ、校長など務められませんしネ。
教員達には、私が何とか説得しておきますヨ。秀知院の現状を知るいい機会デス。そして……少しでも秀知院がいい方向に変わることが出来るように、頑張りましょう……。」
「……ですが、かなり難しいでしょうね。」
かぐやが発言した。
「人間にとって、何かを失うのは簡単ですが、得るのはとても困難です。ましてや一度失ったものを再び取り戻すのですから、想像以上に骨が折れることだと思います。」
かぐやのその発言が、大友には重くのしかかった。
あの時私達は、石上優という人間から、優しさや正義感と言ったものを失わせてしまった。今の石上優は、全ての人物や事柄に悪意を持った、心が完全にドス黒く変色してしまった人間だ。
私達のやろうとしている事は、そんな彼に再び優しさや正義感を再び得させることだ。かぐやの言う通り、想像以上に困難を極めている……。
というか………これは本当に彼の為になるのか……?最近はそう揺らぎ始めていた。
「もっと言うなら、その取り戻すものが、人間にとって一番得るのが難しい信頼です。それを再び取り戻すというのですから、ほとんど無理難題と言ってもいいでしょう。」
「………………。」
「………ただ、可能性はゼロではない。」
今度は白銀が口を開いた。
「確かに四宮の言う通りだ。一度失った信頼を取り戻すのは、そう簡単な事ではない。俺達がどんなに努力したところで、それでも認めない人は必ずいる。
けれどだ。どんなに低い確率でもいい。それでも少しの可能性があるならば、少しでも再び秀知院を評価してくれる人間が増えてくれるのならば、努力する価値は十分ある。」
「やってみなければ分からない……という感じですか?」
「まあ、そんな感じだな。」
そうは言ったものの、何か煮え切らない感じのまま、白銀は下を向いていた。
「……会長?」
「…………会見を開いた事によって、生徒達に対する風評被害は必ず出る。……生徒会長として、そこの部分は少し心配だ……。今はネット社会だ。その気になれば、住所だって特定される時代。本当に被害に遭ってしまったら…………。」
「……………腹を括りましょう。」
「かぐやさん……。」
「……会長は人格者過ぎます。私と違って、手厳しい事はまずしない。確かに私も副会長として、生徒達に何かしらの被害が出てしまったらと思う部分はあります。
けれど………優しさは時に甘さになります。受け入れるしかありません。そうなって当然の事を、彼らはしてしまったのですから……。
この騒動以前にも、秀知院生のモラルに欠けた行為は目立っていました。その度に学校側にクレームが来ては、まぁ教員方も迷惑をしていたようで……。丁度いい機会です。洗いざらい秀知院の汚い膿を、全て吐き出しましょう。
そして…………今回の件で、こんな事もお終いです。もう二度と、同じ過ちを繰り返さないよう、個人個人が努めていきましょう。」
その通りだ。本当にその通りだ。
完全にと言うのは難しいかもしれない。だが、もうあんな事はお終いにしようと心に強く留めるだけでも、違ってくるかもしれない。
少しでも……秀知院が良い方向に進んでいける可能性があるのなら……やる価値はあると思う。
もう、皆もこれで分かって欲しい。自身の非を、罪を、受け入れて欲しい。
数日後、秀知院学園で世間に流布しているいじめ疑惑に関する、緊急会見が開かれた。校長先生が何とか説得してくれたのだろう。
校長自らも出席し、記者からの質問を、全て嘘偽り無く答えた。つまり、いじめ疑惑を認めたという事だ。
当然の如く、ネットは大炎上。ニュースにも数日ばかりずっと話題になってしまい、来年の外部入学希望者は完全に右肩下がり。過去最低の外部入学希望者数を叩き出したらしい。何人かまでは分からないが、ほとんどゼロだという噂だ。
当然私達の環境にも、その影響は甚大だった。登下校するだけで、周りの人達からの陰口や罵倒。いつも後ろ指を差される日々が、何十日か続いていた。制服を着るのが結構億劫になったな……。
「……またですよ……。これで何日続いてるんですか……。」
校舎にも、罵詈雑言が書かれた紙が貼られたりなど、直接的な嫌がらせも相次いでいて、教員達はその後処理に汗を流していた。分かってはいたことだが、いざ現実になると、やはりいい気分ではない……。
けれど、彼はそれ以上の苦痛を味わった。彼の受けた傷は、こんな浅いものではなかったはずだ。それに比べれば、痛くも痒くも何ともないだろう……。これは、私達が今まで身勝手な事をしてきた報いだ。ばちが当たったんだ。私達のモラルの無い行動が、無関係の者まで巻き込んでしまった。
「………チッ。何が名門校だよ。調子に乗りやがって。ざまぁねぇな。」
「とっとと潰れちまえばいいのに。」
「いつも偉そうにしてっからこーなんだよ。クソ共が。」
「民度低すぎて、もう笑えないわ。」
「ゴミクズが。いい気味だよ。」
「一体どんな教育を受けさせて来たんでしょうかね?程度が知れるわ。」
何だかんだ言って、登下校の時が一番辛い。容赦のない、他校の人達や近所の人達からの批判や悪口が今日も凄いなぁ……。ま、こうなるとは思ってたけど………。
「………………。」
皆、何も言い返せず、ただ下を向いていた。
後悔先に立たず。今更悔やんだところで、もう遅い。どんな事をしたところで、過去は消えないのだから。死ぬまで自分に付いてくる。逃れる事など、出来る訳が無い。
中には、「余計な事しやがって」と思ってる人もいるが、そんな人はもういいや。ここまで散々言われても、まだ自分は悪くないと思ってるのだから。救いようがない。
「こんなのが同学年とか、マジで恥ずかしいんだけど。」
「教員側も本当、何してるのかしら……。」
「どうせ学校の名誉とか、自分の事しか考えてないんでしょ?」
「秀知院は教師までクズなのかよ。」
「所詮は学力だけが取り柄のボンボン共か。」
「違う違う。いじめもあいつらの取り柄だよ。」
「うわっ、最低過ぎるわ……。」
今まで溜まるに溜まってた秀知院に対する悪意が、一気に流れ出たかのようだ。
悪口とは、こんなにも言われると辛いものなのか……。そんな小学生でも分かるような事が、あの時の私達は分からなかった。未熟だった。まあ、今でも十分未熟なんだが………。
「………何でこんな事に………。」
「……最近となっては、近所の人達からも迫害されてる気がしてさ……。」
「………ずっと……こんな感じなのかな……?」
確かに、いつまでこの調子が続くのかは分からない。もしかしたら、未来永劫続くかもしれない。決して風評被害は無くならないかもしれない。
けれど………。
「……頑張ろうよ。」
「………京子………。」
「嫌になる位分かったと思うよ。私達のやった事が、どれ程許されない事なのか。そのせいで、どれだけの無関係な人間まで巻き込んでしまったか。
もう………二度とこんな事はしないって、ようやく分かったんじゃないかな?」
「………………。」
「……あの時……ちゃんと石上君の事を信じなかったから……ちゃんと見てこなかったから………。」
「……ねぇ京子………石上の事なんだけどさ………。」
「?」
「……………あ、いや………何でもないや……。
あ、私、そろそろ塾の時間だから、じゃーねー!」
「………………。」
何か石上君について言いたそうな感じだったが、友達は塾があるからと、急いで私に別れを告げた。
やはりだ。小島君や会長もそうだが、やはり何か隠しているのではないか………?
何か、私に知られたらマズいことでもあるのか……?
「………………。」
気になる。とても気になる。会長に直接聞いてみるか?でもな……。
「………ヤバい!明日までの提出課題、まだやってない!!」
まぁ、別にいいか。私の気のせいかもしれないし。
「…………馬鹿みてぇ。」
「………え?」
誰かのボソッとした声がどこかから聞こえた。辺りを見渡しても、誰もそこにはいない。
何だと思ったが、大友は気にせず、家へと向かって行った。
「……………偽善者が。」
前半が終了しました。
次から後半へと突入します。石上が "アノ人" と再び会ってしまいます。