石上優はもう戻れない 作:顎髭
短編ずつ書いていきます。
にしても、書いてて思いますけど、重いです。
【伊井野ミコは注意出来ない】
私の知ってる石上優という男は、いつも学校にゲームを持ってきては、隙あらばゲームをする、いとも平然に校則違反をする、私の最も忌み嫌う人間のタイプだった。
私が注意する度に、屁理屈を述べて逃れようとする。私は彼のそんな態度が本当に気に食わなかった。
だが………。
「……あ!石上!あんたま……た……。」
私を見つめる石上の目は、かつての彼の目とは、まるで違かった。というか、あの目は本当に石上なのか?
私は身震いをした。
石上を、初めて怖いと思った。
何も言わずに、石上は私を見ながら、校舎内へと入っていった。
「…………。」
「ミコちゃん………。」
風紀の為なら、どんなに素行不良な生徒だろうが、私は臆する事はなかった。だが、私は初めて、人に対して恐怖心を感じた。
心の底から、石上の事を怖いと思ってしまった。
やはり、あの事件から、石上は変わってしまった。勿論悪い意味で。
人を完全に拒絶するオーラ。憎悪や嫌悪と言った、ありとあらゆる悪意がこもった眼差し。
あれは本当に、石上優なのか?
「……こばちゃん。私、石上にどんな言葉をかければいいの?」
「………私も分からない。
でも、今の石上はもう、私達の知ってる石上じゃない。もう、あの頃の石上優は、戻ってこない。」
「私……ずっと思ってたの。石上がストーカー呼ばわりされてた頃から、あいつはあんな事をする人間ではないって事は。でも、結局何も出来なかった…。あの時私が何か行動を起こしてれば、あいつは今の感じにはならなかったんじゃないのかなって…。」
「…………………。」
「あいつをあんな風にしたのは、私達なんじゃないのかなって…。」
「ミコちゃん…石上の事、嫌いじゃなかったの…?」
「………今でもあいつの事は嫌だよ。でもそれでも………、理不尽な目に遭ってる人間を、放っておくわけにはいかない……。私はそんな人を救えなかった……私自身が嫌い………。」
後悔の念に押し潰されそうになりながら、伊井野は校舎内へと入っていった。
もう私には、彼の事をどうこう注意する資格など、無いのでは……。
【小野寺麗は復活させたい】
私達は、とんでもない過ちを犯してしまった。
何の根拠も無い噂を鵜呑みにし、一人の罪無き善人をよってたかって叩いてしまった。
あの後、荻野コウは、当然の如く秀知院学園から去った。そして石上優は、停学は解けたものの、放送室を無断で使用した罰として、原稿用紙1枚分の反省文が課せられたとか……。
「………………。」
「……京子、今日も学校来てないね……。」
あの騒動後、大友京子は、一度も学校に来なくなってしまった。かれこれ一週間は経過しただろうか。
「……今日、予定ある?」
小野寺は近くの友人達に尋ねた。
「……大友の家に……行かない……?」
「……うん。」
私達は、数人で大友の家に行くことになった。このままではいけない。何とかして、彼女を立ち直らせなければ。
「………………。」
久々に見た大友の顔。でも、表情はずっと曇ったままだった。いつも笑顔で明るい彼女は、一体どこに行ったのだろうか。
「……京子……。具合とか……悪くない…?」
大友は静かに頷いた。
「……大友さぁ、もう学校来なよ。」
「!?ちょ、小野寺さん!流石にそれはちょっと……!」
「分かってるって!でも……いつまでもそんなんじゃ、駄目なんじゃないのかな、って思って……。」
「………………。」
「……行きづらいのは百も承知だよ。実際今も、石上は学校に通ってるしさ…。でも、それが理由で、こうやっていつまでも篭り続けるのは……。」
「行きづらいとかじゃないの……。」
今までずっと黙ってた大友が、口を開いた。
「私には………学校に行く資格が無いの……。」
「京子………!」
「そんな事ないって!確かに、私達のやった事は許される事じゃないけど……!」
想像以上に負い目を感じてる……。
まあでも無理はない。自分との関係を滅茶苦茶にした奴が、実は自分の事を守っていた奴だと分かったんだ。
実際私だってそうだ。噂を鵜呑みし、石上の事を悪く言ってた。私だって、今まで通り過ごす権利があるのかと思う。
けれど………。
「……受け入れなくちゃ。」
「………え?」
「自分達のやった事を、しっかり受け入れなくちゃいけないんだよ…。
もうこれで分かったはずだよ。不確かな情報を信じ込んで、一人の人間を叩く。それがいかに愚かで許されない事か、よく分かったはずだよ。
だったらさ、もう二度とそんな事はしないって心に決めて、しっかり前を向く事が、大事なんじゃないかな……?」
「小野寺さん………。」
「……でも、石上は………。」
「そん時はそん時。私達でフォローしてあげようよ。
石上の事でまた傷が開きそうになったら、私達がケアしてあげるからさ……。だから大友、学校に行こうよ。」
大友は涙を浮かべた。
自分はずっと、自分を守っていた人間を責めていた。自分のせいで、彼はあんな目に遭ってしまった。
なのに………なのに………。
「………いいの……?学校に行っても……いいの…?」
「当たり前じゃん……!」
「京子、後ろばかり見ないで、しっかり前向いて生きようよ…。」
「私達だって、石上に負い目はあるよ……。でも、だからと言って、立ち止まってなんかられない。
一緒に前を向こうよ、大友。」
胸が苦しい。
こんな罪深い私を、彼が受け入れてくれる訳が無いのは承知だ。でも、それでも、こんな私の事を、励ましてくれる人がいるなんて……。
大友は、何年か振りに、大声を出して泣いた。
神様、こんな自分でも、前を向いて生きていく事を、許してくれますか……?
【大友京子は前を向きたい】
かれこれ制服を着たのは一週間振りだ。もう着ないつもりだった。だって私には、学校へ行く権利など、もう無いと思っていたから。
「……………。」
足取りが重かった。小野寺さんや友人から、ああは言われたものの、やはり躊躇ってしまう部分はあった。
でも、もうこれ以上後ろを向いてなんかいられない。これ以上友人や両親に、迷惑はかけられない。
大友は大きく深呼吸をし、教室へと入っていった。
「……きょ、京子……!」
「大丈夫だったの!?」
既に登校していたクラスメイトから、心配の声が寄せられた。
「あ…うん……。」
そっけない感じで、大友は返事をした。
辺りを見回すと、まだ石上は来ていない。とりあえず、重苦しい雰囲気にはまだなっていないようだ。
「………あの…さ……。い、石上君って……あの後……。」
「あ……ああ、石上ね……。あれから学校には来てるけど……。」
「……無理もねぇよ。俺ら、こうなって当然の事をしたんだから……。」
何をやってるんだ私は。自分から重苦しい空気にしてどうするんだ。
何とかして空気を変えなければと思ったが、それももう遅かった。
「………あ…京子……。」
友人が見る先には、話の話題となっている人物が立っていた。
「あ……石上…君………。」
「………どいてくんない?」
「ご、ごめん………。」
他人を何とも思わない様な目。人を近寄らせないオーラ。
かつての彼には、そんな物は一切無かった。そんな物を彼に持たせてしまったのは、紛れも無い私達だ。
いくら罪滅ぼしをしたとしても、彼の心は一生閉ざされたままだろう。そうなって当然な事を彼にしたのだから。
「…………京子……。」
それに、先程の眼差し……。彼は私に対して、こんな言葉を投げかけた様な感じがした。
『よくもまあ、ノコノコと学校来たな。どんだけ図太い精神してんだよ。』
それが本当なのかどうかは分からない。ただ、少なくとも良い感情を持っていないのは確かだった。
「………………。」
何だか気持ち悪い気分になってきた。変な汗までかいてきた。
「きょ、京子?顔真っ青だよ?」
「やっぱ、まだ来るの早かったかな……?」
「ごめんね……無理に学校に行かせる様な事言って…。」
「いや……いいの……。大丈夫だから…さ……。」
ここでくじけてはならない。昨日、小野寺さん達と約束したんだ。前を向いて生きるんだって。もう二度と、あんな事はしないんだって。
その為なら、どんなに心が軋もうが、どんなに自分が罪悪感で壊れそうになっても、やらなければならない。
この時の私は、そう思っていた。
でも、後になって気付いたのだ。これは、生半可な覚悟で出来る事では無いということに。
そして、まだ私達は分かっていなかったのだ。自分達がやった事の重大さが。自分達の罪深さが。
①では同学年の人達を中心に書きました。
次の②では、高等部の生徒を中心に書いていきます。