石上優はもう戻れない   作:顎髭

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石上優はぶつけたい②

突然の子安の発言に、石上優は戸惑った。

……何を言ってるんだ………?暑さで頭でもおかしくなったのか?

 

「……そこまで皆のこと嫌だって事はさ、私の事も嫌なんだよね?

 ……率直に言って欲しいんだ。優くん、私の事どういう風に思ってる?」

「………………。」

 

マジで暑さで頭がショートしたのか?一体何が目的だ?

ただ、率直に言っていいんだよな?だったら……遠慮なく言わせてもらう。

 

「……………心の底からウゼェ。消えていただきたい。」

「…………そっか………。」

 

子安は少し小さめな声でそう言った。

 

「………幻滅したでしょ?なら、もう二度と俺に近付かないでいただきたい。たとえ見かけたとしても、絶対に話しかけないでいただきたい。二度と関わりたくない。二度と視界にあんたを入れたくない。

 あんたの誰に対しても隔てなく接する態度や性格が………心の底から腹立たしい。偽善ぶるのも大概にしろよな。どうせあんたも………アイツと同じだろ。」

 

石上が言った「アイツ」とは一体誰のことを指すのか、子安には一瞬で分かった。

彼女は本当に良い子だ。親の不倫騒動でやっかみを受けていた大仏ちゃんに対しても、全然そういった目で見ず、フォローをしていた。

だがしかし彼女は、石上優がこんな風になってしまった根源とも言ってもいい。一人の善人に罵声を浴びせ、彼の心を二度と拭うことが出来ない闇で覆ってしまったという、とんでもない過ちを犯してしまった。挙げ句の果てには、彼に殺意まで抱かせてしまった。

……というか………彼女が言っていたかつての石上優というのは、本当に存在していたのか……?もうそれすら疑う程、彼の殺意こもったオーラは、酷く禍々しく感じるものだった。

 

「…………幻滅……とまでは言わないけど……少し傷付いたかな……。」

「………………。」

「………殺したい?私の事?」

「…………出来るもんなら。あんたを見てると………思い出したくなくても、アイツの顔が浮かんでくる………。まるでアイツを見ている様ですよ………。

 だからなんですかね………どうしようもなくなる位………あんたを殴りたい………。」

 

石上は小刻みに体を震えさせていた。彼の中にある悪意が、今にも溢れ出そうだった。私に対する怒りを、抑えている。下手に何かを言うのは、もうよした方がいいのではと思ったが………。

 

「…………………いいよ。」

「……はぁ?」

「……殴って君の苛立ちが少しでも紛れるのなら、いいよ。蹴ってもいいし、何かで叩くのでもいいよ。」

 

……こいつは優しい笑みを浮かべて、何を言ってるんだ?マジで何が目的だ?

彼女に対する苛立ちは、彼女の訳の分からない発言によって、少し紛れた。そうなる位、彼女の言ってる事が理解出来なかった。

 

「……マジで暑さで頭沸いてんじゃないんすか?てか、いつまでもここにいる訳にもいかないでしょ……。誰かいないのか……?」

 

暑さが段々と酷くなってきた。いつまでもここにいる訳にもいかない。

窓に目を向けたが、生憎人が出れる程の大きさではない。やはり、誰かが外から開けてくれない限り、出ることは出来ない。

 

「それならさっき、友達に『来てくれ』ってメールしといたから大丈夫だよ。しばらくしたら来てくれると思うよ…。」

「…………そうですか………。」

 

一刻も早く彼女と同じ空間から離れたかったが、まあ仕方が無い。

てか、それはそうとしてだ。さっきの意味不明な発言……。何考えてんだ?

 

「…………『何考えてんだこいつ』って目だね……。

 そりゃそっか。いきなり殴ってもいいよって言われて、戸惑わない人なんかいないか……。」

「……あんたの目的が本当に読めない。ていうか、最初から俺がここにいるって事も……。」

「疑い過ぎだよ…。たまたま。本当にたまたまだよ。神様がそうしたって感じだよ。」

「………まさか…そういう趣味でも持ってんのか?」

「そこまで変態じゃないよ私!そんな性癖持ってないからね!?」

「……じゃあ一体………。」

「………生きづらくないかなって思ってさ……。君のその黒い部分が少しでも消えるんだったら、少しは生きやすくなるんじゃないのかなって………。」

「………………死のうと思ってる人間に、生きやすいねぇ……。」

「……嘘だ。」

 

石上はその一言に体をピクッとさせ、子安の方に顔を向けた。

 

「本当にそう思ってるんなら……………何で………。」

 

まさか、まだ死んでないのとか言うんじゃないだろうな………。  

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………何でまだ、誰かに助けを求めてるのさ?」

 

……………はぁ?

 

「……君の事見てるとさ………勿論誰も受け入れないオーラもあるよ……。でも、それと同時にさ……誰かに分かって欲しい感じも、ほんの少しだけ感じるんだ………。

 本当は……真実を告発するんじゃなくて……誰かに助けてもらいたかったんじゃないのかな?誰にでもいいから、理解してもらいたかったんじゃないのかなって………。」

「………………。」

「………本当の事言ってくれると嬉しい……。君は………本当はどうして欲しかったの?」

 

本当はどうして欲しかったの……だと……?

 

「………本当に……死にたいと思ってるの……?」

 

ああそうだよ。早く消えてしまいたい。

 

「もっと、楽しい思いをしたいんじゃないの?」

 

そんなの、あの時から綺麗さっぱり消え去ってる……!

 

「本当は………誰かに………手を差し伸べてもらいたかったんじゃないの?」

 

子安がそう言った直後、用具が勢い良く倒れる音が倉庫内に響いた。

 

「今更過ぎるんだよ!!ああそうだよ!!何で誰も自分の事を分かってくれないんだ!!何で自分が悪者扱いなんだってずっと思ってたよ!!誰か一人でも自分の事を理解してくれる奴がいたら……そんな微かな希望も抱いてたよ!!

 でも結局誰もいなかった!!誰一人としていなかったからこうなったんだろ!!だから俺はあの時告発したんだよ!!」

 

更に石上は、子安の元へ歩み寄り、胸ぐらを掴んだ。

 

「結局どいつもこいつもロクでもない奴らばかりだった!!散々俺に対して好き放題言ってきたくせして、掌返す様に頭を下げやがって……!!腹立たしい事この上なかった!!俺は5ヶ月もの間、こんな奴らに分かってくれと思ってたのかって!!

 大友も大友だよ。折角俺が身を挺して守ってやったってのに……!!マジで無駄な5ヶ月だったよ!!どうせあんたも大友と同じだろ!?偽善を振り撒くに振り撒いて、最終的には結局あのゴミ共と同調して……!!

 あんたと関わると………関わると………!!」

 

石上は子安から手を離し………。

 

「………あの時の事が……鮮明に……頭に浮かんでくる……。」

 

先程とは真反対な、弱々しい声で石上はその場に座り込んだ。

 

「………………。」

「あんたはマジであいつに似てる……。だから……嫌でも自然に頭に浮かんでくるんだよ………。

 マジで何なんだよあんたは……。俺を一体どうしたいんだよ……。訳が分からない………。頼むから………もう………思い出させないでくれよ………。マジで………辛かったんだから………。」

 

子安つばめは後悔した。

やはりあの時、石上優に声を掛けるのを止めておくべきだった。私は知らないうちに、彼の事を追い詰めてしまっていたことに……。彼に、涙を流させてしまったことに……。

そして、子安つばめは確信した。

大友ちゃんがやろうとしている事は、彼を更に堕としていくだけだ。もう彼は、元には戻れないと。

 

「……子安ー?」

「いるんでしょー?」

 

女子二人の声が外から聞こえてきた。

 

「開けるわよー?」

 

倉庫の扉が開いた。一体何分ここにいただろうか。何時間もいた様に感じた。でも、それ位時の流れが遅く感じた。

 

「ごめーん!」

「まったく……本当に人騒がせなんだから……。」

 

呆れた感じで、マスメディア部部長・朝日雫がそう言った。

 

「あ、優くーん!開い」

 

子安が言い終わらない内に、石上はそそくさと外に出て、どこかへ行ってしまった。

 

「………………。」

「子安……あの子って………。」

「うん………。」

「……まったく子安ったら………。いつからそんな淫らな女になった訳?」

「待って待って待って!!本当に何も起きてないからね!?」

 

茶化す様にオカルト研究部部長・阿天坊ゆめはそう言った。

 

「………でもあの子って確か………。」

「確か……一年の………。」

「え?知ってるの?」

「知ってるも何も、一年で一番の問題児だって、結構噂になってるわよ?」

「中等部の事件も、校内放送の件も、結構広まってるわよ?」

「そ、そうなの?」

「………噂話をアテにしないのはまあいい事だけど、流石に知らな過ぎじゃない?」

「いい意味でも悪い意味でも、あなたは純粋ね。」

「何それー!」

「………初めて彼の事見たけどさ………、何て言うか……結構怖かった。」

「………そうね……。……一瞬睨まれた気がするけど……。でも、そう感じ取る程、オーラがドス黒かったわ………。」

 

………そうだね……。胸ぐらを掴まれた時は本当に怖かった。そして………彼の闇を更に濃くしてしまった……。

私は本当に、馬鹿な人間だ……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………はぁ………。」

 

その後、石上優は公園のベンチで項垂れていた。

 

「…………死にたいけど………そんな勇気もない……。だからと言って、生きてても何も目的もない………。」

 

『君は………本当はどうして欲しかったの?』

 

「………そりゃ………助けて欲しかったさ………。」

 

もしあの時、誰か分かってくれる人がいたら………僕は今頃……。

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