石上優はもう戻れない   作:顎髭

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誤字報告ありがとうございました。


それでも石上優は否定したい②

「……………本当なの……それ………。」

「………全部事実だよ。」

「…………酷すぎる……そんなの……。」

 

彼女は体を小刻みに震えさせていた。湧き上がる怒りを抑え込んでいるのが見て分かる。

 

「………じゃあ、あのニュースって………。」

「………まあ、俺じゃないって言ったら嘘にはなるけどさ……。それ以外にも、秀知院ではそーゆー事あったから……。」

「………………そう……なんだ……。」  

 

すると、彼女は石上の方に顔を向けた。

 

「?」

「………優は……このままでいいと思ってるの……?」

「……別にいいよ。マスコミが更に過激になるのも面倒だし。それでなくても、まだ秀知院の生徒ってだけでマスコミに絡まれるんだから……。

 それに………。」 

「それに?」

 

石上は自身のスマートフォンの画面を見せた。

 

「あいつらも、それなりに痛い目には遭ってるからさ。だから、わざわざお前が何かをする必要なんかない。自分らのやった事が、今回の件で全部倍になって返ってきたからさ。」

 

あの会見から、ネット上では秀知院生というだけで、無断で写真を撮られて誹謗中傷に遭っている者が数多くいる。まあ、全て一年生なんだが、先輩方への風評被害も多大なものだろう。

どいつもこいつも本当に、何も考えずに好き放題やってたんだな。マジでモラルのねぇ奴らなんだと改めて悟ったよ。ざまぁないな。

 

「…………優………。」

「?」

「……何で……笑ってるの……?」

「………えっ?」

 

これはいけない。不覚にも口角が上がっていたらしい。

でもさ、もうそれくらい僕はもう………。  

 

「………これで分かったろ?もう、お前の知ってる俺はいないんだよ。綺麗さっぱり消えたんだよ。人の不幸すらも笑えてしまう様なゴミクズなんだよ。幻滅したろ?」

「………………。」

「分かったら、俺と関わるのはもう」

「そんな事ない。」

 

僕が言い終わる前に、彼女は口を開いた。

 

「……優はさ……自分の事を下に見過ぎだよ……。」

「何を言って……。」

「だって、優は何か悪いことしたの?悪いのは全部、嘘をでっち上げた荻野ってのと、嘘を鵜呑みにした同級生達でしょ?なのに、何で自分が悪いみたいな言い方してるの……?

 本当にゴミクズなのは……その人達でしょ……。」

「………………。」

「例え優がそんな風になっちゃっても、私にとって優はヒーローみたいな人だったんだよ……。本当に嬉しかった……。優には感謝しきれないんだよ……。」

 

……そういや、ふと気になったが……あの後親御さんの会社はどうなったんだ……?

 

「………お父さんね………何とか建て直そうと頑張ったんだよ……。でも………駄目だった。」

「えっ………。」

「………気付いた時には、もう手遅れでさ……。お母さんとも離婚して、今は親戚のところに引き取られてるの……。」

「………………。」

「………でも安心して。ぞんざいな扱いは受けてないし、むしろ秀知院よりもいい学校生活は送ってるよ……。それに………優のお陰で、ちょっと自分に自信がついたんだ。」

「……俺の……お陰………?」

「ずっといじめられてさ……段々と自分が悪いんじゃないかって思い始めてたんだよ……。そんな時に、優が助けてくれたから……優が……私は間違ってなんかないって言ってくれたから………。」

 

すぐさまそれも否定したくなるが、その時の僕は、しっかりとした正義感を持っていた。誰よりも理不尽が嫌いだった。「お前は何も間違ってなんかない」というちゃんとした考えの元、彼女を助けた。そこに、自己満足感も無く、ましてや見返りを求める感情も無かった。ただ、何もしていない人間が理不尽な目に遭うのが嫌だ。しっかりとした正義感だけが、僕の中にはあった。

 

「………そっか。ありがとな。元気そうにやってて何よりだよ。」

「優………!」

「でも。」

 

だとしてもだよ………。それもこれも全部、過去の話なんだから……。

 

「………もう………俺とは関わらない方がいいよ。」

「………そんな………。」

「確かにあの時はさ、理不尽な目に遭ってるお前を見て、あいつらを追っ払ったけど………。でもだよ。その馬鹿げた正義感のせいで、俺は荻野に………。」

 

『ここで手を引くなら、京子には何もしないでやる……!』

『お前がなんか漏らせば、京子は可哀そうな事になる……!』

 

荻野があの時、僕に囁いた言葉を思い出した。

正義感に溺れてた僕は、いい人が傷付くのが嫌で、見事に荻野の策に引っかかってしまったが……。

 

「……今思えば、何であん時から無駄な正義感なんか掲げてたんだろうな……。」

「そ、そんな事………!」

「いい人が傷付くのが嫌だっていう、訳の分からないしがらみに囚われてたせいで………。」

 

…………ん?

いやいやいや。何で僕が悪いみたいな風なんだよ?悪いのは全部、荻野とあいつらだろ?

僕は一体、何度そう自分にそう言い聞かせるんだよ……。あの時、荻野が僕を陥れる嘘をついたから。その馬鹿げた嘘に乗っかったあいつら。全部そいつらのせいだろ?

僕は、何も悪くない。そうだろ、石上優?

 

「………………。」

「………優?」

「…………そうだよな……。さっきお前が言った通りだよな………。俺は………何も悪くないよな……。俺はゴミクズなんかじゃないよな……。ゴミクズはあいつらだよな……。」

「ゆ、優……?」

「…………はぁー………。何で誰もあの時、俺を信じなかったんだろうな………。ちょっと考えれば、おかしい事だらけだろ………。」

 

そうだよ。何で口先だけの事を、あの馬鹿達は信じたんだよ……。所詮は秀知院の奴らだからで片付けるのが一番だが、だとしてもだよな……。

あの時、大友だけは別だと思ってたが、結局あいつもそこら辺の奴らと同じ、ゴミだった………。あの時の失望感は凄かったな……。

何が「おかしいのはアンタよ」だよ。テメェらだろおかしいのは。

 

「……………チッ。胸糞悪くなってきた。」

「………………。」

「……な?今みたいに、もう俺は隅から隅まで汚くなってんだよ。そんな奴の事をさ、もうヒーローだなんて言うなよ………。」

「………そんな………。」

 

信じたくなかった。受け入れたくなかった。でも、今の石上優は………。

 

「俺はもう………あの頃には戻れないんだよ………。」

 

何の希望も抱けず、何の正義感も無かった。あるのは………。

 

「………あ〜あ………。あいつらマジで死ねばいいのに。」

 

全ての者に対する憎悪と嫌悪と拒み。ただそれだけだった。

 

「………何だかんだ言って、今日お前と会えて良かったかもな。少しだけ、憂さ晴らしが出来たかもしれない。」

「………そ……う……。」

「………安心しろよ。」

 

石上は席から立ち上がり、彼女の元へ向かった。

 

「お前に対しては、何も恨みなんかない。でも……もう俺とは関わらない方がいい。

 例えお前がどんなに俺を連れ戻そうとしても、もう戻れないんだよ。俺といると、お前もロクな人間にならない。だからもう、俺と会うのは、これで最後。

 ………自分の人生を、しっかりと楽しんでくれ。」

 

そう言って、石上は支払いを済ませてカフェから出て行った。

 

「待って!待ってよ優!!」

 

出て行く時に、一瞬だけ彼は私の方を見た。

うっすらと笑ってた。私に笑みを向けていた。けど、嬉しい気持ちは一切浮かばなかった。

なぜなら………人生に諦めをつけた目をして、彼は笑っていたから……。そして、その目でこう訴えかけてた気がした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

二度と俺を見るな。俺の事は、もう二度と考えるな。

そして………これからの人生を楽しく過ごしてくれ。

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