石上優はもう戻れない   作:顎髭

33 / 52
今回も誤字報告ありがとうございました。


そして大友京子は気付かされた①

『おかしいのはアンタよ。』

 

何故あの時、彼を突き放してしまったのか。それもこれも全て、上辺だけでしか人間を見てこなかったからだ。どういう人間なのか、しっかりと見てこなかったから、あんな悲劇を起こしてしまったんだ。

 

『ほんと石上って最低だよねー!』

『何で停学で済んだわけ?』

『先生も甘過ぎない?』

 

その日から、石上優に対する嫌悪や罵声が止むことは無かった。中には、石上優の机や下駄箱に嫌がらせを行う者達もいたが……。

 

『(………こうなって、当然でしょ。)』

 

あの時の私は、腐るに腐ってた。いや、既に私も、そこら辺の人間達と同等に、腐ってたんだ。悪い人間になら、どんな仕打ちをしても別にどうともない。本気でそう思っていたんだ。

あの後、荻野コウは保健室に連れて行かれ、手当てを受けてもらったが、そこまで大した怪我ではなかった。当然その時の私は心配していたのだが、今思えば、私は真の悪人に手を貸していた様なものだった。愚かだとつくづく思うよ。

 

『大丈夫なの?』

『ああ…大丈夫。演劇には差し支えは無いってさ。』

『良かった………。』

『…………なあ……。』

『?』

『………石上君のこと、許してやってくれないか?』

『………えっ?』

『別に俺は、そこまで気にはしてないさ。殴ったことを謝ってくれればそれでいい。だから、京子も彼のこと』

『荻野君は優し過ぎるよ!何で許さなきゃいけないの!?例え土下座しても、あいつの事は絶対に許せない!!』

『京子……!』

 

今思えば、私は本当にとんでもない事を言ってたんだな……。そりゃ彼に、「死んで詫びても許さない」と言われるか……。ぐうの音も出ない。

私を守ってた人に対して、「土下座しても許さない」か……。馬鹿だ。本当に馬鹿だ。どこまで下劣なんだ私は。

更にその数日後には……。

 

『……あのさ………。』

『ん?』

『…………別れないか?』

『………え……………。』

『……いやさ……別に京子の事が嫌って訳じゃないんだ……。ただ……ちょっと時間に余裕が無くなってさ………。』

『何で……!』

『………ごめん。(もしかしたら…今度は容赦無くあの事を暴露される……!そうなったらマジで終わっちまう……!)』

 

突然別れを告げられたものだったから、あの時はどうしてという感情が強かった。その日以来、荻野コウと話す事はおろか、関わる事すらなくなってしまった。

その時の私は、まだ彼と関係を持っていたいと思っていたので、何故なのかが全く分からなかった。私が何か気に障るような事をした訳でもないから、別れる事となった原因がまるで分からなかった。

だが、日が経つにつれ、何故なのかが分かってきた。石上優だ。全て奴が変な事をしたから、荻野コウは別れを告げたんだ。全部アイツのせいだ。自分にそう言い聞かせるような感じで、私は原因を突き止めた。今思えば、ただ私は、何もかもを彼のせいにしたかっただけなのかもしれない。何の根拠も無いのに、彼のせいにすることで……。荻野が私に別れを告げたのも、ただ自分の悪行がバラされるのが怖かっただけなのに……。そりゃそうだ。何ヶ月もずっと引き籠もって謝りもしない奴が、自分の弱みを握っているのだから。いつバラされてもおかしくはない状況だったんだ。

というか、この時点で私は疑問に思うべきだったんだ。ストーカー被害に遭っていた自分の彼女を、守ろうともしなかった彼の姿勢を。いくら何でも薄情過ぎでは。何か後ろめたい事でもあったのではと。

そんな考えすら抱こうとしなかった。それ位、私は既に人間として堕ちていたのだろう。腐った見方しか出来なかったのだろう。恥ずかしい限りだ。

でも………。

 

『何で小島はあんな奴の肩持つのかな!?まるで理解出来ないんだけど!!』

『何が「どこまでも醜悪で腐ってて何よりだ」よ!!上から目線でさぁ……!!』

『証拠なんて、アイツが何も反論しないからに決まってんじゃん!!』

 

小島慶二郎。

 

『ミコちゃん。今日も石上のところに、課題届けるの?』

『しょうがないじゃない。誰もやりたがらないんだから。くだらない噂を鵜呑みにして……ほんと馬鹿みたい。』

 

伊井野ミコ。大仏こばち。

少なくともこの三人は、この時から既に、誰よりもまともな考えをしていた。なのに私達は……私達は……。

 

『早くやめてくんないかなー!マジで気持ち悪いんだけど!』

『戻って来たら戻って来たらよ。どの面下げて戻って来たんだって話よ。

 ねー、京子?』

『本当だよ!全部アイツのせいで荻野君とも別れる事になってさぁ……!

 ……荻野君は許してやってくれって言ったけど………絶対に許さない。』

 

……本当に………愚かで醜かった。

 

 

 

 

 

 

 

「京子ー?ご飯よー。」

 

そんな事を頭に浮かべながらボーッとして、何時間経っただろうか。もう夕食の時間か。

 

「今行くー。」

 

………もしあの時、彼が学校をやめてしまったら………。それにより、荻野を野放しにしてしまったとしたら………だとしたら私は………。

 

「………………。」

 

………想像するだけでも、ゾッとするな………。

全て彼が守ってくれたから、今の私がいるのに……なのに私は………。

 

「………もっと彼の事を……ちゃんと見ていれば………。」

 

あの時、周りに同調せず、彼に救いの手を差し伸べていれば………。そうすれば………。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。