石上優はもう戻れない   作:顎髭

35 / 52
石上家は話し合いたい

時が経つのは本当に早い。もう夏休み最終日である。

特に何かをする訳でもなく、ただ流れ作業の様に課題を適当にやった事しか記憶に無い。

いや、それは流石に盛り過ぎか。荻野の被害者達と話をしたのも、かつての同級生と話をしたのも、しっかりと記憶としてある。

 

『石上さん。本当にありがとうございました……!』

『あなたには、何とお礼を言えばいいのか……!』

 

そんな感じの事を何度も何度も言われたものだったから、何というかなぁ……。

普通なら嬉しい感情が芽生えるはずなのだが、残念ながら僕は、あなた方の為に動いた訳ではない。全部自分の為だ。一刻も早くあの地獄から解き放たれたかった。その一心だった。これも一体、何度言えばいいのだろうか……。

もう僕の事など気にせずに、楽しく過ごして欲しい……。荻野のせいで台無しにされた過去を、今後の楽しい未来で全てチャラにして欲しい……。

 

「…………優?」

 

母親が僕の部屋のドアをノックした。

 

「………無理にとは言わないけど…………お父さんから話があるみたいなの………。」

 

親父が?一体何故?まさかだとは思うが、また頭ごなしに説教……。

 

「………いいかしら……?」

「………………。」

 

親父とは、小さい頃からあまりいい思い出が無かった。

融通の効かない頑固者で、僕がいつも何かをしたら、正座をさせられて説教。まあそれに関しては、兄貴も同じ様なものだったが……。

あの時から、僕は親父の事が心から人として信用出来なくなった。毎日の様に頭ごなしに説教されるわ、自分が何か反論しようとしても全く聞く耳を持たないわで……。今思えば、マジでその時は腹立ったな。

挙げ句の果てには、真相が分かった途端「何で言ってくれなかった」だと?聞く耳すら持たなかったくせして、一体何をふざけた事を言ってんだ?言ったところで、信用すらもしなかっただろ?

そんなに虫のいい人間だとは思わなかったよ。心の底から幻滅したよ。

 

「………優………?」

 

ああ、そうだよそうだよ。母親も母親だよ。

今も「おかえり」だの「いってらっしゃい」だのと言ってはくれるものの、心からそんな風になんて思ってないだろ?よそよそしい感じ出してまで言われたくないんだけど……。

内心ビビってるんだろ?僕に何かされるのが怖くて、少しでも息子に優しくしてあげてる感を出してればとか、そんな事思ってんだろ……。何か、もうそんな風にしか捉えられなくなってきたよ……。それ位もう僕は、人として堕落してるんだな……。笑えてくるな……。

しかしだ……。何でいきなり親父が僕と話なんか……。その部分がとても気になる。

 

「………………分かった。」

 

取り敢えず、何の為に呼び出したかは確認しておきたかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………………。」

「………………。」

 

一体何を話すっていうんだ………。しかも親父と二人きりで話すなんざ………。さっきまですぐそこにいた母親はどこに行ったというんだ……?

 

「…………お前………。」

「………………。」

「………学校をやめたいか?」

「!」

 

何かと思えば………。

 

「………それで?それが何だっていう訳?」

「………先生から話は聞いているぞ。度重なる無断欠席、酷い授業態度。一度先生と衝突すらもしたらしいな?」

 

何でそんな事まで知ってるんだよ……。てか、学校側もわざわざそんな事を伝える為に、親父に連絡よこしたのかよ。随分暇な連中だな。

 

「……だったら何だって言うんだよ?」

「………そんな中途半端な感じで学校に行くくらいなら、もう行かない方がいいんじゃないのか?」

「………………。」

 

まあ、でも確かにそうかもな………。

このまま学校に通い続けても、特に目的も無いし、勿論内部進学もするつもりなんて微塵も無い。

ただ機械作業の様に学校へと足を動かしている。そこに目的など無い。つまり、僕が学校に通い続ける意味など、何も無い。

 

「……お前の意志を尊重する。お前が『まだ行きたい』と言うなら、今まで通り学校に行くといい。だが、『もうやめたい』と言うなら」

「いや。」

 

だけどな………。

 

「……一応学校にはまだ通う。

 本当ならもうやめたいけど、やめたところで、その後のプランなんて何も無いからな……。バイトするにしても、俺なんかを雇ってくれるとこなんて無いし。

 かといって………。」

 

石上は父の顔を見た。

 

「………ここで働くにしても、親父はそれを望んでなんかいないし。」

「なっ……!!」

「まさかだとは思うけど……この話を持ち出したのって、上手い様に俺を追い出すためだとか言わないよな?」

「!!」

「……確かに俺が学校をやめれば、学校に金を費やす必要も無くなる。その上、息子は家族すら拒んでるから、学校をやめれば勝手にどっかに行ってくれるはず……。まさかそこまで計算して、この話を持ち出したなんてな……。」

「そんな訳ないだろ!!」

「じゃあ何だって言うんだよ?えぇ?何か他にも訳があんなら言ってみろよ?」

「………………。」

 

ほらな。結局、あんたらにとって僕なんて……あの時から……いや、もうその前からそんな程度の人間だったってことだよ……。

改めて失望したよ………。

 

「……無いんだったら、もう話は終わり」

「待つんだ。」

「何だよ?もういい加減ウザいんだけど……!」

「………お前は……学校にはまだ通うんだな……?」 

「………………。」

「………それでいいんだな?」

 

石上は静かに頷いた。

 

「………分かった。そうなら、せめて卒業はしなさい。一度決めた事は最後までしっかりやり抜くんだ。

 ……こんな俺から言う口ではないが、これが最後の親としての指導だ。後はお前の好きな様に生きるといい。お前がここで働きたいと言うなら、望み通りにする。お前がここを出て行くなら、アパート探しやら何やら、最初の内は助ける。

 ………もう、お前にどうこう言うのは……今日で最後だ。自分の思う様に今後は生きるといい。」

「………………。」

 

あんだけ融通の効かない頑固者が、こんな事を言うなんて……。今までやってきた事に対する罪滅ぼしのつもりか……?

……まあ、そんなのはどっちだっていいや。あんだけ僕に対して威張り散らしてきた親父が……今は僕に対して弱々しくなっているのは感じ取れた。

謎の優越感に浸っていた。親父が僕に対してこんな姿勢でいる事に対して、僕は少しいい気分になっていた。

 

「…………そうかよ。

 ……罪滅ぼしのつもりかどうかは、この際どうでもいい。だったら、こっちの好きな様にやらせてもらう。二度と俺に対して口出しするなよな?そっちがそう言ったんだからな?

 ……もし今後ゴチャゴチャと小言でも言ってみろ。マジで会社潰してもいいんだからな?」ギロッ

「!!!」

 

一切の躊躇はしない。肝に銘じておけ。

今息子が自分に向けている眼差しが、そうメッセージを放っている様に感じ、恐怖が体に走った。

 

「………話は終わりか?」

「……………ああ。」

「…………フッ。」

「?」

「……あの時は散々威張り散らしてたくせして、今は俺に対して随分弱気になって……。みっともねぇな。」

 

そう吐き捨てて、石上は自室へ戻っていった。

 

「………………。」

 

普段なら「何だその口の聞き方は!」と怒鳴ると思うが、今の私にそんな資格など無い。もう、次男の事を……私は……私達家族は………。




次回は、久々にミコちゃんと石上の絡みを書きたいと思います。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。