石上優はもう戻れない 作:顎髭
あと、何度も誤字報告ありがとうございます。最近誤字が目立ってきているみたいなので、気を付けていきたい次第です。
二学期初日。その日も変わらず私とこばちゃんは、朝早くに学校に行き、風紀委員会の仕事に専念していた。
「あっつい………。」
朝にも関わらず、暑さは牙を剥いている。だが、それでもサボっていい理由になどならない。秩序を保つために。規律正しい世を……。
この時はそう思っていた。この時はだ。あんな事が起きるまでは……。
「……そろそろ、教室に戻る?」
「そうだね。大方、もう生徒も登校してきたと思うし。
それに………何より暑い。」
「もーこばちゃん!それが理由?」
「耐えられないよこんな暑さ。自分が滅んだら意味無いでしょ?」
「確かにそうだけど……。」
まあ、そんな事があって、私達は教室に戻る事にした。なのだが……。
「………………あ。」
大仏の目に、一人の男子生徒の姿が入った。
「………あ!石上……!!」
急ぐ素振りもせず、石上はただゆったりと校舎へ歩みを入れた。
「あんた!何時だと思ってるのよ!時間過ぎてるじゃない!何回言わせれば分かるのよ!」
「………………。」
立ち塞がる様に、伊井野は石上の行く手を阻んだ。
「………………。」
そして石上は、まるで伊井野の事など見えていないかの様に、伊井野の横を通り過ぎていった。
「ちょっ!ちょっと待ちなさいよアンタ!!」
「………………。」
今日はいつにも増してしつこいな……。
「少しは反省したらどうなのよ!!私何十回アンタに同じ事言った!?一分一秒でも遅れたら、遅刻は遅刻なのよ!!」
朝からゴダゴダとうるせぇな………。
必死に口に出してしまいそうなのを抑えている。こいつと口論になるのは、本当に時間の無駄だ。何を言っても聞く耳を持たない。他者の論を認めず、自分の価値観や考えを一方的に押し付ける。なら、無視だ。こいつに対抗する一番の手段は、無視が一番だ。
『別にいいだろ。周りには迷惑かけてねぇんだから。』
『そういう問題じゃないの!』
『急いでんだ。お前と付き合ってる暇なんかねぇ。通せよ。』
『あ、ちょっと!!待ちなさいよ!!』
『しつけぇな……!』
『何よその口の聞き方!!そこまで自分の非を認めたくない訳!?ほんっと考えらんない!!』
過去のやり取りが頭に浮かんだ。
『そこまで自分の非を認めたくない訳!?』だと?それはこっちの台詞だ。
頭ごなしにわめき散らす事しかせず、相手の都合も考えないで……。お前はいつからそんなに偉くなったんだよ?お前はいつから僕らにそんな態度を取れる様な権利を持ったんだよ?
そんな奴が、生徒会長になんかなれる訳ないだろ。中等部の頃も、懲りもせず何度も何度も何度も挑んで惨敗してるのによ……。高等部でもまだ「私は生徒会長になる」って……。
馬鹿なのか?所詮こいつも、勉強だけは出来て、それ以外はただのくるくるぱーだ。ここまでくると、笑えてくるな。
「…………フフッ。」
あ。これはいけない。笑いを表に出してしまった。
「………何よ?何かおかしい事でも言った?」
「………………。」
「……答えなさいよ!私、何かおかしな事言った?」
ウゼェを通り越して、もう滑稽だな。でも何だろう。滑稽さをこいつに感じたと同時に、何かどうもモヤモヤした感情も湧き上がってきているんだよな………。
今まで溜めてきたモノが溢れ出そうになっている。それを必死に抑えている。これは………何だ?
「………………。」
「………何よその目は。何よ……その軽蔑する様な目は……!!」
無意識に、僕はそんな目を向けてたのか。でもはっきり言ってお前、マジで軽蔑に値するよ。
叶いもしない事を掲げて、黙々と努力する様。憐みや侮蔑といった可哀想な感じでしか、僕はもう伊井野を見る事が出来なくなっていた。
「………………。」
「黙ってないで何とか言いなさいよ!!口くらいついてるでしょ!?」
…………はぁ?
「だんまりで何とかなるとでも思ってる訳!?」
駄目だ駄目だ。こいつに対して口を開くな。口論になっても無駄なだけだ。抑えるんだ。
「何か言いたい事があるなら言ってみなさいよ!!」
言っても聞く耳持たねぇだろうが……。
「ちょっと!!石上!!」
この時の僕は、必死に口に出すのを抑える事だけに集中し過ぎていた。だからなのか………。
マジでちょっと黙れや。てか、死ねよ。
そう思った矢先に、鈍い音が一瞬響いた。何だと思って見てみたら、先程まで僕の前にいた伊井野が、その場で倒れているのが目に見えた。そして、僕は右手で握り拳を作っていて、そこから手応えを感じていた。
「………………。」
僕は一体………何をしたんだ………?
「ミコちゃん!!!」
大仏が倒れている伊井野の元へ駆け寄った。
「大丈夫!?」
「………………。」
伊井野は訳が分からなかった。自分が一体何をされたのか。頭の整理がまるで追いついていなかった。
「………………。」
そして石上も、自分がまだ何をしたのか、整理がついていなかった。
「……!?どうした!?」
近くを歩いていた教員が駆け寄ってきた。
「あ、先生………。」
「伊井野……大丈夫か?一体何が……?」
教員は伊井野の少し赤くなった左頬を見て、すぐに察した。そして、呆然と立っている石上を見た。
「………石上……お前がやったのか……!?」
「………………。」
まだ整理がついていなかった。何で伊井野は倒れている?何で僕は握り拳を作っている?何で右手に、人を殴った手応えがあるんだ?
「………ちょっと来い。」
呆然としたまま、石上は連行された。周囲の生徒達も、何だ何だとざわつき始めていた。
あーあ。また噂される羽目になっちゃった。
ようやく自分が何をしたのかが整理出来、石上は大きくため息をついた。周囲も段々と状況が整理出来て、次第に自分に対してヒソヒソと噂し始めているのが分かった。
「え、まさか石上………伊井野を殴ったのか?」
「いくら何でもやり過ぎじゃない?」
「流石に酷いよ……。」
待て待て待て。
お前らは一学期の騒動で何学んだんだよ?人間は簡単には改心しないとは聞いたけど、マジでその通りじゃん。
いくら何でもやり過ぎ?流石に酷い?お前ら、僕や伊井野に対してやった事を忘れたのか?自分の事棚に上げ過ぎでしょ?マジで民度低いんだなこいつら………。
親といい、秀知院生といい、人に失望する事が最近多いな……。こんなゴミ達がわんさか群がるところにいると………どんどんこっちまで腐っていきそうな気がするよ。
……いや、もう既に……僕も腐ってるんだった。