石上優はもう戻れない   作:顎髭

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小野寺麗は涙を流した

飛び出す様に、小野寺は教室から出て行った。

 

「………………。」

 

小野寺麗はただ悲しかった。友達にあんな事を言われてしまった事。励ましがかえって彼女を苦しめてしまっていた事を。

 

「……………ごめんね………何にも分かってなくて……。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その日、伊井野ミコが突然、風紀委員会を辞めると私に伝えた。

 

「…………は?」

 

寝言でも言っているのか?それとも、私が夢を見ているのか?

 

「………明日、委員長に伝えてくる。」

「………いやいやいや。待ってよ伊井野。何で急にそんな……。てか、大仏さんはこの事………。」

「もちろん伝えた。」

「………何て……言ったの………?」

「……………『分かった』って………。」

「……ちょっと待ってよ……。何で大仏さん、そんなあっさりと……。」

 

大仏さんなら止めると思ってた。長い間、伊井野の側に寄り添い、一番伊井野の事を理解している大仏さんが、何でそんなあっさりとした返事で………。いや、しっかりと理解しているから……なのか……?

だとしてもだ。何で急にそんな事を………。

 

「…………私ね……救いようの無い馬鹿なの……。誰の意見も聞かないで、ずーっと自分の考えばっかり押し付けて、その度に嫌がらせや悪口の連続……。そりゃそうだよね。自分から原因作ってたんだもん……。そんなごく単純な事が、ずっと分からなかった。」

「………………。」

「………なのにそれから目を背けて、自分の非をずっと認めなかった。改めようとしなかった……。そりゃ、あんな仕打ち受けて当然か……。そんな人間が生徒会長目指してるなんて……馬鹿馬鹿しいにも程があるよ。……というかそれ以前に……風紀委員である資格すらないよ……。」

 

何故彼女がこうも意気消沈しているのか、原因は既に分かっていた。

石上優。1ヶ月ほど前、彼女は彼に殴られた。それにより、周りから石上に感謝する様な声、今までも酷かった陰口が更に酷くなったこと。そして恐らくだが、石上自身に何かを言われたこと。

 

「………心配かけてごめんね……。麗ちゃんには心配かけたくなかったけど………無理だった。もう、耐えられない。」

「伊井野……!」

「………風紀委員会辞めたからって、悪口が減るとは考えてない。でも、それで皆の不満が解消されるならと思うと………。」

 

下を向いて、伊井野は涙を流した。

もう無理だ。耐えられる気がしない。自分のやった事は、かえって彼らの不満を増幅させていただけだった。

いざ目の前にそれを突き付けられると、やはり耐えられない……。

 

「………それに麗ちゃん……。」

「?」

「………もう私とも関わらない方がいいよ。」

「!?」

「……私なんかと関わってるせいで、最近麗ちゃんのことも悪く言う人が増えているのは知ってるよ。もうこれ以上、麗ちゃんが悪く言われるのは嫌だ……。全部、私が原因なのに………。ごめんね……私のせいで………。」

「そ、そんな事ない!!」

 

小野寺は伊井野の手を掴んだ。

 

「周りがどう言おうと、伊井野は私の友達だよ!あーだこーだ言ってくる奴なんて、気にするだけ無駄だよ!」

「……でも……!」

「私なんかどうでもいいよ。それよりも………それよりも………。」

「………………。」

「………アンタが悲しんでる姿を……見たくない………。」

 

小野寺は泣きそうだった。

自分でも、あまり表情が表に現れないことは知っている。泣くなんて尚更だ。いつ振りだろうか、胸から何かが込み上がってくる感じがしたのは。

でも、それ位友達が苦しんでいる様を見るのが、涙を流している様を見るのが、とても辛かった。

 

「………そんな事言わないでよ……普通にショックだよ……。」

「麗ちゃん………。」

「……石上に何言われたのかは分からないけど、もしまた傷を付けられたら、私や大仏さんが守るから……。周りからどんな事言われても、私達がそいつらを突き返すから……。

 だからさ……そんな事口にしないでよ……伊井野らしくないじゃん……。」

 

もう泣き顔を見たくない。いつもみたいに、笑っててよ……。毎朝元気良く手を振りながら挨拶してくるアンタはどこ行ったのよ……。

 

「………………。」

 

先程からずっと下を向いていた顔をゆっくりと上げて、伊井野は小野寺の顔を見て、ニコッと笑った。

だが、嬉しい気持ちには一切ならなかった。泣きながら笑顔なんか向けられても………そんな絶望しきった目で口角を上げても……。

 

「………麗ちゃんって、本当に優しいんだね……。何でもっと早く気付かなかったんだろ………。

 ………でも、もう限界。これ以上麗ちゃんが不当に傷付けられるのは、見たくない。」

「そんな……!!」

「………こばちゃんにも同じ事、昨日言ったんだ……。こばちゃんも同じ反応してた……。でも、こばちゃんもこばちゃんで、私のせいであーだこーだ言われてるとなるとさ………。」

「さっきも言ったけど、周りなんて言わせとけばいいんだよ!伊井野が優しいのは分かったけど、何も私達との関係を断つまでしなくても……!

 それとも、何か私に対して嫌な事でもあった?嫌なところがあったならちゃんと直すから!私に対して気に食わない事があったら、遠慮しないで言って欲しい!

 友達って………そう言うもんじゃないの………?」

 

駄目だ駄目だ。つい感情的になってしまう。伊井野と関係を断つことに対して、悲しみが込み上がってきた。次第に冷静さを失ってきているのも分かった。でも、それでも抑えられない。

 

「……何とか言ってよ……!伊井野!!何でそんな酷いこと言うのさ……!?」

「…………………ごめん……麗ちゃん……。」

「一緒に頑張ろうよ……。伊井野の駄目なところなんて、直せない訳じゃないんだから……。頑張ろうよ………。」

「…………もう、疲れた。」

「!」

「………麗ちゃんが私なんかの為に。こんなに感情的になってくれてるのに………。私の為に、そうやって励ましてくれてるのに………。なのに……なのに………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………励まされる度に、心が締め付けられる気がして、とっても苦しい………。

 ………もう、話しかけてこないで………。これ以上、私を苦しめないで………。」

 

その一言を聞いた後は、よく覚えていない。

覚えてたのは、友達に拒絶されてしまった悲しさとショックのみだった。

その衝動に任せて私は教室から出て行った。そして、悲しみのあまり、何年振りかに涙を流した。

 

「…………伊井野………本当に………ごめん………。」

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