石上優はもう戻れない 作:顎髭
あと、秀知院VIPに関しては、作中で既に出ている6人を中心とします。そして、まだ作中で喋ってすらいない、柔道部部長のキャラは、こちらの想像で書かせて頂きます。
(P.S.完全に見た目と雰囲気だけだけど、小島君の声が細谷佳正さんで脳内再生されてしまう。あと、もっと小島君の出番増えてほしい。)
【生徒会は気にし始めた】
ここは高等部生徒会室。そこでは、各自職務に取り組んでいた。そんな中、生徒会長・白銀御行と副会長・四宮かぐやは、ある話題について話をしていた。
「その様な事が、中等部であって………。」
「ほぉ……。それで、その荻野コウというのは……?」
「まあ、当然の如く、退学処分ですよ。でも、彼は秀知院にとんでもない泥を塗りました。私としても、女をモノとしか見ない下衆は、到底許し難いことです。私情も含んでいるのですが、"彼ら" に全て伝えておきましたよ。」
「ちょっ………それ、本当に大丈夫なのか…?」
白銀は少々困惑した。
四宮の言った『彼ら』とは、察しの良い人間なら分かる為、ここでは伏せておこう。いずれにしろ、荻野は無事では済んでいない事は確実である。
「……しかし、その石上というのも、中々思い切った事をしたな……。」
「実は彼、5ヶ月前に荻野の悪行を知り、止める様説得したのですが、荻野に『大友京子のストーカー』と嘘をつかれ、周囲から孤立してしまったそうです。そして、そのまま停学処分となったそうですが……。」
「ですが?」
「何故5ヶ月経った今になって、真実を告発したのでしょうか?もっとすぐに真実を告発する事は出来たはず……。」
「………荻野に、何か脅された……とか?」
「その可能性が一番高そうですね。『真実を言ったら、大友京子が被害に遭う』みたいな事を言われた……。だから、彼は頑なに真実を告発出来なかった。筋は通ってそうですね。」
「……彼は意地でも大友京子を守り抜こうとした。だが、どういう訳か、彼女が傷付く危険があるのに、真実を今になって告発した……。これは一体……。」
「……限界だったのでしょう。
実際彼は5ヶ月前の事件から、酷い位の罵詈雑言や嫌がらせを受けてきました。それでも、彼はそれを耐えて大友京子を守らなければならなかった。ですが限界に達し、今回の様な事を起こしてしまった。一刻も早く、この現状から解き放たれたかった。」
「………心が痛むな…………。」
「これこそ、世間で言う『胸糞悪い』でしょうか?何ともまあ、人間の愚かさや醜さが顕著に現れた事件でしたよ。」
白銀はかぐやの目を見て、少々悪寒がした。
この目をしてる時は、彼女は本気で機嫌を損ねている。
まあ確かに、彼女の気持ちは分からなくも無い。『石上優が大友京子のストーカー』というのは、ただ荻野の口から発せられた事だから、証拠が何も無い。そんな根拠の無い噂話を鵜呑みにしてしまった彼らが、石上優をあんな目に遭わせたのだろう。
実際、白銀の同級生でも、そういう根も葉もない噂話のせいで、陰で迫害を受けている生徒がいる。
龍珠桃。暴力団組長の娘だからという、たったそれだけの理由で、何の根拠もない噂話を広められて、同学年では孤立していた。本気で学校を辞めたくなった時もあるらしい。
だから、そういう噂話のせいで孤立する人間の気持ちが、白銀にも痛い位分かる。あの時、一人でも彼の味方がいれば。そうだったら、もっと違う未来があったのかもしれない。
「……確か、その石上優は、高等部には進学するつもりなんだよな……?」
「えぇ。……それが、どうかしたのですか?」
「いや……ちょっと俺個人が、その石上優に興味を示してさ…。一度、どういう人間なのか、気になっただけだ。」
現時点ではまだ訳は分からない。でも、白銀は石上の事が気になり始めた。
彼がどういう人間か、一度自分の目で見て、確認したい。
【子安つばめは励ましたい】
久々に大友ちゃんから連絡があった。
『今週の土曜、空いてますか?少し相談があります。』と。
彼女にしては、とても珍しい。
私の知ってる大友京子という人間は、誰に対しても明るく、何の偏見も無く人と関わる、まさに『良い子』と言わんばかりの人間だった。
そんな彼女が、急に相談事……?
いや、彼女のキャラ的に、もしかしたら軽い冗談で、実際はそんな大した事じゃないかもしれない。
まあただ、この段階で判断は出来ない為、一応相談に乗ることとした。
だが、その相談事は、私の想像を軽く凌駕する程、とんでもないものだった。
「………そっか…………。」
大友ちゃんは、泣きながら全てを話した。5ヶ月前に起きた事件の事。自分を守っていた人間を突き放して、殺そうとしてしまった事。そして、自分達のせいで、彼が完全に心を閉ざしてしまった事を。
「私……あれから一週間学校に行きたく無くて……。でも、友達が励まして、何とかして学校には行ける様にはなったけど………。それでも……石上君の……石上君の目が……怖い…。」
「大友ちゃん……。」
「たまに思うんです……。自分は学校に行くことすら……普通に生きることすら許されないんじゃないのかって……。
……あんな事しといて、許される訳ないとは承知なのに……それなのに…………、心のどこかでは……許して欲しいと思ってる自分がいるんです…………。
つくづく私は駄目な人間だなと痛感します……。」
「………………………。」
「……先輩……私はこの先…どうすればいいんですか……?彼の為に、私は何が出来ますか………?」
大友ちゃんは、『自分たちが全て悪い』みたいな感じで言ってはいるが、実際の所、諸悪の根源はその荻野という人間だ。彼が存在していなければ、誰も傷付く必要などなかった。
大友ちゃんはおろか、荻野の嘘のせいで孤立した石上君、今までずっと荻野に騙され続けられていた同学年の子達、荻野の口車に乗せられた被害者の子達。そう考えれば、彼女達皆が、荻野の被害者なのだ。
けれど、それはただの綺麗事だ。実際、石上君の事を悪く言い、彼に対する嫌がらせや罵詈雑言を見て見ぬ振りをしていたのは事実だ。石上君の傷は、尋常ならざるものだっただろう。
そして今、大友ちゃんはその事に対して、とてつもない罪悪感を抱えている。そして、自分のやった事を心の底から反省し、石上君の為に私は何が出来るのか、と私に相談した。
やっぱり…………。
「……大友ちゃんって…、本当に良い子なんだって、心の底から痛感したよ。」
「………え?」
「………確かに、大友ちゃん達がやった事は、本当に許されない事だと思う。周りから罵声を浴びせられても仕方の無い事だと思うし、実際、石上君は絶対に許してくれないと思う。
でもさ、それでも大友ちゃんは、彼の為に行動をしようとしてるんでしょ?並大抵の人間じゃ出来ない事だよ。普通、絶対許してくれないと割り切って、距離を置いちゃうもんだよ。それでも、君は頑張ろうとしている。すごい事だよ。
そんな大友ちゃん見てたらさ………何か…私まで泣けてきちゃった……。」
つばめは、目に浮かんだ涙を拭うと、大友の手を握った。
「現段階じゃ、まだ何をすればいいかは私も分からない。でも、私も協力するよ。色々と試行錯誤しながらさ、最善の方法を見つけようよ。だからもう、泣かないで。ねっ?」
本当に私はどうしようもない人間だ。いつも周りに助けられてばかりだ。自分で何も出来ないじゃないか。
小野寺さんや友達が、学校に行こうと誘ってくれた。つばめ先輩が、私に協力してくれた。そして、石上君が、私を荻野から守ってくれた。
「ありがとう……ございます………。」
「もう大友ちゃん、泣かないでって言ったじゃん……。」
「……つばめ先輩こそ……泣かないで下さいよ……。」
「ごめんね……私どうでもいい事ですぐ泣くくらい、涙脆くてさ……。」
例えそれに対して何と言われようと、それは絶対にブレない。
大友ちゃんは、良い子だ。
何度だって言う。大友京子という人間は、良い人間だ。
【やはり秀知院VIPはおっかない】
その日、部活連のメンバー達は、とある会議を終了させ、後片付けにかかっていた。そこでは……。
「……にしても、あの荻野って奴、ほんっとうにどうしようもねぇクソだったな……。」
「まだ言ってるんですカ?」
苛立ちを込めた声で、天文部部長・龍珠桃はそう言った。
今日の会議は、部活動の素行調査という形で、部長達は招集された。だがそれは、完全に表向きの内容で、実際は荻野コウの後処理についての報告会議だったのだ。
「てか、何であいつの後処理を私にさせなかったんですか?」
「君が手を下したら、それこそ社会的に問題になるだろうに。」
柔道部部長は、眼鏡を上げてそう言った。
「実際、僕達だけで荻野コウの処理は出来たんだ。龍珠君が手を下すまでの相手ではなかったのだよ。」
「でもよぉ、女をあんな風な扱いする奴のこと、同じ女として許せねぇんだよ。せめてあいつだけは、私に処理させて欲しかったよ。」
「まあまあ龍珠さん。私があなたの分まで、いや、この世の全ての女性の分まで、あのケダモノをボコボコにしてあげましたから。」
特徴的な糸目を少し開いて、オカルト研究部部長・阿天坊ゆめは微笑んだ。
「……そういや、あの後荻野はどうなったんですか?」
「さぁ?そこは龍珠さんの想像にお任せしますヨ。でも、私の口から言える事は、彼にはもう逃げ場など無い、という事くらいですかね。ハハハハハ……。」
サハ部部長は、乾いた笑い声を出した。
「何だかんだ言って、私よりもあなたの方がとんでもない事してるんじゃないですか。」
「まあまあ龍珠さん。結果オーライですよ。」
「柏木………やっぱお前も何かしたろ?」
「…………………。」
「何で無視すんだよおい!?お前ら、まさかオーバーキルじゃないだろうな!?」
「「あはははははははははははははは……!!」」
龍珠以外の者達は、笑い声というには、あまりにも狂気じみた笑い声を部屋中に響かせた。
この時初めて、龍珠桃は自分よりヤベェ奴が、ここにはわんさかいる事を感じ取った。
「………そういえば、そろそろ彼が高等部に進学してくるな。」
「彼って………まさか、小島の事ですか?」
「中等部時代の様にはならない様にな。龍珠君も少し大人になるんだ。」
「でも、ほとんど全部あいつからケンカふっかけてきたじゃないですか……!」
「小島君にも言っておきますヨ。毎度毎度、あなた達のストッパーを任されるのは私なんですカラ……。勘弁して下さいヨ……。」
嫌そうな感じでサハ部部長はそう言った。
「……でもそういや、小島もこの件については知ってんだよな?」
「……まあ、一応同級生だから、知ってはいるだろう。」
「あいつもあいつでヤベェ事するからな……黙っちゃいないと思うけど………。」
「………待たせたな、荻野。」
「……………。」
「何をそんなに震える必要がある?ただ同級生と、たわいも無い会話をするだけだろ………。な?」
「こ、小島……悪かったから……悪かったからマジで………。反省してるか」
「一体誰に謝罪してる?俺に謝っても何にもならないだろ?
お前が頭を下げるべき相手は、俺なのか?……えぇ!!?」
小島の怒声が部屋中に響いた。
「それに、謝罪など欲して無い。俺が求めるのは、お前の仲間の情報だ。
お前は他校の連中、かつて初等部で仲良くしてた奴らと、好き勝手やって来た。そいつらの名前を全て言え。一人でも言わなかったら、この事全てを親父に報告する。いいな?」
「お……お前………こんな事していいと思ってんのかよ…!?こんな恐喝まがいな事していいと思ってんのかよ!?分かってんのか!?恐喝も立派な犯罪なんだぞ!!」
「犯罪だと?一体全体どの口がそれを言う?
どうやら貴様は、まだ自分のやった事の罪深さが分かってない様だな。だったら…………。」
小島は、部屋の隅に置かれていた竹刀を手に取った。
「例え犯罪まがいな事をしてでも、俺が分からせる必要があるようだな………。」
「ひぃっ…………!!」
「さあ、言え。お前に加担していた奴ら全て、一人も残さず今すぐここで吐け!!!」
竹刀の音がしたと同時に、荻野の悲鳴が木霊した。
それっきり、荻野の行方を知る者は、一人もいなくなった。
次回からは、石上が高等部進学した後について書く予定です。