石上優はもう戻れない 作:顎髭
そして私は、委員長に風紀委員会を抜けることを申請し、選挙の出馬も取り消した。
元々選挙には私を含め、現会長の白銀さんと……名前は忘れたが、二年生でもう一人いて、その三人が立候補していた。でも、私が辞退する前にもう一人の人が取り消したので、選挙は白銀さんの信任投票となった。
そして選挙当日、結果は白銀さんが再び会長となり、副会長も四宮さんという、前と変わらない布陣となった。
「しかし、まさか立候補者が俺だけだなんて……。もう一人の………あの……えっと………あんまりよく覚えてないが、もう一人の立候補者は一体どうしたというんだ……?」
「さぁ?会長に怖気付いたのでは?フフッ。」
「まあ、それよりもだ………。藤原書記、そこで何をモジモジとしているんだ?」
「ふぇあっ!?」
柱の陰に隠れて、藤原はモジモジして白銀の方を見ていた。
「なななな何をしているかって……それは……ん?
今、私のこと………。」
「ん?何かおかしなこと言ったか?」
「……まったく。第69期生徒会も、賑やかになりそうですね。」
「会長……かぐやさん……!」
「さ、第69期生徒会の最初の仕事だ。さっさと、会場の片付けして帰るぞ。」
思ってたのとまるで違うな……。とっても楽しそうだな………。
何か、生徒会っていつも殺伐とした空気の元、各自で作業を行っている感じがとても強かった。特に白銀会長の怖い目つき、四宮さんから出てる凍てついたオーラ。厳格って感じが強過ぎて、結構ギャップが凄いな………。でも、そんな凍てついた空気を、藤原先輩が和ませているのかな……。
よく分からないが、そんな事はどうでもいい。私の様な人間には、何の関係も無いことなのだから………。
伊井野はその光景に背を向け、一人教室に戻ろうとした。いつも話しかけてくれる小野寺や大仏は、隣には勿論いなかった。
「………………。」
あの日、私は麗ちゃんとこばちゃんを拒絶した。全ては彼女達の為に。私なんかと関わってはいけないから。私なんかと関われば………関われば………。
「………落とし物だよ。」
後ろから声をかけられた。何だと思い振り返ると、とある男子生徒が何かを持っていた。
これは確か、こばちゃんと初等部の時に買った、おそろいの………。
「君のだよね?伊井野ミコさん。」
「あ……はい………。」
受け取ろうとしたが、直前で手を止めてしまった。
「ん?どうしたんだい?」
「………………。」
何年か前の出来事が頭をよぎった。久々にパパとママが帰って来て、旅行に行った時の思い出だ。確かその時、こばちゃんも連れて行って欲しいと我儘を言ったんだっけ………。パパは快く受け入れてくれて、こばちゃんも一緒に行ったんだ……。楽しかった………。初めて友達と遠くまで遊びに行けて、とても嬉しかった。
今、あの人が持っているのは、その時に買ったお揃いのアクセサリー……。
『このアクセサリーは、私とこばちゃんが友達だって言う証!絶対に手放しちゃ駄目だよ!』
『………ミコちゃん………。』
子供らしい台詞を言っていた事に、少し恥ずかしさを感じたが……でも、その通りだった。こばちゃんとは、ずっと友達でいたかった。
…………でも、今となっては………。
「…………やっぱり……いいです………。」
「どうしてだい?君のじゃないのかい?」
「確かに私のですが…………もう、必要の無い物なんで……。捨てていいです。」
「そういう訳にもいかないさ。どうしてもと言うのなら、君自身で捨てるといい。僕に勝手に人様の物を捨てる権利なんて無い。」
「………………。」
「それとも…………どうしても僕に捨てて欲しい訳でもあるのかい?」
「そ、それは…………。」
その人は少し微笑んで、私に近づいて来た。
「………悩んでいるね、何か。」
「えっ…………。」
「このアクセサリー、傷は所々あるが、綺麗に使われているね……。よほど大事に扱っていたのだろう。それ程君には大切な物だった。思い出のつまったアクセサリーだった。
だが、今君はそれを僕に『捨てて欲しい』と言った。つまり何が言いたいかって?
………何か、人間関係の事で相当悩んでいるね……?」
「!」
な、何なんだこの人………?
「な、なんで………そんな事………。」
「昔から、とある事物からある一つの推測を立てていくのが得意でね。そのお陰で、あの生徒は今何を思っているのか、何で悩んでいるのか。そういうのがすぐに分かってしまう。その度に、僕は相談に乗って、解決をしてきた。かつて、秀知院全体を見てきた者としてね。」
「………………。」
「恐らく、友人関係だろうね。この類いのアクセサリーからして、家族絡みとは考えにくい。しかも見た感じ、何年も前に買った物だ。
これらから考えられる事は…………長年の付き合いだった友達と、喧嘩でもしてしまった……。そう考えられるのだが、間違っているかい?」
「………………。」
「………まぁ、話したくないのなら、無理に話す必要などないさ。折角の時間を無駄にしてしまってごめんね。これは返すよ。」
「で、でも……。」
「自分で捨てる事が出来ないということは、それはつまり、まだその友達に未練があるということ。」
「!」
突然、彼の顔からうっすらとした笑みが消え去った。
「そんな中途半端な感情に任せてしまっては、この先後悔だらけの人生を歩むだろうね。自分が本当はどうしたいのか。自分に嘘をつき続けたままの人生を歩むのか。一度選択を間違えれば、もう後戻りは出来ないかもしれないよ。」
「な………何ですか突然……!?」
「………とまぁ、それ位今の君には、まだ揺らぎがあるということさ。」
再びうっすらとした優しい笑みを浮かべた。先程の表情など、最初からなかったかの様に。
「自分に問い掛けてみるといい。自分は本当はどうしたいのか。その友達と絶交のままでいるのか。そして………いつまでも自分の非から逃げ続けるのか。」
「!!」
「自分の非に屈したままで、改めないままでいるのか。それとも………。」
私の元から去っていく彼は、私の方を振り向き、何かを言った。
烏が鳴いたせいでよく聞こえなかったが、私の胸に痛い位に突き刺さる様な一言だということは分かった。
そして彼は、帽子のつばを少し上げ、再び私に優しい笑みを向けた。そして………。
「悩むに悩むんだ。これからの秀知院を担う者達よ。」
そう言って、彼は去って行った。
仕事が忙しくなって来たので、しばらくしたら一週間程休載しようと思っています。申し訳ございません。