石上優はもう戻れない 作:顎髭
あくびをしながら項垂れるのが何日続いただろうか。
屋上で横になりながら、石上はそんな事を思っていた。
「………退屈だ………。」
起き上がり、中庭の方を見てみると、白組の応援団が練習をしていた。
「………………。」
一週間前、僕は応援団に入った。当然立候補な訳なく、くじで運悪く入ってしまった。今更断って代わりを見つけようにも誰もいないし、もう遅い。こうなったらこのままサボって体育祭が終わるのを待とう。
一週間経ったけど、誰も僕の事をどうこう言ってくる人などいない。やはり忘れてくれたか。子安つばめも、流石にもう僕に介入してこないか。
「………やっぱりここか。」
誰かが屋上に来た。誰だと思い振り返ると……。
「……よぉ。石上。」
「………………。」
確か風野とか言ったか……?
「……何か?」
「その……何だ……。」
「………応援練習にな」
「いや、そういうことじゃないんだ。」
じゃあ………何だと言うんだ?
「……子安や小野寺さんから話は聞いたぞ。………やっぱりやる気ないか?」
「………そんな風に見えたら、眼科行った方がいいかと。」
「……やっぱか………。」
風野は頭をかいて、ばつが悪そうな表情を見せた。
石上優。名前だけは知っていたが、いざ目の前にしてみると、結構圧が凄いな……。嫌悪感が滲み出ている。
自分で言うのも何だが、俺は人から悪意を向けられたことがまるで無い。皆が皆、頼りにしている目を向けて、いつも気さくに話しかけてくれる。当然嬉しいし楽しい。だから、悪意がこもった眼差しというのを、経験したことがない。
だが今分かった。人からこういう目で見られるのは、結構堪えるもんなんだな……。
「……いやな、くじで決まったもんだから、やる気がないのは分かるさ。けど、それが理由でサボるのは、ちょっと違うんじゃないのか?」
「………あんただって、俺がどういう人間なのか知ってるでしょ?『女子を殴った、最悪で最低な校内一の不良』、そんなレッテル貼られてるんですよ?
ていうか、俺も俺なりに、ちゃんと人のこと考えてるんですよ?応援団なんて、俺みたいな日陰者が踏み入っていい場じゃない。だったら最初から入らなければいい。どうせ、俺のことを邪魔者扱いして、早いうちにやめてもらいたいとか思ってるのでは?早いうちに代わりを見つけられればなと思ってるのでは?」
「………………。」
数日前の子安とのやり取りを思い出した。
『あんまり下手に誘って、刺激しない方がいいと思うよ。かえって彼を追い込むだけだし……。一年の子達にも、代わりはいないかって探してもらってる…。』
話を聞いた感じだと、子安は何度か石上と関わりを持っていたみたいだった。恐らくだが、それで失敗してあそこまで弱気なのだろう。
けど、それが一番なのかもしれない。下手に介入するのは、この上ない愚行なのだろう。
「……図星ですか?」
「………やっぱり、嫌か?」
「……そりゃあ。」
「………………分かった。お前の代わりを、探してみるよ。」
おや?子安と違って、結構話の分かる人間なのか……?
石上は少し意外そうな顔をした。
「…………何だ。結構話の分かる人なんですね。あなたもどっかの誰かと同じで、馬鹿みたいに近寄ってくるかと思ったら……。」
「………人様の意見を無視してまで、応援団に誘う資格はないからな。
もう一度聞くぞ。お前は応援団から抜ける。それでいいな?」
一切の躊躇なく、石上は頷いた。
「………分かったよ。」
風野はどことなく、悲しそうな顔をしていた。
「………?」
当然石上には、それが何故なのかが分からなかった。
「………悪いな。時間取らせちまって。」
「………………。」
とっとと消えろ。
そう言わんばかりの眼差しだった。
「……やっぱ、俺のこと嫌か?」
「……まあ、そうですね。もう誰も信じない。誰にも期待しない。どいつもこいつも全員、ゴミだ。」
彼の事件のことは耳にしている。
間違いなく、事件前の彼はこんな感じではなかった。けど、まるで想像がつかない。元々こんなだったのではと思わせる位、彼から嫌悪感が溢れ出ていた。
「………今後、もうあなた方と関わる機会はないでしょうね。あったとしても、こっちがそれを拒む。分かったら、とっとと消えていただきたい。」
「………そうか。悪かった、邪魔して。」
風野は屋上から立ち去ろうとした。
「………まあでも、あなたが話の分かる人だというのは分かりましたよ。喋ってても、そこまで苛立ちは感じなかった。」
「………………。」
「少なくとも、あなたが俺に害をなす様な人間ではないってことですよ。」
「………そっか。」
心なしか、なぜか風野が嬉しそうな感じを出していたことを、石上は察した。
風野が屋上から去って数十秒後、石上は再びその場に横になった。
「…………はぁ………。」
同じ様な人間でも、ここまで違うとは……。結構意外だったな。
初めて真実を告発しようという気持ちになったとき、皆誰しもが「自分のことを理解しようとしない、上辺だけでしか人を見ない奴ら」としか思えなくなっていた。無論家族でさえもだ。それが今も続いていて、今日だって風野が来た時は、自分の気持ちなど理解しようともせずに、「練習に来い」と言ってくるもんだと思っていた。けど、それとは真逆だった。自分の主張を汲んでくれた。子安つばめや伊井野ミコが今までそうだったせいで、結局風野もそうだとばかり思ってた。結構意外で自分でも驚いている。
自分でもまだ困惑している。けど、風野はあの時確かに、自分の事を理解した上で、応援団をやめたいという僕の主張を汲んだ。
「……………けどな……。」
実際、あの場にいなかったから、子安だって好き放題言えるんだ。もしそいつらが同学年だったら、間違いなく荻野の肩を持っていたに違いない。ちょっと期待した僕が馬鹿だ………った?
「…………えっ?」
僕は今……何を思ったんだ?
期待した……?一体何に……?僕は今……どういう感情を抱きそうになったんだ………?
完結後の新作「石上優は再び闘う(仮)」のことで説明です。
私の説明不足のせいで、「石上優はもう戻れない」の続編と解釈をしている読者の方が多い様ですが、「全く別」の話になります。端から端まで新作です。全くの別物です。決して続編じゃありません。誤解を招く様なことをして、申し訳ありません。
今後も「石上優はもう戻れない」をよろしくお願いします。