石上優はもう戻れない 作:顎髭
初耳だったのだが、近頃近辺でスリや恐喝が流行していて、まだ犯人が捕まっていなかったと……。
だが、その犯人がやっと捕まった。けど………。
「だから!俺はやってないって言ってるでしょ!!」
「じゃあ君のカバンの中身はどう説明する!!」
何十回警察に言っただろうか。僕はやってない。
あれから数日経ち、僕は警察のところでお世話になっていた。
「ていうか、あいつはどうしたんですか!?あいつと話をさせて下さいよ!」
全ては僕の財布をスッた、あいつがでっち上げたせいだ。僕にスタンガンを当てたのも、そいつの仲間だろう。僕が気絶してる間に、人様の財布を盗み、僕のバッグの中に入れた。そして僕が目覚めるのを待って、僕が強盗だとでっち上げた。自分の罪を隠蔽するために。
まるで…………。
『君のやってる事はストーカーだよ。』
『君が京子のことを好きなのはよく分かった!』
『暴力じゃ愛は勝ち取れないんだ!』
チッ………。また同じ目に遭うのかよ……。
「彼も事情聴取を受けてもらってるよ。それよりもだ。君のバッグの中身は一体何なんだと言っているんだ!」
「何も知らないと言ってるでしょうが!」
「なら、君がやっていないという証拠提示してみるんだ!そうでもない限り、こちらも納得出来んぞ!」
しかも、状況はあの時よりも最悪だ。僕がやっていないという証拠が一つも無い。
どうする?どう切り抜ける……?このまま「やってない」の一点張りを続けてても埒があかない。せめてアイツと話さえ出来れば……。
「……なら、俺のバックにある財布から、指紋でも採って下さいよ。俺の言ってる事が本当なら、財布から俺の指紋は出てこない筈だ。」
「………それをやったから、俺達は君を疑ってるんだ。」
「!!!」
マジかよ……。そこまで頭の回る奴だとは思わなかった……。気絶している間に自分らの指紋を拭き取って、僕に触らせたんだろう。
無理だ。もう、逃げ道は無い。
石上は頭を抱えて、歯を食いしばった。
翌日、石上優が恐喝行為およびスリを行っていたという情報が、校内中に行き渡った。
「酷すぎない?いくらなんでもさぁ……。」
「じゃあ、最近話題になってたあのスリって……。」
「石上じゃない……?」
高等部だけではなかった。中等部、初等部にも……。
「そんな怖い先輩いるの?」
「目ぇつけられないかな……。」
「この前その石上って人見たけど………マジで怖かった。」
「いかにも人を殺しそうな目をしてた……。」
たまたま生徒会の仕事で中等部を訪れていた大友は、中等部の生徒達が噂しているのを目にした。
「………………。」
彼がこんな風になったのも全部、私達のせいだというのに……。
大友はとある教室を通りかかった。ここは……。
一年前の出来事を思い出した。石上優が荻野コウを殴っていた場所だ。そこで私達は、絶対に許されてはならない事をしてしまった。そして、彼の心をドス黒く染めてしまった。
「………何であの時……。」
いくら忘れたくても、忘れられない。過去は死ぬまで自分に付いてくる。
高等部の校舎に戻りながら、大友はそう思った。
「…………ただ今戻りました……。」
「お疲れ様、大友さん。」
生徒会室に戻り、私は一息ついた。生徒会長選挙後、私は引き続き生徒会会計として生徒会役員になった。
副会長に四宮さん。書記に藤原先輩。会長に白銀さん。去年度生徒会とほとんど変わらない布陣だ。けど、流石に四人だけだと結構大変だな……。誰か一年から誘おうかな……。
「………………。」
「……あら大友さん。戻っていたのね。」
四宮さんが部活動から戻ってきた。
「はい、結構早くに終わったので……。ん?四宮さん、それは……。」
かぐやの手には、とある書類があった。
「会長。これを先程、校長から……。」
「ん?何だ……?」
渡された書類を白銀は見ると、少し眉を動かした。そして、席を立ち私の元にやって来た。
「……ん?な、何ですか?」
「……大友さん。
…………石上優の退学処分が、正式に決まった。」
会長のその一言が、辺りをシーンとさせた。
数十秒経ったときに、「えっ?」と間抜けな一声を私が発したのをきっかけに、会長が再び口を開けた。
「……耳にはしてるだろう。石上優が恐喝行為を行っていたと……。
次また不祥事を起こしたら、彼は退学処分だと教員側も決めていてな……。ましてやその次の不祥事が恐喝となると、もう流石に退学処分は避けられない……。」
「…………………。」
「……現在石上は停学の扱いで、警察でお世話になっているが、もうすぐ秀知院を出て行くことになる。この書類は、校長がそれを承諾した書類だ。」
その時のことはよく覚えていない。
覚えていたのは、生徒会室を飛び出し、校長室に向かっていたということだけだった……。
何だ何だと周りの生徒がざわついていたが、まるで目に止まらなかった。とにかく、校長先生と話を。その一心だった。
「校長先生!!」
「!!」ビクッ
突然校長室の扉が勢いよく開いたものだから、校長は少し身震いをした。
「ど、どうしたんデスか!?」
「はぁ……はぁ……!!話が………あります………!」
「どうしたんデスか、そんなに息を荒くシテ!」
「…………石上優の退学処分を………先延ばしにしてもらえますか……?」
大友を追いかけて来た白銀、かぐや、藤原も校長室にやって来た。
「急にどうしたんですか京子ちゃん!?そんな血相変えて!」
「………大友さん……あなた………。」
すると校長は、大友達に座る様に指示をした。
「………そこに、腰を掛けて下サイ。」
「………………。」
「………大友さん。結論から申し上げてますと………こればかりは無理デス。」
「!!」
「……石上優。確かに彼の中等部の事件のことは知っていマス。無論、それにあなたが最も関わっていたことも。それによって、今の石上優が誕生してしまったことモ……。」
「………確かに、あの時の石上君は今はいません。けど……!彼はそこまで人に危害を加えるような人間では無いはずです!確かに彼の不祥事の多さは知っています。けど、伊井野さんへの暴力も、反省してると言ってたじゃないですか!
ああはなってしまったものの、彼は分別のある人間なんです!そんな石上君が、恐喝やスリといった犯罪にまで手を染めるなんて……!」
白銀は大友のその発言に、胸が締められた。
一学期後半、根本紀明が起こした事件の調査をしている最中、「石上優が襲われている女生徒を見捨てた」という疑わしい真実を発見してしまった。
大友は知らないからこういう事を言えるのだが………。
「(………大友さん。石上優は……もう………。)」
白銀も、石上優の事をもういい目で見れなくなっていた。
「………大友さん。………それでも彼の不祥事の多さは、もう退学処分レベルでシタ。今回の事件が起きようが起きまいが、どっちにしろ彼の退学処分は、そう遠くなかったんデスよ……。」
「……そんな………。」
「………あなたが彼に罪悪感を抱いているのは知ってマス。彼を救いたい。元に戻したい。そう心に決めているのも、把握済みデス。ですが、はっきり言います。
…………もう、不可能デス。諦めて下サイ。」
「………………。」
諦める。つまり、石上優はもうあのままだということ。下手をしたら、彼は自殺をする。いや、今してもおかしくはない状態だ。
……あの時、必死に私を守ろうとした彼こそ、本当の彼なのに……。誰よりも真っ当な人間だったのに……。
「……先程の。石上優の退学処分を先延ばしにして欲しいという要望。それは、石上優の無実を証明する時間が欲しい、と捉えて間違い無いデスね?」
「…………はい………。」
「…………現状、かなり難しいデス。石上優は無実だという証拠が全然ありまセン。例え時間を与えたとしても、証明が出来ますカ……?」
「………………。」
証明が出来るか出来ないか。それは………。
「…………分かりません。」
「………なら」
「今は。」
「!」
「……今はまだ分かりません。けど、ほんの少しの可能性があるなら、私はそれに賭けたいです!」
「大友さん……!」
「可能性は限りなく低いと思われます!けど、ゼロじゃない!ゼロじゃないなら、私はそれに賭けたいです!少しでも、石上優が無実だと証明出来る可能性があるなら……!私は絶対に諦めません!!」
今思えば、私は何を青臭いことを言ってるんだが……。中高生あるあるの「青臭い正義感」とは、まさにこの事だろう……。
けど、それでも私は信じていた。石上優は、そんな人間ではないと。今度こそ、彼のことを信じる………。
「………………まったく。あなたは結構、融通の効かない人だったんですネ………。」
「………………それでも、駄目ですか………。」
「…………一週間デス。」
「!」
「一週間の間、時間をあげマス。それまでは、石上優は停学処分としまショウ。」
「………校長先生……!」
「ですが、もし期限を過ぎたら………分かってマスよね?」
校長の細い目が少し開いた。少し怖かった。
そうだよ。今私は、校長先生を相手してるんだった……。
「……………はい……。」
「………なら、石上優の退学処分を引き延ばしまショウ。教員からは言っておきマスよ。全く……また文句言われマス……。」
無理なお願いをしたのは百も承知だ。校長先生がここまでしてくれたんだ。それ相応の結果を出さねば。そして………。
「………………。」
一週間はあっという間だ。もたもたなどしてられない。
「……無理を言ってるのは分かってます。けど………。」
大友は席を立ち、白銀達に頭を下げた。
「お願いします!私と一緒に、石上君の無実を証明して下さい!!」
「………………。」
………やっぱ、駄目か……。
薄々気付いてはいた。会長や四宮さんが段々、石上君のことをいい目で見なくなっていることに。私のやろうとしている事が、無理難題だと諦めていることに。
「…………分かったよ。」
「!」
「俺達も協力しよう。」
「会長………。」
「それに、この件に関しては、少し不自然な点がありますしね……。」
「四宮さん……!」
「さー!やる事が見えたら、後は実行に移すのみです!」
「藤原さん……!(いつもは頼りたくないと思ってたけど、今は……!)」
「今とっても失礼なこと考えてませんでしたー?」
「………………。」
完全なる図星である。
「皆さん……ありがとうございます……!!」
必ず証明する。必ず、石上優を救う。
大友は右手を強く握り締めた。
恐らくこの話を読んで、読者のほとんどが、
「石上の無実を証明」→「石上の見る目が変わる」→「石上の心が開く」
といった光堕ちを察したと思います。
ですが安心して下さい。そんな結末には絶対になりません。
もう大まかなストーリーは既に作っていて、最終話もどうするかは決めています。
具体的内容は言えませんが、ただ一つ言えること、それは「光堕ちは絶対にしない」ということです。
あらかじめ言っておかないと、感想欄が荒れそうな気がしまして………ww
そこのところを事前に知った上で、最後まで「石上優はもう戻れない」をよろしくお願いします。