石上優はもう戻れない 作:顎髭
警察にお世話になってから、何日経っただろうか。
ここまで日が経つと、そろそろ警察の方も痺れを切らしてくる。取り調べの方も、段々といい加減になっていくのが分かった。
まあ向こう側も、「やってない」を頑なに言い続ける奴を相手にしているんだ。そりゃ嫌にはなるか。けど、僕はやってない。それだけは揺らがないんだから。どんなに問い詰められても、絶対に自白なんかしてたまるかよ。
すんなり自白して、退学処分にでもなろうかと思ったが、二度もこんな惨めな思いをするのだけは、まっぴら御免被る。
「………君さぁ、こっちも暇じゃないんだよ?指紋が出たのが何よりの証拠でしょ?」
ダルそうだなぁ……。でもまあ、所詮警察ってそんなもんか……。テレビドラマの見過ぎだ。現実の警察なんて、所詮………。
「よくもまぁ、そんないい加減な取り調べが出来ますね。恥ずかしくならないのですか?」
突然誰かが取調室に入ってきた。
「き、君一体……!」
「……あなた、俺を知らないんですか?」
「な、何を言ってるんだお前……!」
「やめろよおい!」
後から入ってきた刑事が、取り調べを行っていた刑事に耳打ちした。その瞬間、彼の顔から汗が出てきた。
「……な、何でこんなところに……。」
「……そういう事だ。俺達はお役御免なわけだよ。後は、彼に任せておくといい。」
ばつが悪そうな顔をして、二人の刑事は退室した。そして今、取調室にいるのは、石上と………。
「……………小島………。」
「よぉ。石上。」
小島は席に座り、石上の方を見た。
相変わらずの目つきの悪さと、人を萎縮させるオーラだな………。とても同学年とは思えない……。
「…………まさか、警視総監自ら、俺を潰すつもりなのか……?」
「……そんな風に見えるか?」
「……じゃあ、俺を犯人に仕立て上げて、都合良く事件を揉み消すつもりか?」
「そんな愚行をする様に見えるか?」
小島は大きくため息をついた。
「………俺も随分下に見られたものだな。まぁ、そりゃそうか……。お前にとっては、どこの誰もがそんな風に見えるのだからな……。
………だが俺は先程の奴らとは違う。あんないい加減な取り調べは絶対にしない。」
「………………。」
「………まだ信用ならんか……。なら、これを見てみろ。」
小島は持っていた茶封筒を石上に見せた。その中には、今回の事件に関する書類があった。
「……これは………。」
「ここ数日、生徒会の方々が調べ上げたものだ。あの人達は凄いよ。もうすぐ核心に辿り着こうとしている。」
「……何で………。」
「お前が無実だと信じているから。特に……こいつはな。」
小島は茶封筒の中の書類に記された名前を指差した。
大友京子。忘れたくても忘れられない名前だ。
「………………。」
「……本来なら、お前はもう既に退学処分だ。だが、数日前に突然、校長がお前の退学処分を引き延ばした。
どうしてか?………こいつが校長に直談判したそうだ。『石上優の無実を証明する為の時間を下さい』とな。」
………は?何で?何であいつが………?
「………ここ数日、会長や四宮さんらも協力し、お前の無実証明となる証拠を探していた。当然俺にも協力を要請した。この事件はもう警察沙汰だからな。……そこで、興味深いものを見つけた。」
小島はニ枚の書類を取り出して、石上に見せた。
「………出席簿?」
一枚は、自身が所属している1年B組の出席簿だった。
そして二枚目は、ここ最近の日付が記された表みたいなものが印刷されていた。
「この表は、ここ近辺で起きた、スリや恐喝の通報をリストアップした表だ。ちゃんと日付や時刻も正確に書かれている。この表と、この出席簿を照らし合わせてみろ。」
言われた通り、石上は二枚を交互に見てみた。
「………………。」
「………何か、気付かないか?」
「………恐喝やスリが起きた日………俺はほとんど学校に通ってる……。」
「……実際、目撃証言もある。その日に石上を見かけた、屋上で寝ているのを見た、とな。
つまり何が言いたいか。……お前にはアリバイがあるということだ。」
「!!」
「ここらでは、どういう訳か最近、スリや恐喝が頻繁に起きている。被害者の証言から、恐喝に関しては、ほとんど同じ様な手口。つまり、ここらで起きている恐喝は、同一犯と見ていいだろう。そして、恐喝が起きた時間帯、お前は学校にいた。ちゃんと出席簿にも記載されている。目撃証言もある。その時間学校にいたお前が、何故ここらで恐喝まがいなことをして、金銭を奪える?
………ただまあ、アリバイがある以前に、恐喝に遭った被害者は言っていた。三、四人ばかりの男が『財布を寄越せ』『クレジットカードの暗証番号を教えろ』と詰め寄ってきたとな。それなのに、何故お前一人が疑われなければならないんだという話だ。あの人達は一体どんな捜査をしてたんだが……。聞いて呆れる。」
………何でだ………何でだ………。
「…………ん?どうした?顔を下に向けて……。」
「…………何企んでる………。」
「はぁ?」
「………何を企んでいるんだって聞いてんだよ……。」
「企んでる?一体何を」
「とぼけんなよ!!」
机を叩きつけ、石上は小島の胸ぐらを掴んだ。
「何でそこまでして俺を助けようとしてんだ?俺みたいな厄介者がいなくなって、せいせいしててもおかしくないだろ!?なのにお前や生徒会の連中は……!何かを企んでるとしか思えねぇよ!
ああそうだそうだ……特に大友だよ!何今更善人振ってんだよ!所詮あいつも他の連中と同じ様な人間だろ!?あの時散々俺にふざけた事したくせして……!なのに今更『私は心から反省してます』アピールしやがって……!そこまでして他人からいい目で見られたいのか!?そこまでして自分を良くさせたいか!?ウゼェんだよ!!」
久々にこんなに息を荒くした。
まるで分からない。自分がとんだ弾かれ者なのは、お前も知ってるだろ?そんな奴が恐喝やらスリをやっていた。即刻退学処分にした方が、そっち側にとっても都合が良いだろ。なのに何で……何でそこまでして僕を………。全然理解出来ない………。
「…………まあ、人によってはそう捉えてもおかしくないな……。」
「……………。」
「特に大友なんてそうだ。俺も、ただ善人振ってるだけなのではと思ってる箇所がある。今回、お前を助けようとしているのも、ただの自己満足なのではと捉えても、別におかしくなんかない。
…………けどな石上。これだけは覚えておけ。」
自身の胸ぐらを掴んでいる石上の手を振り払い、今度は自分が石上の胸ぐらを掴んだ。
「大事なのは、いつまでも過去の過ちを引き摺ることでは無い。自身の罪を受け入れ、二度と同じ過ちを犯さない。二度と他人を傷付けない。そう強く心に誓うことだ。」
小島の鋭い目が、石上の目に映った。
久々に人に対して冷や汗をかいたな……。それくらい小島という男の存在は、威圧的で強大なものだった。
「……それに、お前も嫌だろ?」
「な、何がだよ……?」
「二度も冤罪を背負わなければならん羽目になるのも、もう御免だろ?」
「!」
「………どうせ退学処分になるんなら、別の不祥事で退学処分になった方が、お前の方も気が晴れるだろ?違うか?」
「いや、味方なんだか敵なんだか………。お前は俺をどうしたいんだよ?」
「………俺は誰の味方でもない。だが……。」
小島は石上の胸ぐらを離し、席を立った。
「………この世の全ての不条理や悪。例えどんな事があろうと、そいつらが俺の敵である事は変わらない。」
「………………。」
「そして今、お前は恐喝行為およびスリを行った者という冤罪を背負わされている。まるで理にかなっていない。誤認逮捕など、警察官にとって一番の愚行だ。
だから石上。俺は、いや。俺達は……お前を助ける。」
猜疑心だらけの石上でも分かった。
今の小島の発言。そこに、嘘偽りは微塵も無かった。彼らは……心から自分を助けようとしている。
「………でもいいのか?」
「何がだ?」
「大半の教師や同学年が、俺がいなくなる事を望んでるのに。お前らがまた俺のことを戻そうとしてるのを知ったら……。」
「悪しきを罰し、善を守る。それが警察の仕事だ。
それに………俺もお前と同じ様に、最初から浮いた存在だからな。あんな奴らに何言われようが、心からどうでもいい。いざとなれば………親父の権力を使って、捩じ伏せるだけだ。」
「結局親頼りかよ。」
「この際だ。卒業まで遠慮なく親のコネを使わせてもらうよ。それで、正さなければならないことを、正せるならばな。」
小島慶二郎。どことなく自分と似た雰囲気を感じた。
こんな手厳しい性格の奴だから、彼も同じく、周囲から浮いた存在となっていた。けど、人一倍正義感に溢れている人間だ。そこの部分が、あの時の自分と似ていた。
周りから何と言われようと、自分の正義を貫く。
何ともまぁ、愚直で青臭い考えだ。
「…………だとしてもだな……。」
「……?」
「お前が恐喝行為をしていない証明は出来たものの、スリをしていない証拠が不十分だ。スリなんてその気になれば、一人で容易に出来る。ましてや、財布が無いと気付いたときには遅いのが、実際だしな。被害者からも、大した証言は出ない。」
「………それなら………。」
「………ああ。あいつだな………。」
そう。全てはあいつのでっち上げのせいだ。あいつと話さえ出来れば……。
『強盗です!!そこに強盗がいます!!助けて下さい!!』
『強盗です!僕の財布を盗もうとして、暴行を……!!』
確か名前は………いや、思い出せないな。あいつ、いっつも座って読書ばかりしてる根暗だしな……。何考えてるか分からない。
「………あいつと話をするのが、近道だろう。けどだ………。」
「?」
「……奴の様な、日頃おとなしい奴が、何故スリなんか……?とてもそんな事を平気でする人間には見えない………。」
「…………………。」
「………まあいい。どっちにしろ、奴が何かカギを握っているのには変わりはない。泣かしてでも、吐かせてやる。」
マジだ。すぐに分かった。こいつは本当に、悪に対して容赦が無い。
「………時間を取らせたな。今日の取り調べはこれで終わりだ。」
小島は取調室から出ようとした。が、姿を消す直前、立ち止まり……。
「………?」
「…………いや、何でもない。お前に一つ質問をしようと思ったが……、しても答えは見えている。気にするな。」
何か言いたそうな顔をしたまま、小島は退室した。
入れ替わるかの様に、一人の刑事が入ってきて、もう戻るようにと石上に指示をした。
「………………。」
石上はその場に座りっぱなしだった。
………何故だ?何故なんだ?疑問しかない。何故僕の無実を証明しようとしているんだ?自己満足か?それとも………。
「……………はぁ〜………。」
石上は上を見上げて、大きくため息をついた。
この気持ちが一体何なのか、まるで分からないから………。
皆様の納得出来る様なストーリーは、書けないかもしれません。ですが、最終話まで「石上優はもう戻れない」を宜しくお願いします。
そして、「石上優はもう戻れない」終了後の最新作(全く別のストーリー)「石上優は再び闘う」も、平行して執筆中です。こちらの方もご愛読いただけたらと思います。