石上優はもう戻れない 作:顎髭
明らかにオリキャラでありますが、そこのところは御了承ください。
「(これでいい……これでいいんだ……!石上君には悪いけど……こればかりは……。)」
僕は数日前、クラスメイトの石上優を、恐喝やスリを行っていた犯人とでっち上げた。
あの後、僕も警察に連れられて取り調べを受けたのだが、自分でも驚くぐらいすんなりと取り調べは終わった。もう、石上君が犯人だと決め付けているみたいだった。けどまあ、そりゃそうだ。財布は全部丁寧に指紋を拭き取って、気絶してる石上君に触らせておいたのだから。
これでいいんだ。これでいい………。これで……いい……はず……。
「…………ん?」
下校しようと下駄箱を開けると、一枚の紙が入っていた。何だと思い見てみると……。
『あの件で話がある。今すぐ視聴覚室に来い。』
……… "あいつら" からか……。
渋々視聴覚室に行くことにした。
けど……何かヘマをした覚えは無い。僕はただ……そう、ただ……。
そんなことを考えながら、僕は視聴覚室の扉を開けて、中に入った。
「………あれ?」
おかしい。誰もいない。
「………でも、確かに視聴覚室だって」
「ああそうだ。視聴覚室で合っているさ。」
いきなり後ろから声がした。振り向くと、そこには………。
「……1年B組の、神部浩季くんですね?」
「………時間……あるかな?」
何で………何で生徒会の人達が………?
「………あ………えっ……。」
「………単刀直入に聞きます。あなた、石上優の事件について、何か隠していますね?」
四宮副会長のその問い掛けを聞いた瞬間、心臓の鼓動がマッハスピードで速くなるのが分かった。
そして、考えるよりも先に、足が動いていた。
「あっ………!」
逃げなきゃ。逃げなきゃ。ここでバレたら……バレたら……!!
「やすやすと逃がすと思うか?」
突然僕の前に現れたそいつは、僕の胸ぐらを掴み、その場に僕を押さえつけた。
「ぅぐっ……!」
「………逃げ足が随分と速いな。その持ち前の逃げ足を使って、お前は何度スリを続けてきたんだろうなぁ?」
「な、なんの……ことだよ……!!」
「知らないは言わせんぞ?あの件について知っている事、全て吐いてもらうからな。」
「後は頼みました、会長。俺は、まだ調べなければならない事があるので。」
「悪かったな小島。そっちも頼んだぞ。」
今、視聴覚室には、僕を含めた五人の人がいる。そのうちの四人は、生徒会の人達だ。
「………改めて聞きますね。1年B組の神部浩季くんで、間違いないですね?」
「……………はい。」
「………先程の私の問い掛けを聞いて逃げ出したということは……あの事件について何か、自分にとって不都合な事があると言ってる様なものですが………何か反論はありますか?」
………つい反射的に逃げ出してしまった。しくじった。
「…………………。」
「……神部くん。隠してることがあるなら、今ここで喋って。」
大友が神部の元に近付きそう言った。
「………………。」
「…………だんまりか……。なら、今から俺達の質問に答えてもらおう。
………石上優が警察に補導された日、君は何故体調不良と嘘をつき、学校を休んでいたんだ?」
「…………そ、それは………。」
言える訳がない。もし言ったら……言ったら……!!
「…………なら質問を変えよう。何故その日、石上優の財布を盗んだんだ?」
「ぼ、僕は盗んでなんかない!!」
勢いよく席から立った。
「皆さんだって知ってるでしょ!?石上君がスリやら恐喝やら行ってたって!!その日は確かに学校を休んでました。けど、風邪の薬を買いに行ってただけなんですって!!その帰り道の最中、石上君に路地裏に連れて行かれて、『財布を寄越せ』って……!」
「風邪………ですか……。」
「…………え?」
かぐやが神部の方を見た。
「風邪はたった一日やニ日で治る程、やわな病気ではないはず……。なのに、何故あなたはこうもピンピンしているんですか?」
「…………!!」
「………もしその日、本当に風邪をひいたのであれば、何故その翌日に学校に来れたのですか?」
つい咄嗟についた嘘が……!
「………それは……。」
「……風邪をひいたのは、全くの嘘。あなたはあの日、全く別の理由で学校を休んだ。体調に関することでもなく、身内の葬式やらそういう類いのものでもない。」
「………べ、別に……休んだ理由なんて知っても……。」
「………まあそうですね。別に休んだ理由を知ったところで、何にもなりませんね。」
「………なら………!」
「だとするなら、これはどう説明するつもりですか?」
かぐやがそう言ったと同時に、藤原が視聴覚室のモニターを起動させて、ある映像を見せた。
「………な、何ですかこれ……。」
「とある街の防犯カメラの映像です!そーこーにー、こんな物が映ってました!」
早送りをし、とある場面が映し出した。
「……………!!!」
その映像を見た瞬間、神部の体は硬直した。
「………なんで……なんで………。」
「………神部くんが石上くんの財布を盗み取るところが、しっかりと映ってるんだよ。」
「それだけじゃありません。目撃証言もしっかりと取れてます。『眼鏡をかけた小柄な男が、髪の長い男から追いかけられてた』『髪の長い人が、返せって言ってた気が……』などと……。」
「……この映像からして、明らかに髪が長い男というのは、石上優のことです。もし仮に石上優がスリを行っていたとしたら、普通『返せ』と言いながらあなたを追いかけますか?でもまあ、それ以前に映像としてしっかりと映ってるんですがね………。あなたが石上優の財布を盗み取ったね。」
おかしい……おかしい……!!ここらの監視カメラのことはしっかりと調べ尽くしたはずなのに……!!
「………あと、一つ付け加えておきますが、この監視カメラ……つい最近つけられたものだそうです。」
「!」
「………最近スリやら恐喝が起こっていることをきっかけに、警察側が数日前につけたものです。
流石に用意周到で几帳面な犯人も、本当に最近のことまでは把握しきれなかったんでしょうね………。」
かぐやが再び神部の方を見た。その瞬間、体の震えが始まった事が、自分でも分かった。
「…………これでもまだ、石上君が犯人だって言えるの?そして………教えて欲しい。何で、そんな嘘をついたの?」
しくじった。今の状況を端的に表すなら、それが一番似合ってる。
「………………。」
………もう、ここまでバレてるのであれば………。
「………僕が…………やりました………。石上君のことを、でっち上げました………。」
僕がやったこと "だけ" は言ってしまおう……。
「……………そうか……。」
「……けど、どうして………。」
「…………ここ最近のスリも、全て僕です……。お金に困ってた……ただそれだけの理由です………。」
「……………神部くん。」
その場にへたりと座り込んだ神部に近付き、大友は……。
「………今から謝りに行った方がいい。」
「!」
「…………石上くんに、しっかりと謝りに行くべきだよ。」
「………でも………。」
「………正直、私が言う資格無いと思う。石上君がああなったのは、全部私達のせいだし……。けど、ちゃんと償わないと。謝るだけでも、全然違うと思うよ………。」
「………………。」
そうだな……。僕 "だけ" が謝れば……謝れば……。
「………ですが、不思議ですね。」
「な、何がですか?」
「不思議とは、一体……?」
白銀と藤原は訳が分からなかった。
「……神部くん。あなたのご両親が経営している会社は、そこそこ優秀で、経営成績も低下していません。とてもと言っていい程、金銭面で困ってるとは思えません……。」
「!!」
ま、まずい……!!
「あなた………本当にお金目当てでスリを行ったんですか?」
「………………。」
嫌な汗が背中から流れるのが分かった。これは、かいてはいけない汗だ。
「………神部くん……?」
「………………それは………。」
「……もう一度聞きます。」
かぐやは神部の元に近付き、目を見開いた。
「本当に、お金目的でスリを行ったのですか?」
まただ。また、考えるよりも体が動いてしまった。四宮副会長を突っぱねて、一目散に逃げようとしてしまった。
これだけは知られてはならなかったのに……!!これだけは感づかれたくなかったのに……!!
「待つんだ神部くん!!」
咄嗟に白銀が神部の右手首を掴み、神部が逃げるのを何とか阻止した。
「離して……離してください……!!」
「その様子だと、何か別の理由でスリを行っていたんだな!?まだ何か、俺達に隠してることがあるんだな!?」
「知らない……知らない……!!何も隠してなんか……!!」
「一体、何が目的でスリなんかしたんだ!?」
これだけは駄目だ……!!これだけは駄目なんだ……!!
「……………神部くん!!」
「嫌だ!!離してください!!」
白銀を振り払い、視聴覚室から出ようとした………が、いつの間にそこからいたのか、大友が立ち塞がり、視聴覚室の鍵を閉めた。
「……本当の理由を教えてもらうまで……帰さないよ。」
「ひぃ……!!」
本当の理由なんて言えない……!!もし言ったら……言ったら……!!
『俺らに逆らわない方がいいと思うけどなぁ〜?』
『お前、自分の親の立場分かってんの?』
『あんなのバラされたら、お前もう秀知院にいれなくなるよな?』
父さんが……僕の会社が……!!
「……お願い。言って。」
神部は涙目になりながら、首を横に振った。
「………神部くん!!!」
「言えない!!言ったら、僕の家族が」
…………あっ。
「ん?今、何て………?」
しまった。つい……!!
「………まさか神部くん………誰かに脅されてるの………?」
知られたくなかった。けど、もうそこまで頭が回ってなかった。
恐らく生徒会の人達は、僕に関して調査するだろう。それで本当のことが知られたら………父さんが……家族が……。