石上優はもう戻れない   作:顎髭

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神部くんをいじめてた奴らなんですが、41話「不穏な空気はすぐそばまで」に出てきてます。そこと照らし合わせてください。


神部浩季は決意したい

「…………成る程な………。」

 

大友から全ての事情を聞いた。

平気であんなことをする人間とは思っていなかったが、やはり……。

 

「………こんなの……酷すぎる……。」

「…………恐らくだが、恐喝を行ったのも……神部にスリを行うよう指示したのも……奴らだろうな。」

「……会長達も、その線で調べてる。何で神部くんがあんなことをとは思ったけど……まさか……。」

 

あの後、私達は神部くんから全てを聞いた。自分が何故スリを行ったのか。そして、自身がどうして今の状況になってしまったのか。

それを聞いたときは、まあ怒りしか湧き上がってこなかった。卑怯。下劣。最低。ありとあらゆる悪意が込み上がってきた。勿論、神部くんに対してではないが。

 

「………となると、後は証拠を集めれば、この事件は一件落着だな。」

「………けど……。」

 

悠長になんかしていられない。石上優の退学処分まで、あと三日だ。それまでに、何としてでも無実を証明しなければ………。

 

「………人手が足りんな。」

「えっ?」

「今までは、生徒会と俺とで調査を行ったが、五人だけでは間違いなく間に合わない。より多くの協力者が必要だな。」

「……小島くん……それって……。」

「……多くの人脈あるお前だからこそ出来ることだ。分かるな?」

 

そういうことね………。けど……。

 

「………ほとんどの人が、石上くんのことを『早く出て行け』と思ってそうだし、何より………。」

「何より?」

「………この事が公になったら、秀知院全体がまた……。」

 

ただでさえ、1学期の騒動で秀知院の世間的評判は右肩下がりだ。それなのに更に追い討ちをかける様に、今回の事件が起きた。風評被害はもっと酷くなるはずだ。

そうなる危険があるのに、自分達に手を貸してくれる人間がいるのかどうか………。

 

「………確かにな。……けどまぁ、仕方がないだろ。」

「えっ?」

「そうなって当然のことを、今までやってきたんだからな。教師も教師だ。さっさと石上を犯人にして、追い出したい一心だ。真実なのか虚偽なのかも考えずに、ただ奴を追い出したい一心で………。ヘドが出そうな醜さだ。」

「………小島くん………。」

「それに、全員がそうだという訳ではない。元々校長も、この事件には懐疑的だった。必ず何人か、あの事件について懐疑的な目を向けている人間がいるはずだ。可能性は限りなくゼロに近いが、完全にゼロではない。お前の思い当たる人間だけでいい。なるべく多く集めて欲しい。」

「………………。」

 

やるだけやってみるか……。

 

「……分かった。」

「………なら、後はお前達で出来るだろう。俺は少し、神部と石上と話をしてくる。」

「えっ?で、でも、一体何を……?」

「………そんな大したことではない。まあ、最悪泣かせてしまうがな。」

 

何が「大したことないだ」よ………。

 

「……あんまり……手厳しいこと言わないで……ね……?」

「………………。」

 

小島は黙ってその場から立ち去った。

 

「何か言ってくれない!?」

 

 

 

 

 

 

 

「…………はぁ………。」

 

また取り調べか………。この部屋に入るのも10回目だぞ。早いところ犯人を見つけていただきたいモンだよ……。

けど、小島が「お前に会わせたい奴がいる」って言ってたけど……誰のことだ……?

 

「……待たせたな、石上。」

 

小島が入室してきた。

 

「………だいぶくたびれてる様だな……。だか安心しろ。しっかりと、真実には近付いている。もっと言うなら、あともう少しだ。」

「……もう少し……か……。」

「それよりもだ……。おい、入れ。」

 

小島に続いて、ある男が入ってきた。

その男の顔を見た途端、石上は席から勢いよく飛び出して、その者の胸ぐらを掴んだ。

 

「お前……!!」

「うぐっ……!!」

「よせ。」

 

石上の手首を掴み、冷静になるよう小島は促した。

苛立ちに任せ、神部を壁にぶつけると、舌打ちをして石上は席に戻った。

 

「………………。」

「………まさかだとは思うけど、お前……謝りに来たのか?」

 

睨みを効かせてそう尋ねた。

 

「………それもそうだけど………。」

「………今更何ノコノコ頭下げに来たんだよ……チッ。」

「……けど石上。今回こいつを連れてきたのは、それだけではない。」

 

小島は壁に寄りかかって座っている神部の手を取り、席に座る様に促した。

 

「………こいつは、『加害者』でもあり『被害者』でもあることを、知ってほしくてな……。」

「………はぁ?」

 

まるで訳が分からなかった。

お前あの時言ったよな?「悪に対しては一切容赦はしない」って……。

 

「………………。」

「………神部。お前の口から言うんだ。」

「えっ……!で、でも……!!」

 

躊躇う神部の胸ぐらを小島は掴んだ。

 

「勘違いするなよ?さっきお前のことを『被害者』でもあると言ったが、それはあくまでも大友や会長達からして、だからな?俺からすればお前など、無実の人間を潰そうとした『加害者』なんだからな?

 自分の不始末くらい、自分でケジメをつけろ。いい加減、いつまでも被害者気取りをするのはやめろ。いいな?」

 

小島の眼光に、涙が出そうだった。

 

「は、は……い………。」

 

神部は涙を浮かべながらそう言った。

 

「………………。」

「…………石上くん……。全部、家族のためだったんだ………。」

「家族?」

「………僕の会社なんだけど……数年前から結構ヤバい状態なんだ……。でも、ある日突然、経営成績がグンと上がって、今では不自由なく経営出来てるんだよ……。」

「………それが何だって言うんだよ?」

「………不思議だと思って調べてみたら………親会社から送られていた、不正な寄付金を使ってたんだよ………。

 しかもその親会社の社長の息子が………。」

 

 

 

 

 

『おい神部〜!あの時親父さん、俺の親父と約束したよな?「多額の寄付金やる代わりに、全部こっちの言いなりになれ」ってよ!

 だーかーらー、お前一生俺の奴隷な?逆らうなんてバカな事考えんなよなぁ〜?寄付金切られて、またピンチになっちまうもんなぁ〜!はははは………!!』

 

 

 

 

 

「………父さんはあの時、向こうの社長さんと取引をした上で、寄付金を貰ってた………。でも、そのお陰で僕らはずっと、奴らの言いなりだった………!

 会社の経営方針も、全部親会社のあいつらに………。父さんにやめるよう言おうと思った………けど………!!」

 

神部は下を向いて涙を零した。

 

「………そうしたら………今度こそ………。」

「………………。」

 

成る程ねぇ………。

 

「……そんな時、あいつらに指示されたんだ………。」

 

 

 

 

 

『おい。ちょっと手伝えや。』

『て、手伝うって……何を………。』

『……石上への復讐だよ。

 あいつがあん時告発したもんだから、あれからずっと荻野と連絡が取れねぇんだよ。お陰で遊びたくても遊べねぇんだよ……クソが。』

『そんでだ。お前、今からあいつらの財布、スってこい。』

『えっ!?な、何で……!』

『しばらくスリやって、頃合いを見て、石上をスリの犯人にでっち上げる。その間に俺らも、いい奴ら見つけて財布をぶん取る。そして、その犯人も全部、石上にする。

 当然………協力してくれるよな……?』

『………………。』

『………さっさと「はい」って言えやカスが!!』

『ぐはぁ……!!』

 

 

 

 

 

「………嫌だなんて、言える訳なかった………。逆らえない……逆らったら……家族が………。」

「………それで俺をでっち上げた訳か………。」

 

石上は首を上に上げて、大きくため息をついた。 

 

「…………………。」

 

何十秒か沈黙が続いた。

そして、目線を神部の方へ向けると、勢いよく机を神部に向かって蹴り飛ばした。

神部は蹴られた机の勢いで、後ろに倒れ込んだ。

 

「おい石上!!」

「…………チッ。マジで胸糞悪いわ。

 じゃあ何だ?自分の家族のためなら、何しても構わないって言いたいのか?逆らうのが怖かったから、全部あいつらの指示通り動いたって言いたいのか?

 ………お前、どんだけ甘ったれてる訳……?お前だけが辛い思いしてると思ってるのか?お前以上に辛い思いしてる人なんて、ごまんといるんだぞ?……ただ単に『仕方なかったから、許して下さい』って言ってる様にしか聞こえないんだけど……。」

「ごめんなさい…ごめんなさい……!!」

 

泣きじゃくりながら神部はその場で土下座した。

 

「……小島。これのどこが被害者だって言いたい訳……?結局のところ、他人にすがるしか道が無かった、こいつの親父さんが全部の原因だろ……?全部、こいつらの自業自得だろ。」

 

ぐうの音も出なかった。

あの時、父さんにやめるように言うべきだった。もっと、他の道があるはずだと説得するべきだった。けど、僕はそれをしなかった。会社が潰れるのが怖くて……自分が潰れてしまうのが怖くて……無実の石上くんを陥れてしまった……。

 

「…………はぁ……。荻野といい大友といいさぁ、俺らの学年、ロクでもない奴ら多過ぎない?何かもう……キレるのもバカみたいに思えてきたわ………。」

 

頭を掻きながら席から立ち、石上は取調室から退室しようとした。

 

「………小島。」

「?」

「………頼んだぞ。絶対に俺の無実を証明してくれよ。警察官なんだから……当然だよな?」

「…………当たり前だろ。」

 

そう言って、石上は取調室から退室した。

 

「………………。」

「ごめんなさい……ごめんなさい………。」

 

未だに泣きながら土下座をしている神部に、小島は右手を差し出した。

 

「……いつまでそんなところで泣いている?」

「……えっ?」

「そうやってお前はいつまでも、泣きながら石上に土下座をしたままでいるのかと聞いているんだ。

 ……お前が今やるべきことは、そんなことなのか?そんなことをしても、自分が石上を陥れたという過去は消えないんだぞ。」

「………………。」

「……いいことを教えてやる。大事なのは、自身の罪を受け入れて、それをしっかりと償うことだ。泣きじゃくってずっと頭を垂れていても、何もならない。」

「………だったら……僕にどうしろと………?」

 

頭を上げた神部の胸ぐらを掴み、小島は顔を近づけてた。

 

「…………今度は、石上を助ける側になるんだ。」

「………えっ………?」

「………お前はずっと、奴らに脅されていた身だ。……俺達がお前を、いや………お前の家族のことも助け出してやる。……その代わり、お前も誰かを助け出す側に回るんだ。」

 

……僕が………石上くんを、助ける……?

 

「………決めるんだ。このまま奴らの言いなりになって、何の罪もない石上を潰すか。それとも……奴らから手を引いて、石上を助け出すか……。」

「………………。」

「………お前は……どうしたい……?」

 

もしこの事が奴らに知られたら……間違いなく会社はヤバくなる。けど、黙ったままだと……死ぬまでずっと奴らの………。

 

 

 

 

 

『ほらほらほら!チンタラすんなや!!』

 

理不尽に蹴られて……。

 

『はい3秒遅れた〜!腹パン3発な〜。オラ!!』

 

サンドバッグみたいに殴られ……。

 

『チッ……。こいつ一万も持ってねぇぞ。』

 

勝手にお金は取られて……。

 

 

 

 

 

そんな人生を………死ぬまで……死ぬまで……。

 

「………ぐっ………!!」

 

また涙が流れてきた。でも、それは先程の罪悪感から出てきた涙では無かった。

これは………悔しさだ。

 

「……嫌だ……こんなの……嫌だ………!!」

 

何もしてないのに、理不尽な目に遭う悔しさ。

 

「あの時……言うべきだったんだ………!!」

 

不正な寄付金を受け取るのをやめるよう、父に言えなかった悔しさ。

 

「………こんなの……駄目に決まってるのに……!!」

 

自分の保身のためだけに、何の罪もない人間を陥れることが、絶対にやってはならないことに気付かなかった悔しさ。

それらの、自分の心の弱さに対する悔しさが、涙と共に一気に出てきた。

 

「…………その顔からして、答えは出たみたいだな。」

「………………。」

 

神部は立ち上がり、首を縦に振った。

 

「………なら、お前のやるべき事は、自ずと見えてくるはずだ。

 今度こそ……あいつを救ってやれ。」

 

どんな処罰も受け入れる覚悟は出来た。会社がどんな末路を辿るかは予想はついてる。けど、それを言い訳にしては駄目だ。

決意はした。あとは……行動に移すだけだ。

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