石上優はもう戻れない   作:顎髭

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大友京子は証明したい

「………中々思い切ったことしましたね……。」

「ええ……。自分でも、結構思い切った方だと思いますよ…。」

「………今でも思うけど、結構凄いことしたな……。」

「………それにしてもです…。」

 

久々に四宮さんの悪い顔を見た。

 

「……想像しただけでも笑えますね……彼らのどん底に突き落とされた表情……。」

「(やっぱりこの人まだ怖い……。)」

 

関わりを持って半年以上だが、やはりかぐやに対して恐怖心を拭い切れない大友であった。

 

「……けど、一つだけ言えることは、もう彼らに言い逃れは出来ないということだな。これだけのことをしてきたからな。」

「準備万端ですね!」

「……さぁ、最後の仕上げにいきましょうか……。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その日の放課後は、月に一回の学年集会だった。

……て言っても、そんな大した話をする訳ではないから、ほとんどの者は寝ているか雑談かの二択だ。そんな大したことない集会を、何でモニターつきのホールでやらなければならないんだと、私も今日までは思ってた。けど、今月は違う。多分、最初で最後の異例な学年集会になる……。

 

「………ダルいよなぁ〜そんな大した話しないのに……。」

「マジで何話すって言うんだよ……。」

 

ほとんどの者が気の抜けた感じだった。

案の定、話の中身がスッカスカなことばかりを議題にして、学年主任からの一言やら何やら……。正直、私もほとんど聞いていなかった。けど………今から行う私の行動で、空気は一変する。

 

「………以上で、学年集会を終了したいのですが、他に何かある人はいますか?」

「はい。」

 

私は手を挙げ、同学年の前に立った。

何だ何だとざわついているのが目に見えた。

 

「……生徒会から連絡があります。」

「生徒会?何で急に……。」

「何かあったっけ?」

「…………現在、この学年内で……いじめが起きていることはご存知でしょうか?」

 

大友のその一言に、皆はざわつき始めた。

 

「えっ……急に何……?」

「お、おい大友……急に何言い出すんだ……?」

 

生徒だけでなく、その場にいた教員達も戸惑っていた。

 

「………先日、ある一人の生徒が、生徒会に相談に来ました。その者は、殴る蹴るといった暴力だけでなく、金銭まで奪われていました。更に言うならば……人様の財布を奪うようにと指示までされたと証言していました。」

「嘘でしょ……?」

「でも、ここ最近盗難が流行ってるって聞いたけど……。」

「あれって、石上がやったんじゃないの……?」

 

ざわつく生徒達に、静かにするよう教員達が促した。

 

「……確かにここ最近、近辺の街で、財布を奪われた、財布を寄越すよう強要されたという事例があります。皆さんも知っての通り、石上優がその疑いをかけられています。

 ………ですが、彼は無実です。」

 

静かになったのも束の間、先程以上にざわつき始めた。

 

「は、はぁ……!?」

「あいつ以外誰がいるって言うんだよ……!?」

「第一、何を根拠に……!」

「………こちらをご覧下さい。」

 

大友は、ホールに設置されていたモニターを起動させた。そこには、小島から手渡さた、1年B組の出席簿と表が映し出されていた。

 

「この表は、恐喝やスリが起きた日時をまとめたものです。この表と、石上優の出席状態を照らし合わせてください。」

 

言われるがままに、教員達もモニターを見始めた。

 

「……………えっ?」 

「…………な、何だっていうんだよそれが……。」

「………スリや恐喝が起きたほとんどの時間帯、石上優は学校にいるということです。」

「!」

「なっ……!」

「でも、よく見てみると、そうだよね……。」

「だとしても、それだけじゃ……。」

「でも、あの日とか、石上が歩いてるの見たよ……。」

「私も……。確か、屋上で寝てたような……。」

 

小島くんは本当に凄いな……。すぐこんな事が分かってしまうのだから……。

腕を組んで、じっと自分の方を見ている小島と目が合った。彼の鋭い眼差しが、こう物語っていた。

必ず、石上と神部を助け出せ。

小島に向かって首を縦に振り、大友はモニターの映像を切り替えた。今度は、とある一本の動画がそこに映し出されていた。

 

「そして……こちらの動画をご覧下さい。」

 

大友は再生ボタンを押した。

 

 

 

『お、結構すんなり渡してくれんだな!でも、これはこれで助かるけどよ!』

『お嬢様学校に通ってるだけはあるな!すげぇ金だぜ!』

『あんがとよお嬢ちゃん!』

 

 

 

「こ、これって………。」

「……私達生徒会は、全ての元凶である犯人3人を調査し続けました。これは、昨日の恐喝現場を捉えた映像です。

 映像だと、犯人は覆面を被っているため、誰なのか分からない状態ですが……、続きをご覧下さい。」

 

 

 

『……てかよー、神部の奴、マジでちゃんと隠し通せてるんだよな?』

『大丈夫だろ?石上じゃないってバレたとしても、誰も俺らだってバレやしねぇだろ。』

『だな!まぁ、あいつはチクるなんてこと出来ねぇし、もしバレたとしても、親父が都合よく揉み消してくれっしよ!』

『マジでお前の親父さんには感謝してるわ!ははは!』

 

 

 

「おい、この顔って……。」

 

映像の続きには、覆面を外した3人の顔が、しっかりと映し出されていた。

 

「…………3人共、どう説明するつもり?」

 

大友のその一言により、同学年全員の目線が、この3人に一気に集中した。

 

「はぁ!?おいおい!ふざけた事するなよな大友!」

「こんなの、卑怯じゃねぇか!コソコソと尾行しやが」

「どの口が言ってんのよ!!」

 

大友が叫んだのと同時に、辺りが静かになった。

 

「神部くんを脅してスリをやらせた奴が、私のことを卑怯だって言えるわけ?やりたくもないのに、家族のために手を汚してしまった神部くんの気持ちがアンタらに分かるわけ?その勇気と、辛さがアンタらに分かるのって聞いてるのよ!」

 

ここまで声を荒げたのは久々だ。

けど、ここまで汚いことをしといて、私のことを「卑怯だ」と言い放つアイツらが、腹立たしくて仕方がなかった。

 

「……神部くん、勇気を出して言ってくれたわよ。全部アンタらの指示でやったって。」

「(はぁっ!?アイツが!?ありえねぇ!自分の立場分かってんのか!?………ていうか、神部のやつはどこにいるんだよ……!?)」

 

辺りを見渡すが、当の本人である神部の姿が見当たらない。

 

「……あ、そうだ。」

 

大友は何かを思い出したような感じで、先程の映像を恐喝現場の場面に巻き戻した。

 

「アンタらが恐喝してるこの子………見覚えない?」

 

何を……言ってるんだ……?

確か、近くのそこそこ金持ちが多い女子校の奴……。絶好のカモだから、最近狙ってたけど……。は?見覚えない?どういうことだ……?

 

「………見覚えないみたいですよ。」

 

大友はホールの出入り口の方に向かってそう言うと、それと同時に扉が開き、一人の女子が入ってきた。

その人物は、映像に出ていた、彼ら3人が恐喝していた女生徒だった。

 

「!!」

「な、何で……!」

「おい大友!!こいつと何の関係があんだよ!!」

 

明らかに動揺しているな……。けど、もっと動揺しなさい……。アンタら……もう既に終わりなんだから……。

 

「何の関係があるって………私の尊敬してやまない、先輩……だけど?」

 

すると、その女生徒は長く伸び切った前髪を掴み、勢いよく頭から外した。

 

「えっ……カツラ……?」

 

灰色の髪のカツラを外したその中には、綺麗な黒髪が隠されていた。そして………眼鏡を外して……。

 

「………!!!」

 

彼らだけではなかった。大友と小島以外のその場にいた人物全員が、彼女の正体に驚きを隠せなかった。

 

「はぁ……。声色まで下手に高くしたものですから、声がおかしくなりそうでしたよ……。」

「まさかあなたが、自分からこんな役を……。四宮さん。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

二日前……。

 

「ええっ!?かぐやさん、流石にそれは危険ですって!!」

「そうですよ!自分から恐喝されるなんて……!」

「何かあったらどうするつもりなんだ四宮!?」

「むしろ、何かあったらいいんですよ。四宮の人間にこんな真似をしたとなると……まぁ、ただで済むとはね……。」

 

四宮さんが突然私達に伝えた作戦。それは、自らが恐喝に遭い、彼らを「四宮家の御令嬢を恐喝した犯人」にさせる、下手をすれば四宮さんが取り返しのつかない事態になるかもしれない作戦だった。

 

「彼らが犯人である証拠は、あなた方がビデオカメラで撮影してください。神部浩季と石上優を救い出し、犯人3人を徹底的に追い詰められる。一石二鳥じゃないですか。」

「しかしだな……!」

「あら会長?私のこと、心配してくれているんですか?」ニコッ

「!!(しまった……!!)」

 

白銀は思わず表に出てしまった。

 

『そんなに必死になってまで、私のことを思ってくれるなんて……なんとまぁ、お可愛いこと。』

 

「(あぁぁぁぁぁ!!マズいぞぉぉ!!)」

「何で会長がマズそうな感じになってるんですか……?」

 

そして、生徒会と関わりを持つようになって半年以上が経つも、大友は白銀とかぐやが両思いであることに、まるで気付いていなかった。

 

「……まぁ、確かにこの作戦は危険だが、成功すれば間違いなく奴らを追い込める。万が一ヤバそうだったら、俺達が止めるからな。」

「大丈夫ですよ。私もそこまでヤワじゃありません。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「他校からの制服まで借りてきた甲斐がありましたね。見事に作戦成功でしたよ。」

 

リボンを結びながらかぐやはそう言った。

 

「嘘だろ……!!」

「お、おいどうすんだよ……!!」

「大丈夫だよ……こいつの親父さんが都合良く……!!」

「あ………ああ……!!」

 

無理だ……いくら親父でも……四宮家には……!!

 

「フフッ……。いい表情ですよ、あなた方……。」

 

かぐやが近づいて来た。

 

「!!」

「……さ、私を本気で怒らせたくないのであれば……洗いざらい全部吐いてもらいましょうか……。」

 

かぐやの光の無い目を見て、3人は察した。

この人に嘘をついてはいけない。もう、無理だ。

 

「………あ……あ……!」

「………す、すいま………せんでした……。」

「全部………俺達の指示です……。」

 

震えながらそう言うと、力でも抜けたのか、その場にヘタリと腰を落としてしまった。

 

「えっ、じゃあ、あれ石上じゃなかったっていうの……?」

「……全部、こいつらがやったってこと……?」

「でも、何で石上が……?」

「……さぁ、あなた達の口から言いなさい。何故、石上優を陥れようとしたのですか?」

 

かぐやの凍てつくような視線に、彼らには逆らう術が無かった。

 

「………あいつがあの時……荻野のことを告発したから………。」

「あれ以来、ずっと女と遊べなくなって……その腹いせに……。」

「………最初から最後まで……俺達が計画しました………。」

 

弱々しい声で、彼らは全てを自白した。

 

「………私達生徒会のお役目は、これで終わりでしょうかね。あとは頼みましたよ、小島くん。」

「………はい。」

 

席から立ち上がり、小島は座り込んでいる3人の元に向かった。

 

「さぁ、俺と少し話でもしようか。とっとと立て。」

「………………。」

 

ただ弱々しくその場に座り込んでばかりの3人。

すると、小島は思い切り一人の髪を掴んで、床に顔を押し付けた。

 

「がぁっ……!!」

「とっとと立てと言ったのが聞こえなかったのか?それとも……どうしても立てない理由でもあるのか?あるのならば………。」

 

小島は顔を近づけて、目を見開いた。

 

「俺の目を見て、はっきりと理由を言え。」

 

重厚感のある小島の声が、恐怖心を掻き立てた。

 

「ごめんなさい!ごめんなさい!立ちます!立ちますからぁ……!!」

「……ほら。とっとと行くぞ。」

 

力尽くで3人を連行して、小島はホールから出て行った。

 

「………………。」

 

ホールはほぼ静まり返っていた。

どうするんだこれ、と教員達は面倒な感じでヒソヒソと話していて、同学年達は、ただただ状況がまだ整理出来ていなかった。

 

「………皆さん。これが、今回の騒動の真相です。

 我々生徒会が動いていなければ、恐らく彼らは野放しになっていて、神部くんはずっと彼らの言いなりでした。

 ここで、皆さんにお願いがあります。」 

 

大友はその場で頭を下げた。

 

「どうか……神部くんを責めないで下さい。

 ……確かに彼のやった事は、そう簡単に許されるものではありません。彼にも、それ相応の処罰が下させると思います。最悪の場合、退学処分もあり得ます。

 ですが……彼は身を犠牲にしてまで、家族を守ろうとしたんです。誰よりも家族を大事に思ってる人間なんです……。どうか………その事だけは忘れないでください……。」

 

一部の人間からすれば、まあ神部くんもクズだって思うかもしれない……。仕方の無いことだ。無実の人間をまた陥れようとしたのだから……。簡単に許されることではない……。

けど神部くん。だからと言って……後ろばかり向いてちゃ駄目なんだよ……。しっかり自分の罪を受け入れて、ちゃんと償わなきゃ……。あの時、私が彼から教わったように……。

 

「………それと………。」

「そ、それと………?」

「………石上優のことを、しっかり見て下さい。」

「なっ……。」

「そ、それってどういう……。」

 

大友さん……。これをいい機会とばかりに……。けど、今しかないでしょうね……。

 

「……思い出してください。私達はあの時……石上優に何をしましたか?どんな言葉を投げかけましたか?」  

 

自分で言っといてだが、嫌な思い出が蘇ってくる。

 

「……彼をあんな風にしてしまったのは……紛れもない私達です。」

「!!」

「そ、それは………。」

「でも、結局荻野が嘘ついたか」

「そうやって自分の非から目を背けないで下さい!!」

 

大友は声を荒げた。

 

「確かに全ては荻野がついた嘘が原因です。ですが、口だけの何の根拠もない事柄を勝手に真実だと決め付けたのは、誰ですか?その事柄を、あたかも真実かの様に言いふらしたのは、誰ですか?」

「………………。」

 

気まずそうな感じが出ているのがよく分かる……。

 

「………私達でしょ……?」

 

けど、受け入れなきゃ……。

 

「……本当の事に気付こうという姿勢すら示さず、下駄箱や机にゴミを入れて、悪口が書かれた紙を送りつけて……。例え荻野の言ったことが本当だろうが、こんなことは許されていいわけがない……。

 私達はそうやって、自分のことを棚に上げ続けてきたんですよ……。だから今のような彼が出来てしまったんです………。私達が今の彼を誕生させたんですよ……!

 なのに、何故あなた達は自分の非から目を背けるんですか……?自分は何も悪くないと、本気で思ってるんですか……!?だとするならば……アンタらなんか荻野以上のクズよ………。」

「………………。」

「………今の石上優は、完全に心を閉ざし、自分の将来にすら希望を見出していません。その度に問題行動を起こして、ついには強制退学まで強いられています。

 けど、今回の事件で分かったんじゃないんですか……?彼はあんなだけど、こんな犯罪じみたことをする人間ではないことが……。

 ………難しい話なのは承知の上です。ですが………もう彼をそんな目で見るのはやめませんか……?もっと、彼のことを信じてみませんか………?」

 

もしこれを彼が聞いていたのだとするなら、彼はどんな心境で聞いているんだろうか……。

 

「もっと………彼をしっかり見てあげませんか………?」

 

大友の話を気まずそうに聞く一年生と教員達。ホールの隅で聞いている生徒会役員。

そして………ホールの外で聞いていた、ある一人の男子生徒……。

大友の話は、予定の終了時間から、30分過ぎた後に終わり、最初で最後の異例な学年集会が終わった。




投稿予定日

2/19(金) 49話

2/21(日) 50話&最終話
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