石上優はもう戻れない 作:顎髭
くだらない。何もかもが、くだらない。
高等部校舎のとある倉庫の陰で、石上はゲームをしていた。最近となっては、唯一の趣味であるゲームですら、面白くなくなって来てしまったが、まあ時間潰しにはなるだろうと、何も感じずにゲームを黙々とプレイしていた。
「(…………いっその事こと、もう学校やめよっかな……。本当に、何もやりがいを感じない………。)」
あれから、石上は高等部へと進学した。そして、当の大友京子は……。
「(…………結局、高等部に進学出来たのかよ………。)」
石上自身も、大友がとんでもなく低い成績の持ち主だということは、あの件より前から知っていた。
てっきり学力不足で落ちるかと思ってた。でもそれ以前に、自分の事がいたたまれなくて、別の高校に行くのかと思ったが………。
「(…………ほんっと、どこまで図太い精神してんだよ………。)」
どういう訳か、段々と苛立ちが湧き上がってきた。
何をしても面白くない。何もかもつまらない。どいつもこいつも心の底からウゼェ。
「…………チッ。」
こんなにイライラしたのはいつ振りだろうか。ましてや、苛立ちに任せて物に当たるなど、生まれて初めてかもしれない。
僕は一体………何の為に息を吸ってるんだ……?
「……コラコラ。物に当たるのは、ちょっとどうかと思うぞ?」
突然誰かが自分に話しかけてきた。声のした方向へ顔を向けると、一人の男子生徒が立っていた。
だが、一般の生徒と違うのは、制服の胸元に金色の飾諸が付いていたことだ。
生徒会長だ。
面倒な奴に見つかったと思い、石上はその場を立ち去ろうとした。
「まあまあ、待つんだ石上優。君の事は、俺たち生徒会もよく知ってるよ。」
石上は動きを止めた。
「………さぞかし、辛かっただろうな。」
「……他人事みたいに言うなよな……。というか、俺に何の用なんすか……?生徒会長は、俺みたいな奴を構う程、結構暇なんすか?」
「結構ズバズバと物を言うな…。」
「………ただ同情の気持ちを言いにきただけなら……。」
「まあまあ、最後まで話は聞くんだ。今日は君に、少し提案があって来たんだよ。」
「……提案?」
「そうだ。……単刀直入に聞くが、生徒会会計として、生徒会に入らないか?」
こいつは一体何を考えているんだ?
彼の言葉を聞いた時、自分の耳を疑った。
「確かに、君が中等部時代に起こした事件は知ってるよ。あんな目に遭ったのなら、誰だって心を閉ざしたくもなるさ。でも、俺はそれと同時に、君の行動力及び分析力に驚いたよ。
荻野コウの悪行を裏付ける証拠を瞬く間に収集し、それを止める為に本人に直談判した。並大抵の人間の覚悟で出来ることじゃない。
まあ、結果こそああなってしまったものの、どっちにしろ、荻野コウを追い詰める事に成功した。君は本当に凄い人間だよ。
俺は君のその素晴らしい能力を考慮した上で、この提案をしたんだ。どうだ?今すぐにとは言わない。見学だけでもしていかないか?」
「……別に、もう濡れ衣を着せられたままの状況に嫌気が差したから、あの時の様に真実を告発した。自分の為ですよ。変な正義感を掲げたあの時の自分が馬鹿みたいですよ。
はっきり言って……、俺は大友や同学年の奴らが、心の底から憎い。そんな人間を生徒会に招待するなんて、あんたもしかして相当な馬鹿なのか?お断りですよ。」
そう言い放ち、石上はその場を立ち去った。
彼の後ろ姿を見て、白銀は大きくため息をついた。
その後、白銀は生徒会室へ戻り、まだ残っていた職務に手を付けた。だがそれでも、やはり彼の事が気になる。
「あら会長。随分と思い詰めた様な顔をしてますね。」
「いつもの威厳ある会長じゃなくなってますよー!」
かぐやと生徒会書記・藤原千花が話しかけてきた。自分が石上のところに行っている間に、もう職務を終わらせたのだろう。
「いや……ちょっと、気がかりな事があってさ………。」
「………やはり、1年B組の石上優の事ですか?」
「……まあな……。ついさっき、会ってきたばかりだ…。」
「どんな人間でしたか?」
「………完全に心を閉ざしていて、現段階じゃ、救いようがない人間だったよ………。心の壁が厚過ぎるし、高過ぎる……。」
「私も今日、その石上君って子を見かけたんですけど……何というか……。人を拒む様な目が凄過ぎて、結構怖かったです…。」
「…まあ、無理もありませんよ。あんな目に遭ったんです。誰だって、心を閉ざしたくもなります。私だって、そうなるかもしれません。
……というか、何故会長は、そこまで彼の事が気になっているのですか?」
「うーん……。何というか、このまま放っておけない感じがしてな……。」
「随分漠然とした理由ですね……。」
「彼の姿を見てると、ほんの僅かなんだが、心から分かってくれる人間を欲している感じも伝わってくるんだ……。
それに、彼はあんなままの状態でいていい人間じゃない。誰よりも真っ当な人間だったのは確かだ。あの事件の前の石上優という人間は、きっとそうだったに違いない。
そうだ、四宮も一度、会ってみたらどうだ?」
「私がですか?」
「そうだ。是非四宮からも、彼がどういう人間に見えたか、率直な感想が聞きたい。」
「…………そうですか……。
ただ、私は石上優よりも、彼女の方に興味があります。」
そう言うと、かぐやは一年生の名簿を取り出し、ある一人の女生徒の名前を指差した。
「『1年E組6番 大友京子』……。確か彼女は……。」
「そうです。石上優の事件に最も関与している人物です。」
「……大丈夫か……?彼女の心の傷は、まだ癒えていないと思うが……。あまり手厳しい事は言うなよな…?」
「安心して下さい会長。」
そう言い、かぐやはうっすらと笑った。
「その笑みが安心出来ないから俺は言ってるんだ。」
「そうですよかぐやさん!それでまた、大友さんの傷をえぐってしまったら……!」
「………なら、藤原さんも同行してくれますか?」
「ふぇ?」
「私一人なら、確かに大友京子の傷を更にえぐるでしょうね。でも、藤原さんの様な優しい人も一緒なら、プラマイゼロでは?」
「……確かにそうかもしれんな……。藤原、構わないか?」
「任せて下さい!かぐやさんが言い過ぎた時は、私の至高の優しさで、大友さんの傷を癒してあげます!」
「『至高の優しさ』………ね……。」
「『至高の優しさ』………か……。」
「こらこらーどうして私を蔑んだ目で見てるんですかー?」