石上優はもう戻れない 作:顎髭
その後、その男子生徒三人は逮捕され、一週間程警察にお世話になっていた石上優は、家へと帰された。
と、その前に………。
「すまなかったな石上。これでお前は自由だ。」
「………………。」
普通なら礼を言うところだが、まぁ、今のこいつにそんな心は無いか……。
「………そうだ。神部はどうなったんだよ?」
「ああ……あいつは今、事情聴取を受けている。いくら奴らの指示だからとはいえ、自身がスリをやったことは変わりないからな。逮捕は免れんだろう。
……というより、奴自身が出頭してきたんだがな……。『自分は取り返しのつかないことをした。しっかりと罪を償いたい』とな……。」
「…………そうかよ………。」
大きくため息をつくと、石上は席から立ち上がり帰ろうとした。
「…………最後に、一つ言っておく。」
「……?」
「………今回の件、俺や生徒会の方々だけでは、お前や神部を助け出すことは出来なかったぞ。」
「………どういうことだよ………?」
「………奴ら3人の情報を提供してくれた方々も、お前を助け出すために協力してくれたということだ。」
情報を提供………?
「元々、奴らには何個か悪い噂があってな。同学年だけでなく、先輩方の間でも広まっていた。これが結構役に立ったものでな……。彼らにはかなり感謝している。
たかだか噂だと思うかもしれんが、警察は何事もまず、 "疑う" ことが仕事だからな。些細な情報が、事件の鍵を握っている。その可能性がある限り、俺は徹底的に調べ尽くす。」
「………………。」
「………勘違いするなよ。別に礼を言えと言ってる訳ではない。ただ………。」
「ただ?」
「………その情報を提供してくれた方の中には、お前のことをしっかり信じてる奴らもいた。伊井野や大仏らはもちろん、子安つばめでさえも、お前が犯罪を犯すような人間ではないことをな……。」
その発言を耳にした瞬間、石上は小島の方へと向きを変えた。
「は……!?」
驚きだった。大仏はまだしも、伊井野や子安つばめ……?
「……随分と驚いた顔をしてるな。」
「……いやいや。お前、何言ってんだよ……?」
伊井野……僕がお前に何したのか忘れたのか……?なのに、信じてるだと……?
「……何言ってんだよって……。俺は本当のことを言っただけだが……?」
「………ありえない……!」
子安つばめ……散々僕に絡んできたアンタなら、僕がどんな人間かなんて分かるだろ……?
なのに、信じてただと……?
「………疑うのも無理はないが……事実だ。」
「………………。」
そんな訳が無いと思い続けているものの、小島の目を見て分かった。そこに、一切の嘘偽りは無かった。本当のことを言っている眼差しだ。
僕はただ………呆然としたままだった。
「………………。」
「………まぁ、どう受け止めるかはお前の自由だ。けど、俺は嘘は言ってないぞ。」
「…………そうかよ……。」
困惑した表情のまま、石上は小島に背を向けて、家へと戻った。
「………………。」
黙ったまま、小島は石上の背を見続けていた。
……大友……お前の目的は………。
すると、自身の携帯電話が鳴り出した。誰だと思い、出てみると……。
『よぉ。』
「………何だ?」
『お前と生徒会の調査通りだったよ。あの3人、荻野と一緒にふざけた斡旋業に手ぇ染めてやがった。』
「………それで?」
『関係してる奴ら、ほとんどぶっ潰した。』
「……………そうかよ。」
「何だよ?何がそんなに不服なんだよ?そんなに私の手を借りんのが嫌だったか?ww」
「茶化すなよ。ただ警察の人間よりも、お前らみたいな裏社会の人間の方が、そいつらに近付きやすいと思って、俺はお前にお願いしたんだ。本当なら死んでも御免なんだぞ。
まあ早い話、お前らをいい道具として使ったというところだ。」
『相変わらず可愛くねぇ後輩だな。素直になれよ。ただ自分達がビビってただけだってwww』
「あ"?ナメてんのか?」
『おぉ〜怖ぇ怖ぇww』
一ヶ月振りの自宅だ。一体どんな反応するんだか……。
ため息一つをついて、石上は玄関の扉を開けた。
「………優……。」
母が気付いて、僕の元に向かってきた。
何でそこまで心配そうな素振りが出来るわけ……?本当はとっとと逮捕されてほしかったくせして……。
「…………はぁ。」
母を突っぱねて、僕は一直線に親父の元に向かった。
「………………。」
「……………何だ?」
相変わらずの仏頂面だな………。
「………あん時、もう俺にどうこう言わないって言ったよな……?」
「……それがどうしたんだ………?」
「………なら、今から言うことに対しても文句言うなよ……?」
何だ……急に……?
そして次男は、二つの要求を私に告げた。
一つ目は、まぁいずれそうはなるだろうと思っていたから、そこまで動揺はしなかった。
そして、二つ目は………。
「………………。」
「………優、本気で言ってるの………?」
側で聞いていた妻は、二つ目の要求に困惑していた。
次男は静かに頷いた。
「………どうした?何も文句は言わないんだろ?なら、早いうちにやってくんない?」
「………………。」
帰る最中、僕は色々と考えた。
あんな事しといて、僕を信じてただと……?一体何の冗談だよ?……まぁ、困惑していたよ。
けど、あれこれと考えるうちに、一つの結論に辿り着いた。
……そうか。結局僕は……僕は……。
「………早く『分かった』って言えよ。」
「………正直、私はすごく嫌よ……。だって……。」
「やめるんだ母さん。」
妻の言いたいことは非常に分かる。けど、私達がそれに介入する権利は無い。次男自身が望んでいることだ。
何より、あの悪意のこもった眼差しが、私に有無を言わせなかった。
「…………もう一度聞くぞ。本当に、それでいいんだな?」
「…………ああ。」
次男はもう………自分の将来に期待していないのだろうか……。
もしあんな事が起きなかったら、今頃息子はどんな感じになっていたのだろうか……。もう一年前の話だが、未だにふと頭に浮かんできて、後悔の念に押されてしまう。
「…………分かった。」
それが彼の望むことならば……。それで、彼が自由になるのならば……。
最後の息子のわがままくらい、聞いてあげるか………。
数日後………。
「……はぁ〜終わった〜……。」
あの事件から数日経った。犯人3人と神部くんは退学処分となり、石上優も復学が認められた。
「お疲れ様です。よかったら、一杯どうぞ。」
「ありがとうございます。」
あの事件の捜査を優先してたものだったから、会計の仕事を溜めすぎてしまった。お陰で家でもずっと会計作業なものだから、疲れがまぁ凄くて……。何気なく出された紅茶が、体の隅々まで行き渡る感じがして、この疲れをほぐしてくれる……。
「……それにしても大友さん。あの学年集会から、彼らに何か変化はありましたか?」
「ああ………。」
私はあの日、今がチャンスと言わんばかりのタイミングで、石上優について皆に訴えかけた。
けど、変化はそこまででもなかった。予想はしてたことだ。人間はよほどのことが無い限り変わらない。心から反省し改心するのはごく一部だ。
けど、ごく一部だけいる。今まで私のことも悪く言っていた人達も考えを改めて、もう噂話はごめんだと言うようになっている。少しだが、変化はあった。後は、この影響を更に大きくさせるだけだ。そしたら、彼は……彼は……。少しだが光が見えてきた気がする……。
「失礼しマス。」
だけど……。
「あれ?校長先生、どうしたんですか?」
「………大友さん。ちょうどいいところにいまシタ。あなたに、伝えておいた方がいい事があって来たのですガ………。」
「(何だ?そんな気まずそうな感じ出して……。)」
現実は……。
「……石上優が、退学を申請してきまシタ。」
現実は、思い通りにはいかない……。