石上優はもう戻れない   作:顎髭

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それでも大友京子は忘れられない

5年後………。

 

「ちょっと京子ー!?遅いよー!」

「ごめーん!」

 

2年前、私は秀知院を卒業し、大阪の国立大学に進学した。

中等部時代が嘘かの様に勉強がスムーズに行き、1年の3学期には、上位50位以内までの成績となった。

内部進学は一切考えなかった。言い方は悪いが、秀知院は箱庭だ。その為、外の学校がどんな感じなのかが分からない。もっと、広い世界を見てみたかったのだ。

 

「相変わらずルーズやなぁ、ほんと……。」

「ごめんごめん……。」

 

外部進学したはいいものの、外の世界に出ると、まぁボロクソに貶されるわ、後ろ指を差されるわで……。

秀知院だから。たったそれだけの理由で、根も葉もない噂を広められてさ……。一年の当初は、友達が全然出来なかった……。でもまぁ、秀知院の評判が最悪だから、しょうがないんだけどさ……。

1年1学期の騒動のお陰で、秀知院学園の株は大暴落。さらに2学期に起きた事件が拍車をかけたものだから、世間からのバッシングの嵐はかなり凄かった。

けど、今はそこまででもなく、徐々に世間からの信頼は取り戻しつつある。まだ完全とは言えないけど……いつか……。

 

「てか、あの教授本当にウザくない?講義はいい加減なくせして、課題は多いし……。」

「まぁ、課題も何だかんだいって、全部出してるじゃん。あと少しの辛抱だよ。」

「京子はほんとに、ポジティブやなぁ〜。マジ尊敬やわ。」

 

大学2年になった私だが、1年時は一人も友達がいなかった。それも全部、秀知院だからという理由で……。まぁ、結構辛かったな……。

けど、そんなことでめげてはいけない。彼の受けた傷に比べれば、安いものだ。

 

「………てさかぁ、聞いた?あの子のあの噂?」

「あ〜聞いたで聞いたで!」

「マジなのかなぁ?風俗でバイトしてるって……。」

「今もおじさん達とさぁ……。」

「うわぁ〜、それはちょっとなぁ……。想像つか」

「やめようよ。」

 

そして、あの過去があったからこそ、私は人として成長出来た。

 

「……えっ?」

「ちょっ、どないしたん京子?」

「………あんまさ、噂とかそーゆーのはな……。」

「………でも……。」

「……それで、もしその噂が嘘だったらどうするの?」

 

もう、根も葉も無い噂で振り回されたくない……。そのせいで、誰かを傷つけるなんて、絶対にやってはいけない……。

 

「……それは………。」

「……分かったら、もうその話はおしまい!さ、早く課題片付けよ!」

「……あー、うん………。」

 

例えそれで反感を買われてもいい。けど、それで傷つく必要のない人間が傷つかずに済むのであれば………。

もう、彼みたいな人間を生み出してはいけない。

 

「………ごめん!ここ教えて!!」

「いや自分で課題やろって言ったんやで!?早過ぎへん!?」

「ほんっと、京子はバカなんだからぁ〜。」

 

ただ、何も変わらず私はバカなままです……。

結局成績良かったのも一年の時だけで、2年からは右肩下がり……。またバカのレッテルを貼られるわ、四宮さんのスパルタ学習は始まるわで……。心が折れかけました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「じゃね〜!」

「課題終わらせとくんやでー!」

 

友達と別れを告げると、大友は早歩きでどこかへ向かった。

その後ろ姿を友人2人が見ていて………。

 

「あんな早歩きでどこに行くねん……。」

「………彼氏の家?」

「えっ!?まさかの抜け駆けしてた!?」

「なぁ〜んてね!だって京子、男運皆無じゃん!」

「そやった……ww」

「……てかさぁ、京子って何であんなに噂話になるとムキになるんだろうね?」

「さぁ……?高校の時に、何かあったんちゃう……?だってほら、秀知院って何年か前に……。」

「ああ〜……。京子、あれと関係してんのかなぁ?」

「ん〜………。ま、ええんちゃう?」

「そうだね〜。そうだとしても、京子良い子じゃん!」

「ちょっと私も、今日のは反省せんとな……。」

 

こんな感じで、少しはいい方向に向かっていることを、大友自身は気づいていない。

 

「……1時間だけだけど……!」

 

何故こうも私が急ぎ足でどこかに向かっているのか。それは……。

 

「……まだ大丈夫そうだ……。」

 

行きつけのカフェで一人まったりして、勉強をする。

それが私のルーティーンだからだ。

ここのカフェは隠れ家みたいにひっそりとしていて、非常に勉強するのに適した環境だ。おまけにコーヒーは美味しいしで……。ここだけは私の秘密だな……。最高にゆったり出来る……。

 

「いつもの一つ、お願いします。」

「……来ると思って、もう用意しといたよ。」

「ありがとうございます……!」

 

いつも頼むコーヒーを一口飲み、一息つくと、後回しにしていた課題を進め始めた。

 

「………………。」

「何?そんなに難しい課題なの?」

「難しいというより、量が多くて……!」

「まぁ〜おじさんも大学生の時はそうだったさ。そのうち慣れるよ!」

「他人事みたいに言わないで下さいよぉ〜!」

 

こんな感じで、マスターとも気さくに話す仲なのだが……。 

 

「…………君くらいだよ。ほとんど毎日来てくれるのは……。」

「……ここ、結構いいところじゃないですか……。」

 

何故マスターがこんなにやるせない感じでそう言ったのか……。

実は、マスターには少し悪い噂がある。

そのせいで、あまり人が来ないのが現状なのだ。

けどまぁ、はっきり言わせてもらいます。私からすれば、心からどうでもいいです。

 

「……何だったら、今度友達紹介してきますよ。」

「いやいや!京子ちゃん流石にそりゃ悪いよぉ〜……。」

「今まではずっと私だけの秘密にしてましたけど、何か、もっと皆にこのカフェの良さを知ってもらいたくて……!」

 

何度も何度も通ううちに分かりましたよ。マスターのあの噂はデマだって。心から良い人だって思えますよ。

 

「………そっか。そりゃ、おじさん嬉しいな……。」

 

下手な笑顔を浮かべて、マスターはぼそっと言った。

 

「……あ、噂をすれば……!」

 

一人の来客だ。

 

「いらっしゃい。どうぞ、空いてるお席に。」

 

髪の長い男の人だった。よく顔は見えなかったけど、ちょっと怖いイメージあるな……。

 

「ご注文は?」

「………………。」

 

男性はアイスコーヒーを指差した。

 

「かしこまりました。」

 

マスターは奥の方へ行き、切らしていたコーヒー豆を取りに行った。

 

「………………。」

「………………。」

 

何だろう……この空気………。

マスターが奥に行っちゃったものだから、今この空間には、私とその男性しかいない。

……けどこの空気………どこかで経験したような空気だな……。

不思議と、どこか懐かしげな感じだった。

 

「………………。」

 

何か不思議な空気だったため、私はお手洗いに行き、一旦その場を後にした。

 

「…………何だ……?」

 

そんな事を考えながら用を済まし、また席の方へと戻ろうとした。けど、あまりに考えすぎていたため、周りがよく見えていなかった。私が使っていた机に腰がぶつかり、運悪く筆箱の中身が勢いよく飛び散ってしまった。

 

「やっちゃった……。めんどい。」

 

コーヒーだけ零れなかったのが不幸中の幸いだ。

渋々拾ったはいいものの、消しゴムが見当たらない。

どこだどこだと探していると…………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「すいません。消しゴム、落としましたよ。」

 

その男性が声をかけてきた。

その男性の声を聞いた瞬間、私は動きを止めた。

 

「………え?」

 

とても聞き覚えのある声だった。そして、先ほど見た長い髪。そして……彼といる時に感じた、懐かしい空気……。  

 

「……………石が」

 

振り返ると………そこには………。




「石上優はもう戻れない」完





最後までご愛読ありがとうございました。
まさか、ふとした思いの勢いで書いた小説が、これほどまでの読者に読んでいただけるとは、思ってもいませんでした。最後まで読んでくださった方、評価をしてくれた方、本当に有難うございました。
そんな訳で、「石上優はもう戻れない」は完結しました。そして、全く別世界の新作「石上優は再び闘う」を早速ながら、2/24(水)に投稿する予定です。是非新作の方も読んでいただけたらと思っています。
改めて、最後まで「石上優はもう戻れない」をご愛読いただき、有難うございました。
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