石上優はもう戻れない   作:顎髭

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石上優と龍珠桃

なぜ僕は、つまりもしないゲームを今もやってるのだろう。

今となっては、ただ指を動かすだけの、意味のない作業と化している。ゲームの画面を見ても何も感じない。クエストにクリア出来ても何も喜べない。ゲームオーバーになっても何も悔しがれない。

この時間は…………一体何なんだ……?

ため息をつき、空を仰いでいた。三限後の昼休み、今日は何だか屋上に来たい気分だった。

真っ青な空だ。何も考えたくなくなる。

このまま昼寝でもして、四時間目はサボろうかな、と思ったら、屋上のドアが開いた。誰かが来た。まさか風紀委員会か……?

 

「…………お。」

「…………………。」

 

屋上に来た者は、女生徒だった。

この人は確か…………。

 

「……何マジマジと見てんだよ。何か顔についてんのか?それとも、ガンでも飛ばしてんのか?」

 

ガンを飛ばしてるのはそっちだろうに。

この人はかなりの有名人だ。多分、学年で知らないと言う人は、絶対にいない。

龍珠桃。かの広域暴力団・龍珠組組長の愛娘だ。

中等部時代から知っていたが、生で見るのは初めてだ。思ったより普通の女の子だ。チャームポイントであろう帽子、それに……あのクマさんのストラップは……。

 

「……いえ………。」

「…………………。」

 

何故か彼女は、僕を黙って見つめたままだった。

 

「………な、何ですか………?」

「あぁいや………。お前、結構珍しいんだなって思って……。」

「珍しい?」

「だって、お前だって私の事知ってんだろ?大体の奴らは私の事見たら、すぐに逃げ出すのにさ。」

「……別にあなたがヤクザの娘だろうがなかろうが、俺からすれば、すこぶるどうでもいい事なんですよ。」

 

すると、龍珠は声を出して笑った。

 

「ハハハ…!お前、とことん変わってる奴だな!私に対してそんな事言う奴、アイツ位だと思ってたのに……!」

「何もおかしい事言ってないと思いますが。」

「…その感じからすると、お前だろ?石上ってのは。」

「………俺の事知ってるんすか…?」

「知ってるさ。お前が中等部の頃に起こした事件は、高等部でも結構広まってんだぞ?」

「……………………。」

 

すると、龍珠は石上の隣に腰を掛けた。

 

「………何なんすか…?」

「………お前の気持ち、痛い位分かるよ。」

 

その龍珠の言葉を聞いた途端、瞬く間に苛立ちが湧き上がった。

 

「……どいつもこいつも一言目には同情かよ……!一体どういうつもりなんだよ!!そんなに俺を憐むのが好きか!?そんなに楽しいか!?誰にも理解されないで、ずっと一人だったんだぞ!!今日出会ったばっかのアンタなんかに、俺の気持ちなんか分かって」

「分かるよ。」

「!」

「……私だって………ずっと一人だったもん……。」

 

先程とは違い、龍珠は深刻な顔をしていた。

 

「ヤクザの娘、ただそれだけの理由で、ある事ない事言われて……。初等部の頃から友達なんて、一人もいやしなかった。私はただ……皆と友達になりたかったのに………なのに……。

 辛かった………本気で学校をやめたかった………。死にたいと思った時もあったさ………。でも………。」

 

『生徒会会計として、生徒会役員になってみないかい?』

『龍珠、久しぶりだな。』

『桃ちゃーん!おはよー!』 

 

過去の事が蘇って来た。

会長に生徒会に招待された時に掛けられた言葉。白銀に久しぶりに会った際に掛けられた言葉。とある朝、つばめ先輩に挨拶された時。

 

「………私の事を………一切そんな目で見ない人もいるんだって事に………気が付けた………。」

「……………………。」

「……………私もお前みたいになってた時期があったよ………。

 でもさ…………手遅れではないんだよ……。」

「はぁ?」

「自分の事を心から思ってる奴もいる。心から心配してくれる奴もいる。ほんのちょっとだよ…ほんのちょっと見方を変えれば、そういう人もいるんだって………。世の中敵だらけじゃないんだって……気付けるんだよ………。」

「何が言いたいんすか?」

「………お前だってそうだよ。お前の事を心配してる奴だっている。ゼロだって確証は無いだろ?……きっとお前にも、そういう人が」

 

龍珠が言い終わらない内に、何かが壁にぶつかる音がした。

龍珠が音がした方に目を向けると、壊れたゲーム機があった。部品が辺りに散らばっており、完全に役目を終えてしまった状態だった。

 

「……どいつもこいつも本当にうるせぇ…!!んなもんただの綺麗事だろ!!

 たまたまアンタの周りにそういう人がいた!!たまたまその人が優しかった!!ただそれだけの事だろ!!

 マジで同情の気持ち言いに来たんだったら、とっとと消えてくれませんか?何先輩風吹かしてんだ!?分かった様な口聞くのもいい加減にしてくれよ!!

 何でどいつもこいつも苛つかせる様な事ばかり……!!マジでウゼェ!!」

 

怒り狂った石上は、壊れたゲーム機を置き去りにして、屋上から立ち去った。

龍珠には怒らせてしまった、という負い目はなかった。思ってた以上に、彼の心の壁が厚くて高かった事に、こりゃ参ったな、という感情があった。

 

「………綺麗事かぁ………。まあ、そう捉えられてもおかしくはねぇか………。

 ていうか、さっきから何盗み聞きしてんだよ?」

 

ドアの陰から、ある男子生徒が出てきた。

 

「警察の息子ともあろうお方が、人様のやり取りをコソコソと…。」

「うるさい。」

 

出てきたのは、小島だった。

 

「……どうだった?石上と話してみて……。」

「………どうしたもんかだよ。アイツ、マジで心を閉ざしてるよ。」

「無理もない………。あの事件は一人の人間を潰すには、充分過ぎる位凄惨だった……。

 あの時………俺が…………もっとちゃんとした捜査を行っていれば………あいつは今みたいな風には………!!」

 

俺自身、石上が大友のストーカーというのには懐疑的だった。

もしかしたらアイツらは、とんでもない誤解をしているのではないか。何より、証拠のない事を鵜呑みに出来ない性格が表に出て、俺は独自で石上の件を調査した。

けれど…………証拠が揃わず、結果的に石上の噂は、事実として扱われる様になってしまった。

そんな矢先に、あの校内放送が………。

 

「……あの時初めて……自分の無力さを知ったよ………。たかだか一人の善人を救えず、何が警察だ。何が警視庁警視総監の息子だ。

 俺は………自分が恥ずかしくて仕方が無い………。」

「………………………。」

「……だからせめて………諸悪の根源であった荻野を………。

 ……まあそれでも………石上からすれば、俺も敵なんだがな………。」

 

小島は苦悩の表情を浮かべて、屋上から立ち去った。

家柄上、アイツとの仲はすこぶる悪い。けれど、私はアイツ自身の事は、嫌いではない。

いつも向こうからガンを飛ばして来てはいるが、どこか憎めない部分がある。

それに、先程の表情を見て、こいつは心から救えなかった事を悔やんでいる事を察し、こいつは少なくとも、良い人なんだと。

仲は悪いけど、嫌いではないんだと、改めて思った。

ただまぁ、そんな事よりもだ。

 

「……石上かぁ………。何か、放っとけないな………。」

 

何故か私は、石上の事が気掛かりになっていた。

自分も同じ経験をした事からだろうか。恐らくそうだろう。

 

「…………ちょっと、話してみようかな………。」

 

そう言うと、龍珠はLINEを開いた。

現段階でどうこうは分からない。でも、少なくとも、あの人なら……。私に対し、何の偏見も持たずに接してくれた、あの人なら……。

微かな希望を抱き、龍珠はメッセージをその人に送った。

 

『相談いいっすか?つばめ先輩』




次回から、週に2〜3回のペースで投稿する予定です。
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