~森の中~
(なんだあの怪物は? 幻魔……にしては気配が妙だけど)
武は怪物を見てこれまで対峙してきた者達とは違う事に気付く。
(よく分からんが……このままじゃあの子供達が)
怪物がその手を伸ばし1人の少年の胴体と腕を掴み引きちぎろうとしていた。
武は右の拳を握り締めると、彼の手の甲にある【鬼】の文字を崩した様な痣が光始め、光と共に腕に篭手と刀がその手に握られる。
それと同時に武の身体が変化した。
「怨むなら俺をこんな所にぶちこんだ鱗滝を怨むんだなぁ!」
巨大な体躯に何本もの太い腕がまとわりついた怪物は少年達にそう言う。
「逃げろ! 義勇! 此処は俺が引き付ける!」
「でっでも錆兎!」
「いいから早くいけ!」
錆兎と呼ばれた頬に大きな傷のある少年はもう1人の少年義勇を怪物……手鬼から逃がそうとしていた。
「うおぉぉぉぉ!」
錆兎は高く跳躍し迫りくる手鬼の腕をすり抜け刀でその首を斬ろうとしたが、手鬼の頚は硬く刀の方が折れてしまった。この時、錆兎は過ちをおかす。直ぐに回避行動をするべきであったが、刀が折れたことで動揺していた。その隙を突いて、手鬼の腕が伸び錆兎の腕と胴体を掴む。
「しまっ……ぐぅ」
「ひひひっ、お前らのつけてるその面。厄除の面とか言ったか。それは目印だ、鱗滝の弟子だってなぁ。10くらいは喰ったかなぁ。フフフフフフッ、鱗滝が殺したようなもんだ」
「おっお前!」
「安心しろよぉ、直ぐに会わせてやるよ。俺の腹の中でなぁ!」
手鬼がその手に力を籠める。このままいけば錆兎は引き千切られるだろう。
【オォォォォォ!】
だがそうはならなかった。横からきた何かにより錆兎を掴んでいた手鬼の腕を斬り飛ばす。
「なっなんだぁ!?」
そこには錆兎を抱えた【赤い鎧の鬼】が立っていた。【赤い鎧の鬼】は錆兎を下ろすと手鬼に向き直る。
「おっ鬼……」
助けられた錆兎もそれを見ていた義勇も驚いた。目の前の鬼は何故自分達を喰わずに助けたのか分からなかったからだ。
「なっ何者だ、お前ぇ……あれ?」
手鬼は気付く、自分の視線が段々とズレていくのを。どさっと言う音と共に己の上半身が落ちた。
「いっいつの間に……くっ、くそっ、なんだ。身体が再生しない!? なんで!? なんで!?」
手鬼は焦る、傷が全く治らない事に。
「なんで同じ鬼にやられて」
ボロボロと己の身体が崩れていくのが感覚で分かる。しかも同じ【鬼】にやられるとは思わなかった。
(クソッ、クソッ! なんでこんな……なんだ、こいつ?)
手鬼は自分を斬ったであろう【鬼】を見た。その眼は哀しみに満ちていた。
【……】
【赤い鎧の鬼】は何も言わず手鬼に篭手を向けた。その篭手が光を放つと手鬼の身体から光の球が現れ、篭手に吸収されていく。
(身体の力が抜ける……とても心地いい……あっ)
手鬼の意識が薄れいく中、光の中に1人の子供が現れる。
『おそいぞ』
『兄ちゃん!』
手鬼は異形の姿から小さな子供の姿へと変わり、兄の元へ駆け出す。
『兄ちゃん、手ェ握ってくれよ』
『しょうがねぇなあ。いつまでも怖がりで』
兄弟は手を繋ぎ、光の中へ消えていった。
【赤い鎧の鬼】は錆兎と義勇の方を向く。
2人は今度は自分達の番かと思い逃げ出そうとするが、【赤い鎧の鬼】の足元に黒い光の渦が現れ、その場から消えてしまった。
「いっ一体なんだったんだ?」
「分からないけど……助かったのか」
本来の歴史であれば錆兎は此処で手鬼にやられる筈であったが、【赤い鎧の鬼】の介入により、生き残った。
後に錆兎と義勇は共に水柱と呼ばれる様になるのはまた別の話である。
と言う訳で錆兎が生き残りました。