女子校バスケ部のキャプテン、カオルは同級生のマネージャーと付き合っていながらも、ときおり後輩と関係を持っていた。

──良く効く薬が苦いのなら、色んなものを蝕む毒はきっと、とびきり甘い。

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Sweet sweet poison

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 ──どうせ食べるのなら甘さ控えめのものよりも、とびきり甘いものの方がいいんじゃないですか?

 

 そう囁かれた声に頷いてしまったとき、私の日常は蝕まれ始めた。

 

 

 

 

 

「おはよーカオル」

 

「おはよう」

 

「カオル先輩、おはようございます! これよかったら飲んでください」

 

「あ、ありがとう」

 

 練習の時間になると、アタシはたまにこうやって差し入れをもらうことがある。

 

 ありがたい気持ちと、ちょっと困るなって気持ちが正直半々、かといって無下にするのもアレだから、結局受け取ってしまう。

 

「彼女持ちのくせに相変わらずモテるねー」

 

 というのも、部活の仲間にこうやってからかわれるのがダルいからだ。

 

「うっさい、さっさと練習するよ!」

 

 女子校という閉鎖的な場所だからか、自分で言うのはなんだけど、アタシはそこそこモテている。

 

 まあ、ゲレンデマジック的なアレやこれやに勝手に一部の子がかかっているだけで、アタシはただのバスケ部の部長に過ぎないし。

 

 

 

「……あっつぅ」

 

「お疲れさま、はい」

 

「ありがとう」

 

 練習終わり、いつものようにすっとタオルとスポーツドリンクを差し出してくれたのは、部のマネージャーの一人で他ならぬアタシの彼女、サナミだ。

 

 まあでも、彼女っていったってそんな正式というか、堅い仲じゃない。

 

 たまにデートしたり、栄養管理とかなんとか言ってお弁当を作ってもらったりとか、そういういたってプラトニックな関係だ。

 

「ね、今週の土曜の部活終わった後、暇?」

 

「暇だけど」

 

「じゃ、付き合ってよ。色々買いたいし」

 

「おっけー」

 

「ありがと、じゃまた明日ね」

 

「バイバイ」

 

 

 

「……ぁ」

 

 家でスマホをいじりながらのんびりしてると、メッセージがきた。

 

「先輩、今から時間があったら晩ごはんご一緒しませんか〜♡♡♡」

 

 家の中なのに、思わず画面を隠しそうになった。

 

「……」

 

 メッセージを送って来たのは、彼女とは別の子だった。

 

 

 

 2

 

「あ、センパイやっときた〜遅いですよぉ、ヒメカ待ちくたびれちゃいました〜」

 

「これでも急いできたんだけど」

 

「え〜本当ですかぁ?」

 

この甘ったるい声と仕草。こんなこと言ったら絶対怒るだろうから言わないけど、本当コイツはあざとい。

 

「早く決めちゃってくださいね〜」

 

アタシが座った途端に、メニューを押しつけるように差し出してくる。

 

「……じゃあこれでいいよ」

 

正直なんでもいいから一番人気らしいドリアにした。

 

 

 

「で、彼女さんとは最近どうなんですかぁ?」

 

「……何も変わってない」

 

「ぷっ」

 

心底おかしそうな顔でヒメカは笑う。

 

「いや全然笑いごとじゃないんだけど」

 

「いや分かってましたけど、センパイヘタレ過ぎませんかぁ? あ、そ・れ・と・も」

 

「……」

 

「ふふっ、やっぱりやめときます」

 

「なにそれ」

 

「なんでもないです」

 

いたずらっぽく笑われるとそれ以上聞く気になれなくなる。

 

 

 

「で、今日はこのあとは()()()()つもりですか?」

 

「……そのつもりだから呼んだんじゃないの」

 

このあとどうする、という言葉は合図みたいなものだ。

 

このあと、どっちかの家でセックスする? ストレートに言ってしまうとそういう意志確認みたいなもの。

 

「ヒメカはただ、センパイとご飯食べたいなーって思っただけですよぉ」

 

コイツは決まっていつもそう言う。最後の言葉は絶対アタシに言わせるんだ。

 

「……アタシの家くる? アンタの好きなやつ買ってあるし」

 

「ふふっ、分かりました」

 

 

 

いけないことをしてるという罪の意識は、例えるならシナモンパウダーみたいなものだと思う。

 

甘い香りで、独特な魅力がある。

 

「アンタ、首の横の跡どうしたの?」

 

「……さぁ?」

 

ヒメカは本当に分からない、というようなとぼけた顔をする。

 

「……」

 

「センパイ、今日は随分とキスが好きですね」

 

「……うっさい」

 

ヒメカはちょっとビッチっぽいところがある。アタシもコイツにとっては数あるうちの一人でしかいない。

 

そんなことはとっくに知ってる。知ってるけど、ムカつく。

 

アタシとするつもりと分かってて、わざと跡をつけさせたんだろう。

 

「……ふふっ、センパイって本当可愛い」

 

それを分かってて嫉妬するアタシを弄んで、満足そうな顔をする。それもいつものことだ。

 

本当、性格悪い。

 

性格が悪いことを隠そうとしないところも、ヒメカの性格の悪さの分かりやすいとこだ。

 

「……いいですよ、そこ、もうちょっと優しく……んっ」

 

その分、とびきり声と身体がエロい。

 

手のひらからあふれるぐらいのサイズの胸と、高くて耳に残る声。

 

()()()()()擬人化だコイツは本当。

 

 

 

「センパイって、どうして今カノさんと付き合い始めたんですか」

 

「なんで?」

 

急にそんなこと聞かれても困る。

 

「純粋な好奇心っていうか、センパイは今カノさんのどこに惹かれたのかなって」

 

「うーん」

 

なんというか改めて聞かれるとぱっと出てこない。もちろん、サナミのことは好きなんだけど、どこっていうと難しい。

 

「世話焼きで真面目で一生懸命なところかなあ」

 

「へぇ」

 

「なにその顔」

 

「いやだって、センパイいっつも言ってるじゃないですかぁ、サナミは真面目すぎてつまんないって」

 

「……まあね」

 

お前達、短所は長所なんだ!って顧問が言ってたのを思い出した。

 

たとえどんなにいいところでも、裏を返せば悪いところになりうる。人間なんてそんなもんだろう。

 

「センパイ、ヒメカそろそろ帰りますね」

 

「ああうん、夜遅いから気をつけて帰りなよ」

 

「……」

 

ドアを閉める前に、ヒメカはなぜか物欲しそうな顔をしていた。

 

その顔がずっと頭に残っていて、アタシは朝になるまで寝つけなかった。

 

 

 

3

 

「ねえ、他になんか買っておいたほうがいいものってあったっけ」

 

「うーんどうだろ」

 

土曜日の部活帰り、アタシはサナミとスポーツショップに来ていた。

 

「あっテーピングも買わなきゃ」

 

これじゃデートじゃなくてただの荷物持ちじゃん。

 

そう言いかけそうになったけど、やめておいた。

 

「あ、それで次の対戦校の三間桜のことなんだけど、晴海(はるみ )っていう選手が──」

 

お腹減ったでしょ、何か食べる? って言われて家にあがったと思ったらこれだ。

 

なにも食べた後すぐにミーティングめいたことをしなくてもいいのに。これじゃ普段となんにも変わらない。

 

いや、別に不満なわけじゃないんだけど。もうちょっとなんというか、アタシの期待を返してほしい。

 

「ねえ聞いてるの?」

 

「うん」

 

「それでね──」

 

「あっごめんサナミ、アタシそろそろ帰らなきゃ」

 

「えっ、どうかしたの」

 

「そういえば、今日犬の散歩の当番だったんだよ〜。ごめんね」

 

「……そっか、気をつけて帰ってね」

 

「うん、また月曜ね」

 

思いっきり嘘をついた。最近うちの犬の散歩は弟にやらせてるから、アタシがする必要はない。

 

嘘をついたことに罪悪感がないわけじゃないけど、まあ疲れたし、家で寝たくなったんだ。

 

 

 

「……ん?」

 

昼寝、というか夕方寝から覚めたきっかけはスマホのバイブだった。

 

「……」

 

通知はヒメカからのメッセージで、この前と同じような晩ごはんのお誘いだった。

 

いや、ぶっちゃけめちゃくちゃ眠いし、部活&買い出しに付き合わされたせいですっごく疲れてる。

 

「……行くか」

 

でも、アタシの指は今から行くって返事を送っていた。

 

 

 

「あっセンパイ今日は早かったですね。もしかしてヒメカの連絡待ってたとか?」

 

「たまたま目が覚めたとこだったし」

 

「……そういうときは嘘でもそうだよって言って下さい」

 

頬を軽く膨らませながら、あざとく怒った振りをするヒメカ。ちょっとムカツクけど、同時にちょっとかわいいなって思ってしまった。

 

「ごめんごめん」

 

 

 

「……それで、次の試合も勝てそうなんですか?」

 

「んーまあ大丈夫じゃない」

 

「余裕ですね〜流石センパイカッコいいです」

 

「まあね」

 

「……ぷっ」

 

「なんで笑うの」

 

「自分がカッコいいってことは否定しないんだな〜って」

 

「……うっさい」

 

「でもぉ、センパイがカッコいいのは本当ですよ」

 

……本当にコイツは。

 

「ねえ、今日はアンタの家行きたい──」

 

そう言いかけたときにスマホが鳴り出す。どうやら電話みたいだ。

 

「……それで、今日はアンタの家でいいでしょ」

 

画面をちらっと見てアタシは無視することに決めた。

 

「いいですけどぉ、電話とらなくていいんですか?」

 

「いい。それより早く行こ」

 

ヒメカを急かしてアタシは店を出た。

 

 

 

「センパイ、今日はいつにもましてシたがりさんですね。どうかしたんですか」

 

キスをした後そそくさとブラを脱がせ始めるアタシを見て、そうヒメカが聞いてきた。

 

「そういう気分なの」

 

ヒメカの口をもう一度唇と舌でふさぐ。

 

「センパイ、チュー上手くなりましたね。あ、もしかして彼女さんで練習とかしてます?」

 

「……っ!」

 

ニヤニヤ笑う顔で分かった。こいつアタシが練習なんてしてないって分かって言ってる。

 

アタシの理性は、この瞬間完全に消え去った。

 

 

 

「ごめん、ちょっとやり過ぎた」

 

肩につけた噛みあとを撫でるヒメカを見て、後悔した。

 

「ま、消えそうなんでいいですけどぉ、気をつけてくださいね」

 

「ホントごめん」

 

「今度なんか買ってくださいね」

 

「……うん」

 

怖いことを約束させられたけど、しょうがない。

 

「ヒメカはセンパイのものじゃないですから」

 

「……」

 

さっきまでの甘い時間がぶっ飛びそうなことを、笑顔で言われたら流石に傷つく。

 

「ふふっ、それともヒメカを彼女にしたくなりました?」

 

正直ちょっとそう思うときもある。けど、そうしたら今のこの心地良い距離の関係が終わってしまう。

 

「……とりあえずやめとく」

 

「センパイのそういう変な勘違いしないとこ、好きですよ」

 

そう言ってヒメカはアタシにキスをした。

 

 

 

──アタシはもう、元には戻れない。そう実感しながらヒメカにキスを返した。


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