翌朝。コンクリートが無事に固まりつつあることを確かめてから、ホームセンターにレンガを買いに行った。
……結局、二百個以上はトラックに積んだろうか。タイヤを見ると、見るも無残に潰れかけていた。
三良坂さんが言うには、まだこれでも過積載ではないらしい。いや、どう見ても過積載だろう、と思いながら助手席に乗り込んだけど、案外大丈夫なものだという平凡な感想しか出てこない。
学校に戻ると午前八時を回っていたので、大慌てでレンガを降ろした。学校も終わって、さあいよいよと現場に向かったところ、コンクリートの強度が不十分ということで、作業は明日に延期となった。
翌日の午後三時三〇分。作業四日目。満を持して、型枠を見下ろす三良坂さんと俺の姿があった。
型枠の対角線の二隅をグイッと持ち上げる。地面から型枠が抜け始めた時の、わずかな感覚。三良坂さんと目配せをしたなら、型枠を一気に抜き取った。
……完成していた。コンクリートの基礎が。この上に、これからレンガを重ねていくのだ。
型枠の解体をあっという間に済ませて、計六段あるうちの一段目のレンガを、コンクリートの基礎の上に仮置きしていった。それが終わると、いよいよ仕上げだ。
レンガを積み上げていくのだが、その際にモルタルを練って、レンガ同士の接着剤として利用する。一枚一枚丁寧にレンガを積み上げて、コテを使ってモルタルで接着していった。
結局七時前までかかってしまい、栞から大いに怒られた。
この頃になると、クラブ活動や下校中の生徒からの視線がうるさくなっていた。こんなことをしていたら、いやがうえにも注目が集まってしまう。でも、個人的には、手伝いたいという由香里を宥めるのに一番苦労した……と思う。
* * *
「最後の段階だな」
今しがた集合したところ。
時計は、午前七時を指している。今日は金曜日。完了検査の日だ。これまでの四日間、必死に汗をかいてきた。
ふと見ると、三良坂さんが乗ってきた軽トラックの荷台に黒土が積んである。
「これで最後?」
「そう、本当に最後だ。この花壇に足りないものは土と種を除いてほかにない」
運転席に戻って車を発信させる。バックで花壇のすぐ前まで着けたなら、運転席内でかがむような仕草をする。なにをしているのだろうか。
ウイイィーン……! トラックの荷台が傾いて――黒土が花壇に落ちていく。
ドバドバと流れ落ちている。零れた分もサービスだ、といわんばかり。
ガコンッ……!
土がすべて落ちると、助手席に置いてあったスコップを使って、ふたりで花壇の土を整える。
「そうだ、渉。花壇といえば?」
「花……そうだ、花だ。でも、しばらくお預けか……」
「ん。これ」
作業服のポケットから袋入りのパンジーの種を取り出した。花壇の中に規則正しく種を埋めていく。
「残りは渉が埋めてみな」
「わかった」
種の入った袋から、ひとつまみ、ひとつまみ取り出しては等間隔に落としていく。
我ながら、ぎこちない感じ。種をすべて撒いた。
「……終わった。ほんとにこれで終わったんだな。ところで、これっていつ芽吹くんだ?」
「すぐかな」
「えっ?」
意味がわからない。
「渉ーーーーッ!」
由香里が下駄箱の方から駆けてくる。今日は早起きなんだな。
「由香里、なんでここに?」
「今日で最後なんでしょ? 渉の仕事、見ておきたくって――そちらのお方は?」
「どうも、汐町さん。三良坂といいます。宜しく」
ふたりの視線が交わった気がする。そうか、今日が初対面か。
「――!?」
これは……嫌悪感? 由香里の嫌悪感が伝わってくる。
「由香里。三良坂さん、いい人だよ」
「あ……渉がお世話になってます。汐町由香里です。今後とも――」
身震いをする。
「今後とも、宜しくお願いいたします」
「そうだな。今後とも、という表現は正しい。なんたって」
花壇に目をやる。純白の、青紫の、黄緑の――いつの間にやら、色とりどりのパンジーが咲き誇っている。
「なんだよ、これ……」
「渉、どうしたの? え、ちょっと、これ! さっきまで確かに」
「……俺も、
言葉が出ない。
「ハッピーマウンテン市教育委員会、教育総務課。三良坂集。集って呼んでくれていい」
* * *
「ちょっと、渉! どういうことよっ」
「栞、どうした?」
「どういうことって、言葉のとおりよっ。あの三良坂って人、公務員だって知ってたんなら、どうしてもっと早く言わないのっ!?」
「どうでもいいし……」
平屋建ての一番奥にある部屋。俺達の寝室だ。音がかなり響く。
「さては、渉。あんた……」
『なんだよ』、と言いかける。
「お姉ちゃんがお嫁が行くのが嫌で、わざと紹介しなかったのねっ!」
「いや、さ……今日わかったんだよ。ホントに」
後ろ暗い気分だ。俺も、公務員だなんて思わなかったから。恐る恐る、栞の方を見た。微笑んでいる。
「まったく。いつまでたっても姉離れできないんだから」
俺を抱きしめる。話聞けよ。
「……」
ふた房のうちのひとつが頭上に乗っかっている。
「……重い」
タフブネを持ち上げた時のことを思い出す。