体はお好み焼きを求める   作:フライングパンケーキ


オリジナルSF/日常
タグ:お好み焼き杯
お好み焼き杯ルール:お好み焼きを食わせること



お好み焼きが食べたい青年。

お好み焼きを食べるために仕事して

お好み焼きを食べたい。

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茶色いパンケーキ(しょっぱい)

 無機質で歪みの無い(くろがね)色の鉄板の上に不格好な円形の何かがじゅうじゅうと音を立てて湯気を上げている。

 

 お好み焼き。またはキャベツ焼きと言う人もいるだろうか、シンプルにキャベツのみを使ったお好み焼きが鉄板の上で焼かれている。

 十分に焼き上がっているそれをじっ、と見つめている青年が居た。

 

 ふぅ、っと何かを決心したような息を吐き、ヘラを二回入れ扇形に切り分ける。

 手前のそれほど熱を持たない保温スペースに切り分けたピースを持っていき、断面をまじまじと見つめる。

 そうしてしばらく見た後、ヘラから箸に持ち替え切り分けたそれを一気に口に入れた。

 

 粉っぽい生地、鉄臭いソース、酢の匂いが強すぎるマヨネーズ、青臭いキャベツ。

 食えたもんじゃない失敗作をごみ箱にダンクする。

 

 代わりに出してきたのはキャベツが入った生地、豚バラ肉、薄く輪切りにした青ネギ、紅ショウガ。

 ざっと生地を鉄板に流し形を整える。押さえつけるような真似はしない。

 火が通ってきたら豚バラ肉をかぶせ、ヘラを下に入れくるりと空中で回転させて裏面を焼く。

 肉の油のほのかな甘い香りが鼻腔をくすぐる。生地に入ったダシの匂いも相まって食欲をそそる。

 十分に焼いたらまたひっくり返し、保温スペースへ持っていく。

 

 まずはソース壺に入ったハケを取り出し焼かれた生地に満遍なくソースを塗る。

 きつね色の生地が焦げ茶色に染まったらハケを置き、先が細くなったマヨネーズの容器を持つ。

 格子状に白い線が走ったらその上に青ネギを散らす。ぱらぱらと散らした後に青のりも数回振りかける。

 

 最後に紅ショウガを乗せ、天かすも添え、鰹節を乗せ完成だ。

 

 

 完璧だ。いつ見ても完璧すぎる。

 

 青年はある種の感動すら覚えお好み焼きの後ろに後光がさしているかのような錯覚に陥っていた。

 

 ごくり、と喉を鳴らしてヘラをお好み焼きの肌に添える。

 力を入れると次第にヘラが生地を食んで行き、ざくり、と音を立てて生地を断つ。

 しばらく動きを止めた後、最小の動きで、しかし、ゆっくりとヘラを持ち上げ、角度を変え同じように切り分ける。

 

 またしても最小の動きで、やはりゆっくりと箸に持ち替え、そっ、と切り分けたお好み焼きを持ち上げる。

 キャベツは焼いたというよりさっと蒸した状態。肉は端が少し焦げ、カリカリになっている。

 鰹節が踊り、ソースで染まった茶色い大地と鰹節の枯草の草原の中、ネギと青のりの緑と紅しょうがの(アカ)がこの上なく映えている。

 

 十分目で楽しんだ後にそっ、と口に入れる。

 初めにしょっぱくありながらどこかフルーティーさを感じさせるソースの匂いが駆け巡り、外はカリカリ、中はふっくらとした生地を断ち、中のキャベツをじゃくりとかみ切ると口の中にキャベツとマヨネーズとソースの混じった何とも言えない素晴らしい味が広がる。

 咀嚼したことにより口内に溜まっていた空気が鼻腔に送られ、鰹節とソース、そして少しの焦げの匂いが混じった匂いがそのまま鼻を通り抜けていく。

 

 二回目の咀嚼。調味料とキャベツの甘味と肉の油、そしてベースとなる生地の味が混ざり合い調和(ハーモニー)を奏で出す。

 

 三回目の咀嚼をしようと顎を少し開いた瞬間青年の視界はブラックアウトした。

 

 

 

 青年は手をわなわなと震わせながら上に上げていく。

 顔の高さまで上がるとそのまま拳を作り机に叩きつけた。

 

「まただよ! また一口だけだ!」

 

 青年は何度も机に両の拳を叩きつけ叫ぶ。

 

『おい! うるっせーぞ!!』

 

 もはやパーテーションと言っていいほど薄い壁の向こうからおっさんの罵声が壁を殴る音と共に聞こえる。

 

「……はー。クソッ!」

 

 青年は顎の下から伸びたケーブルを乱雑に引き抜き床に放る。

 喉側にスライドしていたカバーを戻し、机に脚を乗せる。

 

 入力検知が無くなり投影映像がメインカメラに切り替わる。

 

「やっぱもっといい演算チップを……いや、いっそのことサブコンピュータを増やすか……?」

 

 机をガシガシと蹴り椅子を反動をつけて揺らす。そのたびに椅子が悲鳴を上げ、膝からはモーター音が漏れる。

 

「はぁ~…… まぁいい、もう仕事の時間だ」

 

 誰に言うでもなく、自分に言い聞かせるように青年はつぶやき椅子から立ち上がる。

 

 広めのワンルームだけしかない安いだけが取り柄のオンボロな集合居住区を後にし、防犯システムを起動させる。

 さすがにあの家とも言えない部屋に無策で金品を置くわけには行かない。普通フルサイボーグともなればそれ相応なグレードの拠点を構えるものだが、そうしない。いや、できないのは不釣り合いに高性能な制御系パーツが青年に入っているからだ。

 

 高性能なチップの為に金を使い拠点が構えられない。なのでほぼタダ同然の半スラム街に居を構えている。それに伴い防犯のために各種システムを導入する。それが出来るのは高性能チップが入っているため。

 

 まさに本末転倒。維持管理するだけの収入が追い付いていないのだ。

 この青年は稼ぎの殆どを演算チップやら高速メモリ、サブコンピュータや電子戦機用カスタムパーツ、果てはオペレーター用並列思考制御パーツなどの部品につぎ込んでいるのだ。

 結果青年は駆動系は荒々しい、メーカーすら統一していない最低ランクのサイボーグだが制御系は最高ランクに迫るほどの充実を見せている。

 

 青年は初めから金銭的バランス感覚がないわけではなかった。

 サイボーグ。つまり生身の人間が機械化したのだ。

 

 青年は親を知らずスラムで育った。カネがなかったのでスクラップを漁って売った。成長する体のせいで次第に出費がかさみ、戦場でジャンクを漁るようになった。もうすでに風化しかけているスクラップとは違い、まれに新品同然の部品も取れたため、収入が跳ね上がった。

 

 しかし、新品同様の部品が取れるとは、そういうことでもある。

 

 まだ少年だったころ、青年は左腕を失った。それほど難しい傷ではなかったため、応急処置をしてくれた面倒見のいい傭兵がいたので少年の命は助かった。

 

 しかし、スラム育ちはタダでは起き上がらない。

 

 その後、貯まった金を頭金としてサイボーグ手術を受けた。腕だけでも、マクロを仕込めば銃の腕が飛躍的に上昇する。それこそ、子供でも無強化の大人と渡り合えるほどに。

 恩返しという尤もらしい建前を携え応急処置をしてくれた傭兵の下へ駆け込んだ。最初は追い払われたが手術代を稼ぎたいと粘るとしょうがなしに少しだけ面倒を見てもらえることになった。面倒見がいいと人に付け込まれるものである。

 

 しばらくして、傭兵のイロハを学び、手術代を完済し終えるころには独り立ちできるようになっていた。

 

 そうして、下積み時代のコネも使い傭兵として生計を立てられるようになった。

 青年はスラム時代に夢見たことを片っ端から実現させた。

 

 高級料理を頬張り、富裕層が止まるようなホテルに泊まり、ブランド物を買い漁り、博打も打った。

 しかし、これと言って魅力があるわけでもない。料理は美味いと思ったし、ホテルは素晴らしいとも思った。服装によって人の態度が変わるのは面白かったが、見せたい相手も居ない。博打はゲームとしてまぁまぁ面白かったがトータルで見れば傭兵業をしていた方が金は溜まる。

 

 結局一番自分が満たされると思う瞬間は、任務を達成した瞬間だった。

 

 それからは自分がどれほどの価値があるか、どれほどの能力があるか試すようにぎりぎりの難易度の任務を受け続けた。

 安定とはかけ離れた行為。代償はすぐに支払われた。

 

 一年も経たない内に青年の四肢は機械となった。

 

 しかし、消えていく肉と引き換えに能力はどんどん上がっていった。

 

 上がった能力に合わせ、任務の難度も上げる。

 

 相対的に報酬金も上がりに上がった。

 

 もはや、肉体の部分が足枷に思えた。

 

 だから、青年は脳だけ残して機械の躰となった。

 

 手術費を返し終えるか否かほどの時期に、仕事で一人のフルサイボーグと出会った。

 そのサイボーグは仮想現実(VR)料理を作るのが趣味だという。

 

 仮想現実(VR)料理。通常フルサイボーグの生命維持活動はメンテナンスを欠かさず行い、エネルギー充填と脳のためのブドウ糖を主とした栄養剤を補充するだけで食事をとることはできない。

 元は医療技術で義肢の延長線としてサイボーグが使われていたが、性能が上がり、再生医療も発展してきたため、ほぼ戦闘用として使われている。

 

 その最初期の医療技術時代のサイボーグ向けに、文化的な行いが出来なくなることを問題視し食事を楽めるようにと試みがあった。

 

 しかしフルサイボーグの絶対数が少ないだけではなく、その後すぐに再生医療が発展し、富裕層は人工身体へと乗り換えたため、大半のスポンサーを失った開発会社は微妙な出来の仮想現実(VR)料理ソフトを出すだけに留まった。

 

 

 青年も店舗で試したことがあったが極端に特徴を出した味や匂いに耐えられず完食することは無かった。

 貰ったデータにしても期待はしておらず、久しぶりに味を感じてみたいと思ったのでついでに使っただけだった。

 

 少年時代からのスクラップ買取やサイボーグ手術、果てはメンテナンスまで頼りにしている贔屓の店のVRサービス利用ブースへ行き、仮想現実(VR)料理ソフトを呼び出す。

 

 データを読み込み、チャプターを見る。どうやら調理から出来る様だが面倒なので食事のチャプターを選択する。

 

 目の前に現れた茶色い木屑のようなものが乗った汚いパンケーキのようなものに困惑する。

 

 ハッキリ言って食欲をそそる見た目では無かったが、鼻をくすぐる香ばしく、しょっぱい匂いによだれが湧き出る。

 ナイフが無かったのでヘラで大雑把に切り分ける。こぼれたソースが鉄板に触れ蒸発し、いい匂いが顔を直撃する。

 

 もはやフォークに持ち替えるのも面倒だと言わんばかりにヘラの角で突き刺し、口に放り込む。

 

 瞬間味の暴風が口に吹き荒れ、脳に電撃が走ったかのような衝撃を覚える。

 

 青年の肉体はスラム暮らしで味覚障害に陥っていた。

 それが今、調和のとれた美味しく”正しい味”が直接脳に信号として叩きこまれ、”本当の味”を経験した。

 

 青年は自分の中で何かが弾ける音を聞き、目の前が真っ暗になった。

 

 

 

 実際、青年の体の中ではMODを大量に入れたお好み焼きの演算に耐えきれずチップが本当に爆発し、店員が気付かなければ死んでいた。

 

 手術台の上でしこたま怒られている青年は、もう頭の中が7割5分ほどお好み焼きのことで埋め尽くされていた。

 その後、何がいけなかったか店員に聞き、入れていた演算チップを前の物よりグレードアップした。

 しかし食べれたのはまた一口だけ。

 青年の予算の中で最高ランクの物を選んでこれである。さすがに爆発はしなくなったが。

 

 この日から青年は駆動系をメンテだけで極力更新せず、制御系パーツばかり買い漁るようになった。

 

 自分で仮想現実(VR)料理セットを買って自らデータを製作して味の違いに呆然としたり、無駄に買い込んだ武器を売ってパーツの足しにしたりした。

 無茶な任務を受けることは無くなり、一端の傭兵の風格を持つようになった。

 

 行動理念の中心がお好み焼きであることを除けば。

 

 今日も今日とて青年はお好み焼きを食べたいが為に命を懸ける。

 

 

 青年は受注した依頼の資料を視界に投影しながら馴染みの店へ向かう。

 特に問題は無い。後は現場で打ち合わせするぐらいだ。ウィンドウを閉じ今度はカタログを開きながら足を進める。

 

 大通りでもない、かと言って裏路地でもなく、人通りがほぼ無い通りにその店はある。

 

「ちゃす」

 

「ん? ようクソ坊主」

 

 足を組んで椅子をこれでもかとリクライニングしながらPADを見ていた店主が青年を一瞥し、あんまりな呼び方をする。

 

「シゴトあるんで、武器貰いに来ました。」

 

「あいよ、ちょっと待ってな」

 

 奥に引っ込んだ店主を見送り、青年は開いていたカタログに没頭する。

 

(今回の仕事でー……ある程度溜まるからぁー……ファジー演算が得意なチップを……いや待て、高速演算の新作が出てたはず、レビューは――)

 

 青年が考え込み、捕らぬ狸の皮算用をしている間に店主の仕事が終わる。

 青年は拠点に整備、保管スペースを確保できないため、メンテナンスと保管を店側に任せている。

 

「うい、LU/HK177に、ブレードね」

 

 青年はカウンターに置かれた銃を手に取り、手首からコネクターを伸ばし、グリップ下方に接続する。生体認証が通りステータススキャンが行われ、異常なしと診断される。

 

 LU/HK177、種別はエネルギーバトルライフル。エネルギーの効率が良く射程、威力、弾速、連射力、精度全てが高水準でまとまっている傑作銃だ。

 だが如何せん古い銃なのでそれぞれの性能を上回る銃はごまんと存在する。しかし、バランスに関してはこの銃が一番だと言う声も多い。

 状況に適した武器を使うのが一番だが、青年がこの銃だけ残したのも汎用性の高さからだ。

 欠点はスナイパーライフルほどではないにせよ銃身が大きく取り回しが悪い事、エネルギーをサイボーグ側のコアから抽出するため有線接続が必要なことである。

 

 一通りチェックを済ませ手首のコネクタを外し、右鎖骨辺りからエネルギーコネクタースリングを銃身に接続し、脱落しないか確認する。左脇腹からも接続し、体前面に固定する。

 

 銃の確認が終わり、次にブレードを手に取る。

 

 TQ-GA6、種別は電磁式剛体化ブレード。特殊鋼の刀身に電気を巡らせ、結合を強化し刃を疑似的に剛体化させる。ブレードにもいろいろあるがこれは射出や変形機構など駆動部が無く、信頼性に重きを置いたブレードだ。

 持ち手のダイヤルを調節してマイクロウェーブ送電のチャンネルを合わせる。全長500mmほどで刃渡りは350mm程度、切っ先以外片方だけに刃がある直剣で幅は85mmほど、切っ先が鋭く尖っているものの、大きな鉈のような風貌だ。

 きちんと通電し、剛体化出来ていることを確認し、右腰のホルダーに太腿の側面を沿うように取り付ける。

 

「確かに」

 

 頷いて不備が無いことを伝える。

 

「26日の保管料と整備代で7722Nね」

 

 店主が画面を叩いてホログラフに内訳を表示させる。

 机に適当に置いてあるリーダーに手の甲を翳して決済を完了させる。視界内に領収証がダウンロードされたことを確認して店を出る。

 

「じゃ」

 

「死ぬなよー」

 

 店主はすでにPADに目を固定しており、青年には一瞥すらせず、ヒラヒラと手首だけ振って青年を送り出す。

 

「まだ死ねない」

 

(そう……少なくともアレを完食するまでは)

 

 青年は何ともとぼけた

 ――青年にとっては至って大真面目な――

 決意を抱き集合地点へ向かった。

 

 

 

 

「集まったな」

 

 受注者の出席報告が完了したため、スキンヘッドの大男がオープンチャンネルと拡声器を使い集まった受注者に話し始める。

 

「こちらの指定としては事前に渡しておいた資料以上のことは無い。

 各組織のブリーフィングは移動中に済ませてくれ。

 作戦行動中に使う無線のチャンネルは資料に追記しておいた。

 なお、車と運転手は俺らの組織が用意したが、交通費は請求しない。

 ただ、破損させたら修理費を請求するからそのつもりでいろ」

 

 ここまで一息に言い、傭兵達を見回す。

 

「質問はあるか?」

 

 特に反応する者は居ない。

 

「では出発する! すぐに車に乗れ!」

 

 ホバー式輸送装甲車が何台も並んでいる。青年は一人であるため団体で参加している傭兵が乗り込むのを待ち、最後の方の余り組が集まった車に乗り込んだ。

 今回の任務、作戦実行場所はXFE-068区域。縄張りが隣接しているゴーストタウン。住人はとっくに居なくなり、金目の物は配管や配線に至るまで根こそぎ盗られて今や鉄筋コンクリートしか無い。

 

 またいつもの”大規模な小競り合い”だ。

 

 個人組織が国にすら対抗できる軍事力を手に入れられるようになってしまった今。ほぼ無政府状態になり、各地域は企業や自警団、マフィアなどの小規模なコミュニティにより支配されている。今回はその、区域を支配している自警団からの依頼だ。

 それを大手の傭兵団が受け、さらに下請けとして個人、中小傭兵団を雇った。激しい戦闘が予想されるので捨て駒として木端傭兵がかき集められたのだろう。装甲車まで用意しているということは恐らく戦車や戦闘ヘリ等を用意していても不思議ではない。

 

 全く揺れの無い車の中で任務用に開かれたチャンネルに飛び交う音声や文字を追う。

 しかし青年にはそのチャンネル以外にもいくつものプライベートチャンネルの情報を観覧出来ている。

 

『おい、あのサイボーグ型が古くないか?

 味方のど真ん中で爆発されたら迷惑だぜ』

 

『どれだ……

 あぁ、あいつか、あいつは問題ないさ』

 

 現に今、強化人間と、四肢と視覚のみ機械化したミドルサイボーグの通信を傍受している。今や脳にチップを埋めるだけである程度の演算能力が付与される。脳波コントロールで声を発しなくとも通信ができ、ナビや弾道予測などフリーハンドで出来る利点が大きい為、傭兵で手術していないものは少数派だった。

 

『なんでさ』

 

『外見に騙されるな? あいつは駆動系こそオンボロだが中身はとんでもねぇモンスターマシンだ

 戦いながらオペレーターまで出来るって話だぞ? まぁ個人傭兵だから単なる噂だけどな』

 

『本当か? 個人なら後腐れ無ぇし後ろから襲っちまえば大金が手に入るじゃねぇか』

 

『馬鹿か、傭兵は信用が第一だ。』

 

(まぁその前にオープンチャンネルの個人チャットで内緒話出来てると思ってる時点で負ける要素無いけどぉ)

 

 青年は勝手に聞いたにもかかわらず少しやさぐれながら傍受を続け移動時間を潰した。

 

 

 

 

 配置に着き作戦行動時間まで待つ。今回の任務の役割は遊撃だ。青年は参加者の中でも機動性がある方なので遊撃に回された。

 

『作戦開始時刻になりました。各員、行動を開始してください』

 

 元請けのオペレーターが任務開始を無線で告げる。

 作戦と言ってもこれといった策は無い。正面からぶつかり、敵を倒す。これだけだ。

 

 トラップを警戒しながら進む。と、言ってもコンクリート以外のものがあればすぐ気づくので地面さえ警戒していればいい。

 仕掛けられていたとしても、センサーが即座に発見し司令部へ報告するのでよっぽどの無警戒でなければ引っかからない。

 

 

 まさにコンクリートのジャングルを進む。建物としての面影は残っているが窓のサッシに至るまで剥ぎ取られ、酷い建物は鉄筋まで採掘されている。

 

 青年の視界にいきなり表示が表れる。種別サイボーグ、敵味方識別信号は所属不明(unknown)、十中八九敵だろう。

 

『敵! 10時の方向!』

 

 司令部に接敵を伝え、声には出さず無線で周りに呼びかけ銃を構える。

 距離60、これほど接近するまで感知しなかったのはジャマーを焚いていた可能性が高い。

 

「撃つ」

 

 他の傭兵は察知出来ていないらしいので、しょうがなしに青年が前に出て射線を通し牽制射撃を行う。

 

 トリガーを引くと銃口から紡錘形のエネルギーが飛び出し、鉄筋コンクリ―トを容易く貫通する。

 一拍おいて爆発が巻き起こり、サイボーグのコアに被弾したことが分かる。爆発の規模からしてフルサイボーグだったかもしれない。

 

 爆発から複数の影が飛び出してくる。

 

『会敵!』『エンゲージ!』

 

 戦闘の始まりだ。

 

 

 

 

 飛び出してきた影に照準を合わせトリガーを引く、胸に命中し飛び出した勢いのまま地面を転がり、土煙の中から出てきたバトルスーツの男はそのまま動かなくなった。

 エネルギー系武器はバトルスーツ装備者や強化人間程度の装甲なら貫通できる。歩兵装備で無効化するなら受け流して防ぐエネルギーコーティングか対消滅で受けるエネルギーシールドくらいしかない。後は厚さ20mm程度の鉄板や剛体化シールド辺りなら時間稼ぎにはなるだろう。

 

 敵も攻撃を受けたことを司令部へ伝えたのかそこかしこから戦闘開始を告げる無線で一気に騒がしくなる。

 

 奇襲したのもあって最初の射撃と追撃の二射を撃っただけで残りは他の傭兵が片付てくれた。

 

『片付きましたか? ならC班に向かってください。』

 

 オペレーターから遊撃の要請が来る。マップを確認すると近くの班がしくってC班に敵が流れたらしい。

 

『了解』

 

 青年は一言だけ返し肩からワイヤーアームを射出しビルの壁を掴み跳躍した。

 

 

 

 

(ドローンが多いな……)

 

 最初の会敵からC班と交戦していた敵、そして今の5回目の接敵まで全ての戦いに戦闘用ドローンが居た。

 

 抱えるほどの大きさしかないがサブマシンガンや小型のグレネードランチャーぐらいなら取り付けられる。火力はそれほどないが高速で、三次元戦闘だ。

 

 青年の装甲は歩兵全体から見れば重装甲だがサイボーグから見れば紙にも等しい。

 

「またかよ!」

 

 廃ビルの中におびき出した敵グループの中には今回もしっかりとドローンが紛れていた。

 辟易としながら強化兵とサイボーグを二枚抜きし、ワイヤーアームで窓の縁を掴んで飛び出す。その勢いのままスイングし上に体を放り投げる。

 ちょどよく鉄筋が横に伸びていたのでそれをアームで掴み、振り子の頂上でスラスターをふかし遠心力をかけさらに上空へ落ちる。

 

 閉所でドローンを相手するのはうまくない。鉛弾程度なら致命傷にはならないがフルメタルジャケットや徹甲弾にもなると装甲を抜かれてしまう。

 金がかかるし全てのドローンに徹甲弾が装備されているとは思えないが、逆に全てのドローンが対フルサイボーグ装備をしていないとは考えられない。

 

 上に掛かるGが緩んできた所で上空に識別反応が出現する。

 

「な!?」

 

 思わず燃費の悪いブースターもふかし飛距離を伸ばす。ボールを水面に押し付けた接地面のように、進む分だけ円状に識別反応が広がっていく。センサーの感知範囲ギリギリに大量のドローンが待機していたのだ。

 

「ハハ……」

 

 試しに明らかにこちらに銃口を向けようとしているドローンの識別信号を(enemy)に設定すると周りの信号全てが(enemy)に染まる。

 

「やっぱりかよクソが!」

 

 今度は逆に地面へ落ちるようにブースターをふかす。数瞬前までいた空間に銃弾が飛び交う。

 撃ってきた機にロックオンし、そのままロックは更新せず乱射する。どうせどこに撃ってもどれかに当たる、どころか複数機引っかかる。

 

 やっと追い付いてきたビルの残骸にワイヤーを伸ばす。スラスターを使ってドローンの大群相手に空中戦などエネルギー残量が幾らあっても足りない。

 廃ビルの屋上にアームが突き刺ささったのを確認し、最高速度で巻き上げを開始する。

 

 追ってきたドローンを撃墜しながら隣の廃ビルにもう一つワイヤーを飛ばす。

 そのまま両方巻き上げ、斜めにすっ飛んでいく。二つのワイヤーが直線になる前に屋上に突き刺した方のアームを離し慣性でビルに突っ込む。

 

 廃ビルの中で転がりながら司令部へ連絡を取る。

 

『ドローンだ! 探知ギリギリの上空にドローンが居る! 一万機行くかもしれない!』

 

『……了解。そのままドローンの数減らしをお願いします。』

 

『は……? こっちは対空装備なんて持ってきてないぞ、他の奴に向かわせてくれ。せめて応援を――っと!』

 

 窓があったであろう穴からビルに入ってきた2機のドローンを撃ち抜く。場所を変えるため入ってきた反対側から飛び降り極力空に射線を通さないようにビル間を駆ける。

 ワイヤーアクションも駆使し目まぐるしくビルへ飛び移りながら通信を再開する。

 

『歩兵で対処できるような量じゃない!

 時限信管でもキャニスター弾でもいいから対空戦車を――』

 

 そこで気づく。通信が切れている。

 もう一度コールをする。出ない。

 

(野郎、大規模なドローン隊が居ること知ってて黙ってたな!)

 

 ドローンは弱い。しかし、対処してもどうしても消耗しやすい。

 

 歩兵では機動力が違い過ぎ、攻撃を許しやすい、

 当たり所が悪くなければ死ぬことは無いが、消耗する。

 対空戦車が居れば只のにぎやかしに成り下がるが、

 対空砲弾は高い。今回は廃ビル群だ。空も狭い。消耗する。

 HEAT弾頭ロケットランチャータイプが居れば戦車であろうと万が一がある。消耗する。

 

 結局、木端傭兵を雇って戦わせるのが一番金がかからない。

 

(さっさとそれなりに片付けて高みの見物決めてる本隊引きずり出してやる……!)

 

 結局、かなり割に合わないことになったが、契約は反故にはされていない。分かっていて事前に説明が無かっただけだ。

 

(その前に……)

『ドローンだ! 上空に大量にドローンが居るぞ! 対空警戒を厳とせよ!』

 

 司令部がご丁寧に通達するとは思えないので全員に無線で伝える。これで大分被害が減るだろう。

 

「……ってやろうじゃん」

 

 害虫駆除の時間だ。

 

 

 

 

 ビルの谷間にワイヤーを通してスイングしながらドローンを撃墜していく。

 時間が経つにつれてドローンが散開し続けている。そろそろ潮時だろう。

 

 屋上に着地し、陣取っていたドローンを蹴散らし通信を開く。

 

『あー、テステス、聞こえてたら応答されたし』

 

『聞こえている、何か用か』

 

『ドローン使ってるな? 手を借りたい。指定したビルに潜ませてくれないか? リコンに使う』

 

『まぁ……アレじゃしょうがないか。分った、ポイントを送ってくれ』

 

『あぁ、後のドローン使用者は分かるか?』

 

『それなら――』

 

 

 

 

(っし、こんなもんか)

 

 あれから元請けのオペレーターはほぼ顔を出さなくなった。最低限の義理は果たしているがやはり敵ドローン部隊に対する追及が面倒くさいのだろう。

 

 青年は屋上に胡坐をかき、使わない機能を落としオペレートに集中する。こちらのドローン使用者に掛け合って各ポイントにドローンを仕込んだ。

 最初から露骨にならない程度にはされていたが、各部隊に対空に効果が高い兵装が一人は居るように割り当て直し、指揮を執る。

 

『チームα(アルファ)、そろそろ会敵する、注意して』

『チーム(チャーリー)、次の予測ポイントがズレた、確認を』

『なんか用? 多い? うるせぇ最初に俺が減らさなかったら1割は多くなったぞ』

(ジュリエッタ)、どうして交戦しない?

 弾が無い? 全弾?

 そういうのは切れる前に言うもんじゃ……

 まぁいいやテキトーに撤退して。

 代わりにチーム……(マイク)、向かってくれ』

 

 ドローンが跋扈する戦場を掻き乱し、塊から伸びた機だけ狩り続ける。しかし、敵も能無しではない。

 

(探知に引っ掛からなくなってきた……リコン代わりにしてるドローンの場所が割れたか)

『あ、ドローンの場所変えてくれる? ポイントは送ったから

 場所割れてると思うから出る時気を付けてね』

 

(さて……もう総数4268も機落としてんだしそろそろ本隊が出張ってきてもおかしくは無いんだけど……)

 

 目測だが半数ほど落としているのだから十分仕事はこなしたと言える。まさか最後の一機まで戦うような相手でもないだろう。

 恐らくだが、あちら側は人員を満足に集められなかったのだろう。ドローンは所詮補助兵装だ。沢山用意したとしても勝てるわけじゃない。

 歩兵の数的不利を埋めるためにあの大量のドローンを投入した。AIに指揮を任せれば少ない人員で圧をかけられる。

 その証拠に本隊は消耗を嫌い出てきていないし、逆に即席の傭兵でも全滅には至っていない。

 さらに十分な人員で指揮を執っているなら半数も落とされたりはしないだろう。

 

『ヒッ……ほ、本部! 本部!! おっ応答しっ――』

 

 考えに浸っていると引き攣った声で元受けに通信を試みる傭兵の声を傍受した。

 

『本部は出ねーと思うぞ』

 

 一応、一方的に指令を出して引っ込んではいるが青年が指揮し始めてからはそれもほとんどなくなっていた。

 

『……? おいどうした? 応答しろ』

 

『こちらチーム(パパ)! バッ、バケモンだ! おおたっ――』

 

『チーム(パパ)? どうした?』

 

 先ほど傍受した通信者も、チーム(パパ)も応答しない。

 

『…… チーム(オスカー)、チーム(パパ)との交信が切れた。

 何かいるらしい。そこから一番近いから気を付けてくれ』

 

『了解、先ほど爆発音が聞こえた、何かあったらそちらに連絡――』

 

 そこまで聞き、通信が切れる。

 

『……どうした?』

 

『――部! 本部! サイボーグだ! 早すぎて当たらん! 装備はエネルギーシールドに――』

 

 またも通信が切れる。

 かけ直しても次はなかった。

 

(これはもう無理だな)

 

 青年はオペレートに必要な演算は出来ても、オペレートに必要なセンサーは全く足りていない。

 元請けのオペレーター室をハッキングすればまだ出来るかもしれないが、そこまでしてやる旨みが全くない。

 

『各人へ、そろそろいたちごっこになってきた。

 オペレートの効果が見込まれなくなったため

 各々の判断で戦闘を続行せよ。

 俺は戦線に戻る。

 オペレートが必要だったら元請けにでも頼んでくれ』

 

 そう言いつつ最低限のオペレートは出来るように機能は抑えてカットし、立ち上がり戦闘モードに切り替える。

 

(方位はこっから0-8-6……こっちか)

 

 青年はビルの屋上から飛び降りチーム(オスカー)が最後に遺した通信場所へ移動する。

 

 

 

 

(この辺のはずだけど……)

 

 ポイントに到着するとドローンの残骸と、焼け焦げた死骸が出迎えてくれた。

 

(これは……シールドバッシュでやられたか)

 

 味方の死骸は一方だけ焼け、吹き飛ばされてこと切れていた。

 

(エネルギーシールド、ね……)

 

 死骸を観察していると、ドローンが頭上を飛び去って行く。

 青年のことは無視してまっすぐとどこかへ向かっている。

 

(確か近くにも生き残りが居たな)

 

 青年はドローンを追って跳躍した。

 

 

 

 

「撃て撃て! 左の建物に1人入ったぞ!」

「手榴弾を投げる!」

 

 ビルをいくつか飛び越すと丁度戦闘中の裏側に出た。

 

 敵が背を向けているので二、三発射撃し、数を減らす。

 

『加勢する、ドローンも来てるから気を付けて』

 

 言いながら、ワイヤーを使い跳躍し、射線を通し端から撃ち抜いていく。

 完全に制御された躰は寸分の狂いもなくライフルを固定し、性能を限界まで使用した理論上最高率の動きをする。

 

 注意が完全に青年へ向き、集中砲火される。

 しかし、そこにはもう青年は居ない。

 

 ワイヤーが使いやすいビルの谷間、射線をコントロールできる崩れた瓦礫の山、人手不足の中かき集められた質の悪い傭兵。

 拮抗していたバランスは崩れ、すぐに狩場の様相を呈してきた。

 

 ドローンも青年へ集中するが、遮蔽物が豊富なここでは強みが生かせない。まさに七面鳥撃ち状態だった。

 

「師匠、あのサイボーグの人すごいです……!」

 

 青年の狩りを間近で見て、感じ入るものがあったのか思わず、と言った様子で

 まだ少年に分類される年齢の傭兵が隣の初老の大男に話しかける。

 

「フン、金で買った実力にすぎん

 いいか? お前はまだサイボーグの判別がつかんだろうがあれは攻撃だけに特化した兵装だ」

 

 師匠と呼ばれた男は戦場だというのに腕を組んで声を発して会話する。

 

「高火力の銃を持ち、防御は考えない。

 金に目がくらんだ歪な心がそのまま装備に出た様だ

 消耗を他人に押し付け撃墜数だけ稼ぐ卑しい死肉漁り(スカベンジャー)よ」

 

「そ、そうなんですね

 勉強になります……!」

 

「お前も盾にされんように十分気を張ることだな」

 

 

(全部聞こえてンですけどォ? いっちいち声に出して喋りやがって……)

 

 高速で空中を滑っていても、性能がそれほど良くはないマイクであったとしても、

 高性能なチップはノイズを除去し、鮮明に会話を届けてくれた。

 

(まず他人の悪口で盛り上がるなら個チャでやってくんない?

 装備まんまそうだからハイエナ扱いに異論はねぇよ?

 それをさも真実かのように周りにバラ撒くとかもう営業妨害だろ)

 

 地上の敵傭兵を射撃しながらワイヤーで飛び上がり、ビルの壁を蹴り飛ばして瓦礫を散弾に使いドローンを撃墜する。

 

(傭兵は悪評立つと面倒くさいんですけど? つか戦ってんのもう俺だけだし?

 脳にチップ埋める勇気も無ぇ おじいさんがよ)

 

 最後のドローンを片付けると何か言われる前に青年はさっさと次の戦闘区域へ退散した。

 

 

 

 

 ビルを5つ越え、6つ目のビルへワイヤーを飛ばし、スイングが最下点に到達する瞬間、青年の真横のビルの壁が弾け飛んだ。

 

 カメラが捉えたのは発光する壁。左手で受けるが質量差が激しくそのまま弾き飛ばされビルに突き刺さる。

 高速で反応が迫って来る。斜め前に跳びすれ違う様に回避する。

 

 ビルから脱出し、敵機に向き直る。

 

「げぇ……」

 

 青年の見た壁の正体は、

 背中にフジツボの様に推進器を積んだサイボーグの

 姿が隠れるほどの大盾だった。

 

 さらに青年は気づく。盾の持ち手とは逆の右手で持っている箱。

 爆薬だ。それはどのような表面でも吸着し、対象に張り付き処理を難しくするだけではなく、距離の条件を一定にすることにより確かな効果を発揮することが出来る吸着爆薬だった。

 

 しかしそれは戦闘用ではない。掘削や解体が本来の用途、戦場で使ったとしても破壊工作やブービートラップ程度の使用だ。決して肉薄して敵に取り付けるような使用方法ではない。

 

 そんなふざけた使い方をしていても、この戦場で生き残っているのだから恐らくちゃんとした実力の傭兵の一人だろう。

 一応装備の意味も分からなくはない。ドローンの天敵、対空戦車に対する一つの回答だ。

 エネルギーシールドは銃弾はもちろん爆発、エネルギー系の武器すら防御できる。戦車砲の直撃にすら耐えられるだろう。

 しかし持っている人間は別。普通は衝撃で死ぬ。

 

 だが持っているのが普通では無かったら?

 フルサイボーグなら強度はもちろん、インパクトの瞬間、瞬時に計算を行い、地面に衝撃を逃がすことにより戦車砲の衝撃にも耐えられる。

 正面からでは破壊できず、高速で飛来し、接近されれば一撃で破壊される。

 人数不足を補い、最大限相手勢力に嫌がらせできる運用だ。

 

(たぶんアイツ居るから本隊出て来ねーんだろーな)

 

 ゆっくりと地響きを鳴らしながら近づいてくるとっつきマンに照準を合わせる。

 

(頭おかしいやつが居たもん……だっ!)

 

 引き金を引くと同時に大盾持ちはブースターを点火した。

 青年は後ろへ跳躍しながら右肩からワイヤーを壁へ射出し上から見てカーブを描く様に回避する。

 

 敵はブースターを切り、大盾を地面に突き立て無理やりドリフトしブースターを再点火し距離を詰める。

 

 ギリギリまで引きつけ敵の頭上を飛び越す様に回避し、脳天へ向けて二発射つ。

 

 しかし異様な速度で盾が回転しエネルギーが盾に吸い込まれる。

 

 急激な制動、盾の周りに残る光の残留、からくりはおそらく――

 

(腕にもブースターつけてんのかい、いや……盾にか?)

 

 どちらにせよ普通ではない。

 

 直線だけだが圧倒的なスピード。

 盾の方向転換もかなりの反応速度で捲るのも難しい。

 それ以前に近づいたら爆薬がある。

 つまり

 

 

(め~んどくせ~……)

 

 全力で相手したくない敵だった。

 

 

 

(しかしそうも言ってられん、ここは古来から強敵に使われてきた戦法で行くぜ――

 

 

 

 

 ――囲んで殴る)

 

 青年は逃げを選択した。

 

 

 

 

 それから青年と大盾持ちのサイボーグは殺伐とした鬼ごっこを繰り広げていた。

 無線で戦いやすい地形をマークし、そこに火力がある傭兵をかき集めた。

 

「ぐ……ぬ……っ」

 

 馬鹿正直に誘導しても付いてこないだろうからちょっかいをかけながら逃げ続ける。

 一直線に逃げてもばれるだろうから時折方向を変え遠回りしてでも自然な撤退を演出する。

 

 直線距離ならば近いが演出を入れると途端に長くなる道のり。

 そんな神経をすり減らす行動を続けていれば、いかに死と隣り合わせの境遇に慣れた青年でもミスは起こる。

 

「しまっ……!」

 

 回避のタイミングがズレ、シールドの端に引っ掛けられる。

 

 回転しながら吹っ飛びビルを一つ分突き抜け、さらに空中に放り出される。

 

 空を向いた瞬間ドローンが目に入った。

 回転に合わせて3機のドローンを墜とす。

 

 ジャイロスタビライザーにより体勢を立て直し着地する。

 

「わっ、とっ!」

 

 しかし着地点の傍には見覚えのある少年が居た。

 

(何でこんなところに!)

 

 しかし状況は待ってくれない。青年が作った穴をそのまま、しかし盾によって拡張しながら敵機が飛び出してくる。

 狙いは青年、しかし強化人間でもなさそうな少年が巻き込まれれば間違いなく死ぬ。

 

 「の、おおぉオ!」

 

 咆哮し、逆に盾持ちに突撃する。

 盾持ちが少し重心を下げ、盾が中央に寄る。

 

 

 来る。

 

 ブースターが煌いた瞬間

 青年は突撃時に背中側の腰から射出しておいたワイヤーの巻き上げを開始した。

 

 びぃん、と間抜けな音を鳴らしてワイヤーが青年を持ち上げる。

 

 盾持ちが軌道を変え斜めに飛び上がる。

 これで巻き添えは食わないだろう。

 

 しかし引きつけ過ぎた。

 青年もスラスターをふかし回避するが間に合わない。

 

 

 ついに発光する壁が青年へ押し付けられた。

 

 まず青年が感じたのは衝撃、次いで感覚のズレ。

 

 シールドに流れているエネルギーが、ろくに対策していない青年のボディへ駆け巡り指令系へのノイズになる。

 

 視界は真っ暗になりチープなフォントのエラー表示が並ぶ。

 高性能なチップはノイズのパターンを解析し、キャンセリングを行った。

 

 視界が回復する。次々と前へ流れていく背景。盾に押し付けられるようにかかるG。

 そして、左腕に付いた爆薬。

 

 

 エラーで認識できなかった時間で爆薬を取り付けられたらしい。

 さほど躰の自由が利かない。反応が遅い。

 

 解除は、できない。

 

 

(なら)

 

 

 青年は爆薬が取り付けられた左腕で左の足首をしっかりと持ち、右手でブレードを持った。

 

 腋の関節部にブレードを差し込み、一気に押し込んだ。

 

 

 べきん、と高い音がして腕が外れる。

 

 ワイヤーも使い盾にしがみつく。

 

 左脚を振りかぶる。

 

「返すぜ!」

 

 爆弾の付いた腕を盾の向こう側へ押し付ける。

 

 かん、と微かな感触が伝わった瞬間、盾の向こうが光に包まれた。

 

 

 荒れ狂う奔流の中、盾の縁を持ち必死に耐える。

 

 何時しか水平移動が落下に変わる。

 

 

「でっ!」

 

 地面に叩きつけられ盾を取り落とす。

 

 即座に転がり周辺を確認するが、反応はない。

 

 盾の裏には千切れた敵機の腕がぶら下がっているだけだった。

 

 

 片足で立ちあがってみる。

 

 左脚を確認すると吹き飛んだのは足首までで済んだようだ。

 

 

 遅れて何か小さいものが降り注いでくる。

 よく見てみれば、それは敵機の頭部パーツの一部だった。

 

 

 何とか生き残った。

 

 

 その事実を確認し、青年は残った手足を放り投げ大の字に寝転んだ。一辺欠けているが。

 

 

 セルフスキャンを行う。左腕欠損、左脚は見た目こそ酷くはなかったが、大腿のスペースに入っていたサブコンピュータがイかれたらしい。反応が無い。

 

(サブコンは初期の方に入れてもう使用率2割切ってたから別にいいけど……足首高いんだよな)

 

 青年は肩の断面と足の破損面を見比べまた天を仰ぐ。

 

(報酬と、盾とかの売値含めてギリ黒字……ってとこか)

 

「お買い物計画パ~~じゃ~ん?」

 

 

 予定は未定とはよく言ったものである。

 

 

 

 

 

 その後、本部から通信が入り、本隊が投入されるので撤退しろと指令が入った。

 恐らく面倒な対戦車サイボーグが居なくなったので戦車を投入してけりを付けるのだろう。

 

 

 撤退すると元気な奴らが元請けに抗議していた。

 あの契約ではドローンの事で突いても値上げは望めそうにない。

 

(だけど注意リストには入れたからな……)

 

 元請けの傭兵団の名前を要注意発注者リストに入れた青年は、もはや何か言い合う気力も無いのでさっさと車に乗り込んだ。

 

 

 

 

 

「まぁたハデに壊れたねぇ」

 

「今回は壊した、だな」

 

 青年は帰還し、破損した躯を修復するためいつもの店の手術台の上で店主と相談していた。

 

「で? 手足はいつもので良いの?」

 

「あぁ、特にスペック不足を感じたこと無いし」

 

「ういうい、同じの手配しとく。じゃ、仮の手足付けるね」

 

「あ、ちょっと待って、脚に入れてたサブコンは入れ替えたいんだ」

 

「お、何にするんだ?」

 

「HCH-5600っての入れようかと思うんだけど……」

 

「あれね! 良いよ~それ、ほとんどのサブコンが競合は自分で何とかするしかないんだけど、これは初期起動の時に勝手にチェックしてくれて可能であれば他の機器の設定も変えてスムーズで安定的な運用が可能なんだ。しかも次世代機が出てもまだファームウェアが更新されている! チップとか後から増設したり設定をいじっても順次最適な設定にされる。この機能は普通邪魔になることが殆どなんだけどこの会社は特にエラーを吐かせないことに定評があってまるでこっちの環境見てるの? ってぐらい的確なのよ。それに構築された環境を使うのも上手い。普通最高性能出すには地道なチューン調整が不可欠なんだけど割り当てが天才的なのよね、皆付けててくれれば仕事楽なんだけどホント。それに――」

 

「あ、次世代機出てんだ、そっちどうなん?」

 

 青年は捲し立てる店主に怯んだ様子もなく話をぶった切る。

 

「……まぁ、うん。

 消費電力は抑えられてるけど

 ぶっちゃけあんま変わんないし5600で良いと思うよ。

 人気でジャンク一杯出回ってるから修理しやすいし」

 

 次世代機の話題はそれほど食指が動かなかったようで一気にトーンダウンする。

 

「じゃあ5600で」

 

「了解、料金はあの盾とチップの売値から差し引いとくよ」

 

「うん、お願い」

 

 この後、無事に新しい手足が届くまでの仮の手足が接続された。

 

 

数日後――

 

 

 

 青年は自宅の椅子の上で正座してケーブルをVRソフトへ繋いでいた。

 

 本手術が終わり、新しいサブコンピュータを迎え入れ、初期起動を済ませ、初めての仮想現実(VR)料理ソフト起動試験だ。

 

 ソフトが立ち上がる。問題は無い。

 

 お好み焼きのプログラムを走らせる。余計な負荷をかけないように調理のシーンを飛ばし食事のシーンから再生する。

 

 立ち上がる湯気、踊る鰹節。

 ヘラを入れ切り分ける。

 一片をそぅ、っと口に入れる。

 熱さを感じながら咀嚼する。これと言っておかしなことは起こっていない。うまい。

 

 ごくん、とお好み焼きを飲み下す。

 

「ふほっ」

 

 すばらしい。

 

 何処も異常無く一口を食べ終えた。

 

 残ったお好み焼きを箸で持ち上げそのままかぶり付く。

 

「うまい」

 

 二口。

 

「ふまい!」

 

 三口。

 

「うぉふぃ!」

 

 口いっぱいに頬張ってVRで再現された目元をだらしなく緩ませながらもっちもっちとお好み焼きを食べる。

 

「んむふぅー」

 

 一息つき、鼻から息を吐くと、

 

 

 臭いが一切合切消え失せた。

 

 

 真顔になると味も無くなった。

 

 次いで温度含めた食感が消失する。

 

 

 

 そして視界が固まった。

 

 

「…………」

 

 

 脳波コントロールが利かない為、投影型アナログ入力呼び出す。

 呼び出したポインタはいつもの白い矢印では無く円形の模様がぐるぐると回転している物になっている。

 

 そこはかとなく嫌な予感が押し寄せるが青年は冷静に震えるポインタでタスクマネージャを呼び出す。

 

 実行中アプリケーション、一つしかないそれのネームバーを確認する。

 

 

 

 

 

 

 

【okonomiyaki.exe(応答なし)】

 

 

 

 

 

 

「クソったれぇええええぇ!!」

 

『うるせーぞ!!』

 

 

 

 いつかは青年がお好み焼きを完食できる日がやってくるのだろうか。




色々言いたいことはあると思うが


本当に申し訳ない

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