西木野真姫は悩んでいた。
「……どうしよう、かしら」
場所は自室。あてもなく部屋をウロウロと往復し、チラチラととある一点へ何度も視線を送る。
自分の机の上に置かれた、黄色の小包み。
言わずもがな、大事な友人への誕生日プレゼントではあるのだが、
「……どうやって渡せばいいのよ」
真姫は天井を見上げて呟いた。
「学校行く時にさり気なく渡せばいいかなって思ってたのに……」
壁のカレンダーに視線を送る。本日十一月一日は、
「……日曜日じゃない!」
学校は休み。加えて、『休息日』としてμ'sの練習もなかった。
「──凛の家に行く? ……いえ、私が誕生日にワクワクしてたなんて知られたくないわ。──明日、学校で渡す? ……当日に渡さなかったら、きっと文句言うわよね凛は……」
浮かんだアイデアを即座に切り捨て、真姫はため息。
「こんなんじゃ、花陽に先を越され……」
そこでふと、彼女の存在に気付く。
「そうよ、花陽は? 花陽が凛にプレゼントを用意してないはずがないわ。花陽と合流しちゃえば、きっとスムーズに渡せるはずよ!」
舞い降りた天啓。真姫はケータイを取り出し履歴からすぐにコール。数コールで繋がった。
『もしもし? 真姫ちゃん?』
「あっ、花陽? 今どこ? もし暇してるなら──」
『今? 今は凛ちゃんの家に向かってる所だよ。もうすぐ着くけど』
「えっ……」
『凛ちゃんとは、毎年一緒にラーメン食べに行ってるの。だから今年も。──あ、着いたよ、凛ちゃんの家』
「ま、ま、ま……?」
『ま?』
「待ちなさいっ! 凛の家に入ったらダメよ! 私が行くまで、そこで待機!」
『え、えええ⁉︎ 何でぇ⁉︎』
「分かったわね!」
困惑する花陽の返事は聞かず、真姫は通話を切る。そして机に置かれた小包みをひと睨みすると、鞄に放り込んで部屋から飛び出した。
全速力で星空家へ向かった真姫は、その門扉のすぐ横で塀にもたれかかる人影を見つけた。『待て』と言ったのは確かに自分だが、相変わらず律儀な性格だ。思わず口元が綻んでしまう。
「──あ、真姫ちゃん」
花陽もこちらに気付き、壁から背を離す。
「お待たせ」
「う、うん……それはいいんだけど……一体どうしたの?」
「……大した理由じゃないわよ」
花陽は首を傾げると、
「もしかして、真姫ちゃんも一緒にラーメン食べたかったの?」
「いやちがっ……うとも言い切れないのよね……」
謎の天然を発動した花陽に、真姫は語尾小さく言いどもる。
「……まあ、凛のお祝いしたかったのは間違いないわよ」
そっぽを向いた真姫に、花陽はニッコリ笑顔。
「そっか。凛ちゃん、絶対喜ぶよ」
振り返ってインターホンを押す花陽。すぐにドタドタと賑やかな音が家の中から響いてくる。
「かよち〜ん! 待ってたにゃ──って、真姫ちゃん?」
「おはよ、凛。私がいたらマズかったかし──」
「真姫ちゃんも来てくれるなんて、最っ高にゃ〜!」
「えちょっ……」
自虐な発言をしかけた真姫の言葉を遮るように、凛は全速力のハグをかます。なんとか倒れず堪えた真姫は、『ほらね?』とでも言いたげな花陽の笑顔を見て小さく息を吐く。
「ほらほら凛ちゃん、真姫ちゃん苦しそうだよ」
助け舟を出してくれた花陽が、凛を引き剥がしてくれる。
「これ誕生日プレゼントね」
「わ、かよちんありがとうにゃ〜!」
「──ってちょっと!」
あまりにも自然な流れすぎて、真姫は一瞬反応ができなかった。
「わ、どうしたの真姫ちゃん。いきなり大きな声出したらビックリするにゃ」
「あなたに言われたくないわよ。……そうじゃなくて!」
二人へ向き直る真姫。揃って首を傾げ、凛の手には可愛らしい紙袋。
「あ〜〜〜〜〜もうっ!」
真姫は天を仰ぐと、半ばやけ気味に肩掛け鞄に手を突っ込む。
「二人といるとホント調子狂うんだから……!」
足早に凛へと歩み寄ると、空いていた左手に無理矢理プレゼントを握らせる。
「お誕生日おめでと!」
「真姫ちゃん、これって……」
「私だって準備してるわよ! ただちょっと、タイミングが分からないとかはあったけど……」
「…………」
徐々に笑顔に変遷していく友人の表情を見ると、
「……さ、ラーメン食べに行くわよ!」
強引に視線を逸らすように、踵を返すと足を踏み出した。
秋晴れの陽気な気候の中、真姫の耳は真っ赤に染まっていた。