転生者は自由に生きる! 作:那木(なき)いつや
■よくあるような異世界転生ものです。転生で転性しております。
また、ご都合展開もりもりな物語です。
のんびりと更新する予定ですので、よろしくお願いします。
2020.11.01
一歳を迎え、乳児ではなく幼児となった女の子は柔らかな赤子用の寝台のなかで眠りに落ちた。誕生会は盛大に――といってもほかの誰かを呼ぶわけではなく、商家である伯爵家と婿養子である男爵家の二家で祝われた。ふにゃふにゃ笑む幼児の周りに人がいなくなると、大人たちの時間へと移行する。もちろん、なにかあってはいけないと、メイドを残しているが。
そんなことを知らない眠る幼児はといえば、夢のなかで神様と対面していた。神様――高位の存在だと解るのは直感だ。淡い光を放つ球体に恐る恐る「こ、こんにちは」と声をかけると、ゆらゆら揺れていた意識がはっきりとしてくる。瞬間、脳内に
それでも幼児――いや、
そういうことならと提案を飲み、そして自分を大事にしてくれていた人たちの記憶から自分を消すようにと頼んだのだ。ただの人並みの男子大学生・波野望の存在を。もちろん、悲しみに暮れないようにという考えからだ。特に親友に対しては念入りにしてくれと。
神様は記憶の消去を承諾し、自身はこうして生まれ変わった。剣と魔法のファンタジー世界へ。――そこまでの整理が終わると、望は視線を遣る。淡い緑の長い髪と金色の瞳が特徴的な女性へと。神官が着るような服を身につけた神々しい人。つまり、女神様だ。どうやら球体ではなくなったらしい。
「記憶は戻りましたか?」
「はい、戻りました」
小さく頷いた望に対し、女神様――太陽神・アルレは続ける。一歳になるまでの意識を阻害していたのは、大学生の記憶持ちで赤子から過ごすのは辛かろうという配慮であると。そして頭を下げた。「申し訳ありません!」と勢いよく。
いきなりのことに望は「んんっ!?」と驚くが、よくよく話を聞くと、性別が変わっているのは性別の設定を間違えたからのようだ。
「なるほど。まあ……、間違いは誰にでもありますからねえ」
「ゆ、許していただけますでしょうか……?」
「悪気があったわけではないでしょうから、許しますよ。再設定も無理そうですしね」
「いえ、再設定は出来なくはないのですが……、その……」
「ああ、ふたたび死ぬということですね」
「はい。そういうことです」
言い澱むアルレの代わりに答えた望は、返答に「なら」と返す。
「このままでいいですよ。せっかく助かった命ですので、もう一度散らすのは避けたいです。オレが女の子の躯に慣れていけばいいだけのことですしね」
「そう言っていただけるのはありがたいですね! 実はですね、手にかけるのは嫌だったんですよ。どんな種族になるのかも解らないですし」
「えぇぇ……。再設定を望めば女神様にぶっ殺されていたわけですか……。それも賭けの上で」
どんな風になるのだろうかと考えるが答えはでない。このままが一番よい選択だったようだ。
ふたたびアルレに頭を下げられた望は顔を上げるように言い、美しい
「はい……? えっ、えぇっ!? それはどういうことですかっ!?」
「いろいろありまして」
もう一度よくよく話を聞くと、アルレは承諾したとおりに親と友人たちの記憶を消去し、親友であった男の記憶も消そうとした。だがしかし、
「
「いえ、イケメンに頼まれたら断れませんから」
「うん?」
「いえいえ、なんでもないですよ?」
親友が迷惑をかけたと頭を下げた望に返るのは、少々心配になる言葉だ。慌てて訂正するアルレを見る瞳は、疑惑に染まっている。女神であってもイケメンには弱いのだなと。
「しっ、しかたがないじゃないですか! 私だって出会いがほしいんですよ! カッコいい男に惚れてほしいんです! 愛されたいぃ!」
力説する女神様の言葉に「あ、はい」と機械的に返した望に、軽い咳払いが届いた。「申し訳ありません。取り乱しました」と。
「話を戻してですね、私はあなたに感謝をしています。記憶を持っているのも感謝の印ですし、いろいろな魔法を使えるようにもしました。ついでにですが、親友の方もそのようにさせていただきました。いいですか、親友の方がかっこいいからというわけではなく、怒らせるとどんなことになるのか解らないからですよ? けしてかっこいいからではないですからね! 親友の方には私から伝えておきますのでご安心を」
「解りました、よろしくお願いします」
やはり女神様はイケメンに弱いようだ。そう確信した望だが口には出さない。親友がかっこいいのもモテているのも嫌というほどに解っているし、ここで話を拗らせては面倒なことになるだろう。無視というのも賢い選択なのだ。
「では、最後にひとつ。――なにをするにも自由ですので、心の思うままに生きてください」
「そう言われましても、オレは平穏に暮らせればそれでいいんですが……。あ、でも快適に過ごすためには遠慮しませんね」
出来るだけ目立つのは遠慮したいのですが、暮らしには変えられませんからとも言えば、アルレはほぅと息を吐いた。感嘆の音を。「はあ……。謙虚さに癒される。忙しさに荒んだ心が癒される」となにやらひとり感動しているようだ。
「あ……、そうだ。ひとつ聞きたいのですが、ほかにも転生者がいるんですかね?」
「そうですね。転生者も転移者も何人かはいますよ。私ではなく、姉妹が転移・転生させた者もいますね。広い世界で出会えるのかは解りませんが……。ああ、親友の方とあなたは出会えるように
「わざわざありがとうございます」
思いつきの言葉に対して明確な答えを得てからみたび頭を下げた望に、アルレは「親友の方と出会えるとよいですね。私のブッチーを助けてくれたあなたに最大限の加護を」と微笑みを残した――。
ブッチー=斑猫の名前です。女神様のネーミングセンスは安直なのです。