ルームシェアをしてます。ええ、パラサイトって言うんですけど…… 作:凧の糸
完全にレオとジジイの修行回。次回から戻っていきます。
ーー灰土邸地下一階、訓練室
カン、カンと二つの足音が響いていた。
レオに気の何たるかを教えるべく、範利に許可を貰ってから家の地下まで正虎は案内した。レオはやたらと長い階段にほんの少しだけ不審感を覚えていたが、黙々と下へ、下へ降っていくのだった。
「ここが、特別地下室だ」
大きな扉には01とナンバリングされており、奥にもいくつか同じような部屋があるようだった。
「つーか、地下室なんてあるのか……」
広さは一高の演習室の2〜3倍ほどの広さがあった。観察の為に設けられた覗き窓が壁に付いており、ガラス越しにそこには様々な機器が雑多に置かれていた。
「ほら、小僧。やるぞ」
老人のしゃがれた大声はコンクリートの室内ではよく響いた。
「小僧じゃねぇ、西城レオンハルトって名前があるんだよ」
レオも負けじと声を張り上げる。それに、レオにとってすれば小僧と言われるのが単に気に食わなかった。
「生意気か、悪くはないな」
二匹の獅子は心の炉に轟々とした火を焚べた。
「よく目ェ凝らして、自分の体の中にあるモン見れるか?」
「ぼんやりとだが……このモヤみたいなのか?」
レオは言う通りにうんと目を凝らすと腕にモヤが纏わりついている様が見えた。呼吸とともに膨張したり、収縮したりしている。
「一番最初はワシみたいに指先に集めてみろ。お前は見えるからな、直ぐに出来るはずだ」
正虎の指先を見るとどんどんとエネルギーが収束していっている。
「ああ、分かった」
ゆっくりとモヤが指先に結集していき、レオの指先が緑色の灯りを灯した。
「おお! ひ、光ってんのか!?」
魔法科高校の学生だからこそ、CADから出力される魔法とは明らかに異なる原理の発光に目を丸くした。
「それがお前自身の生命力を変換したエネルギーだな。ワシはこれを使って戦いに応用したりしている。お前さんのCADの形から見るに、頑丈な籠手をイメージしてみろ、普段使いしている物の方がイメージし易かろう」
「おう、やってみる」
レオは早速試してみたが、すぐに頭を捻り始めた。
「いや、うーん……?」
レオはいつも使っているCADをベースに洋風の籠手を想像して、
「初めてにしては良くやった方だな。だが、理解が足りていない。漠然とし過ぎてるのだろうよ」
「うわ、難題だなぁ……」
ぽりぽりと困った表情を浮かべながら頭を掻いた。
「そう気を落とすな。まあ、明確なカタチに落とし込まなくても使えるには使える。どちらかと言えば、こっちを教えるつもりだった」
正虎は部屋を暫く空け、戻ってくると厚みのある金属製の板を何枚か持ってきていた。
「まさか、板割りするつもりか?ジイさん」
台座に金属板を嵌めて固定されている。照明のライトを反射して鈍い光りを放っていた。
「そのまさかだ」
レオは本当に割れるのかと不安になった。エリカを通じて習得した薄羽蜉蝣を使えば切断出来そうだが、それが無ければただ大きく凹ませるだけしか出来そうに無かった。
「まず、気を集める。見ておけ」
バゴン!!と地下室を振動させる爆音が鳴ると、金属板には一つの穴がポッカリと空いていた。
「マジかよ……」
「これくらいは簡単だ。お前もすぐに出来るようになる。気は纏うことで攻めにも守りにも変幻自在に変化する。気によって自分の力を高めることで、板を破るに至るのだ。取り敢えず、最初は板を破ってみろ、板割りはその後だ」
「兎に角、やってみるか……」
板の真っ向に仁王立ちしたレオは目を通じ、右手に気が集めることに集中した。
「こんなもんか」
気はふんわりとしたムース状の形で維持されている。針で刺せば割れてしまいそうだとレオは思った。
「やってみい」
バゴン。
先程よりも音は小さい。彼自身の予想通り、板の表面に凹みを作る事は出来たが、正虎のように破るとはならない。やはり、2、3度やっても結果は変わらなかった。
「破るという意志を込めんと、板はいつまで経っても破れんぞ」
「……」
正虎のアドバイス通りに、『板を破る。絶対に破る。破壊してみせる』と意志を込めて、拳を振り抜いた。
「……先ずは第一関門突破、と言ったところだな」
板の向こうから、出来て当然という顔をした正虎の顔がよく見えた。
まずは西城レオンハルトの一念が金属板を通したのだ。
「纏う事で力を得られるのは何も攻撃に限った事ではない。移動や防御にも応用できる。ワシくらいになれば身体の表面に常に展開することで、全体的に強化できるのだ。この段階に至るのに十年は掛かったがな」
レオが意識して目を凝らすと、正虎の身体中に清流のような気が流れていた。あまりにも自然過ぎて、よく目を凝らしても薄らとしか見えないくらいの仕上がりだった。まるで透明な薄皮を被っているようだった。
「アンタでも十年かよ……」
「ワシはほぼ手探りだったからな。ふむ、レオンハルト、貴様なら一ヶ月も有ればギリギリ習得できるだろう」
レオは目を丸くしたが、直ぐに冷静になってこう言った。
「アンタが励まそうとは思えないしな、そうなのかも知れないが……ホントに出来るのか?」
「自分を信じろ。信じれなければ、目に見えるものも見えなくなるぞ」
真っ直ぐで、老人とは思えない、一寸の濁りも無い瞳に見つめられて思わず身がすくんだ。
「うん……ま、こんなクヨクヨするのも性にはあわねぇや」
俯いていた頭を起こし、正虎の正面に胸を張って立った。
「教えてくれ、正虎」
「いいだろう、若人よ……」
まだまだ月は大地を照らし始めたばかりだった。尤も、地下にいる彼らにとっては時間など毛程も気にするものでも無いのではあるが。
その時だった。
グュルルル……
二匹の大きな腹の虫が随分と気の抜けた音を鳴らした。
「……腹が減っては戦ができぬ、だな」
「……だな」
二人は併設された部屋のキッチンに大人しく、そして足早に向かうことにした。
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「さて、次だ」
「おい、青のりついてるぜ」
先程作った焼きそばにかかっていた青のりが歯に付着していた。なんとも締まらない始まりである。
「……説明に移る」
後ろを向いて、正虎はモゾモゾと動いたが、レオはそれを見て見ぬフリをした。
「では、今度こそ始めるぞ」
正虎は咳払いをして喋りだした。今度こそ青のりは付着していなかった。
「先程は単純に纏っただけ。よく見ていろ、これが違いだ」
手に纏われた気が刀のように鋭くなっていく。そして、固定された板に勢いよく振り下ろした。
「切れていない?」
レオは金属板が切断されたのだとばかり思った。しかし、どういう訳か粗の一つも無い。
「触ってみろ」
やはり、見た感じは何も板には変化した様子も、割られた様子もない。
「おいおい、まさか……」
レオはアニメか漫画の話かよ、と内心思いつつ、ちょん、と軽く触った。
パカっ……!!
触った瞬間に真っ二つに割れて、床に二枚の板がゆっくりと落ちた。
「これが、『
知らぬ間に手は赤色の気に包まれていた。触れれば真っ二つにされそうな、危険な香りを漂わせている。
「気の形状を変えて、様々な用途に利用できる。不抜のように鋭い剣の形で物を切ることも出来るし、こんな風にロープにだって出来る。限度はあれ、本人の力次第で化ける技術だ」
気をロープ状に変えて、プラプラと左右に振った。
「限度って?」
使う以上、レオは聞いておきたかった。そして、すぐに正虎は答えた。
「本人の生命力だ。多ければそれだけ色々とリソースに回せるが、少なければ構造が簡単で、脆いものしか造れない。これに関してはどうにもならない、お前たちが使う魔法みたいな素質がいるな」
続けて正虎は気は気分や体調にによって左右されるとも述べた。気分が良い時にはスポーツでプレーが良くなったり、テスト前に神経をすり減らした学生のお腹が痛むのもこの原理だとも彼は述べた。レオは、自分にもその経験があったので「そんなモンなのか……」と納得と拍子抜けとを感じた。
「ほら、訓練だ。さっさと身に付けやがれ」
正虎は拳に気を纏わせて、構えた。
「はいはい、師匠」
直ぐさま理解したレオは挨拶がわりに肘鉄を喰らわせようとしたが、正虎のとった大きなバックステップで仕切り直しとなった。
「半殺しになるように手加減してやるから、安心して気絶して良いぞう」
「へっ、ジョーダンか?」
老人と若者の殴り合いはまだ始まったばかりだった。
オリジナル用語について
・アルケー
ここでは、気によって生み出される仮想上の物体であるが、
・不抜
知覚出来ない速度で行われる、気を使用した斬撃。あまりの速さに物体そのものが斬られたことに気づかず、切断されていないと誤認してしまう業。名前は業の使用後も切断に気付くまで、拳を抜いていないと勘違いしている所から由来する。
・赤い光
不抜の使用後に発生した残り香。不抜を連続し続けると過剰にこれが生成されて生命力を著しく失う。正虎の持つ大量の生命力があるからこそ使用できるのであって、常人であれば二回で倒れる。
・正虎の体の表面を流れる気
常に展開されているパワードスーツのような物。内部の恒常性を保つ事が出来るが、それはあくまでもおまけ。正虎が考案するのに十年の歳月が掛かったが、理屈は驚くほど簡単に説明できるらしく、才能を持つレオンハルトであれば、一ヶ月でギリギリ習得できるらしい。だが、本質は容器に過ぎない。