ルームシェアをしてます。ええ、パラサイトって言うんですけど…… 作:凧の糸
いただいた感想も参考にしながら作りました。今回でようやく高校生とはどうみても思えない高校生と出会います。殆ど絡みは無いですけどね。
全然関係ない私事ですけど、熊と遭遇しました。遠目から山の斜面で黒い塊が柿を食べてて、珍しいこともあるなあと思いました。耕作放棄地とか人気が無くなると出てきやすくなるらしいんで、山の近くではお気をつけて。
「よっし、四匹目だな」
倒れている小柄なマスクマン(もしくはウーマン)を傍目に範利はモゾモゾと動き回るパラサイトを捕獲した。範利たちにとって頭脳労働担当のリチャード博士がわざわざ収納ケースを作成したのでそこに放り込んでいるのだ。
これには理由があり、既にキャシーというパラサイトが身体にいる以上、二匹目を身体に収納するのは不可能だと聞いたからだ。あと、パラサイト自身の本能も関係があるらしい。
キャシーがその説明をした時にちゃんと聞き耳を立ててはいたが、範利はすぐに鼻提灯を作ってしまったために聞き流してしまっていた。
「にしても、この小さい容器でパラサイトのネットワークをシールド出来るって凄いよねぇ……」
弁当箱(2090年代も21世紀初頭のそれとほぼ同じくらいの大きさをしており、中身の食材を凡ゆる面で守る機能が追加されている)くらいの大きさのケースは真っ黒な表面に艶消しが施されている。パラサイト同士の通信を防ぎ、容器内部で全てを完結させる代物はとても短期間で作ったとは思えないくらい。側面には簡易なスイッチが付いており、収納と放出が兼ねられていた。
(私を誰だと思っている……過去、アメリカではな……)
(そう言えば、弁当箱に似てるけど……まさか?)
リチャードが眉間にシワを寄せると、決まって長ったらしい話が延々と続くことがほとんど。咄嗟に話を逸らすためにこう言ったが、頭のの片隅で放置されていた予想がみるみる内に肥大化していく。
まず始めに、リチャードはケチだった。相当に優秀な学者の彼が昔、「研究したかったけど、金も無いし、パトロンもつかなくて色々と諦めた」とため息混じりに洩らしたことやそのボサッとした髪、少しだけよれた白衣から分かるように、とにかく金欠の状態が長かったらしい。
その為に彼は活用できるのならゴミでも使うと日頃から公言しており、実際、灰土家の大きな倉庫には沢山のガラクタやジャンクが眠っていた。レオと正虎の訓練時にガラス越しに見えた何かしらの器具とはまさに彼のジャンク品の事である。
最近壊れて捨てたはずの弁当箱とよく似ていたので、彼の性格も考慮して、まさか違うだろうと願って聞いた。
(そうだが?ちょうどいい大きさだったのでな)
(やっぱり……)
ゴミ箱に捨てた弁当箱を改造して、パラサイト専用の容器に仕立てた挙げ句、おまけに艶消しまで施しているとは呆れてものも言えなかった。変なところで細かいのがリチャード博士の長所であり、同時に短所でもあった。
「待て」
威圧感のある声と数人の気配を察知した。
(逃げよ)
どういうつもりかは知らないが、パラサイトを追っかけている集団がチラホラといるのは知っていた。後から達也を通じて聞いた話だが、一高の先輩にあたる七草真由美と十文字克人を頭に率いられた集団も参戦してきたらしい。彼らは日本の魔法師界を実質的に統べる十師族の出という名家の坊ちゃん嬢ちゃんだそうだ。しかし、その実力は既に高校生の物を超えていて、下手な魔法師であれば手も足も出ないと言う。
固く"約束"をしたので、達也や深雪たちが範利たちの事情を言う事はないだろうが、逆にそれが足を引っ張る形となり、面倒くさく、より複雑化していた。
彼ら相手にスタコラ逃げてもどうにもならないのはよく知っているので、通路を利用して、角で天ちゃんと交代した。
(おっけー!それじゃあ替わるよー)
(今回は頼む、天ちゃん)
(ふっふ〜任せなさい!!)
0.1秒で入れ替わると、今回は彼女の自慢の足を使わずに、滅多に使わない方法を取った。
(いくよー、
心の内で、有り得ざる現象を発現させる魔法の言葉を呟くと、彼女は文字通り、その場から消滅して灰土邸に飛んだ。
(あー、疲れた……やすむね……)
いつでも元気ハツラツな天ちゃんがこんなにもクタクタになるのを見ると、相当の負担が瞬間移動にはかかるのだろう。
「ああ、おやすみ、天ちゃん」
範利は自分以外の誰もいない、暗い部屋でぽつりとそう呟いた。
一方、闖入者の彼らは……
「何処に消えた!?魔法を使った形跡すらないんだぞ!」
「こちらにもいません……まるで幽霊みたいに……」
範利と天ちゃんが交代した地点から、何も知らない彼らにとっては不思議なことに、そこからあらゆる情報の糸がプツンと切れてしまっていた。魔法師である自分たちが見れば残留サイオンの気配は判別出来そうなものと思っていた。事実、それに特化したメンバーも連れてきていた為に、ますます謎を深めることにも繋がった。
「……やはり、この角で何かが起こった。アンノウンの外見のデータは今回取れた。早速、分析に回してくれ」
「了解です、克人様」
第一高校の会頭にして、十文字家の次期当主ーー実質的には当主と呼ばれている彼は、ただでさえ深い顔のシワを一層深いものにした。
「すいません、ただいま到着しました」
要請していた霊視放射光過敏症のエージェントだ。まだ経験は少なくとも十文字がひいきにしようと思うくらいには優れた腕の持ち主だった。
「来て早々だが、頼む」
「いえいえ、私の仕事ですんでね」
特殊なオーラ・カット・コーティングが施されたメガネを、やってきた彼女は外し、アンノウンが姿を消した角をじっと見た。
「……!!これは……」
「何が、見えた?」
尋常ではない驚き方と、まるで、美しい光景でも見たかのようにじっと固まる彼女に、克人や周りの人物も緊張を煽られる。
「きれいだ……」
__________________________________________
「うぃーす、達也……と深雪クンもか?」
ややテンション低めの挨拶を達也にした後、締まらない顔のまま深雪にだけかなり変わった挨拶をした。カッコつけているつもりなのだろうが、妙に滑稽なのは、二人も範利以外の皆も黙ることにした。更に言えば、範利の隣には
個室付きの料亭で待ち合わせをしていたのは、聞かれたくないことがあったから選んだのだ。
実際は範利たちが料亭でメシを食いたいという極めて個人的な理由が潜んでいた。このことを二人に教える気はさらさらない。深雪や達也はかなり遠慮していたが、範利は腐るほど金を持っていたし、ほんのお礼だと押し切ると無理やり納得させて、達也たちが今度何かを奢る事で丸く収まった。
「あら、なんだか不思議な呼び方ね?」
深雪がそう言いおえる前に範利の姿はすぐさま別の人物に交代した。
あっ!と声を上げたことから恐らく強制的だったのだろう。
「すまないね、二人とも。範利、アホだから最近ハマってる推理ドラマのマネしてんだよ。……あ、そうか。俺はシンジだ、範利とは昔からの付き合いなんだ、よろしく頼むぜ」
「まさか……」
達也は推理ドラマというところを見逃さななかった。
「そうだよ、
「ドラマの名前はなんて言うんだ?」
範利をここまで夢中にさせるドラマとは何なのか少しだけ気になった。最も、深雪が首を傾げていたので、情報の補足をするために行った発言だろうが。
「『名探偵明智睦五郎の戯れ』だ。有名だぜ?小和村真紀っていう最近ノリに乗ってる女優が出てるし……っても達也は深雪に首ったけか」
シンジはわざとらしく、一本取られた!という顔をして、口元から白い歯を覗かせた。
「まあ!うふふ、なんてことを……」
深雪の機嫌はみるみる内に天元突破した。隣の達也はあんまりいい表情ではなかったものの、妹の姿には勝てなかったようだ。
「さて、じゃあ本題にはいろーぜ」
茶番もそこそこに本来の目的に移ることにした。深雪も流石と言ったところか、鈴を転がすような声を抑え、三人の間には静謐な雰囲気が訪れた。
「お前の正体についてだが、俺たちの先輩ーー十文字先輩から揺さぶりをかけられた。お前……いや、お前たちはどうしたい?」
達也から口を開いた。
達也や深雪はどちらかと言えば中立の立場を取りたいところだった。正虎という老人の驚異的な力、そして範利たちの総合的な実力が未知数である以上、下手に敵対する真似はしたくなかった。自分達と彼らの思惑が合致しているから協力体制が敷かれているので、七草、十文字に関わることを避けられないことからも同盟者の意思を耳に入れておくべきと達也は判断した。
「いいよ、達也たちの裁量に任せる。一匹でも捕まれられたら良いってスタンスは崩してないからね。ただ……俺たちというよりはキャスっていう"パラサイト"と協力関係にあるっていう設定で知らせておいてくれない?」
「……了解した、それで行こう」
キャスといういる訳も無いパラサイトに関するざっくりとした設定も協議しながら、別の話題に移る。
「あと、俺たちからはもう一つある。お前たちが交戦したと言った集団は恐らくUSNA軍だ。更に戦略級魔法師、アンジー・シリウスとも遭遇している。こう言うのも何だが、よく生きていたな」
「まあね、逃げるだけなら容易く出来るからな。しかし、中々に面倒な相手だぞ? ついでに、聞いた情報を繋げると……多分味方殺しだな、あれは。パラサイトに対して表面的な宿主の死は意味を為さないから恐らくな」
パラサイトの存在を知っているだろうUSNA軍がやたらと殺害に固執する理由は軍機を破ったあたりだろうというのが範利たちの見解だった。宿主にとりついて貰った方が、行動をある程度制限出来るのでやめて欲しかったが、ぶつくさ言ったところでどうなる物でも無い。
コンコン。戸が突然叩かれる。
「ビーフシチューで御座います……」
ホカホカの湯気が漂い、牛肉の旨味がふんだんに閉じ込めてあるシチューが出された。味に特別こだわりのない達也でもその香りや色合いから『美味そうだ』と思うくらいの逸品であった。
「あ、俺です」
シンジ……というよりはハイドか。先にビーフシチューを頼んでいたらしい。「頼めよ」とシンジは二人を促した。
「メニューのようなものは……無いのですか?」
こう言った店は前々から頼んでいたり、メニューを出されてから決められたりするパターンが多い。しかし、ハイドが前から頼んでいた様子もなく、無論後者でも無い。不審がる二人にシンジはビーフシチューを一旦置いて口を開いた。
「この店は頼んだものを何でも作ってくれるよ。めちゃくちゃなのを除けばね。時間さえ有ればちいさい満漢全席も作ってくれるよ」
めちゃくちゃ過ぎるが、細かいことはどうでもいいのだ。
「成る程な……では、俺はーー」
「私はーー」
三人は穏やかな時間を過ごせた。時折交わされる会話は魔法師も非魔法師の差もなく、彼らは休日を満喫したとだけ言っておこう。
どうでもいいあとがき
・店
何でも作ってくれるお店。その代わりにお金持ちでもかなりお財布にダメージを与えてくる。ただ、味は超一級で、予約が絶えない。今回はコネを使って入店した。人格の一人が店長と親しいので範利はコネが無くとも入ることは出来る。