ルームシェアをしてます。ええ、パラサイトって言うんですけど…… 作:凧の糸
リーナと邂逅する回。
それではどうぞ
「ねえねえ、俺の出番は?」
新たなるパラサイトを捕獲した範利の脳裏では奇妙な杖を携え、いかにも魔法使いといった紫と白が入り混じるローブを着た、男が文句を延々と垂れていた。
「ダメだ、お前は全部をめちゃくちゃにするだろうが」
彼は範利の中に存在する人格の内でも特に異質な力を持つ存在だった。彼について何かを語るとすれば、
「うお! 俺より俺のこと知ってんじゃん!」
「そりゃ、お前は俺だからなぁ」
その時、グオン!!と右手が赤黒い異形の手に変化した。とても醜く、視認した生物に等しく汚い雑巾を口に押し込まれるような感覚を与える。長い爪は茶けていて、どんな刃物よりも鋭かった。腕の変化に伴って爪と接触したコンクリートの壁は熱したナイフでバターを切るようにいとも容易く切断された。
「あー、だから嫌なんだよ……」
範利の顔は思わずしかめっ面になる。チクチク、と言えば可愛らしいが、針で刺される痛みを千倍に凝縮したような激痛が走っているのだ。
常人がこんな激痛を喰らえばショック死してしまうが、範利たちは生憎普通の人間では無い。範利以外の人格が範利自身の脳を弄りまわしてかなりの痛みを緩和し続けていた。
「あれぇ? コントロールし終えたはずなんだけどなぁ……?」
「もうコントロール出来るのか?」
彼がやたらと煙たがられるのは、能力をコントロール出来ない一点にあった。彼が"召喚"した獣はコントロールされていない召喚の影響と、次元の壁を通過した事による若干の変質によって手のつけられない怪物と化していた。幸いにも以前は範利たちの領域で殆どのパワーを抑える事が出来たので送還することが出来たが、それでも二週間ほど回復のために強制的に睡眠状態に陥ってしまう、人格たちから大きく顰蹙を買う状態に突入させたこともあった為である。
「やべ、二等級までしかコントロール出来てないな……やはり一等級だからか……」
ブツブツと顎に手を当てて、独り言を呟き続けている。
「おい、もう良いのか?そろそろ逃げたいんだが」
幾らかの戦闘の内、一番静かな交戦だったが、何処から嗅ぎつけたのか人気がし始めていた。
「ん、いいぞ。逃走してくれ」
「珍しいな、嫌がると思ってた」
逃走にリソースを割くのを彼は嫌がることが多かった。どのみちあと十秒で、張り切って逃走するつもりだったのでここまでキッパリとした言い方に範利たちは驚いていた。
「珍しいわね、アイツがこんなに決断早いなんて」
「彼は合理的思考の持ち主だが、ややのめり込みがちだからな。今回は結論が早く纏ったんだろう」
霞とリチャードは随分と呑気な口調でそう評した。
「俺はそこまで呑気じゃないよ、ただ、熟考しやすいだけで」
抗議の声を彼は上げた。彼はむすっとした顔で二人を咎めた、特に霞の方をジロリと睨んで。
「仲良くしてくれよ……お前ら」
「やっぱり範利も霞には苦労させられてるよ、こんな暴力ガサツ女」
「何ですって!!」
「まあまあ」
唯一年長者のリチャードが今にも取っ組み合いの喧嘩をしそうな二人を抑えている。しかし、研究者の彼は荒事にはめっぽう向いておらず、両方の腕がぷるぷると震えだしていた。
「はぁ……うるさ」
脳内がキャンキャンと喧しい中でも、決して逃走の手を緩めなかった範利は一番楽に終わる筈だった夜に深い、深い溜息をついた。
「この!」
「オラッ!!」
リチャードという堤防はすでに決壊し、真っ先に二つの拳を喰らって今は夢の中である。罵り合い、殴り合っている彼に名前は無い。本人も記憶が曖昧らしく、召喚出来ることと、豊富な知識だけが残されていた。
彼に便宜上、付けられた名前は「アレイスター」
かつて『世界で最も邪悪な男』と評され、近代魔術史に大きな名を残し、魔法が知られるようになった現在でも海外ではカルト的人気を誇る
そして、今、彼は一人の少女にボコボコにされていた。
「あひ……あひ……」
「ふう、すっきりしたわ」
アレイスターは床に体を投げ出し、不明瞭な言葉で呻いている。対照的に霞はすっきりした顔であった。
「ホント、腕っぷしが何故かこういう時だけ強いよね……」
「範利、何か言った?」
ゾッとする程無垢な顔をしていた。髪は……言わないでおこう。
「……いいや、何も」
暴力ゴリラ女ーーシンジが以前言ったことが一瞬、本当に刹那の間だけよぎった。
「嘘ね、だって私はあなただもの。考え事くらいはお見通しよ」
「うげ」
この後、アレイスターと仲良くボコボココンビが完成した。朝、風呂場にて確認すると、現実にもちょっとだけ反映されており、足や腕には青痣が残っていた。
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週末、司波邸ーー
達也は深雪とともに大型スクリーンを眺めていた。勿論、この二人が映画などというありきたりな物を観覧している筈が無い。3分割されたスクリーンのメインセクションには成層圏監視カメラが映した東京都心部のリアルタイム映像、その上を移動する3種の光点、サブセクションの上半分にはメインセクションに対応する道路地図とその上を動く光点、下半分にはテキストデータが三十秒間隔でスクロール表示されている。
これらは全て独立魔装大隊の隊員によって成り立っている。真田は監視カメラを、藤林は捕捉された電波を独立魔装大隊所有のスパコンで分析し、結果を流しているのだ。
達也はムーバルスーツの件や今までの付き合いで薄々気づいていたが、規格外の実力に改めて舌を巻いていた。
「スターズはパラサイトを探知する、我々より優れた技術を持っているようだな」
達也は妨害勢力をスターズと決めつけ、その動きに感じ入っていた。
どういう理屈かスターズはどの勢力よりもいち早くパラサイトを検知して攻撃を仕掛けている。未知の技術に好奇心を掻き立てられるが、達也はゆっくりと身体を起こした。
「お兄様、行かれるのですか?」
「いい子だから、大人しく待っていてくれ」
達也は切なげな眼を向ける妹をなだめすかし、いとしげに頬を撫でた。
「今日は、お帰りをお待ちしております」
深雪は、兄の無事な帰還を疑うようなことはしなかった。
「ああ。近いうちに、間違いなく、お前の力が必要になる。その時はーー」
「はい。その時は、一緒にーー約束ですよ、お兄様」
「……まあ、横浜の時ほど危険なことにならないと思うけどな。範利もいるからね」
達也は少しおどけて言うと、深雪は笑顔で達也の手を解放した。
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「よっ、達也」
「早いな、範利」
達也は範利を呼び出し、合流地点で落ち合うことを決めていた。達也の予想よりも早く範利は来ていたが、気にする事では無かった。
「今日は、替わらないのか?」
「ああ、俺が出る」
達也はいつも彼が別人格に替わって戦うのを見ていたから、彼自身に戦闘力が乏しいものと思っていた。しかし、範利を見る限り自信はあるようだが……
「俺自体は、というより、みんなの力を借りて戦えるんだよ、俺だけがね」
「そうか、じゃあ行こう。彼らは既に戦闘中だ」
達也と範利はパラサイトと仮面の魔法師の戦闘を木陰から観察していた。範利は思わず気配を見失いそうになるほど希薄だが、心強いと思えた。
真由美からの情報ではパラサイトは複数、これを追う狩人も複数と聞いていたが、目の前には二人、見覚えのある者であった。彼はあくまで集団の動きを見て最初に戦闘が発生する地点を予測しただけであるが、まさかここまで命中するとは望外だった。
(偶然、だよな……?)
戦慄が背筋を這い登って気配を漏らしそうになる。寸前で押し留めたが、範利は察知したらしく、こちらに二秒だけ視線をよこした。
(恐ろしい感知能力だ……)
しかし、運のいいことに範利以外には気づかれていない。仮面の魔法師優勢で、パラサイト側は今にも逃げ出しそうであった。
(四人か。予想通りとはいえ、少ない)
四勢力が複雑に牽制をし合う中で、四方向から四人の魔法師がこの場に迫っている。よくも別の勢力に気づかれずに集めたものだと達也は思った。
達也は範利にハンドサインーー武器の使用と待機を出し、銃をホルスターから抜いた。範利がギョッとしなくて助かった。と思いつつ、パラサイトの腹を狙って無造作にパラサイトへと弾丸を放った。達也の目的が命中ではないことを範利は察したが、細かいことは何とかしてくれるだろうと丸投げ、よく言えば信頼していた。
仮面の魔法師は、金色の瞳を達也に向ける。
彼女がナイフを捨て、彼が銃を手放したのは同時だ。CADを先に抜いたのは達也。しかし、引き金を引くのを止める。相手の自動拳銃の銃身に魔法式の展開を彼の眼は確認したからだ。
範利はCADのことに詳しくないが、達也よりもあの金目女のほうが速いことは分かる。
(俺の出番ではないかな?範利)
(……やれるか)
(俺はお前、お前は俺だろう?)
(頼むぜ)
一方の達也はCADのセレクターを操作して
バン!!
「何!?」
アンジー・シリウスの思惑を外れた銃は暴発し、勿論の事であるが達也には命中しない。
「今だ」
達也は範利の人格の一つを明確に確認しつつ、視界に映る「色」と「形」と「音」と「熱」と「位置」を記述した
ーー次の瞬間、魔物は天使に生まれ変わった。
今日も新たな人格が登場しました。原作では達也とリーナだけでの邂逅なので、完全に「誰?」と困惑することでしょう。最も、その暇が有ればですが。