ルームシェアをしてます。ええ、パラサイトって言うんですけど…… 作:凧の糸
前回の続き。タイトルで察してくれ。
「ほー、美人ですなあ……」
随分とわざとらしい口調に毒気を抜かれたようだった。
赤く、竜のように唸る髪は真っ直ぐで穢れなき金糸で紡がれており、禍々しかった黄金の眼は蒼穹の色をしている。肢体は天女を嫉妬させ、ヴィーナスを驚嘆させるだろう黄金のバランスを保っている。
「範利……ではないな」
「そうだな……アレク、でどうだ?」
空中に何かを投げるようなアクションを行いながらの挨拶は達也に変わり者の印象を与えるには十分だった。
「では、アレク。あれはお前の仕業か?」
「そうだ。私の魔術、と言うべき力でな。どうだ?美少女が悶える様は。男子高校生はこういうのがお好みと聞いたのだが……ああ、すまない。深雪嬢に氷漬けにされてしまうね」
おどけた口調でそう言った。一方、深雪が本当にやらないとも言い切れないので、達也はアレイスターのよく回る口を黙らせたいと片隅で思った。
「……俺にはそんな趣味はない。喋れるようにしてくれ」
腕に絡みついていた精霊はぐるぐると巻きついていき、全身を縛り付けてアンジー・シリウスーーリーナの簀巻が一つ放置されていた。もごもごと何かを喋ろうとしているが、口の中に綿を詰められているような状態に等しいので、罵倒の一つも出ることは無かった。
「アイアイサー、ほらよ」
リーナの口元はするりと解けていき、自由になる。
「っアクティベイト、『ダンシング・ブレイズ』!」
リーナは好機と見たようで、『踊るナイフ』とでも訳される言葉を放つ。音声を認識したダガー型デバイスは自身に刻み込まれた術式を発動させた。
達也はこれが高度な遅延発動術式によるものと理解し、興味を示しつつも、対応を図る。
「たつや〜たのむぜ」
実に気の抜ける声で、リーナも「何を言ってるんだコイツは」と目で言っていた。達也も同様である。
「はぁ……」
やれやれと言った表情で高速で襲いかかるダガーを全て分解して見せる達也。ぼろぼろと土塊になる様を見て、リーナは目を見開いていたが、アレイスターは呑気に「おお、すげ」とお腹を服の上からポリポリと掻いていた。
「腐食……いえ、分解……?」
「どうでもいいんじゃない?キミは自分の心配をするべきだと思うんだけど」
リーナが呆然としていようがアレイスターは構わずに冷たい言葉を投げかける。
「ッ!タツヤ!!それに貴方も……もう後戻りは出来ませんよ!」
「これで簀巻でなかったら格好がつくんだがなあ……」
正直、滑稽である。アレイスターはカリフォルニアロールみたいと煽ってやりたいところだったが、流石に後で殺されそうなので、やめた。
「アンタ、その化けの皮がなんで効かないか、知ってるか?」
「っ……」
リーナは悔しげにギリリと歯噛みした。余程自信のある虎の子の一匹だったのかも知れない。達也に視線を向けると、肯定の意思を示した。
「今、巻きついてるのは視覚がないんだ。アンタの匂いと音で距離、温度、位置を特定する、アメリカ語では……
達也は少しずつだが、虫のような生き物が
「わたっ!」
喧しくなるだろうから、アレイスターは再びリーナの口を閉じさせた。
「で、どうする。簀巻女、有名人だろ?……お」
達也はせっかくパレードへの対抗策を用意したが、全くその必要がなくなってしまったことに少しだけがっかりしていた。つまるところ、彼もそれなりに人間であるということだ。
更に言えば、達也はアレイスターの発した含みのある言葉に引っかかりを覚えていた。彼の様子はまるで空中の何かを覗いているような格好であって、奇妙な印象を見るものに与えた。尤も、達也には羅針盤の形をした不思議な生物を視認できているのだが。
「達也、いるのは分かる?」
「ああ、出来るか?」
「勿論」
リーナは自分の味方が狙われていることを直感で察した。振るわれる暴力を防ぎたかったが、自分は惨めにアスファルトの上。彼女の握り拳はグローブが無ければ、血を流しかねない程の強さで握られていた。
アレイスターが虚空に指を振ると、エイドス上に大型のハゲワシ型生物が大量に現れた。そして、警官の仮装をしたUSNA軍の兵士の下へとひっそり飛んでいく。達也は視界の隅にそれを入れながらリーナに話しかけ始めた。
「……では、リーナ。いや、アンジー・シリウス。君はーー」
「お兄様!ご無事ですか!?」
「……深雪?」
愛する妹の声がしたので振り返った。そして、駆け寄った深雪は達也の側にいて、リーナなど気にならないようである。
「げー……砂糖吐きそう」
アレイスターの口からはさらさらと白い粒が零れ落ちている。かなり高等な複数の魔術を無駄に組み合わせて使っていて、見るものが見れば腹を立てながら称賛しそうな光景であった。
「隣の方は……範利さんの?」
「アレクと呼んでください、深雪嬢。貴方のお兄様は無事ですよ」
アレイスターが絶世の美少女に鼻の下を伸ばしている間にもう一人がやって来た。
「いやー、凄いね。たまげたよ」
「師匠、少しトゲがありますよ」
陰に隠れていて、良いところを掻っ攫おうとしたのだろうが、アレイスターに全部持っていかれたのだ。これには達也も心の内でクスリと笑みをこぼした。
「凶悪だね、アレ。ロンドンの連中に近い術式だ。無音で空を飛び、肝臓を啄む。いやいや、深雪くんに見せなくて良かった良かった」
「アレは一体?」
ハゲワシに似て、雄々しき翼を翻す怪鳥。
「流石の僕もあまり知らなくてねぇ……
「ソウル・イーターとは恐らくサイオンを喰らう、精霊魔法のような存在でしょうか?」
乏しい古式魔法の知識から自分の予想を話した。
「いいや、本当に魂を食べるんだよ。怖いねぇ〜」
くつくつと笑い、八雲は誤魔化した。聞きたい欲望もあったのだが、まずはリーナの状況を先に進めるべきだと達也は振り切る。
アレイスターと深雪はリーナを見ながら談笑しているようだった。
「他にも、USNAは日本と同盟を組んでいますよ」
内容は現在の世界情勢について。ちょうどUSNAについてを話していた。
「へー、そうなのかぁ……俺には最近の情勢がまったく解らん。達也って詳しいのか?」
「ええ、当たり前です。私のお兄様ですから」
「恥ずかしいな、深雪。アレク、俺はリーナを解放しようと思う」
「いいよ」
バラバラと簀巻が解かれて、一人の美少女が現れた。
「リーナ、ここは痛み分けにしないか?」
「……いいわ、聞きましょう」
アレイスターは訳知り顔でうんうん、うんうんとしきりに頷いていたが、とても胡散臭く、リーナからも「彼、胡散臭すぎない?」と直接言われたほどだ。だが、誰よりもいち早く話を引っ掻きそうな彼はずっと口を閉じている。そのためにいつもよりも話し合いは早めに終わった。
「そう言う方向でいいな」
「私も一介の軍人。約束は守るわ」
達也の中で彼女はやっぱり軍人には向いていないという確信を抱きつつも、いい加減別れることにした。
通信端末をリーナは軽く叩くも、反応はNOSIGNALのまま。首を傾げ、更に言えば、深雪の持っている通信端末だってうんともすんとも言わない。
つまる所、達也たちの目は一番の不審者に向いていた。
「……やべ、悪いな」
くるくると腕を回して視認不可能な物体を回収したように見える。後で聞いたが、彼は凧揚げをしていたという。不明瞭な言葉でのらりくらりと躱されたが、十中八九、彼の技能によるものだろう。
「復旧しただろ?」
「ええ、まぁ……」
ずっとこの男の掌の上で踊っているような感覚は好ましいと言い難かった。
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ーー灰土邸のリビング
(おい!何やってんだよ!?俺たちとのリンクが薄くなりがちだからあれほど三体以上の展開は止めろとーー)
(すまない、誰かが俺たちも見ていたものでな。)
(……俺たちも?)
(ああ、全員に通達しておいてくれ。久々に本気を出す日が来るかも知れない)
(まさかーー)
(俺の杞憂であるのが一番だ。だが……)
そう言うと、アレイスターは自身の能力を用いて弾き出した結果を見せる。
(こ、これは……)
(笑えるだろう? こんな言い方は俺も不本意。陳腐で嫌いなんだが……運命という奴は動き出しているのかも、な)
普段からおちゃらけている彼からは想像出来ないくらい歯切れの悪い言葉。
(賽は投げられたってか?)
その時、据え置きの電話が鳴った。
「む? 誰だ?」
一本の電話。我が家にかけてくる人間は限られていて、これは非通知であった。
「もしもし」
「キミが、ハイド?」
今回の出てきたやつら
・皮喰い
本当の名前は別にあるそうだが、持つ特性からそう言う呼び名が付けられている。覆っているものであれば何でも食べる生き物。パレードはリーナを覆うように展開されるので捕食可能。もし、パレード解除状態であれば皮膚や神経を食べた。巻きつくのは捕食時に行う行動。動けなくしてから獲物を喰らう。
・ハゲワシ
内臓を啄む鳥。死んだ方がマシと思える激痛を発生させる。元ネタはギリシャ神話のプロメテウスの話から。
・凧
タコに似た凧揚げ。足が8本付いている。身体を極薄に引き伸ばしてドーム状に覆う事で通信系統をかく乱、偽装する。一応生物。
*弱点
これらの生物とリンクが強まる事で本体である範利との繋がりが薄くなりやすい。そのため三体以上を現世に出すと何が起こるか分からない。アレイスターの成長でなんとか三匹使えるようになったが、未だに不安定なので二匹までしか使えない。