「炎の呼吸、肆ノ型!盛炎のうねり!!」
「がぁぁぁぁッ!?」
私の振り抜いた日輪刀によって対面していた鬼の頸が宙を舞い、断末魔の叫びをあげる。
警戒しながら日輪刀を構えていた私だったが、目の前でチリへと還っていく鬼の姿にフゥと息をついて鞘に納める。
「ふうちゃん!」
と、私の背後から呼ぶ声に振り返ると、そこには一人の少女が立っていた。
その人物は私と同じく鬼殺隊の隊服を着て、その上から赤地に水色の五枚花弁の花の模様のあしらわれた羽織を着ており、肩までの黒髪の頭には左側に花柄の描かれた狐の面を被っている。
その少女は優しく微笑むと
「こっちは巻き込まれた人たちの避難終わったから加勢に来たけど……必要なかったみたいだね」
「うん、なんとかね。そっちも任せちゃってごめんね、まこちゃん」
私が言うと微笑んで頷く少女――まこちゃん。
さて、ここまでで察しのいい人は気付いていると思うが、彼女の本名は鱗滝真菰――あの真菰ちゃんだ。
彼女と出会ったのは私の最終戦別の時だ。
私の参加した最終戦別の場で参加者を何気なく眺めていた中で見覚えのある狐の面を見かけてドキリとした。まさか偶然にも同じタイミングで鱗滝一門の一人に出会うとは思わなかった。
そしてそれがまさかあの真菰ちゃんとは思わなかった。
彼女は原作開始時にはもう既に亡くなっており、主人公の炭治郎を鍛えた一人でもある。しかし、どうやら彼女は私が入隊するタイミングではまだ存命だったようだ。
最終戦別が始まってからは私も自分のことで手いっぱいになったので真菰ちゃんに声をかけることは出来なかった。
そんな中、選別が始まって少し経った頃、私は真菰ちゃんと手鬼が対面している場に遭遇した。
そのまま私は冷静さを欠く寸前だった彼女と手鬼の間に割って入り、なんとか彼女を宥めた後に協力して手鬼の討伐に成功したのだ。
そのまま彼女と協力して七日間を生き延びた私たちはそのまま意気投合して今日まで友人――親友とまで言える関係を築いていた。
彼女の生存は私にとって掛け替えのない成果だった。
あの当時の私は推したちの幸せを実現することを目的にしていたものの、一つの懸念があった。それは〝この世界の理はどこまでの改変を許容するのか〟という点だ。要は原作改変をどこまで可能なのか、と言うことだ。
要するに漫画なんかでよくある、過去に戻って歴史を変えようとしても結局変えることができないという結末のアレだ。
この場合、原作で死の運命にあるキャラは救うことができるのか、それが私にとってのマストな問題だった。
そして、彼女との出会いによって私はその問題に答えを出すことができた、この世界はあくまでも現実であり私たちの努力次第でいくらでも幸せな結果を掴めるんだと。
「お疲れさま~」
「おっつ~」
そんなこんなで今回真菰との合同の任務で出向いた私は先程協力末に任務の鬼を討伐。今は近場の街で取っていた宿にて昼の内に用意しておいた軽食で遅めの夕食を食べていた。
「へぇ~、パンってこんなに美味しいんだ!いままでパサパサしてるってイメージしかなかったよ」
「まあそこは工夫次第よ。こうやってパンの間に具材を挟む食べ方をサンドウィッチって言うんだよ」
「さんどうぃっちかぁ~」
「その昔イギリスの貴族であるサンドウィッチ伯爵が大好きなカード遊びをしながら食べられる料理を、と言うことでこうして片手で食べられるように作ったのが起源らしいよ」
「へぇ~」
まこちゃんは感心したようにサンドウィッチを見ながらぱくついている。
「そう言えば聞いたよ、ふうちゃんあの上弦の弐討伐に一役買ったんだって?」
「一役買ったって言っても最終的に頸を落としたのはマコちゃんと同門の冨岡様だけどね」
「それでも、そのための策を用意したのはふうちゃんでしょ?しかも、その功績で新設された部署に配属されたって。それも実質責任者って。ホントすごいなぁ、ふうちゃんは」
私の言葉にまこちゃんはしみじみと言う。
「呼吸は炎柱様直伝で、今も恋柱様の継子として鍛えてるんでしょ?」
「それを言ったらまこちゃんも元水柱に育ててもらったんでしょ?」
「まあそうなんだけどね……やっぱりふうちゃんの方がすごいって」
まこちゃんは言いながら微笑む。
「まこちゃんは冨岡様の継子にならないの?」
「ん~、頼んではいるんだけどねぇ~……なんかよく分からないこと言われて断られるの」
「よくわからないこと?」
「なんか『俺は柱じゃない』って……」
「…………」
まこちゃんの言葉に私は押し黙る。
そう言えば冨岡様って最終選別をちゃんと合格してないって気にして柱の地位も自分では受け入れて無いんだった。
「まあ根気よく頼み込むしかないんじゃないかな?あの人も流石に同じ人に習った後輩を無下にはしないでしょ」
「そうかなぁ~…そうだといいなぁ~……」
「ファイト~!おぉ~!」
「お、おぉ~……」
苦笑いのまこちゃんに拳を掲げながら言うとまこちゃんも恐る恐る同じようにこぶしを上げる。
「あ、そう言えば、同じ人に習ってる、で思い出したんだけどね」
と、まこちゃんがふと思い出したように言う。
「ふうちゃんは明日以降って予定あるかな?」
「ん~、今のところ任務ないし蜜璃さんのところ戻るつもりだったけど?」
「じゃあさ、よかったら明日私と一緒に狭霧山行ってくれない?ここら近いんだけど」
「狭霧山ってまこちゃんが育手と一緒に暮らして修行してたところだよね?」
「そうなの。実は私の師匠の鱗滝さんがふうちゃんに会いたいんだって」
「……なにゆえ?」
まこちゃんの思わぬ言葉に私は首を傾げる。
「ほら、私とふうちゃんが初めて会ったあの最終選別で倒した鬼」
「あぁ、あの手がぐちゃぐちゃに絡みついた奴ね」
「そうそれ」
私の言葉にまこちゃんが頷く。
「その鬼、鱗滝さんが捕まえてあそこに捕まってたみたいなんだけど、その恨みで鱗滝さんの弟子を狙って殺してたらしいんだ」
「そう言えばそんなこと言ってたね」
「それでまあその鬼を倒したお礼がしたいって」
「なるほどねぇ~……」
まこちゃんの言葉に私は少し考えて――
「いいよ。行こう行こう」
「ホントッ!?」
「うん」
「よかった~、ありがとう!帰るの遅くなるのにごめんね」
「いいよ別に。私も実は行ってみたかったし、狭霧山」
「そうなの?どうして?」
「……まあ個人的な理由だよ」
「ふぅん?」
私は少し暈して言うとまこちゃんは首を傾げながらそれ以上は訊いてこなかった。
まあ訊かれても答えられないし、仮に本当のことを言っても信じてはもらえないだろう。――できるのなら会いたい人がいる、なんて……。
「よく来てくれた、大好楓子君」
「こんにちは、初めまして、鱗滝左近次さん」
次の日、狭霧山にやって来た私は山小屋にて天狗の面を被った初老のおじいさんと対面していた。
囲炉裏を挟んで対面に座る鱗滝さんとまこちゃん。
鱗滝さんはスッと流れるような動きで頭を下げた。突然のことに困惑する私の目の前で鱗滝さんは
「大好君、真菰を手助けしてくれたうえに、私の不始末に決着をつけてくれて、心より感謝する。ありがとう」
「い、いや!私そんな大したことしてませんから!あの場合あの鬼倒さなきゃ私も死んでたかもしれないですし!」
「それでもだ」
私の言葉に鱗滝さんは顔を下げたまま続ける。
「君の助力のお陰で真菰はこうして生きている。しかも良き友人となっていると聞いている。彼女の保護者としては大変喜ばしい限りだ」
「いや、まあまこちゃ――真菰ちゃんは私とも歳近いですし、私の周り年上ばっかりなので私の方が仲良くしてもらってお礼を言いたいくらいですよ」
と言うか頭あげてください、と私が言ったことでやっと鱗滝さんは頭を上げる。
「君とはこうして直接会ってお礼を言いたかった。今日は来てもらえて本当によかった。大したもてなしはできないが今日はゆっくりしていってくれ」
「ありがとうございます」
鱗滝さんの言葉に私はお礼を言い――
「あ、一つお願いがあるのですがよろしいでしょうか?」
「私が叶えられることであればいくらでも」
「いや、そんな身構えるようなことじゃないです。ただ、この山を少し見て回る許可をいただければ、と思いまして」
「そんなことでいいのか?」
私の言葉に鱗滝さんは意外そうに言う。
「何も無いただの山だぞ?いったい何を見て回るというんだ?」
「ん~、強いて言うなら――」
鱗滝さんの問いに私は少し考え
「まぁ、聖地巡礼ってやつですね」
微笑みながら答えたのだった。
山の中を巡りながら私は趣深い気持ちになる。
漫画やアニメの中で見たままの光景がそこには広がっていた。
炭治郎が鱗滝さんに転がし祭りをされた場所や、叩き落とされた滝壺などこれこそまさに聖地巡礼!興奮して鼻血出そう!
なんて思いながら私は足を進める。
この世界の誰にとっても特に価値のない光景でも、私にとっては100万ドルの夜景にも匹敵する光景だ。というか鬼滅ファンなら誰しも見たい景色ではないだろうか。
そんな風に胸中で一人感動に打ち震えていた私は
「あ……」
そこに行きついた。
それは私の身長よりも大きな大きな大岩。しめ縄の巻かれたそれは原作ファンなら誰もが知る大岩だろう。
恐らくこれが数年後に炭治郎が斬る大岩だろう。
そして、私がこの狭霧山で一番来たかった場所でもある。
「…………」
私はそっとその大岩に歩み寄りそっと手を添えて目を閉じる。
「…………………」
数秒ほどそのままジッと待って
「……やっぱり無理かぁ~」
ため息をつきながら私は呟く。
「ここに来たらもしかしたら会えるかも、と期待したけど、私って鱗滝一門でも水の呼吸の使い手でもないしなぁ……」
言いながら私はその大岩を背もたれに座り込む。
「やっぱり私の前には現れてはくれないよね、〝錆兎〟は……」
『錆兎』
それは原作ファンにも馴染み深いキャラクターだろう。
本来原作通りであれば真菰とともに主人公の炭治郎を鍛える重要人物。加えてあの水柱・冨岡義勇の同期にして最終戦別で会場であるあの藤の花の牢獄の中の鬼をすべて切り伏せ、あの手鬼によって敗北、死亡した男。
そして――私がこの世界で会いたくて逢いたくて遭いたくて、恋焦がれて渇望して、しかし、どんなに会いたいと願っても叶わない相手。私の前世での蜜璃さんに並ぶもう一人の推しにして、以前に蜜璃さん達との食事会の席でした私の好きな人、それはこの『錆兎』のことだ。
私が蜜璃さんと出会った時、すでに冨岡義勇は鬼殺隊に所属し柱にまで至っていた。それは、私がこの世界の正体に気付いた時にはもう既に私の会いたいもう一人の推しはすでにこの世にはいなかったということだ。
すべての好きなキャラ、登場人物たちに幸せになってほしいと願う私がどんなに願っても助けることのできない相手。
何度願った事だろう、もしもできるのならもっと早くにこの世界が「鬼滅の刃」の世界だと気付くことができたら……しかし、もしそうなっていたとしても、私は恐らく錆兎を救うことはできなかっただろう。
だから、私がこの世界に生まれ落ちた時点で私は錆兎を――愛する推しを救う術は無かったということだ。
「さて、と!」
ぼんやりと木々の間から見える空を眺めていた私は立ち上がる。
昼過ぎにやって来た私たちだったが、気付けば空は茜色に染まり、なんならほのかに紫がかってきている。
正確な時間はわからないが恐らく『逢魔ヶ時』なんて言われる頃合いだろうか。
「……お腹空いたな」
言いながら私は大きく伸びをし、鱗滝さんの小屋へ歩き出し――
「ッ!?」
一瞬視界の端にあり得ないものを見た気がした。私が背中を預けていた大岩の上に宍色の髪の少年が立っていた気がした。
私は慌てて大岩の上を見るが――
「いない……」
残念ながらと言うか、当然と言うか、大岩の上には誰もいなかった。
「ハハ、いるわけない、よね……」
私は独り言ち、再び歩き始め――と、そこでふわりと優しく暖かな風が吹いた。
「うわッ」
思わずその場で足を止めて目を瞑り――
『――あの鬼を倒してくれて、ありがとう』
「ッ!?」
私の耳に優しい声が聞こえた。
慌てて目を開けてあたりを見渡してみたが、そこには私と大岩以外誰もいなかった。
「……………」
私は呆然と立ち尽くしていた。
どのくらいそうしていたのだろう?
「あ、いたいた!ふうちゃん!」
「……まこちゃん」
呼びかけに顔を上げれば、そこにはまこちゃんが駆け寄ってくるのが見えた。
「鱗滝さんが、いい時間だしそろそろ夕飯にするから呼んで来いって――って、ふうちゃん大丈夫?」
「え……?」
「だって…涙が……」
言われて私はそっと自分の頬に手を当てる。そこには私の目から流れた涙の雫があった。
「大丈夫?どこか怪我したの?」
「……大丈夫」
心配そうに私の顔を覗き込むまこちゃんに私は両目から溢れる涙を拭って微笑む。
「これは痛いとか、悲しいから泣いてるんじゃないんだ。むしろ逆かな……」
「???」
私の言葉の意味が分からない様子でまこちゃんが首を傾げる。
「そうだなぁ……なんていうか、逢いたくても逢えないはずだった人に逢えたんだよね……」
「……ごめん、よくわからない」
「ハハハッ!だろうね!」
さらに首を傾げるまこちゃんに私は大きく笑い
「うん!お腹減った!晩御飯って何?」
「え?あ、うん。お鍋だって」
「いいねぇ!よし!食べに行こう!」
「あ、ちょっとふうちゃん!?」
ズンズン歩きだした私にまこちゃんは慌てて私の後を追いかけて来たのだった。
~明治コソコソ話~
楓子ちゃんの最推しは甘露寺蜜璃と錆兎の二人。
蜜璃はその恋を応援したいという気持ちな反面、錆兎に対してはガチで拗らせていました。
どのくらい拗らせていたかと言うと錆兎と自分をモデルにしたオリキャラの恋愛を描いた夢小説・漫画を自作してそれを同人誌として販売するくらいには拗らせていました。
しかもそれらの夢小説&夢漫画がそこそこ人気作だったらしいぞ。