恋柱の継子、人の恋路に世話を焼く   作:大同爽

100 / 109
トータル話数100話目です!!
前回のアンケートの結果により本編を進めます!
まあさすがに番外編が四回続きましたのでそろそろ本編も進めたかったのでちょうどよかったかもしれません。
予定していたキメツ学園はまたの機会に!
トータル話数100話記念の番外編も考えていましたが本編をもう少し進めてからとします。

そんなわけで本編の最新話ですが、一応簡単に前回までのあらすじ
小芭内に発現したあざの正体を明かすとともに自身にも痣が出ていることを告白した楓子。
重責に押しつぶされそうになりながらも蜜璃達に受け入れられたことで心にいったんの区切りをつけることができたのもつかの間、今度は実弥と玄弥の兄弟喧嘩に巻き込まれてしまうのだった。


そんなわけで最新話です!!




恋70 恋柱の継子と兄弟喧嘩

 痣について秘密を小芭内達に打ち明けひと段落したと思ったのもつかの間、今度は不死川兄弟の拗れに拗れた兄弟喧嘩の仲裁に巻き込まれることになった楓子。

 一難去ってまた一難、ぶっちゃけありえない!――と叫びたくなるのも仕方ないことだろう。

 まあそうは言っても、楓子にとってこの喧嘩の仲裁はいつか片付けなければいけない案件ではあったので避けて通ることはできないしするつもりもない。

 ――つもりはないのだが

 

「…………」

 

「…………」

 

「…………」

 

「…………」

 

 彼女の屋敷――萌柱邸の一室に満ちる重苦しい沈黙を前にすると、もうちょい先送りにしてもよかったかなぁ~、なんて後ろ向きな気持ちがムクムクと湧いてきてしまうのは無理からぬことだろう。

 楓子の目の前では鬼の形相の不死川実弥、その対面に不死川玄弥がまるで蛇に睨まれた蛙のように縮こまっている。そして、そんな玄弥の隣には鱗滝真菰が真剣な表情で座っている。

 そんな二組の面々を見ながら楓子は自身の胃がシクシクと痛むのを感じる。

 

「……おい、どういうことだァ?」

 

 そんな重苦しい沈黙を破ったのは実弥だった。

 

「俺が呼び出したのはそいつだけだった。ことづけた大好の奴がいるのは百歩譲って良しとしてやる。だがなァ――」

 

 実弥は言いながら真菰に視線を向け

 

「てめぇは無関係のはずだろ、冨岡の継子ォ。どういう了見でここに参加してやがるんだァ?」

 

「ッ!」

 

 実弥の射殺さんばかりの視線を受けた真菰は一瞬息を飲んだもののすぐに姿勢を正し

 

「了承を得ずに同席したこと、まずはお詫びします」

 

 頭を下げる。

 

「現在玄弥君は『梁』の所属です。私は彼の直属の上司になりますので同席させていただきたく――」

 

「ずいぶんと勝手じゃねぇかァ」

 

「ッ!?」

 

 濃度を増す殺気に真菰はビクリと体を震わせる、が――

 

「……まあ、いい」

 

 すぐに実弥は息をつき気配を緩め目の前に用意されている湯飲みに口をつけお茶を啜る。

 

「お前が居ようが居まいが、何を言おうが、俺が意見を曲げることはねェ」

 

「………」

 

 冷ややかな目で言う実弥に真菰は黙って、しかし、さらに気合を入れ直す。

 

「で、だ。そろそろ本題に入ろうじゃねェか……」

 

 そんな真菰を尻目に実弥は玄弥に視線を向け

 

「てめぇ、なんで鬼殺隊入ってやがんだァ?」

 

「ッ!?」

 

 自身に向いた射殺さんばかりの視線に玄弥はガクガクと震える。言いたかった言葉も恐怖でうまく言葉にできずに冷たくなるほど握りすぎた拳の内側に自身の爪が食いこむ。そんな彼の手を暖かな感触が包む。

 

「ッ?」

 

 恐る恐る視線を向けると机の下で実弥に見えないように玄弥の手を真菰が握っていた。

 その暖かな感触が体の芯から冷え切ってしまいそうな実弥の視線に立ち向かう勇気を奮い立たせてくれる。

 玄弥は恐る恐る顔を上げ、実弥の視線に真っ向から向き直る。

 

「あ、兄貴、聞いてくれ!俺――」

 

「兄貴、だとォ?」

 

 瞬間ピクリと眉を動かした実弥はギロリと玄弥を睨む。

 

「馴れ馴れしく話すんじゃアねぇ。俺は『柱』だ、上下関係ってもんを忘れんじゃねェよ」

 

「ッ!?」

 

「部下の教育がなってねぇんじゃねェのか、大好?」

 

「…………」

 

 息を飲む玄弥を他所に自身に向いた実弥の視線に楓子は目を瞑って数秒黙り

 

「彼は今、鬼殺隊の不死川玄弥として風柱・不死川実弥に話しているんじゃありません。あなたの弟としてここにいるんです。あなたもそう応対してあげるべきではありませんか?それに――」

 

 言いながら楓子は真剣な表情で実弥を見つめ返し

 

「うちの玄弥君は必要な礼儀を心得たどこに出しても恥ずかしくない人物です」

 

「………」

 

 楓子の答えに忌々しそうに睨む実弥の視線を受けながら楓子は素知らぬ顔で湯呑に手を取り

 

「アッチャァッ!?」

 

 ガクガクと震える手で持ち乱舞した湯呑から盛大に零れたお茶が手にかかり思わず飛び上がる。

 

「楓子さん……」

 

「フウちゃん言ってることはかっこいいのに最後ので台無し……」

 

 転げまわる楓子の姿に玄弥と真菰はため息をつく。

 

「チッ!ふざけてんのかてめぇはよォ」

 

「す、すみません。ちゃんと真面目ですんで……」

 

 実弥の睨みに小さくなりながら幸い大して火傷にもならならなかった右手を擦りながら楓子が座りなおす。

 

「と、とにかく、まずは弟さんの話を――」

 

「さっきから兄貴だ弟だと鬱陶しい」

 

 真剣な表情に戻って言う楓子の言葉を遮って実弥はイラついた様子で吐き捨てるように言う。

 

「大好、てめぇには前にも言ったが、ここで改めてもう一度言ってやる。いいか?」

 

 言いながら実弥は冷ややかな視線を玄弥に向け

 

「俺に弟なんていねェ」

 

 冷たい声音で言い放たれた言葉に玄弥はショックで真っ青になる。

 

「なら、どうして今日はここに来たんですか?」

 

 そんな玄弥に代わって真菰が訊く。

 

「最近の鬼殺隊の剣士は練度が落ちている。才能がないやつは鬼に食われるか死ぬしかねェし、最悪は他の奴まで道連れになっちまう」

 

 真菰の問いに答えながら実弥は玄弥を睨み

 

「特にてめぇは最悪だ。何の才覚もねぇのに上弦の鬼の住処にまで入り込んで、生きて帰ってきたのも奇跡みてぇなもんじゃねェか。ま、それだっててめぇらのお陰だろうけどよォ」

 

「………」

 

 実弥の言葉を否定できず玄弥は俯く。

 

「で、ですが彼のおかげで上弦の伍の片割れの頸を斬ることができたんですよ!?」

 

「彼は十分な成果を――!」

 

「だから、それもてめぇらのお膳立てがあってこそだろうがよォ」

 

 楓子の真菰の言葉を遮って実弥はイラついた様子で言う。

 

「強いやつにくっついて大したことしてねェのに手柄だけ貰うなんざ虫が良すぎんだろォがよ。誇りってもんがねぇのかてめぇにはよォ、まったく情けねェぜ」

 

「そ、そんなこと――」

 

「だったら、こいつに何ができたっていうんだァ?何もできねぇ無能だろうがよォ」

 

 実弥のキツい言い方に真菰が堪えるように睨み。

 

「なんだその目は?無能に無能と言って何が悪ィんだ?俺が気付かねぇとでも思ってのかァ?」

 

 そんな真菰を睨み返しながら実弥は玄弥を指さし

 

「こいつは常中どころか全集中の呼吸その物ができちゃいねぇじゃねェかよ」

 

「「ッ!」」

 

「そ、それは……」

 

 実弥の言葉に玄弥は悲しそうに俯き、楓子も真菰も言い淀む。

 玄弥は実弥の言う通り全集中の呼吸が使えない。しかし、彼自身の特殊な体質のお陰で鬼を喰らうことで鬼の力を得る彼独自の戦闘方法で戦ってきた。

 しかし、それを今ここで言ってしまえば状況は最悪になることを二人はわかっていた。だからこそ、実弥の言葉を否定することはできなかった。

 言い淀んでいる二人を他所に実弥は玄弥を睨み

 

「呼吸も使えねぇ奴が剣士名乗ってんじゃねぇよ。わかったらてめぇのせいで仲間が死ぬ前にさっさと鬼殺隊をやめることだな」

 

「ッ!」

 

 実弥の言葉に玄弥はこぼれそうになる涙を必死にこらえ意を決して顔を上げ

 

「あ、兄貴!確かに兄貴の言う通りだ!俺に剣士としての才能はねぇ!上弦の鬼との戦いだって殆ど二人が戦って俺は何もできなかった!」

 

 必死に心の内を吐き出すように言う。

 

「でも、でもこれだけは聞いてほしい!俺が今日まで戦ってきたのは、ずっと兄貴に謝りたかったからなんだ!だから――」

 

 玄弥は必死に目の前の兄に向ってずっと抱え続けていたものをぶつける。しかし――

 

「心底どうでもいいわ」

 

 実弥の返しはどこまでも冷たかった。

 

「てめぇが俺に何を謝りてぇのか知らねぇが、少しでも悪いと思うことがあるのならさっさと鬼殺隊をやめて俺の前から失せろ」

 

 自身の必死の謝罪も冷たくあしらわれ、とうとう玄弥の心が折れる。

 

「そ、そんな……」

 

 呆然とまるで迷子の幼子のように途方に暮れた顔で呟く玄弥に、真菰は何か声をかけなければと言葉を選び考える。

 その間に

 

「俺…俺、鬼を喰ってまで戦ってきたのに……」

 

 玄弥は呆然としたまま、思わず言ってはいけない一言を言ってしまった。

 その瞬間――

 

あぁッ?今、何つったてめぇッ?

 

「ッ!?」

 

 実弥の静かな、しかし、これまでで一番の怒気を孕んだ声音に玄弥は遅まきながらに自分の口にしてしまった言葉の意味を理解し真っ青になる。

 

鬼をォ喰った、だとォ?

 

 その瞬間三人は実弥がまるで、今まさに噴火寸前の火山の如きプレッシャーを放ったのを感じる。

 

 

 

――最初に動いたのは楓子だった。

 

 

 

 玄弥の一言がどんな結果をもたらすのか原作の知識によって痛いほど想像のついた彼女は真っ先に実弥を押さえるために飛び掛かる。

 

 

 

――次に動いたのは実弥だった。

 

 

 

 すぐにでも玄弥に飛び掛かる――かと思われた実弥だったが、さすがは現鬼殺隊最高戦力の『柱』の一人であると言えよう。噴火する火山のような烈火の如き怒りに突き動かされながらも、その初動は冷静だった。

 目の前の湯飲みを掴み、飛び掛かってくる楓子にその中身を浴びせかける。

 楓子は先ほど自身の手にかかった熱を思い出し反射的に自身を襲うお茶の飛沫から逃れようと身を捻ってしまう。

 その間に実弥は凄まじい速さで動く。あまりに早すぎて対面にいた玄弥にはその動きがとらえきれず消えたとすら錯覚させるほどだった。

 

「玄弥君!!」

 

 

 

――楓子と実弥に次いで動いたのは真菰だった。

 

 

 

 流石は『柱』の継子であり、『柱』に次ぐ階級にいるというべきか、実弥の動きをその視覚にとらえた真菰は隣に座る玄弥を抱きかかえるように突き飛ばす。

 玄弥を狙って突き出された実弥の右手の人差し指と中指による目潰しは辛うじて玄弥には当たらず、しかし、真菰の右頬を掠める。

 まるで鋭い刃の如く掠めた頬の薄皮を切り裂きながら実弥の右手は突き出される。

 そんな手を避けた真菰と玄弥はそのまま床を転がりけたたましい音を立てて障子を突き破り庭へと飛び出す。

 

「マコちゃん!!玄弥くん!!」

 

 実弥を押え損ねた楓子が叫ぶ中二人を追って実弥はズンズンと机を踏み越え庭へと出ていく。

 

「やめてください、不死川様!」

 

 真菰は最後に玄弥を庇いながら叫ぶ。

 

「どういうつもりですか!?玄弥君を殺す気ですか!?」

 

「殺しゃしねぇよォ」

 

 真菰の問いに実弥は怒気を孕んだ声で答える。

 

「殺すのは簡単だが、それじゃあ隊律違反になっちまうからよォ」

 

 言いながら実弥は左手を構えゴキゴキと鳴らす。

 

「再起不能になってもらう。目でも潰せば戦えねェだろオ。それとも利き手の骨でも粉砕するかァ?」

 

 言いながら実弥は獰猛な笑みを浮かべ

 

「今すぐ鬼殺隊を辞めるなら許してやる。選べェ、再起不能か、除隊か?」

 

「ふざけないでください!!」

 

 そんな実弥の問いに真菰が叫ぶ。

 

「例えあなたが『柱』でも辞めるのを強要する権利はないはずです!!」

 

「才能がねぇのに戦って死ぬ方がいいてのかァ?」

 

 真菰の叫びに睨みつけながら実弥は言う。

 

「そうなる前に向いてねぇ奴には現実を教えてやるのが優しさってもんだろうがよォ」

 

「だとしても……だとしても!」

 

 実弥の言葉に一瞬言い淀みながらすぐに頭を振ってキッと実弥を睨み返す。

 

「玄弥君がここまで戦ってきた思いを否定する権利はあなたにはありません!!ましてや、あなたは先ほど弟なんかいないと言いました!!家族ではないあなたには玄弥君の選択を絶対に否定させません!!」

 

 背後に庇った玄弥を右腕で後ろ手に隠すように抑えながら叫ぶ真菰。

 

「彼は自分の意志で戦うと決めたんです!!そして、私達と一緒に上弦と戦い抜いたんです!!彼が居なければ勝つことはできませんでした!!彼の勇気を、功績を否定することだけは私が許しません!!」

 

「テメェは他人だろうがァ。なんでそこまで口出しする?」

 

「他人じゃありません!!」

 

 実弥の問いに真菰は叫びながら答える。

 

「私は、彼を一人にしないって決めたんです!!手伝うって、一緒に戦うって約束したんです!!」

 

「鱗滝さん……」

 

 真菰の言葉に玄弥は涙を流す。

 

「あなたが彼の兄ではないと、家族であることを否定するのなら、私が彼の家族になります!!私が彼の思いを一緒に背負います!!」

 

「ッ!?」

 

 真菰の言葉に実弥は一瞬怯んだものの、すぐに獰猛に嗤い

 

「そうかよォ、だったらテメェもまとめて再起不能にしてやるぜェ」

 

 言いながら実弥は真菰に向けて飛び掛か――ろうとした時

 

「させるかぁぁぁぁッ!!」

 

「なッ!?しまったッ!?」

 

 背後から助走とともに飛び掛かった楓子が背中から絡みつき、実弥の足に自身の足を絡め、実弥の両腕を掴んで背後へと引っ張り技――『パロ・スペシャル』に極める。

 

「放しやがれ!!」

 

「おっと、暴れない方がいいですよ!下手に動けば腕がへし折れますよ!」

 

「チィッ!!てめぇ!!」

 

 楓子が完璧に極めた技に実弥は冗談ではないと悟り下手に動けなくなる。

 

「マコちゃん今だ!玄弥君を連れて――」

 

 二人に向けて叫んだ楓子だったが――

 

「あら?これはいったいどういう状況かしら?」

 

「「「「ッ!!?」」」」

 

 穏やかな、しかし、下手すれば先ほどの実弥以上のプレッシャーを感じる声に四人は揃って背筋を伸ばす。

 

「なんだか大きな音がすると思って来たら、あらあらまあまあ……」

 

「かかか、カナエさんッ!?」

 

 穏やかな微笑を浮かべながら、しかし、その瞳の奥は一切笑っていないカナエはゆっくりと歩み寄り実弥に顔を寄せる。

 

「おかしいわね?今日はお話に来たんじゃないの、実弥君?どうしてこんなに部屋がめちゃくちゃになってるの?どうして玄弥君と真菰ちゃんは庭に裸足で出ているの?どうして真菰ちゃんは玄弥君を庇ってるの?どうして実弥君は楓子ちゃんによくわからない技を極められているの?」

 

「そ、それは……」

 

「ねぇ?なぁぜなぁぜ?」

 

 脂汗を顔に浮かべて言い淀む実弥に、表面的にはニコニコと微笑みながらカナエは問いかけ

 

「ちょっと()()()()聞かせてくれる?」

 

「……わかった」

 

 実弥はカナエの声音にもう逃げられないと悟りがっくりと項垂れる。

 

「楓子ちゃん」

 

「ハヒッ!?」

 

 カナエの雰囲気に気圧され楓子は声を裏返させながら返事をする。

 

「私、ちょっと真菰ちゃんの手当てしてくるから、それまで実弥君のこと見ててね。あ、その技は解かなくていいから」

 

「い、イエスッマムッッ!!」

 

 カナエの言葉にブンブン首を振って答える。

 

「じゃ、真菰ちゃん、玄弥君。行きましょう」

 

 カナエの雰囲気に唖然としながらも、二人はただその後を着いて行くのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うん、これで大丈夫」

 

 真菰の頬をガーゼで拭き消毒したカナエは満足そうに頷く。

 

「薄く表面の皮を切っただけだから多分傷も残らないと思うけど、もし何か気になったら教えてね。その時はまた実弥君と()()()()するから」

 

「は、はい!」

 

 カナエの言葉に真菰はブンブン首を振って頷く。

 

「玄弥君は何ともなさそうだから特に手当は必要ないわね」

 

「は、はい。ありがとうございました」

 

 頷いた玄弥に微笑んだカナエは立ち上がり

 

「それじゃ、私は実弥君と楓子ちゃんのところに戻るわね。たぶん()()()()()()になるから二人はまた後日ってことでいいかしら?」

 

「わ、わかりました!」

 

「そ、それで大丈夫っす!」

 

 頷いた二人に微笑みかけ、カナエはテキパキと片づけを済ませ部屋を後にした。

 

「………」

 

「………」

 

 残された二人は隣り合って椅子に座ったままお互いに押し黙り何ともむず痒い空気が流れる。

 そんな空気を遮って

 

「あ、あのッ!」

 

「ッ!う、うん、何かなッ?」

 

 玄弥が意を決して口を開く。

 

「その……今日はすみませんでした、俺のせいで」

 

「気にしなくても大丈夫だよ!私の方こそ出しゃばっちゃって……」

 

「そ、そんな!それこそ、鱗滝さんが気にしなくてもいいですから!それに、俺を庇ったせいで顔に傷が……」

 

「フフ、大丈夫。カナエさんも言ってたでしょ?傷は残らないって」

 

「そうですけど……」

 

「本当に大丈夫だから。このくらい、鬼と戦ってたら日常茶飯事だから。ね?」

 

「……はい」

 

 真菰の言葉に、それでも申し訳なそうに玄弥は俯く。

 そんな玄弥を

 

「私より、辛いのは玄弥君でしょ?」

 

 優しく微笑みながら立ち上がり頭を撫でる。

 

「大丈夫。さっきも言ったけど、私が一緒にいるから。君は一人じゃないから……ね?」

 

「鱗滝さん……」

 

 真菰の優しい言葉とその手の温かさに玄弥は言葉に詰まりながら、しかし、すぐに顔を上げ

 

「あの、一つ聞いてもいいですか?」

 

「うん?なぁに?」

 

 玄弥の言葉に真菰は優しく微笑みながら首をかしげる。

 

「あの、さっき兄貴に、兄貴の代わりに家族になるって……あれって……」

 

「あぁ…ごめんね、勢い余って勝手なこと言って……」

 

 玄弥の言葉に真菰は照れ臭そうに微笑み、そっと寂しそうに目を伏せ

 

「……私ね、弟がいたの」

 

 ぽつりと呟くように言う。

 

「家族四人で裕福って程じゃないけど仲良く暮らしてて、弟はお姉ちゃん子だったから『お姉ちゃんお姉ちゃん』って私の後をついて回って、私もそんな弟が可愛くてよく一緒に遊んでたの。でも……」

 

 今、真菰の傍にその件の弟も両親もいない。玄弥もその表情で続く言葉を察する。

 そんな玄弥の表情に悟られたことを察した真菰は気を遣わせたことを申し訳なさそうに苦笑いを浮かべ

 

「だからかな、玄弥君のこと放っておけなくて……玄弥君のこと、勝手に弟みたい思っちゃって……」

 

 真菰は言いながら玄弥に視線を向けて優しく微笑む。

 

「もちろん勢いもあったけど、あの時言ったことはちゃんと私の本心だよ?私が玄弥君の家族の代わりになるから……」

 

「…………」

 

 玄弥は真菰の優しい言葉に複雑そうに目を泳がせ、しかし、意を決したように顔を上げ

 

「俺は……俺は、嫌です」

 

「ッ!」

 

 玄弥の言葉に一瞬悲しそうに瞳を揺らし、すぐに真菰は笑い

 

「そ、そうだよね!ごめんね、勝手なこと言って!忘れて――」

 

「ち、違うんです!」

 

 言いかけた真菰の言葉を叫んで首を振った玄弥は

 

「俺が嫌なのはその……」

 

 顔を真っ赤にしてしどろもどろになりながらそれでも絞り出すように言葉を紡ぐ。

 

「弟じゃ…嫌です……」

 

「え……?」

 

「俺は、弟じゃ…嫌です」

 

 真剣に真菰の顔を見つめ玄弥は言う。

 

「げ、玄弥君…それって……?」

 

「…………」

 

 真菰の困惑した視線を受けながら玄弥は

 

「う、鱗滝さん、俺――」

 

 意を決した様子で見つめ返し口を開き

 

「玄弥!!真菰さん!!大丈夫ですか!!」

 

「「ッ!?」」

 

 突如部屋に飛び込んできた炭治郎に遮られ、玄弥も真菰もビクリッと体を震わせる。

 

「た、炭治郎?い、いったいどうした!?」

 

 当然の炭治郎の登場に玄弥が訊く。

 

「今ちょうどカナエさんに会って、玄弥と真菰さんが玄弥のお兄さんと揉めたって聞いて慌てて来たんだよ!二人とも大丈夫でしたかッ!?怪我とか――」

 

 玄弥の問いに慌てた様子で答えた炭治郎は二人の様子を見て

 

「ッ!!ま、真菰さんその頬の傷、朝にはなかったですよね!?まさかッ!?」

 

「あ…いや、これは……」

 

 炭治郎の問いに真菰は言い淀み、その様子にすべてを察した炭治郎は

 

「う、うちの姉弟子によくも!禰豆子だけでなく!おのれ、許すまじ!!」

 

「ま、待って炭治郎落ち着いて!私は大丈夫だから!こんなの鬼と戦ってたら日常茶飯事だから!」

 

「嫁入り前の女性の顔に傷をつけるなんて許せませんよ!!ちゃんと謝罪はしてもらったんですかッ!?」

 

「あぁ…いや、それは…まだだけど……」

 

「余計にダメじゃないですか!!待っててください、今ここに引きずってでも連れてきて謝罪させますから!!」

 

 そう言って踵を返す炭治郎に玄弥が慌てて駆け寄り肩を掴んで止める。

 

「ま、待ってくれ炭治郎!今行くのはまずいって!今カナエさんが話してるし、もとはと言えば俺のせいだから、怒るなら俺に――」

 

「兄貴だからって庇わなくていいぞ玄弥!!安心しろ、お前の分も俺がガツンと言ってやるから!!」

 

「いや、全然安心できねぇって!!とりあえず落ち着け!!落ち着――お前力強いな!!」

 

 玄弥に掴まれながらも炭治郎はずんずん進んでいき、玄弥が全体重をかけているにも拘らず怒り心頭の炭治郎はそのまま引き摺っていく。

 

「う、鱗滝さんすみません!炭治郎落ち着かせてきます!!」

 

「え、あッ!玄弥君待って――」

 

 炭治郎に引き摺られていく玄弥に真菰が手を伸ばすが、その手は空を切る。

 一人残された真菰は呆然と二人の出ていった扉を見つめるのだった。

 




というわけで不死川兄弟の喧嘩でした。
そして、思わぬ流れで立ったフラグ……でしたが、炭治郎に乱入されてお流れになってしまいましたね!
果たして真菰と玄弥の関係やいかに!?

今回の話で真菰の過去の話を少し描きましたが、原作では一切出ていない勝手な想像です。
炭治郎に優しく指導する姿に姉属性を勝手に見出し勝手に膨らませました。

原作では全く絡むことのなかった二人を勝手にカップリングしましたが反省していません!
解釈違いだったらすみません。
謝るので楓子のように吐かないでくださいね(;^ω^)

さてさて、二人の関係がどうなっていくのかは今後の展開をお楽しみに!



といったところで番外編の間していなかった質問コーナーです!
今回はMaxMixさんから頂きました!

――楓子さんは怪談も趣味の範囲に入っていますか?もし入っているのであれば、そちらの世界でも怪談をしているか教えてください。

楓子「趣味っちゃ趣味ですね。前世では映画好きでしたがホラーも苦手ではなかったのでよく見ていましたし、夏にはテレビのホラー番組とかよく見ていました。この世界に来てからも怪談収集はしていますよ。ただ、正直私たちが普段相手にしている存在も大概その反中ですけどね(笑)」

とのことでした!
というわけで今回はこの辺で!
次回もお楽しみに!!



~大正コソコソ噂話~
後にカナエによる()()を楓子はこう語る。

楓子「何が怖いってカナエさん普段の様子から一切変わらないトーンで、なんなら笑顔で話をするんですよ。でも、目の奥が笑ってないし背後には般若が見えるんです。静かに怒るというか、正論でぶん殴るタイプの説教をするので不死川様も言い返せないし言い返そうもんならその三倍は正論が返ってくるんですよ。よく漫画とかで穏やかなキャラこそ怒らせちゃダメってのはよくある展開ですけど、カナエさんがまさにそれですね。ホント、あの人だけは敵に回してはいけないと悟りました」


  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。