恋柱の継子、人の恋路に世話を焼く   作:大同爽

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新年度を迎えましたね!
新たな職場、新たな部署に行く方、学生さんは進級や入学など、また大きく環境の変わらない方も何かしらの変化もあることでしょう。
かく言う私も職場は変わりませんが部署が変わりますので少しの不安を抱えております。
それはさておき、このお話も新たな展開に舵を取っていきます。
果たして楓子の運命やいかに!?

今回は書いてるうちに筆が乗り長くなりました。
また、忙しくてなかなか更新できませんでしたので続きは早めに、今日の夕方には更新しますのでお楽しみに!!

そんなわけで最新話です!





変78 恋柱の継子と別の枝

 

「うわわわわぁッ!?」

 

「す、吸われるぅぅぅッ!?」

 

「こんのぉぉぉくそがぁぁぁぁッ!!」

 

 炭治郎君達三人が叫びながら木にしがみついている、が、その体は宙に浮き腕だけでしがみついている状態だ。

 そして、かく言う私達も――

 

「踏ん張れお前達!!」

 

「絶対手を放しちゃだめよ!!」

 

「でも、これはさすがに……ひぃぃぃぃッ!!」

 

 伊黒様、蜜璃さん、そして、私も同じく木にしがみつきながら踏ん張っている。

 

「ヒハハハハハッ!!いつまでもつかなァ鬼狩りどもッ!!」

 

 そんな私達が引かれる先では袈裟の様な格好をした鬼がその右腕をこちらに向けている。

 鬼の右腕、その掌には黒い穴がぽっかりと空いているが、反対側に貫通しておらず、ぽっかりと空いた穴の先には何物も見通せない闇しか見えない。その穴がまるで掃除機の如く周囲のものを吸い込んでいく。

 

「この俺の〝穴〟に吸い込まれたら最期、この俺自身もどこに消し飛んでるかわからねェ次元の彼方に消し飛ばしてやるぜェェェェェッ!!」

 

 鬼の叫びが響き、より一層吸い込む力が強まる。

 

「ぐッ!?」

 

「ひぃぃぃッ!?も、もう無理ぃぃぃぃッ!!」

 

 吸われる面々も苦悶の声を漏らす。

 

「……もう、考えてる時間はなさそうですね」

 

 私はそんな面々の様子に私は覚悟を決める。

 

「おい待て、何をするつもりだッ?」

 

「……一か八か、私に考えがあります!失敗しても必ず隙ができるはず…その時は伊黒様お願いします!」

 

「失敗したらって、貴様本当に何をするつもりだ!?」

 

「何って…こうするんですよ!!」

 

 私は伊黒様の問いに私は行動で答える。

 ――私は、しがみついていた木の幹から手を離した。

 

『ッ!?』

 

 私の突然の行動に伊黒様も含めその場の面々が驚愕に固まる。

 

「ついに諦めたかッ!!」

 

 鬼は邪悪な笑みで私を迎え

 

「悪いけど、私往生際悪いんだよ、ねッ!!」

 

 そんな鬼に私は吸われる勢いのまま体を回転させて勢いを付けながら日輪刀を抜き

 

「なッ!?」

 

 私の行動に鬼は驚き固まる。私はそのまま吸われる勢いのまま日輪刀を鬼の頸を目掛けて振るう。しかし――

 

「させるかッ!!」

 

 鬼は頸を守るように吸い込むために伸ばしていた右腕を持ち上げる。

 私の振るう日輪刀は鬼の頸に届かずそのま鬼の穴に吸い込まれる。

 

「ッ!?」

 

 咄嗟に吸われるのに抗うように刀を引き――

 

「がぁッ!?」

 

 鬼の掌の穴の縁を斬りつける。

 鬼の顔が苦痛に浮かぶのが見えたが、私はそのまま鬼の穴に吸い込まれ――

 

――ドンッ!!

 

 瞬間、全身を強く打ち付けたような衝撃が走り吹き飛ばされ地面を転がっていた。

 どうやら吸い込まれる直前に斬りつけたことで鬼の血鬼術に何か不具合が起きたようだ。なんにしても助かった。

 見ればその衝撃は周りにも影響があったようで離れたとことにいた蜜璃さん達も地面に倒れている。

 私は立ち上がろうとするが先ほどの衝撃の影響か体がしびれたように上手く立ち上がれない。

 

「テメェ、よくもやってくれたなァ!!」

 

 ヨロヨロと上体をやっと起こした私に同じく弾き飛ばされていたらしい鬼が憎々し気に立ち上がり歩み寄ってくる。

 

「フーちゃん!!」

 

 蜜璃さんの声が聞こえるが私には返事をする余裕はない。

 

「テメェに俺の〝穴〟は使わねェ!!この手で直接ぶっ殺してやるぅぅぅッ!!」

 

 鬼は私の斬りつけた傷がもうすでに塞がったその右腕を振り上げ、その鋭い爪を私に向けて振り下ろそうと構え――その刹那、鬼の右肩に刀が突き刺さった。

 

――いや、それは刀と言うにはあまりにも大きすぎた。大きく、ぶ厚く、重く、そして、大雑把すぎた。

 

 まるで、前世でプレイしていた某モンスターをハントするゲームの太刀の様なそれに貫かれた鬼は

 

「ガァァァァァッ!!?なんッ!!?いでぇぇぇぇッ!!!」

 

 あまりの突然のことに唖然と叫び声をあげて地面に倒れる。

 私は呆然と鬼と、鬼との間に起立する大太刀を交互に見る。と――

 

「チッ、外したか」

 

 大太刀の柄、その頭部分にふわりと、まるで重さを感じさせない動きで降り立つ人影。その人影を見た瞬間、私は何とも言えない感覚を覚える。まるで電気でも体に走ったような異様なその感覚に訳が分からず呆然とする。

 

「テメェいったいどこから――ッ!!?」

 

 切り裂かれた右半身を押えながら顔を上げた鬼は瞬間顔を真っ青にして口を噤む。

 

「なん…なんだこれ……なんなんだよテメェ……」

 

 ガタガタと震え脂汗をダラダラと流しながら2mはありそうな大太刀の柄の上に立つその人物を見ている。

 こちらに背を向けているのでわからないが、恐らく女性と思われるその乱入者は短い首のあたりで切りそろえられた黒髪に紅葉の模様の描かれた羽織を肩掛けにし、黒い軍服の様な上着に太ももの半ばほどの丈のスカートという装いはまるで鬼殺隊のメンバーの様ないでたちだった。だったが、彼女の正体が全く逆の立場であるであろうことは、背後から見ても見えるほど長いそれ――彼女の額から恐らく生えているであろう角が見えているからだ。

 

「聞きたいのはこっちなんだよ。なんで、()()()()()()()()()()()?というかここどこ?」

 

「何言ってんだよ!!?」

 

 乱入者はめんどくさそうにため息をつき

 

「だるっ……もういいや、とりあえず『鬼・即・斬』ってことで……」

 

「ッ!?」

 

 乱入者は言いながら自分が立つ大太刀の柄へと手を伸ばし――しかし、それにいち早く反応した鬼は慌てて飛び退きそのまま森の闇の中に消えていく。

 

「チッ、逃げるなよ。追いかけるのも探し出すのもかったるいんだから……」

 

 乱入者は言いながら大太刀から降り立ち大太刀を肩に掛けるように軽々と担ぎ上げ

 

「で?君らが教えてくれるわけ?」

 

 そこで初めて、彼女は振り返り

 

「……は?」

 

 直後、彼女は間の抜けた声を漏らす。

 

「蜜璃…さん……?伊黒様……?」

 

 唖然と、震える声を漏らす彼女に、私達もまた驚愕していた。

 鬼殺隊の隊服の様な装いに見覚えのある紅葉模様の羽織。よくよく思い返せばおかしな点はあった。だが、誰が予想できただろうか。その乱入者、鬼の顔が――

 

「フー…ちゃん……?」

 

 ()()()()()()()()()()()()なんて。

 

 

 〇

 

 

 

「では、緊急の柱合会議を始めさせていただきます」

 

 一夜明けた翌日の昼、お館様の屋敷の中庭――炭治郎と禰豆子の弾劾柱合会議が行われたあの玉砂利の場所で集った柱の面々が驚愕する中、お館様の代理として進行する天音の言葉が響く。

 集った面々――現在の柱九人に加え天音とその娘のひなきとかなた――の視線の先には日光を遮る大きな傘の下、身体を太い鎖で拘束された例の楓子そっくりの鬼が正座していた。

 当の本人は集った面々の顔を眺めどこか物憂げな顔で黙っている。

 

「今回の議題は、そこにいる彼女――楓子さんに瓜二つの突如現れた鬼についてです」

 

 天音の言葉に揃って全員の視線が楓子にそっくりの鬼に向く。

 

「おい、鬼。テメェいったい何者だァ?」

 

 集った面々の中で実弥が問う。

 実弥の問いに鬼はフッと息をつき

 

「私の名前は大好楓子です。みなさんの知っている、そこにいる彼女と同一人物であり、同時に別人でもあります」

 

「あァ?テメェ煙に巻くつもりかァッ?」

 

 鬼の言葉に実弥はその視線を鋭く細め睨む。が、そんな視線を受けても鬼はにっこりと微笑む。

 

「おいテメェ何笑ってやがるッ!?」

 

「…すみません、少し懐かしかったもので」

 

 実弥の怒声に鬼は慌てて笑みを消し、頭を下げる。

 

「落ち着け不死川」

 

 そんな実弥を小芭内が宥め

 

「信じられん話だが、どうやらこいつの話は真実だ」

 

「私たちはここに連れてくるまでに少し話したんだけど、楓子ちゃんしか知らないようなことも知ってたし、それに……」

 

「私には、やはり他人とは思えません。体型だったり髪型だったり、あとは声も違いますが、直感的にそうだと感じるんです。この鬼は、〝私〟です」

 

 小芭内と蜜璃、そして、楓子の言葉に面々は困惑した様子で首を傾げる。

 

「ですが、こうして楓子がいるのに、もう一人楓子がいるというのは……」

 

 しのぶは怪訝そうに言う。

 

「ま、疑問は当然です」

 

 と、鬼が頷き

 

「ややこしい話になりますが説明しましょう。私の推論でしかありませんが恐らくほぼ間違いないかと」

 

 説明し始める。

 

「この世界って言うのは一つですが、本当は一つじゃないんです」

 

「一つだが、一つじゃない?」

 

「どういうことだ?」

 

 鬼の言葉に天元と行冥が問う。

 

「時間っていうものは一本の道の様に進んでいるように皆さん思うかもしれませんが、本当は木のように進んでいるんです」

 

「木って…あの木?」

 

「そうです」

 

 無一郎が庭の松の木を指さして訊くと鬼は頷く。

 

「時間っていうものは進んでいくと分岐点を迎えます。その分岐点で別れる要因は様々ですが、大雑把に言えばある出来事が起きたか起きていないか、ですね。例えば。この時代であれば、先のロシアとの戦争が起きたこの世界と、同時に戦争の起こらなかった世界が同時に存在するかもしれないわけです。これを『並行世界(パラレルワールド)』と言います」

 

 鬼の言葉に集った面々は何とも微妙な顔をしている。恐らく理解が追い付いていないのだろう。

 

「難しいと思いますが、要はこことそっくりで似ているけどちょっと違う世界が無数にあり、私はその一つから来たと思っていただければ間違いはありません」

 

 鬼は苦笑いで言う。

 

「本来なら世界同士は干渉・観測できないはずなんですが、恐らく私が来る直前にこっちの私達が戦っていて取り逃がした鬼の血鬼術が原因でしょう。奴の能力は掌の穴に吸い込んだ相手を異次元に送って消滅させるってものですが、それに吸い込まれ掛けたこっちの私がその穴の縁を日輪刀で斬ったことで血鬼術に不具合が出たんでしょう。どういう原理かわかりませんが、吸い込まれかけていたこっちの私と近い〝私〟が引き寄せられてしまったんでしょうね」

 

「なるほど……」

 

「事情は、理解できた…と思う」

 

 鬼の説明に面々はなんとなく理解できた様子で頷いている。

 

「だが、事情はわかったが、一つ派手に気になることがあるんだがよう」

 

 そんな中、天元が首を傾げながら言う。

 

「こっちの大好とお前が同じだってのはわかったけど、だったら大好、お前さんは」

 

「「はい?」」

 

「あぁ、鬼の方の大好なんだがよぉ」

 

「しかし、こっちの大好とかそっちの大好じゃややこしいな」

 

 と、呼ばれた二人の楓子が返事をすると小芭内が眉をひそめて言う。

 

「そうね。どっちもフーちゃんじゃ呼びずらいわね」

 

 蜜璃も苦笑いで頷く。

 

「それじゃあ、便宜上私のことは『カエデ』とでも呼んでください」

 

 と、鬼――カエデは頷く。

 

「それで?宇髄様は私に何が訊きたいんですか?」

 

「おお、そうだった」

 

 カエデに訊かれ天元は頷くと

 

「ぶっちゃけそっちの世界では何があってカエデは鬼になったんだ?」

 

「あぁ……」

 

 天元の問いにカエデは言い淀む。

 

「……聞いてて楽しい話じゃないですよ?」

 

「そりゃあお前さんが鬼になるような状況だ。そっちの世界は生半可なもんじゃないんだろうがよ。もしかしたらこっちでもそれが起きねぇとも限らねぇ。だったら聞いておいて派手に対策立てる方がいいだろうしよ」

 

「……まあ、そうですね。ただ、恐らくこっちの世界では私の世界のようなことはほぼ起きないと思いますけどね」

 

 宇髄の言葉に頷いたカエデは前置きで言い、咳ばらいを一つして話し始める。

 

「私とこっちの私で決定的に違う点を挙げるなら、私は『失敗した大好楓子』なんです」

 

「失敗した…?」

 

 カエデの言葉に義勇が訊く。

 

「そもそも、実は私はここより未来から来ているんです。私の世界では鬼との戦いは終わっていて鬼はもう私以外居ません」

 

「なら、我々が勝利した、ということでしょうか?それのどこが失敗なのですか?」

 

 カエデの言葉に天音が訊く。

 

「いえ、戦いに勝利したとは言えません。なぜなら、私の世界ではもう、『鬼殺隊』はありません。鬼との戦いの終盤にはほぼ壊滅しました」

 

『ッ!?』

 

 カエデの予想外の言葉に面々は息をのむ。

 

「いったい、そっちで何があっていうんだァ?」

 

「どちらかというか、逆ですね」

 

「逆だァ?」

 

 問いに答えたカエデの言葉に実弥は怪訝そうに聞く。

 

「この世界にある重要な人物が私の世界にはいないんです。それが決定的な差となって鬼殺隊の壊滅に至ったんです」

 

 カエデは言いながらチラリと楓子と蜜璃と小芭内へ視線を向け

 

「こちらのことはこっちの私に昨日大体聞きました。そのおかげでその違いがすぐにわかりました。私の世界には――竈門炭治郎・禰豆子という兄妹は存在していないんです」

 

『ッ!?』

 

 カエデの言葉に面々は何度目かの驚愕に目を見張る。

 

「聞けば、私の世界でも起きた戦いがこちらでも起きていましたが、私達が多大な被害を出しながら辛勝した戦いをこちらの世界では大勝利に収めていました。その差が例の兄妹の存在です」

 

「あ、あの二人がそれほど重要なのか?」

 

「不死川様にも関係のある部分で言えば、『無限列車』での戦いです」

 

 カエデの説明に実弥が信じられない様子で訊く。

 

「こちらの世界での無限列車での戦いでは列車と一体化した鬼を倒す過程で乗客に被害を出さないように煉獄さんや参加した隊士で手分けし被害を食い止めました。しかし、列車の鬼を倒したのもつかの間、上弦の弐と無惨が実験で生み出した複数の鬼を複合させた鬼が登場しました。不死川様と伊黒様も参加し戦闘の末両者を撃破。乗客など一般人の被害は無く、鬼殺隊の被害も煉獄さんの片腕だけだった、そうですね?」

 

「ああ」

 

 カエデの問いに実弥が頷く。

 

「私の世界では、無限列車での戦いは列車の鬼を倒すことはできましたがとても酷いものでした。参加した隊士はよくやってくれましたが乗客も決して少なくない人数の被害を出しました。そのあともこちらと同じく上弦の弐、複合鬼は登場しました。その戦いでも複合鬼を止めきることはできず一般人を守り切れずたくさん犠牲者を出してしまいました。鬼殺隊の隊士も、参加した一般隊士は死亡者、再起不能の怪我を負ったものもいました。こちらと同じく煉獄さんは片腕を失いました。そして、伊黒様も両足を失いました」

 

「何ッ……?」

 

 カエデの思わぬ言葉に実弥が呆然と呟き、他の面々も息をのむ。

 

「参加していたならわかりますよね?例の複合鬼はかなり強力な再生能力をもっていました。私の世界ではその回復力を乗り越えるのにかなり苦戦しました。ですが、この世界ではかなり有利に複合鬼の回復力を抑止できたそうですね?」

 

「ッ!あの鬼の妹の血鬼術かァ!」

 

「複合鬼だけでなく彼女は列車の中でも奮闘したそうですね?彼女の働きで乗客の被害を出さずに済んだんでしょう。しかし、こちらには彼女はいませんでしたからそうはいきませんでした」

 

 カエデは小さく頷きながら言う。

 

「他にも私の世界で大きな被害を出した戦いも話を聞けば、竈門炭治郎と禰豆子の兄妹の能力を聞けば、きっと重要なカギとなり被害を出すことなく済んだことでしょう。でも、そうはならなかった……その結果、我々は徐々に戦力を減らし末期には柱でまともに戦える戦力は私と悲鳴嶼様、義勇さん、蜜璃さんだけになっていました」

 

「私も、戦えなくなったんですか!?」

 

「俺も……?」

 

「俺もかッ!?」

 

 カエデの言葉に名前を呼ばれなかったしのぶ、無一郎、天元が驚きの声を上げる。

 

「宇髄様は遊郭での戦いで片腕を失くされました。しのぶさんと不死川様は遊郭での戦いで、時透様は別の戦いで……落命されました」

 

『ッ!?』

 

 カエデの言葉に何度目かもわからない驚愕に面々は息をのむ。

 

「……遊郭での戦いは地獄でした。正直私自身よく生き残れたと思う程の激戦でした。吉原遊郭は一晩にして焼け野原になりました。そこにいた一般人もたくさんの被害が出ました。そこにいた上弦の鬼は倒せましたが、被害から見れば我々の惨敗でした」

 

 悲痛なカエデの言葉に面々は押し黙る。

 

「でも、本当の地獄は最後の戦いです」

 

 カエデは絞り出すように言う。

 

「最後の戦い、鬼舞辻無惨はこのお屋敷の場所を特定し攻撃を仕掛けてきました。事前に鬼の被害が減ったり怪しい予兆はあったので万が一に備え戦力をこの屋敷に集めていたのですぐに対応することはできました。でも、相手も本気でつぶしに来ていましたので、最初から最大戦力で攻めて来たんです」

 

「最大戦力って……」

 

「残っていた上弦の壱、そして、鬼舞辻無惨本人です」

 

「鬼舞辻…無惨……!?」

 

「本人が出張ってきたのか!?」

 

「ええ。あの臆病者がまさか出てくるとは思いませんでしたが、逆に言えば、奴は勝てる算段を付けていたんでしょう。実際、我々はすぐに窮地に追いやられました――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 満身創痍、自分の状態を一言で表すならそれ以外の言葉はないだろう。

 幸いにも四肢はいまだ一つも欠けることなく繋がっているが、それでもあちこちから出血し打撲も数か所骨折もしているようでもはや痛くない箇所を上げた方が早いくらいだ。

 私の前に立つ悲鳴嶼様も義勇さんも、蜜璃さんもみな同じような状態、何ならもっとひどい怪我をしている人もいる。

 対する上弦の壱――黒死牟も鬼舞辻無惨も余裕そうな表情で立っている。

 どちらも単体であれば倒すための算段も策も用意していたのだが、二人同時ではそれも今の戦力では厳しい。せめてどちらかだけでも倒さないとジリ貧だ。正直、絶望的な状況だ。

 私は人知れず唇を噛んで後ろ向きな思考を振り払う。

そんな中――

 

「聞け、大好よ」

 

 悲鳴嶼様が無惨達へ視線を向けたまま口を開く。

 

「お前に、大事な役割を与える」

 

「ッ!?は、はいッ!」

 

 悲鳴嶋様の言葉に私は息をのむ。

 

「これよりお前は戦線を離れ、お館様の長男、輝利哉様を連れて身を隠すのだ。なんとしても次代の当主を守り抜け」

 

「ッ!?待ってください、それって――」

 

「辞退することは許さない。これはお館様からの最後の任務である」

 

「お、お館様からのッ!?」

 

 お館様はその病状からもう長くはないと言われ、天音様が代理を務めるようになって大分経つ。そんなお館様からの最後の任務――だとしても

 

「な、何故私なんですかッ!?それならば義勇さんや蜜璃さん、悲鳴嶼様の方が――」

 

「これはお前にしかできない大事な役割だ。お館様の指名ではあるが、我々の総意でもある」

 

「ッ!?そ、それって――」

 

「そうよ、フーちゃん」

 

 驚いている私に蜜璃さんが振り返りながら微笑む。

 

「ここは私たちが引き受けるから、あなたはなんとしても輝利哉様を守って」

 

「そんな…蜜璃さん、私に師匠を置いて逃げる卑怯者になれっていうんですか!?」

 

「馬鹿なことを言うな!」

 

「ッ!?」

 

 私の叫びに義勇さんが怒鳴る。

 

「お前は卑怯者ではない、お前が輝利哉様を連れて逃げることで、お前は未来を繋ぐんだ!」

 

「義勇さん……」

 

「冨岡の言う通りだ。お前は俺達の戦いを無駄にしないために逃げ延びなければいけないんだ」

 

「悲鳴嶋様……」

 

「フーちゃん、『鬼殺隊』を守ってね。お願い、私達の分まで。絶対生き延びてね」

 

「蜜…璃さん……」

 

 三人の言葉に私はあふれそうになる涙を唇を噛んで堪える。

 

「フーちゃん、逃げ延びたら伊黒さんに伝えて――私、短い間でも伊黒さんと恋人として過ごせて幸せだったって」

 

「ッ!」

 

 蜜璃さんの言葉に私は頷くしかできなかった。

 

「さあ行け大好!必ず生き延びるんだ!」

 

「ッ!はい!!」

 

 悲鳴嶼様の言葉に私は大声で答えそのまま反転し走り出す。

 すぐに背後から戦闘の音が聞こえてくる。振り返りたくなる気持ちをぐっとこらえ前を向いてガムシャラに走る。振り返ったら最後、私はきっとお館様からの最後の任務を放棄してしまうだろう。そんなことはお館様にも、残って戦っている蜜璃さん達の覚悟を無にする行為だ。絶対にできない。

 私はそのままお館様の屋敷に駆け込む。

 私の姿にすべてを知っているらしい天音様は黙って輝利哉君を連れて来てくれた。

 事情を知らなかったらしい輝利哉君を連れ出し私は山道をひた走った。

 

「楓子さん待ってください!僕だけ逃げるなんて!」

 

「すみません、私の力ではあなただけを逃がすのが精いっぱいなんです!お願いです!お願い…ですから……ッ!」

 

「楓子さん……」

 

「私はあなたのお父様にあなたのことを頼まれた……師匠に、蜜璃さんに生きろと命じられたんです!だから――」

 

「キヒヒッ見つけたぜ!こいつらだ!!」

 

「「ッ!?」」

 

 私の言葉を遮って意地の悪い声が響く。

 見れば進行方向に飛び出してくる影がある。慌てて立ち止まり身構えれば、目を血走らせた鬼が立っている。

 

「くッ!」

 

 私は来た道を戻ろうとするが――

 

「おっと、こっちにも行かせねぇぜェ!」

 

「ッ!?」

 

 背後にも別の鬼がいる。しかも、改めて気配を探れば周囲には他にも鬼の気配を感じる。

 

「お前らを連れてくればあの方は血を分けてくださるとおっしゃった!!」

 

「大人しく俺達と来れば痛い目を見ずに済むぜェ!!」

 

「くそッ……」

 

 鬼たちの下卑た笑みに私は周囲を見渡し

 

「輝利哉君、しっかり掴まっていてください!突破します!!」

 

 私は日輪刀を抜き駆け出す。

しかし、多勢に無勢。私の奮闘虚しく、私たちは捕まってしまった。そして――

 

「おらッ!」

 

「がッ!?」

 

 私はゴミの様に地面に放り投げられる。

 私を投げた鬼は私の日輪刀を肩に掛けてニヤニヤと笑っている。そして――

 

「ふむ、なかなか健闘したようだな」

 

 聞こえた声に視線を向ければ、鬼舞辻無惨が座って冷笑を浮かべていた。しかし、私はすぐに〝それ〟に気付いた。無惨が座っている〝それ〟は――

 

「悲鳴嶼…様……?」

 

 見覚えのある羽織姿は見間違えるはずもない。

 横たわる悲鳴嶋様の身体をまるで椅子の様に腰かけている。そして、その側には

 

「ッ!義勇さん!!蜜璃さん!!」

 

 私の呼びかけにもピクリとも動かない二人の姿。見れば三人とも横たわる地面には一目で致死量とわかるほどの血溜まりが広がっている。

 

「お待たせいたしました」

 

 愕然とする私にさらなる声が聞こえ呆然とそちらに視線を向ければ

 

「ッ!?」

 

 黒死牟が歩いてきていた。その手には何かを掴んでいた。スイカほどの大きさのそれの正体に私はすぐに気付く。

 

「お館…様……!」

 

「よくやった黒死牟……フフ、お前がそうやって産屋敷の頸を持ってくるのはこれで二度目だな」

 

「ッ!!鬼舞辻無惨ッ!!お前ぇぇぇぇぇッ!!!」

 

「おっと!」

 

「がはッ!?」

 

 無惨に向けて睨み飛び掛かろうとした私だったがそれより先に私をここに連れてきた鬼によって背中を踏みつけられ――

 

「おらァッ!」

 

「あぁぁぁッ!!!?」

 

 伸ばした右掌を串刺しにして地面に縫い付けられる。

 

「フフ、無様だな」

 

 そんな私に無惨は楽し気に嗤う。

 

「貴様には散々煮え湯を飲まされた。存分に苦しんでもらわねばな」

 

 言いながら無惨はパチンと指を鳴らす。と、

 

「ふ、楓子さん……!」

 

「き、輝利哉…君!?」

 

 別の鬼がニヤニヤと輝利哉君を連れて来た。

 

「何をしようって言うの!?私の目の前で彼を殺して見せようってこと!?」

 

「そんなことでこの私の溜飲が下がるとでも思っているのか?そんな何の面白みもない催しで?馬鹿を言うな」

 

 言いながら無惨はニヤリと笑い

 

「こいつを殺すのは私達ではない、お前だ大好楓子」

 

「ッ!?何を…言って……?」

 

「すぐに分かる――黒死牟」

 

「はい」

 

 意味が分からず呆然としている私にニヤニヤと嗤いながら無惨は黒死牟に合図する。

 呼ばれた黒死牟は刀を抜き

 

「ふッ」

 

 一息に刀を振るう。

 

「あ、あぁぁぁぁッ!!!?」

 

 その瞬間輝利哉君の胸が切り裂かれ鮮血が飛び散る。

 

「輝利哉君!!」

 

「慌てるな、この程度ですぐに死んだりはしない。言っただろう、こいつを殺すのはお前だと」

 

 言いながら無惨は地面に倒れる私に歩み寄り

 

「今からお前を鬼にする」

 

「ッ!?」

 

「鬼になってすぐの飢餓感は凄まじい。見境なく人を襲うほどの理性のない状態で血の匂いを嗅げば否が応でもお前はこの産屋敷の子供を襲わずに居られない…見ものだろうな、飢餓感が収まった時のお前の絶望は」

 

「やめろ…やめろぉぉぉぉぉッ!!!」

 

「フッ、その表情が見たかったのだ」

 

 邪悪の笑みで嗤いながら無惨は右手を手刀の形に構え

 

「がぁッ!!?」

 

 倒れる私の背中を突き刺す。

 その瞬間背中を起点に全身に、まるで熱した鉄でも流し込まれたかのような、全身の血液が沸騰するような感覚が駆け巡った。身体の内側から別のものに作り替えられていく感覚は痛みと錯覚するほどで、永遠にも続くのではないかという変貌の末、私は――

 

 

 

 

 

――私は、こうして鬼になりました。

 

 

 




もう一人の楓子の衝撃の話の連続でしたね!
しかし、彼女の話はまだ終わりではありません。
彼女の身にいったい何があり今に至るのか?
次回をお楽しみに!
次回の更新は本日18時を予定しています!

先行して楓子:鬼バージョンのイメージイラストを公開します。

【挿絵表示】


鬼楓子ちゃんは元の楓子と違い髪が短かったり、胸が大きくなっているなど体型も少し違いますし、作中で楓子本人が言っていますが声がこちらの楓子と違います。
イメージCV.は悠木碧さんです。
悠木碧さんの鬼、となると思い浮かんだキャラに顔が似てしまったのはご愛敬(笑)

そんなわけで今回はこの辺で!
また夕方にお会いしましょう!


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