恋柱の継子、人の恋路に世話を焼く   作:大同爽

13 / 109
今日の朝の投稿から同日に投稿です。
前回のお話の続きなのでまだ読んでいない方は前話を読んでから読んでくださいね!





恋11.5 水柱の継子と鮭大根

 義勇としのぶの食事から一月が経った。

 楓子とカナエによる「ツンデレ矯正」と言う名目の悪ふざけと、LIKEかLOVEかの区別はまだついていないものの気になる男性から下の名前で呼ばれたことの興奮と言うダブルパンチを引き摺ったしのぶは任務などを言い訳にこの一か月義勇に会うことを避け続けていた。

 しかし、そんな中で今日、しのぶは

 

「……来てしまった」

 

 義勇の住む屋敷の門の前に立っていた。

 

「いったいなんで私が届け物を……しかも冨岡さんになんて……」

 

 彼女が今日こうしてやって来たのは彼女の姉から義勇へ彼が愛用している軟膏を届けるように頼まれたからである。

 しかし、彼女の手には現在カナエによって託された届け物の包みの他に食材の入った手提げ鞄が握られていた。

 

「ま、まぁ…あの時は取り乱したとは言え、せっかくご馳走していただいたのに失礼な態度をとってしまいましたし……そのお詫びはしなくてはいけないわね、うん」

 

 と、チラリと自身の持つ鞄の中の食材を確認し誰にとはわからない言い訳をしながら頷く。

 

「そ、そう……これはお詫びの為と届け物をするという目的のためだから……別に?私が冨岡さんに会いたくなったとかじゃないから?」

 

 と、ブツブツと呟いたしのぶは

 

「よし!」

 

 意を決して顔を上げ門をくぐり、玄関の前に立つと

 

「ごめんください!」

 

 屋敷の中へと呼びかける。

 すると部屋の中から人の気配とともに足音が聞こえてくる。

 しのぶは数秒後に現れるであろう人物の顔を思い浮かべ無意識のうちに口元を綻ばせ

 

「はい、お待たせしました!」

 

 玄関の戸を開けた人物にその笑みを凍り付かせる。

 

「あの……何か御用でしょうか?」

 

 しのぶの困惑に気付かないまま目の前で玄関の扉を開けた人物――頭に狐の面を被った小柄な少女は首を傾げる。

 

「え、えっと……」

 

 ゆっくりと混乱から頭を切り替え始めたしのぶは絞り出すように口を開く。

 

「その……ここは水柱・冨岡義勇さんのお屋敷だったと記憶しているのですが……」

 

「はい、そうですよ?」

 

「では……その、あなたは?」

 

 頷く少女に困惑の表情を辛うじて取り繕った笑みで隠しながら問いかける。

 対する少女は――

 

「これは失礼しました!」

 

 しのぶへニッコリと笑みを浮かべて

 

「はじめまして!先日冨岡さんの継子にしていただきました、鱗滝真菰と言います!」

 

 少女――真菰はお辞儀をしながら名乗った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ふぅ」

 

 任務を終え、やっとのことで屋敷へと戻った義勇は玄関の前で息をつく。

 

「……面倒な鬼だった」

 

 鬼の使う血鬼術が厄介なこともあり、少し討伐に手間取ったのもあり、義勇は少し疲れていた。

 とりあえず一息ついたら今日は早めに休もう、と考えながら玄関の扉に手をかけ

 

「……戻ったぞ」

 

 屋敷の中に呼びかける。

 と、すぐにトタトタと足音が聞こえ

 

「お帰りなさい、冨岡さん!」

 

「……ああ」

 

 ニコニコと笑顔のまま自身を出迎えた少女――真菰に義勇は頷いて応じる。

 彼女は一か月前のしのぶとの食事のために楓子に相談にのってもらった見返りとしてだされた条件によって二人の師である鱗滝左近次を交えて話し合った結果、先日ついに義勇の継子となったのだ。

 正直自身のことを柱の地位に相応しくないと考えている義勇にとっては非常に不本意だったが、恩師である鱗滝の頼みもあって半ば押し切られるように彼女が継子になることと認めた。

 ただ、元来真面目な性格なので、継子にした以上は自分の持てる知識を動員してしっかりと指導しようと決めた義勇は彼女を自身の屋敷に住まわせ、彼女の指導にあたっている。

 

「大丈夫ですか、冨岡さん?なんだかお疲れですね」

 

「……ああ」

 

 心配するように自身の顔を覗き込む真菰に頷き

 

「今日は早めに休む。指導は明日以降に見る」

 

 言いながら真菰に背負っていた荷物を預けて草履を脱いだ義勇は玄関を上がり

 

「あ、おやすみになる前にお伝えすることが!」

 

「……なんだ?」

 

 呼び止めた真菰の言葉に足を止める。

 

「お客様が来られています。つい先ほど来られて、そろそろ帰られると言ったら待たせてほしい、と」

 

「……客?」

 

 真菰の言葉に義勇は首を傾げる。はて?来客の予定はあっただろうか?と頭に疑問を浮かべていると、目の前で真菰は頷く。

 

「はい、蟲柱の胡蝶しのぶ様がいらっしゃっています」

 

「……胡蝶の妹が?」

 

「はい、客間で待っていただいていますが……」

 

「……わかった」

 

 首を傾げながら義勇は客間に向かう。

 一か月前の食事の最後に理由はわからないが、いや一つ心当たりはあるが、とにかく最後に機嫌を損ねてしまったことを気にしていた義勇としては直接謝らないと、と思っていた。しかし、蝶屋敷を何度か訪ねては見たものの運悪く任務などで不在だったり、真菰の継子騒動などでバタついてしまって今日まで会うことができていなかった。

 彼女の今日の来訪の意図はわからないがいい機会なのでしっかりと謝罪しよう、と義勇は考えたところで、客間の前にやって来る。

 

「……失礼する」

 

 一声かけて一拍置いてから客間の障子を開けると、

 

「あ、おかえりなさい、冨岡さん」

 

 客間の真ん中に置かれた机に向かって正座で座るしのぶの姿があった。あったのだが――

 

「…………」

 

「あら?どうしました?」

 

「い、いや……」

 

 しのぶの問いに義勇は言い淀む。

 彼の視線の先で座るしのぶは笑顔で、しかし、何故かその圧倒的な怒りの圧を感じさせる笑みのまま義勇を見つめていた。

 

「とりあえず、座ったらどうですか?」

 

「あ、ああ……」

 

 頷いた義勇はしのぶの対面に座る。

 

「そ、それで…胡蝶の妹、今日は一体――」

 

「あ、そう言えば冨岡さん、聞きましたよ」

 

 言いかけた義勇の言葉を遮ってしのぶが圧のある笑みのまま口を開く。

 

「彼女――鱗滝真菰さんを継子にされたそうですね?おめでとうございます」

 

「あ、ああ…ありがとう……」

 

 しのぶの言葉にとりあえず頷いておく義勇。

 

「指導のために彼女はこのお屋敷に住まわれてるとか……あんなに可愛いくて小さな女の子と一つ屋根の下で二人暮らし……さぞ楽しいでしょうね~?」

 

「???」

 

 しのぶの言葉の意味が分からず首を傾げる。

 

「いや……胡蝶の妹、一体何を言って――」

 

「いえいえ、別に言い訳しなくてもいいですよ?真菰ちゃん、素直で優しい可愛らしい子ですもんね?私みたいに口が悪くないですしね」

 

「いや、だから……」

 

「私みたいな女よりも彼女みたいな子にご飯作ってもらうほうが嬉しいですよね。ええ、ええ。これは私はお邪魔ですね。さっさと用事済ませて私はお暇しますのでお気になさらず」

 

「いや、話を……」

 

 しのぶの圧のある笑顔から飛び出す言葉に義勇は困惑しながらも言いかけたところで

 

「失礼します」

 

 話題となっている真菰本人が障子を開けて現れる。

 

「冨岡さん、どうぞ」

 

 と、彼女は持ってきたお盆から湯飲を義勇の前に置く。

 

「しのぶ様も、おかわりいかがですか?」

 

「ありがとうございます。でももうすぐにお暇しますので大丈夫ですから」

 

「そう…ですか……?」

 

 笑顔のまま言うしのぶの言葉に真菰は首を傾げる。

 

「あぁ……とりあえず紹介する」

 

 言いながら義勇は真菰を指さす。

 

「……改めて、彼女は鱗滝真菰。俺と同門で先日継子として俺が指導することになった」

 

 義勇の紹介に真菰は笑顔でお辞儀する。

 

「改めて、よろしくお願いします、しのぶ様」

 

「ええ、よろしくね」

 

 真菰の言葉に頷くしのぶ。そんなしのぶにソワソワと真菰は

 

「あ、あの!しのぶ様はあの蟲柱なんですよね?」

 

「ええ、そうですよ?」

 

「すごい!私実はしのぶ様に憧れてるんです!」

 

「………はい?」

 

 突然の真菰の言葉にしのぶは笑みのまま首を傾げる。

 

「だって、しのぶ様は鬼を殺す毒を自身で作られた才女様ですよね!?すごいです!」

 

「そ、それは…まあ、私は見ての通り小柄ですし、筋力もあまりないので鬼の頸を斬り落とすのは難しいので……必要に駆られて編み出しただけのことで……」

 

「だからこそですよ!」

 

 視線を反らしながら言うしのぶに、しかし真菰は目を輝かせて言う。

 

「私も今でこそ少しずつ体が大きくなってきていますが、入隊の最終選別の頃にはまだまだ体は小さくて、友人の助けもあってなんとか入隊はできましたが、本当に鬼と渡り合えるか心配でした……でも、しのぶ様のように自身の苦手を別のことで補って柱にまで至ったそのお力、本当にすごいと思います!」

 

「ッ!」

 

「鬼殺隊の女性隊士の中には私のような不安を持っている人はもっといると思います。そう言う人間にとってしのぶ様の存在は憧れなんです!」

 

「そ、そうですか……それは、ありがとうございます……」

 

「あの、またお話お伺いしてもいいですか?」

 

「え、ええ。私の話でよければいくらでも……」

 

「ありがとうございます!」

 

 しのぶの言葉に真菰は嬉しそうに頷き

 

「あの、ところでしのぶ様は今日来られたのは、もしかしてご飯を作る為ですか?」

 

「えッ!?い、いえ…今日は、その……」

 

「そちらの鞄の中身、食材ですよね?」

 

「ッ!!い、いえ!これは…!その……!」

 

 真菰の指摘にしのぶは自身が横に置いた鞄を見てしどろもどろになる。が――

 

「よかったですね、冨岡さん!」

 

「へ……?」

 

 真菰の言葉にポカンと呆ける。

 

「冨岡さんから伺ってたんです。上弦の弐の討伐以来、お礼として度々ご飯を作りに来てくれて、しかもどれも美味しくて嬉しかったって」

 

「え、そう…なんですか……?」

 

「……ああ」

 

 しのぶの問いに義勇は頷く。

 

「今日は一体何を作る予定なんですか?」

 

「えっと…鮭大根を……」

 

「鮭大根!よかったですね、冨岡さん。今までに食べた中でしのぶ様の鮭大根が一番好きだっておっしゃってましたもんね」

 

「え……!?」

 

「……そうだな」

 

 真菰の言葉に呆け、頷いた義勇にしのぶの頬が赤く染まる。

 

「あ、あの、しのぶ様がよければまたこれからもご飯作りに来ていただけませんか?恥ずかしながら私、あまり料理は得意ではなくて……よければご教授いただけませんか?」

 

「それは……」

 

 真菰の言葉に言い淀むしのぶだったが、自身へ期待の眼差しで見つめる真菰に少し悩んだが

 

「えっと…私でよければ……」

 

「ありがとうございます!」

 

 頷いたしのぶの言葉に真菰は嬉しそうに微笑んだ。

 

「あ、そうだ。この間ふうちゃんが継子就任のお祝いだって手作りのお菓子を持ってきてくれて、まだあるので持ってきますね!」

 

「え?いや……」

 

「すぐ戻りますから!」

 

 しのぶが止める間もなく真菰はニコニコと嬉しそうに上機嫌に部屋を後にした。

 真菰を見送った義勇としのぶの間に数秒の沈黙が訪れ

 

「……その、すまん」

 

 義勇がそっと頭を下げる。

 

「い、いえ、元気があっていいと思いますよ」

 

 そんな義勇に微笑みながらしのぶが言う。が――

 

「いや、真菰のことではなく……いや、真菰のこともそうなんだが……」

 

「え?」

 

「その…先日の食事の最後に……」

 

「あぁ……」

 

 義勇の言葉にしのぶは義勇の謝罪の意味を悟る。

 

「すまない。何か俺の発言で気を悪くしたようだったのが気になっていた……本当はもっと早く謝りたかったんだが……何度か訪ねても不在で…真菰がうちに来ることにもなってバタついてしまって遅くなってしまった……本当にすまない」

 

 言いながら深く頭を下げる義勇にしのぶはハッとする。そう言えば何度か任務から帰ったときにすみ、きよ、なほから自分に義勇が訪ねてきたことを告げられたことがあった。しかし、しのぶが気恥ずかしくて今日まで訪ねることができなかったのだ。

 

「冨岡さん、頭を上げてください」

 

「だが……」

 

「もう怒っていませんから」

 

「……そう、なのか?」

 

 しのぶの言葉に恐る恐ると言った様子で義勇が顔を上げる。

 

「今もそのせいで怒っていたんじゃ……?」

 

「い、いえ、今日のは別で……」

 

「別……?」

 

「ッ! い、いえ!なんでもありません!」

 

 言いかけたしのぶは首を傾げる義勇に慌てて首を振る。

 

「と、とにかく!私は気にしてませんので!」

 

「そ、そうか……よかった……」

 

 しのぶの言葉に義勇はほっと一安心したように息をつく。

 

「その、本当にすまなかった。今日もまたご馳走になる、胡蝶の妹……」

 

「ええ、それは構いませんが……」

 

 義勇の言葉に頷きながら

 

「あの、ずっと気になっていたんですが……」

 

「何だ……?」

 

「なんで呼び方戻ってるんですか?」

 

「……名前で呼んだから怒ったんじゃないのか?」

 

「……へ?」

 

 義勇の言葉にしのぶは呆ける。

 

「あの時、よく考えれば俺がお前の名前を呼んだ時から様子が変わったから……名前を呼ばれるのが嫌だったのかと思ったんだが……」

 

「それは……まああの時には確かにそれが原因ですけど……」

 

「なら――」

 

「でも、そもそもあの時のあれは怒ったわけじゃなく、ただ急に名前で呼ばれてびっくりしただけで……だから呼ばれるのが嫌なわけではありませんので」

 

「そう…なのか……?」

 

「ええ。ですので気にせず呼んでいただいて構いません」

 

「そう、か……」

 

 しのぶの言葉に少し考えた義勇は

 

「その、改めてよろしく頼む、しのぶ」

 

「ッ! え、ええ。よろしくお願いします」

 

 義勇に名前を呼ばれ一瞬ドキリと心臓が高鳴ったの感じながら、しのぶは微笑んで頷く。

 

「そ、そうだ!」

 

 と、緊張を振り払うようにしのぶが思い出したように言う。

 

「今日はご飯を作りに来たのもなんですが、一番の用事はこっちなんです」

 

「???」

 

 しのぶの言葉に義勇が首を傾げる。そんな義勇の目の前の机にしのぶは包みを置く。

 

「これ、冨岡さんがいつも使っている軟膏です。もう残りが少ないということで届けに来ました」

 

「……あ、ああ?」

 

 しのぶの言葉に頷き、しかし何か引っかかる様子で首を傾げる義勇。

 

「どうしました?」

 

「……いや、確かに残りが少なくはなっていたが……」

 

 包みを渡しながらしのぶが訊くと、それを受けとりながら義勇は首を傾げる。

 

「明日俺の方で取りに行くと、昨日のうちに鎹鴉で蝶屋敷に知らせておいたはずだったんだが……」

 

「え?でも……」

 

 義勇の言葉にしのぶも首を傾げ

 

「あ……」

 

 そこでハタと気付く。このお使いを自身に頼んだのが姉であることに。

 

(ね、ねぇぇさぁぁぁぁぁぁん!!!!!)

 

 胸中でこの状況を仕組んだであろう姉に怒りを膨らませるしのぶの様子に義勇は首を傾げながら礼を言う。

 

「なんにせよ、わざわざすまない」

 

「い、いえ!」

 

 義勇の言葉にいったん姉への怒りを脇に置いて頷くしのぶ。

 

「その、先程真菰自身も言っていたが……」

 

「はい」

 

「男の俺の下で学ぶと言うのは俺では気付けないこともあるかもしれん。気にかけてやってもらえるだろうか?」

 

 義勇の言葉にしのぶは感心したように頷き

 

「ええ。わかりました」

 

「すまん……」

 

「いいですよ」

 

 そう言ってしのぶは微笑んだ。

 

「ま、冨岡さん鈍感ですからね、真菰ちゃんが継子を嫌にならないように、しょうがないので私がフォローしてあげますよ」

 

「…………」

 

 俺は鈍感じゃない、と否定しようと思ったが何かとしのぶを怒らせていることを思い出し自己完結した義勇は黙って微笑むしのぶを見つめていた。しのぶのその笑顔はどこか嬉しそうに見えたが、その理由は義勇にはわからなかった。

 




今回のお話が11.5と表記してるのは楓子ちゃんが今話では登場しないからです。
なのでこのお話はほとんど番外編ですね。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。