恋柱の継子、人の恋路に世話を焼く   作:大同爽

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恋12 恋柱の継子とお見合い

「伊黒様!」

 

 非番の昼間、屋敷で過ごしていた小芭内の下に楓子が慌てた様子で訪ねてきた。

 

「いったいどうした?」

 

「ご本人が言わなかったことを私が勝手に伝えていいのか……でも、伊黒様にどうしてもお耳に入れておかなければいけないことがあります!」

 

 楓子の言葉に訝しむ小芭内。そんな彼に楓子は

 

「蜜璃さんが……」

 

「甘露寺がどうした?」

 

「蜜璃さんがお見合いに行ったんです!」

 

「ッ!!?」

 

 小芭内は楓子の衝撃的な一言に目を見開く。

 

「お館様のご紹介らしくて、お相手は華族の結構な良家の長男らしいです」

 

「…………」

 

 楓子の説明にも小芭内は呆然と聞いている。

 

「伊黒様!」

 

「ッ!」

 

 楓子の呼び声に小芭内はハッと視線を楓子へと向ける。

 

「伊黒様、今すぐこの住所に行ってください!これがお見合いの会場です!私は今日は蝶屋敷で手伝いをすることになっているので一緒には行けません!」

 

「…………」

 

「伊黒様……?」

 

 楓子は折り畳んだ紙を差し出す。が、小芭内はそれに手を伸ばさない。

 

「……伊黒様、本当はこのお見合いはずっと前から決まっていました」

 

 迷っている様子の小芭内に楓子は口を開く。

 

「私、蜜璃さんが幸せになるならって思いました。でも、やっぱり私には黙っていることなんてできません。あなたは行くべきです!」

 

「だが……」

 

 しかし、楓子の言葉でも踏ん切りがつかない様子の小芭内。

 

「……伊黒様、今蜜璃さんはお見合いをしようとしています。あなたはどうするんですか?」

 

「ッ! そ、それは……」

 

 楓子が問うが小芭内は言い淀む。そんな小芭内に楓子は

 

「しゃらくせぇぇぇぇぇ!!!」

 

「ゲフッ!!?」

 

 小芭内の頬に拳を叩きこんだ。

 

「お、お前何を――」

 

「判断が遅い!!!」

 

「ッ!?」

 

 殴られた左頬を押えて小芭内が文句を言おうとするが、楓子の圧に圧倒される。

 

「あなたはとにかく判断が遅い!!今の質問に間髪入れずに答えられなかったのは何故か!?あなたが本当は蜜璃さんにお見合いしてほしくないって思ってるからですよ!!」

 

「それは……」

 

「今あなたがすべきことは二つ!!今すぐ蜜璃さんのところに行く!!そして、お見合いを取りやめさせて自分の気持ちを伝える!!それだけです!!」

 

「だ、だが…この見合いで甘露寺が幸せになるなら――」

 

「そこはあんたが全力で幸せにするんでしょうが!!!」

 

「ッ!!」

 

 楓子の言葉に小芭内はハッとする。

 

「誰かが蜜璃さんを幸せにすることを期待せず、なんで自分で幸せにしてやるんだって思わないんですか!!?」

 

「それは……」

 

「チッ……」

 

 答えられない小芭内に楓子は舌打ちすると先程の住所の書かれた紙を突き出す。

 

「ん!」

 

「え……?」

 

「ウジウジウジウジ!!えぇッ!!?とっとと行けよぉぉぉぉぉぉ!!ウジウジ悩むくらいなら行動すればいいんだよぉぉぉぉぉ!!!」

 

「い、いや……」

 

「ほら靴はいて!!!さっさと行けぇぇぇぇぇ!!!!」

 

「イタァッ!?え!?あ、ああ!!」

 

 小芭内に紙を無理矢理握らせて強引に立ち上がらせるとお尻を蹴り上げて押し出す。

 その勢いに小芭内はわけもわからず走り出した。

 そんな小芭内の背中を見えなくなるまで見送った楓子は怒りの表情で腕を組んで見送ると

 

「………やべ、我を忘れて勢いで鱗滝さんの台詞パクっちゃった」

 

 急に表情を緩めて呟くのだった。

 

 

 ○

 

 

 

「はぁ……!はぁ……!はぁ……!」

 

 小芭内は荒い息を吐きながら走る。

 楓子から強引に追い立てられた小芭内は、しかし、遅ればせながら覚悟を決めていた。

 楓子の言葉はもっともだった。

 自身の過去によって小芭内は自分は汚れていると責め続け、蜜璃への想いも踏ん切りがつかないでいた。

 しかし、楓子のもたらした知らせによって状況が変わった。

 

(俺は……甘露寺を誰にも渡したくない!)

 

 楓子の言葉に小芭内は自身気持ちへ正面から向き合っていた。

 

(甘露寺…俺は、お前に側にいてほしい!!)

 

 自分の気持ちに向き合い、最初はただ強引に追い立てられた小芭内は、今は確かな覚悟で蜜璃の下へ駆けていた。

 幸い楓子から渡された紙に書かれた住所は比較的近くだった。

 お見合いの会場である料亭に駆け込んだ小芭内は対応した従業員に蜜璃の居場所を聞き出す。

 困惑しながらも教えてくれた従業員をその場に残し蜜璃の下へ向かう。

 一度外に出て庭へ走る小芭内は庭園と言えるような広い庭の中で池に向かって並び立つ一組の男女を見つける。

 後ろ姿ではあったが、その女性の特徴的な桜餅のような色の髪は見間違えることはない。

 

「甘露寺!!!」

 

 小芭内はそんな彼女に叫ぶ。

 

「……伊黒さん?」

 

 その呼び声が聞こえたらしい蜜璃が振り返る。

 振り返った彼女の下に駆け寄った小芭内は

 

「ど、どうしたの、伊黒さん?というかどうしてここに……というか大丈夫その頬?真っ赤に腫れて――」

 

「甘露寺!!!」

 

 困惑した様子の蜜璃の言葉を遮って小芭内は叫ぶ。

 

「甘露寺、見合いをしないでくれ!」

 

「え?でも……」

 

「虫のいいことを言っているのはわかってる!でも、俺はお前に見合いをしてほしくない!!」

 

 首を傾げる蜜璃に小芭内は首を振って叫ぶ。

 

「最初はお前が幸せになるならいいと思っていた!でも、それじゃあダメなんだ!!俺はお前と一緒にいたい!!」

 

「伊黒さん……」

 

 小芭内の言葉に困惑しながら、その内容に蜜璃の頬が赤く染まるする。

 

「甘露寺、俺は――」

 

 意を決して言いかけた小芭内の言葉は

 

「ニャァ~」

 

 間の抜けた猫の声に遮られた。

 その声に虚を突かれた小芭内だったが、周りを見る余裕が出たのか、そこで初めて今鳴いた猫が蜜璃の腕に抱かれていることに気付いた。

 

「……何故猫がここに?」

 

「??? そりゃ…だって……」

 

 困惑する小芭内に甘露寺は

 

「このお見合いは、この子のなんだもの」

 

「………は?」

 

 首を傾げながら言われた言葉に小芭内は呆けた顔をする。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「今日はごめんね、非番の日なのに」

 

「いえいえ、なんてことないですよ」

 

 カナエの言葉に楓子は笑って答える。

 今日楓子が蝶屋敷に来ていたのは機能回復訓練の補助として呼ばれていたのだ。そして今しがた訓練を終え、片付けを手伝っているところだ。

 

「でも、片付けまで手伝ってもらっちゃって」

 

「やるなら最後まで手伝いますよ」

 

「ごめんなさいね。助かるわ」

 

 しのぶの言葉に楓子が笑顔で言うとカナエは頷く。

 

「そう言えば今日は蜜璃ちゃんは?任務かしら?」

 

「ああ。いえ、出掛けてます」

 

「あら、着いて行かなくてよかったの?」

 

 答えた楓子にしのぶが首を傾げる。

 

「ええ。今日の用事はお見合いなので私が同席するのもあれなので」

 

「ああ、お見合い………お見合い!?」

 

「蜜璃さん結婚するの!?」

 

 楓子の言葉に二人は驚愕の表情で叫ぶ。

 

「ああ違います違います。お見合いって言ってもお二人の思ってるお見合いじゃないので」

 

「???」

 

「どういうこと?」

 

 笑って言う楓子に二人は首を傾げる。

 

「まあなんと言うか……ブフッ!」

 

 説明をしかけた楓子だったが、突如吹き出し笑い始める。

 

「な、何!?」

 

「そんな可笑しなことなの!?」

 

「イ、イエネェ?キョ、今日その蜜璃さんが行ってるお見合いについてなんですけどね?」

 

 困惑する二人に楓子は笑いながら

 

「じ、実はね?今日そのお見合いの話を伊黒様に――」

 

 笑いながら言いかけた楓子の言葉は

 

「大好楓子ぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!」

 

「ヒデブゥッ!!?」

 

 背後から聞こえた叫び声とともに後頭部に衝撃を受けて吹き飛んだ。

 

「「楓子ちゃぁぁんッ!!!?」」

 

 文字通り吹き飛ばされた楓子が地面をもんどりうって転がり壁にひっくり返って顔面で着地した光景にカナエとしのぶが叫ぶ。

 

「な、何すんじゃぁぁぁぁぁ!!!?」

 

 突然のことに叫びながら立ち上がった楓子は

 

「チッ!不意打ちで蹴り飛ばしたのに全部受け身を取ったな。その技量は誉めてやろう」

 

「ふざけんなぁぁぁぁ!!受け身とっても痛いもんは痛いんですよ!!特に後頭部!!今明らかに全体重乗せて両脚で蹴り飛ばしましたよ!!」

 

 一瞬前まで自分がいた場所で舌打ちする人物――伊黒小芭内に怒りの叫びをぶつける。

 

「乙女の後頭部にドロップキックかますとかいったい全体どういう了見ですか!!?」

 

「それはこっちの台詞だッ!!!貴様よくもだましたなッ!!!?」

 

 叫ぶ楓子にそれ以上の怒声で小芭内が叫ぶ。

 

「貴様ぁ!!甘露寺が見合いに行ったと言ったな!!?」

 

「ええ、言いましたとも!!それがどうしたって言うんすか!!?」

 

「見合いは見合いでも、猫の見合いじゃないかぁぁぁぁぁッ!!!!」

 

「「……猫のお見合い?」」

 

 小芭内の怒声にしのぶとカナエが首を傾げる。

 

「嘘は言ってないでしょうが嘘は!!お見合いに行くとは言ったけど蜜璃さん自身のお見合いなんて一言も言ってませんけどぉぉ!!?」

 

「見合いと聞いて飼い猫の見合いだと思いつけるわけないだろうがぁぁぁぁッ!!!」

 

 小芭内のもっともな意見にしのぶもカナエも頷く。

 

「楓子ちゃん、流石にこれは伊黒君の意見のほうが正しいわよ」

 

「というか飼い猫のお見合いなんて前代未聞じゃない?」

 

「待ってくださいよ!私だって何も悪意を持って伏せてたわけじゃないですよ!?」

 

 カナエとしのぶが苦笑いで言うと楓子は慌てて説明を始める。

 

「聞いてくださいよ!!そもそも事の始まりは蜜璃さんとの仲がこの二年近く一切進展させられないこのヘタレ柱・伊黒小芭内様が悪いんですよ!!!」

 

「誰がヘタレ柱だッ!?」

 

「この二年、食事もカフェーもキネマも観劇も、その他もろもろあらゆる逢瀬を重ねてもいまだ友達以上恋人未満で自分から手すら繋げてない人をヘタレと言わずしてなんて言うんですかねぇ!?」

 

「「それはヘタレね」」

 

「おい、お前らまでか!?」

 

 楓子のジト目での言葉にカナエとしのぶは頷くと小芭内はショックを受けた様子で言う。

 

「ごめんなさい。でもそれはヘタレって言われてもしょうがないわよ」

 

「ヘタレでも生易しいくらいじゃないかしら?」

 

「そんな……」

 

 二人の言葉に小芭内はがっくりと膝をつく。

 

「とにかく、年号すら明治から大正に変わったのに全く変わり映えのしないこの二人の関係、いい加減普通の方法だとこの人は蜜璃さんとの仲を進展させられません!!そのことを危惧した私は一計を案じ、蜜璃さんに猫のお見合いが来た事実を一部伏せて、蜜璃さん自身のお見合いだと誤認するように話して伊黒様が本気になれるように仕組んだんです!!これでもまだ私が悪いと言いますか裁判長!?」

 

「「…………」」

 

 楓子の説明に顔を見合わせたカナエとしのぶは揃って頷き

 

「「無罪」」

 

「シャァオラッ!!!」

 

「なんだとッ!!?」

 

 全力のガッツポーズを決める楓子の隣で小芭内が驚愕の表情を浮かべる。

 

「待て待て待て!!今のこいつの話に納得できる様子があったか!?余計なお世話だろうがッ!!?」

 

 背後でどこからか取り出した大きく「勝訴」と書かれた紙を掲げて満面の笑みで道場の中をスキップをしながら飛び跳ねる楓子を指さしながら叫ぶ小芭内だったが

 

「いや、正直これは仕方ないと思うわ」

 

「私でもたぶん楓子ちゃんと同じことしたわね」

 

「そんな……」

 

 苦笑いのしのぶとカナエの言葉に小芭内は愕然と膝をつく。

 

「でも、よくそんなお見合い話用意できたわね」

 

「ああ、そんなの簡単ですよ」

 

 カナエの言葉に足を止めた楓子は三人に視線を向け

 

「お館様にお願いしたら嬉々として協力してくれましたよ」

 

「「「お館様……」」」

 

 三人はその言葉にため息をついた。

 

「これはお館様の人脈の広さに驚くべきか、お館様の人の良さに驚くべきか……」

 

「相手は華族の長男だろう?もし相手の機嫌を損ねてお館様の顔に泥を塗ったらどうするつもりだったんだ……?」

 

「お館様には伊黒様が乗り込むところまで分かったうえで、そう言う冗談のわかる方を紹介してもらってました」

 

「「「お館様ぁぁぁぁ……」」」

 

 現柱二人と元柱が自身の上司のノリの良さに大きくため息をつく光景に、とっくに知っていた楓子は首を傾げる。

 

「まあでも、私のこの頑張りのおかげで、今日この日めでたく伊黒様は蜜璃さんと恋仲になれたんですから、多少の嘘は大目に見てくれてもいいじゃないですか」

 

「そうねぇ~。おめでたい日なんだから今日のところは怒りの矛を収めてもいいんじゃないかしらね?」

 

「えっと…おめでとうございます、でいいのかしら?」

 

 楓子の言葉にウンウンとカナエは頷き、しのぶもお祝いの言葉を言う。

 そんな三人の視線を受けて小芭内は

 

「…………」

 

 顔中に脂汗を流して三人から目を逸らした。

 

「「「…………」」」

 

 そんな小芭内の様子に三人の笑顔が徐々に引き攣っていく。

 

「……伊黒様?」

 

「……なんだ?」

 

「一つお訊きしてもよろしいでしょうか?」

 

「ダメだ」

 

 楓子の問いに、しかし、小芭内は顔を逸らしたまま首を振る。しかし、楓子はそんな小芭内の視線の先に回りこんでジト目で見据える。小芭内が何度顔を逸らしてもその逸らした先に回り込むという攻防を何度か繰り返し、ついに観念した小芭内が楓子の視線を受け入れる。そんな小芭内を正面から見据えて楓子は問う。

 

「あなた蜜璃さんのいるお見合い会場に乗り込んだんですよね?」

 

「……乗り込んだ」

 

「そこで蜜璃さんに会ったんですよね?」

 

「……会った」

 

 楓子の問いかけに小芭内はボソボソと呟くように答えながら頷く。

 

「じゃあ……そこでちゃんと想いを伝えて交際を申し込んだんですよね?」

 

「…………」

 

「黙らないでください」

 

「…………」

 

「おいこら目ぇそらしてんじゃねぇぞ」

 

 再び目を逸らした小芭内に思わず楓子の口調が荒くなる。

 

「詳しく……」

 

 ズイッ

 

「説明してください」

 

 ズズイッ

 

「今、私は冷静さを欠こうとしています」

 

 ズズズイッ

 

「ッ!?」

 

徐々に徐々に、ゆっくりと追い詰められた小芭内は壁際まで追いやられたところで観念し

 

「……甘露寺へ思いを告げられてない」

 

「おいまじかヘタレ柱の野郎ふざけんなよ!!?」

 

 恐る恐ると言った様子でか細い声で言われた小芭内の言葉に楓子が心底うんざりした様子で叫ぶ。

 

「なんでこんだけお膳立てして伝えねぇんだよ!!?バカか!!?バカなのか!!?」

 

「い、いや…甘露寺のお見合いじゃないと理解した途端に急に冷静になってしまって、急激に気恥ずかしくなって……」

 

「ダメだこのヘタレ救いようがねぇ!!」

 

 小芭内の蚊の鳴くようなか細い声に楓子は頭を抱える。

 

「カナエさん、しのぶさん、このヘタレ粗チン野郎につける薬は無いもんですか?」

 

「残念ながら無いわね……」

 

「ですよねぇ……」

 

「その前に姉さん、楓子の女子にあるまじき発言を注意しましょうよ」

 

 カナエの悔し気な答えに楓子はため息をつき、そんな二人のやり取りにしのぶがツッコむ。

 

「仕方ありません。ここは奥の手にと考えていた、食事に媚薬と精力剤をアホほど混ぜ込んで辛抱たまらなくなった伊黒様に蜜璃さんを襲わせて既成事実を作るという最終手段をしなくてはいけないかもしれませんね」

 

「やめろぉぉぉ!!そんな案は考えるな!!考えても実行するな!!」

 

「そうよ楓子ちゃん!!それじゃあ無理矢理襲われる蜜璃ちゃんが可哀そうだわ!!」

 

「大丈夫です!蜜璃さんのほうにも媚薬ぶち込むので!」

 

「なるほど!なら大丈夫ね!」

 

「大丈夫なわけあるかぁぁぁぁ!!」

 

 盲点だった!という表情で頷くカナエに小芭内が叫ぶ。

 

「『伊黒さん…もう我慢できないの……!私、火照って火照って仕方ないの……!お願い…私の疼きを鎮めて、伊黒さん……!』って潤んだ瞳と熱っぽい吐息で言う蜜璃さんに迫られたら、流石のヘタレ柱でも襲うでしょ?」

 

「お前はその無駄に似てる声帯模写をやめろぉぉぉぉ!!」

 

「やっべ、自分で言ってて興奮してきた」

 

「もう!楓子ちゃんが興奮してどうするの!伊黒君がその気にならなきゃ!」

 

「いっけねぇ~!」

 

「「アハハハハハ~!!」」

 

「お前ら笑ってるんじゃない!!」

 

 笑いあう楓子とカナエに小芭内はツッコみ、その光景をしのぶは苦笑いで見ている。

 

「とりあえずカナエさん、人間に投与できる限界ギリギリの精力剤と媚薬を凝縮して用意しておいてくれますか」

 

「わかったわ。任せてちょうだい!」

 

「蜜璃さんたちで上手くいったら次はしのぶさんたちで使いましょう」

 

「ちょっとなんで私たちまで!!?」

 

「いいわ、私が許可します」

 

「なんで姉さんが許可出してんのよ!!?」

 

 頷くカナエにしのぶが叫ぶ。

 

「もう姉さん今日のことで不安で仕方ないの!しのぶもかなり奥手で素直じゃないからこんな風にこじれる未来しか見えないの!だから万が一の時は使うしかないかもしれないの!」

 

「いや、流石に私もここまでこじれることはないと思うわよ!?……たぶん」

 

 カナエの言葉にツッコみながら、しかし、最後に少し不安がにじみ出たしのぶ。

 

「というかさっきから何を本人を前にして笑って相談してるんだお前らは!!?」

 

「こんなもん笑って話さなきゃ相談できるわけないじゃないですかッ!!」

 

「だったら相談するな!!」

 

「こうして冗談半分の話でもしてなきゃこの後のこと考えたら私は憂鬱でしょうがないんですよ!!」

 

 小芭内の言葉に楓子が怒声を飛ばす。

 

「私この顛末を後日お館様に報告するんですよ!!?どうするんですか、お館様めっちゃワクワクしてますよ!!?お二人の交際報告聞けるの今か今かと待ってるんですよ!!?そんなお館様に『伊黒様がヘタレすぎて交際に至りませんでした~』なんて報告しなきゃいけない私の気持ちわかります!!?」

 

「「うわぁぁぁ……」」

 

「…………」

 

 楓子の叫びにカナエとしのぶは心底同情した顔で呟き、小芭内はそっと顔を逸らした。

 

「その……すまん」

 

「謝罪はいらないんですよ!!同情するなら結果をくれ!!!」

 

 蝶屋敷に楓子の叫びがこだましたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 この数十分後、小芭内が帰った後にやってきた蜜璃に

 

「どうしよう!?伊黒さんに『ずっと一緒にいたい』って言われたんだけどどういう意味だと思う!?」

 

 と、相談された三人の顔は今にも口から砂糖を吐きそうな胸焼けしそうな顔になるのだが――それはまた別の話。

 




~大正コソコソ噂話~
後日楓子からこの報告を受けた輝哉は楓子の最終手段を採用してカナエとしのぶに正式に強力な媚薬と精力剤生成の依頼を出そうとしたが、あまねと娘たちに全力で止められたそうですよ。
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