恋柱の継子、人の恋路に世話を焼く   作:大同爽

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みなんさんはもう「鬼滅の刃」最終巻は買われましたか?
私は宣言通り書店が開く前に行って開くと同時に買いました。
すぐさまかえって読みましたが、いい終わり方だったですね。
そして、知ってはいましたが、改めて見ると蜜璃と小芭内の結末にはグッときますね。
この最新話ではそんな原作最終巻の内容にガッツリ触れています。
まだ読んでないよぉ~、という方はそのあたりをご了承の上、お読みください。





恋14 恋柱の継子と未来の夢

 ――そこはまるで戦争でもあったかのような場所だった。

 家屋は崩れ、地面はひび割れ、大きな爆発が何度も起こったのかと思うような光景、そんな場所にひっそりと佇むように一組の男女がいた。

 女性の方は特徴的な桃色に緑色がかった髪で、そんな女性を優しく抱き留める肩まである長い黒髪の男性。

 その二人の体はどちらも傷だらけで満身創痍。

男性の方は顔に大きな切り裂かれたような傷が走りその両目を潰し、女性の方は黒と白の縞模様の羽織にくるまれているのでその傷の様相はわからないが包まれている羽織を染めて広がっていく赤黒いシミの大きさが怪我の深さを物語っている。

 

「体が全然痛くないや…もうすぐ私死ぬみたい…」

 

 うつろな視線で女性は男性を見つめて言う。

 

「俺もすぐ死ぬだろう。君は一人じゃない」

 

 男性の方は女性にそっと寄り添いながら言う。

 

「伊黒さんには死んでほしくなかったなぁ…私あんまり役に立ってなかったよね。ごめんね…」

 

「そんなことはない。頼むからそんな風に言わないでくれ」

 

目に涙を浮かべて言う女性に男性は首を振りながら答える。

 

「初めて会った日のことを覚えているか?」

 

「うん…」

 

 男性の問いに女性はゆっくりと頷く。

 

「伊黒さん…お館様のお屋敷で迷ってた私を…助けてくれた…」

 

「違う、逆だ。あの日会った君があまりにも普通の女の子だったから、俺は救われたんだ」

 

 女性の言葉に男性は口元に笑みを浮かべて首を振る。

 

「ささいなことではしゃいで、鈴を転がすように笑い、柱になるまで苦しい試練もあっただろうに、それを少しも感じさせない」

 

 一つひとつの出来事を思い出すように男性は言葉を紡ぐ。

 

「君と話しているととても楽しい。まるで自分も普通の青年になれたようで幸せだった。他の皆もきっと同じだったよ。底抜けに明るく優しい君はたくさんの人の心をも救済してる。胸を張れ」

 

 言いながら男性は女性をさらに強く抱きしめる。

 

「俺が、誰にも文句は言わせない」

 

「ひぐっ」

 

 そこで女性はついに感情のダムが決壊したように、まるで幼子のようにボロボロと涙を流し始める。

 

「わああん、嬉しいよぉ!」

 

 しかし、その泣き顔は悲しみだけでなく喜びも満ちていた。

 

「わたしっ…私伊黒さんが好き!」

 

 泣きながら女性は叫ぶように言う。

 

「伊黒さんと食べるご飯が一番美味しいの!だって伊黒さん、すごく優しい目で私のこと見ててくれるんだもん!」

 

 女性の言葉に男性は優しい笑みを浮かべたまま黙って聞いている。

 

「伊黒さん!伊黒さんお願い!生まれ変わったら、また人間に生まれ変わったら!私のこと、お嫁さんにしてくれる!?」

 

 女性の問いに男性の切り裂かれた瞼からボロボロと涙があふれ女性へと流れ落ちて彼女の流す涙と溶け合うように伝い落ちていく。

 

「勿論だ」

 

 男性はゆっくりと頷く。

 

「君が俺でいいと言ってくれるなら、絶対に君を幸せにする。今度こそ死なせない。必ず守る…」

 

 そう言って男性は強く女性を抱きしめる。

 まるで、今にも零れ落ちてしまいそうな何かを抱き留めるように、取り零してしまわないようにするように……。

 

 

 

 

 

 私は、そんな光景を眺めている。

 

 そう、眺めているだけ。

 

私にはそれ以外に何もできない。

 

 どれだけ手を伸ばそうと、私の手は二人に届くことはない。

 

 どれだけ叫んでも、私の声は二人には届かない。

 

 

 

 だって、私はここにいない人間(ただの読者)なのだから――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ん」

 

 私はそこで目を覚ます。

 

「……今の、夢……」

 

 茫然と天井を見上げながら、つい今まで見ていた夢の内容を思い出す。

 今の夢は間違いなく、私が前世で死ぬ数日前に読んだ内容、鬼滅の刃の最終巻に描かれていた蜜璃さんと伊黒様の最期の瞬間だ。

 いったいなんで突然そんな夢を見たのか、皆目見当もつかない。

 

「私、泣いてる……」

 

 そっと頬に手を添えれば目元から頬に涙の痕があり、見れば枕が濡れていた。

 

「そう言えば前世で最終巻を読んだ時も号泣しすぎて一回読むの中断したんだったなぁ……」

 

 懐かしく思いながら目元の涙を拭い、そっと体を起こす。

 時計を見ればいつもより少し早いがもう起きるのには支障はないだろう。

 そう思ったところで時計の隣にかけていたカレンダーが目に留まった。

 

「あ、今日って……12月4日……」

 

 その日付を見て今朝の夢の意味を思い至った私。

 12月4日と言えば前世で鬼滅の刃の最終巻の発売した日だ。

 つまり、前世の私があの蜜璃さんと伊黒様の結末を読んで涙した日、ということだ。

 

「そっか……読んだの実質14年前なんだな……」

 

 少し感慨深く思いながら私は布団から立ち上がる。

 まあ記憶として読んだのは14年前だけど本来ならあと100年余り経たないと発売されないんだよなぁ……。

 そんなことを考えながら私は身支度を済ませ、台所に立つ。

 蜜璃さんも料理は得意だが、私がいるときにはもっぱら食事の用意は私がしている。

 なので毎日の朝ごはんの用意が私の一日の始まり、最初の仕事だ。

 ちなみに今朝の朝食は白ご飯に味噌汁、焼き魚と菜っ葉の和え物という純和風なメニューだ。ただ一つ普通と違うところを挙げるなら用意する量が尋常じゃない。蜜璃さんは通常運転で力士三人分、調子のいい時ならもっと食べるのでかなりの量を用意する必要がある。なので私は毎日おのずと早起きをすることになる。まあ下準備なんかは前日にしてあるので手間はかなり減らしているのだが。

 

「おはよう、ふーちゃん!」

 

 あらかた準備ができたころに蜜璃さんが起きてくる。これは蜜璃さんが起きてくるころを逆算して作っているので私としてはドンピシャのタイミングだ。

 

「おはようございます、蜜璃さん」

 

「いい匂いねぇ~」

 

「今朝は鮭を焼いてみました」

 

「鮭いいわね!ふーちゃんの作ってくれるマヨネーズと一緒に食べるとご飯いくらでも食べられちゃう!」

 

「そう言うと思ってマヨネーズも用意してますよ」

 

「やったぁ!ありがとう!」

 

「もうできますから準備のお手伝いお願いできますか?」

 

「任せて!」

 

 私の言葉にルンルン♪と鼻歌交じりにお皿などを運んでいく蜜璃さんを見送りながら私は朝食を仕上げる。

 完成した朝食を食卓に運び、揃って食卓に着く。

 

「いただきま~す!」

 

「いただきます」

 

 揃って手を合わせて言うと箸をとって食べ始める。

 

「ん~!美味しい!」

 

「それはよかった」

 

 満面の笑みで食べる蜜璃さんに私は微笑みながら頷く。

 

「……?」

 

 と、そこで蜜璃さんは私の顔を見ながら首を傾げる。

 

「どうかしましたか?」

 

「ん~……」

 

 私が訊くと蜜璃さんは首を傾げながら

 

「ふーちゃん何かあった?」

 

「ッ!」

 

 その問いかけに私は息を飲んだ。顔に出さないようにしてたはずなのにまさか気付かれるとは。

 

「ごめんね、なんだかいつもより元気がないように見えたから……」

 

 私が黙ったことで慌てた様子で蜜璃さんが言う。

 

「い、いえ、なんというか…夢見が悪かったんですよ」

 

「悪い夢見たの?」

 

「ええ、それだけですよ」

 

「……そっか!」

 

 私の言葉に蜜璃さんは納得したように頷く。

 まあ、嘘は言ってない…よね?

 

「………蜜璃さん」

 

「ん?なぁに~?」

 

 私が訊くと蜜璃さんは味噌汁のお椀に口をつけながらニコニコと応じる。

 

「ちょっと訊くんですけど」

 

「ん~?」

 

「蜜璃さんって伊黒様のこと好きですよね?」

 

「ブゥ~ッ!?」

 

 私の問いの直後蜜璃さんが味噌汁を吹きだした。

 

「大丈夫ですか!?」

 

「ゴホッ!ゴホッ!ご、ごめん!大丈夫だから!」

 

 慌てて布巾を持って側によると蜜璃さんは咳き込みながら頷く。

 

「と、というか何!?急にどうしたの!?」

 

「いや、まあ…いろいろありまして」

 

 思った以上に飛び散っていなかった味噌汁を拭いている私に蜜璃さんは顔を真っ赤にして訊くので私は頬を掻きながら答える。

 

「はい、味噌汁入れ直しましたよ」

 

「あ、ありがとう……」

 

 お椀に味噌汁と注ぎ直して渡すと蜜璃さんは恥ずかしそうにおずおずと受け取る。

 

「で?好きですよね、伊黒様のこと」

 

「……有耶無耶になったと思ったのに」

 

「逃がしませんよ」

 

 シュンと苦笑いを浮かべる蜜璃さんに私はフッフッフと不敵に笑いながら言う。

 

「で?どうなんです?」

 

「…………」

 

 私の問いかけに蜜璃さんは顔を真っ赤に染めて俯き

 

「……しゅ、しゅきです///」

 

 今にもプシューッと湯気が上がりそうな様子でコクリと頷く蜜璃さん。

 

「なんで好きなんですか?言っちゃ悪いですがあの人かなり口が悪いですよ?」

 

「それは…うん、そうなんだけどね」

 

 私の言葉に蜜璃さんは苦笑いを浮かべる。

 

「……確かに伊黒さんは口は悪いし皮肉っぽいところはあるけど、それ以上に優しい人なんだよ?」

 

「……いや、まあ、そうなんですけど」

 

「伊黒さんが口うるさく言うのは、その人のことを心配してのことだし」

 

 私の言葉に蜜璃さんは優しく微笑む。

 

「それにね、伊黒さんと食べるご飯が一番美味しいの!だって伊黒さん、すごく優しい目で私のこと見ててくれるんだもん!」

 

「ッ!」

 

 蜜璃さんの言葉に私は息を飲む。それは今朝の夢、ひいては原作で蜜璃さんたちが迎えた最期の瞬間の言葉で――

 

「??? どうしたの?」

 

「い、いえ……」

 

 蜜璃さんの問いに私は首を振る。

 

「……伊黒様のこと、大好きなんですね」

 

「……そうね」

 

 私の言葉に蜜璃さんは微笑み

 

「私、伊黒さんのこと大好きよ」

 

 そう、満面の笑みで言った。

 

「……そうですか」

 

 それに私は頷き

 

「はぁ…なんかそう言いきられると妬けちゃいますね。私も蜜璃さんのこと大好きなのに、私の片想いだったなんて、シクシク……」

 

「ッ!? ち、違うの!ふーちゃんのことはもちろん大好きよ!でもふーちゃんへの好きと伊黒さんへの好きは種類が違うというか……妹とか家族への好きって感じというか……」

 

「フフ、わかってますよ」

 

 慌てたように言う蜜璃さんに私は冗談めかして笑う。

 

「私も蜜璃さんのことは大事なお姉ちゃんだと思ってますよ」

 

「ふーちゃん……」

 

 私の言葉に蜜璃さんは感動したように微笑む。

 

「ま、いろいろ言いましたけど私基本的に蜜璃さんと伊黒様はお似合いだと思ってます。伊黒様なら蜜璃さんを幸せにしてくれるって思ってます」

 

「ふーちゃん……ありがとう」

 

「一つだけ助言を」

 

 頷く蜜璃さんに私は言う。

 

「伊黒様は恋愛面にかなり消極的で押しも弱いです。なので、もしもの時は蜜璃さんの方からぐいぐい行く方がいいと思いますよ」

 

「そっか……うん、覚えておく!」

 

「はい」

 

 笑顔で頷く蜜璃さんに私も微笑み

 

「さ、食べましょう!せっかく作ったんですからあったかいうちに食べちゃわないと!」

 

「そうね!」

 

 私の言葉に頷いた蜜璃さんとともに朝食を再開し

 

「あ、一つ訊いてもいい?」

 

「ん?なんですか?」

 

 鮭を箸で切り分けごはんとともに食べようとしていた私は蜜璃さんの言葉に手を止める。

 

「その…なんで私が伊黒さんのこと好きってわかったの?」

 

「逆にあそこまで見え見えでなんでバレてないって思ったんですか……?」

 

 蜜璃さんの問いに私は改めてこの人の天然具合を思い知るのだった。

 




今回のお話はいつもより短めです。題名には前後編の記載はありませんが、長くなりそうなので前後編に分けています。
後編はこの日曜日の間に挙げる予定ですのでお待ちください。
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