恋柱の継子、人の恋路に世話を焼く   作:大同爽

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恋1 恋柱の継子は助言する

 時は明治、日本。

 闇に紛れて人を襲う『鬼』と呼ばれる存在が、そして、そんな鬼を狩る『鬼殺隊』と呼ばれる政府非公認の組織が存在していた。

 鬼は力が強く、多少の傷を瞬く間に治す再生能力を持ち、中には強力な妖術とも言える異能を使う個体もいる。そして、殺すには特殊な刀で頸を落とすか日光に晒さねばならない。対して人間は傷を負っても治ることはなく、失った手足は戻ることはない。

 人間とは比べ物にならぬほど強力な力を持つ鬼と、か弱き人の身で戦う彼らではあらゆる面で差は大きい。しかし、そんな種族の格差をものともせずに数多くの鬼を狩る存在が〝柱〟と呼ばれる鬼殺隊の中心人物たちだ。

 数百人に及ぶ鬼殺隊の頂点に立つ柱たち。その中には自身が見出し鬼殺の技術を教え込む弟子、『継子』と呼ばれるものを持つ者もいる。

 柱の一人である恋柱、甘露寺蜜璃にも彼女の下で学ぶ一人の継子――大好楓子(おおよしふうこ)という少女がいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それでねそれでね、ふーちゃん!キネマを見終わってからは一緒に近くのカフェーで観て来たキネマのお話をしながらお茶してね!そのカフェーがとってもハイカラで、食べた『ぷりんあらもぉど』っていうのがすっごく美味しかったの!」

 

「そうですか、それは大変良かったですね~!」

 

 楽し気に笑みを浮かべほわほわとした雰囲気を振りまきながら話す桃色の髪の少女――甘露寺蜜璃。彼女とちゃぶ台を挟んで向かいに座る長い黒髪を三つ編みで一本に纏めた少女――大好楓子はそんな師である女性の笑顔に優しく微笑みながら相槌を打つ。

 

「キネマもね、恋愛もののお話だったんだけど伊黒さんも楽しんでたみたいでカフェーでも感想を言い合って盛り上がっちゃったの!」

 

「そうですか、キネマ楽しまれたようでよかったですね」

 

「ええ!それでね、カフェーの後も少し二人で商店の通りをぶらついてね」

 

「ウィンドウショッピング、と言う奴ですね」

 

「うぃんどうしょっぴんぐ?」

 

「そっかこの時代にはまだ……そう!外国ではそう言った何を買うでもなくお店屋さんを巡ってぶらつくことをそう言うんです!はい!」

 

「へ~!さすがふーちゃん!物知りね!」

 

「い、いえ、それほどでは……そ、それで?何か買われたんですか?」

 

 感心したように微笑む蜜璃に楓子は内心で冷や汗をかきながら話を促す。

 

「うん!可愛い髪飾りがあってね!私が買うか迷ってたら伊黒さんが買ってくれたの!」

 

 言いながら蜜璃は嬉しそうに自身の頭を指さす。そこには桜の髪飾りが髪に添えられていた。

 

「へぇ、これは良いものですね。とても華やかで作りも華美過ぎずかと言って稚拙なわけでもない。桜の色合いも蜜璃さんの髪の色と合っていてとてもお似合いですよ。伊黒様にもつけているところをお見せしたんですか?」

 

「ええ!」

 

「何かおっしゃっていましたか?」

 

「似合ってる?って訊いたら、ああ、って頷いてたわ!」

 

「…………」

 

「ふーちゃん?」

 

「っ!い、いえ、何でもないです!」

 

 首を傾げる蜜璃の声にハッとした楓子は慌てて手を振って否定する。

 

「それで?買い物でぶらついた後はどうしたんですか?」

 

「うん!その後はキネマの話とか任務の事とか話しながら一緒に帰って来たわ!」

 

「そうですか……」

 

「ただ……」

 

「どうかされましたか?」

 

「うん、帰って来る時いろいろお話してたんだけど、伊黒さんなんだか少し様子が変だったの。心ここにあらずと言うか、気もそぞろと言うか……」

 

「なるほど……」

 

「もしかして、私何か粗相をしてしまったかしら?私が楽しむばっかりで伊黒さんは楽しんでいなかったのかしら……」

 

「……チッ、あのヘタレ蛇柱が……」

 

「え…?」

 

「いえ何でも!」

 

 楓子が何か呟いた言葉を聞き返すが楓子は笑顔で応える。

 

「それに、蜜璃さんが何か粗相をしたとか、伊黒様が楽しんでなかった、と言うことはないと思いますよ」

 

「どうしてそう思うの?」

 

「だって、伊黒様にキネマやお食事に誘われたことは以前にあったでしょう?こうして何度もお誘いがあるということは、伊黒様も蜜璃さんとのお出かけを楽しんでいる、好ましく思っている、と言うことではないでしょうか?」

 

「好ましく!?ホントに!?本当にそう思う、ふーちゃん!?」

 

「ええ、もちろんです」

 

 微笑みながら頷く楓子の言葉に先ほどまで陰っていた蜜璃の表情はパッと大輪の花が咲いたように華やぐ。

 そんな蜜璃を見ながらにこやかに微笑みながら

 

「可愛いかよ。蜜璃さんまじ天使」

 

「ん?なんて?」

 

 楓子が呟いた言葉によく聞こえなかった様子で蜜璃が首を傾げる。

 

「いえ!蜜璃さんが幸せそうでよかった、と思いまして!」

 

「フフッ、ありがとうふーちゃん!」

 

 蜜璃の言葉に楓子は微笑みながら頷いた。

 

 

 ○

 

 

 

「では、先日の蜜璃さんとの逢引の評価を発表します」

 

「うむ」

 

 楓子の言葉に対面に座る黒髪に首に白蛇を巻いた少年――伊黒小芭内は神妙に頷く。

 ここは小芭内の住む屋敷。広い畳の部屋で机を挟んで対面に座る二人は真剣な表情だ。

 

「まず、キネマ。こちらは蜜璃さんの好きな恋愛ものを選択されたということもあってとても楽しんでいらっしゃる様子でした。後から伊黒様も映画の内容について感想を言い合ったということもとても楽しめていた様子でした」

 

「うむ。単純に内容も面白かった。恋愛ものはあまり嗜まんがなかなか興味深かった」

 

 楓子の言葉に小芭内は頷く。

 

「その後のカフェーもよかったですね。『プリンアラモード』という海外の珍しい甘味、蜜璃さんも大満足だったようでとても気に入っていました。また一緒に食べに行く約束を作りやすいかもしれませんね」

 

「フッ、それほど喜んでもらえていたのなら下調べした甲斐があったというものだ」

 

「その後の買い物でも贈り物を送るというのはよかったですね。蜜璃さんもとても気に入っていらっしゃる様子であの髪飾り、任務以外では必ず着けていらっしゃいます」

 

「そうか。それは選んだ甲斐があるというものだ」

 

 楓子の言葉に小芭内は気を良くした様に上機嫌な様子で頷く。心なしか彼の首に巻き付く白蛇の鏑丸も主の様子に呼応するように機嫌がよさそうに見える。

 

「さて、それらを踏まえて今回の逢引に点数をつけるなら――」

 

 そんな小芭内を尻目に一つため息をついた楓子は

 

「30点。落第ですね」

 

「……はぁぁぁッ!?」

 

 先の好評な様子に自信満々だった分、思わぬ低評価に小芭内はいつもの冷静さを忘れて思わず叫んだ。

 

「な、何故だッ!?先ほどお前はキネマもカフェーも買い物も、甘露寺は喜んでいたと言っていたではないかッ!?」

 

「ええ、言いました。実際蜜璃さんはとても楽しかったとおっしゃっておりました」

 

「ならば!」

 

「ええ、〝そこは〟大変良かったと思います」

 

「〝そこは〟?」

 

「キネマの選択もカフェーでの食事も買い物もよかったと思います。でも、それ以外のところで点数を下げさせていただきました」

 

「一体どこに問題があったというんだ?」

 

 小芭内は眉を顰めて訊く。

 

「まず買い物でのことです。伊黒様、蜜璃さんに髪飾りを送られた際に似合ってるかと訊かれたそうですね?」

 

「ああ。だからちゃんと頷いて――」

 

「そこは『似合ってる』とかちゃんと言葉にして褒めるところでしょうがぁッ!」

 

「ッ!?」

 

 机をドン!と叩いて叫ぶ楓子の剣幕に小芭内と鏑丸が揃ってビクリと身体を震わせる。

 

「いいですか?あなたが贈って感想を求められたんですよ?何頷くだけで終わってんですか!?」

 

「い、いや…だが……」

 

「ちなみになんであの髪飾りを選ばれたんですか?」

 

「それは、甘露寺が気になっている様子だったし、何より桜の色が甘露寺の髪の色と似ていい色合いだった。華やかな彼女には似合うと思って――」

 

「それをなんで本人に言わないんですかッ!!?」

 

 再び絶叫とともに机を叩く楓子。

 

「いいですか!?褒められて喜ばない女性はいないんです!『似合ってる』『可愛い』たった一言でいいんです!たった一言あるかないかで全然違うんですよ!!」

 

「う、うむ……」

 

「それともあれですか?似合ってませんでしたか?不相応でしたか?蜜璃さんは可愛くありませんでしたか?蜜璃さんは醜女ですか?あぁんっ!?」

 

「ッ!そ、そんなこと――」

 

「そう!!そんなことないんですよ!!!」

 

 小芭内が言い切る前に楓子が遮って叫ぶ。もはや絶叫だった。

 

「蜜璃さんはねぇ!!可愛いんですよ!!綺麗なんですよ!!美しいんですよ!!天使で女神で天女なんですよ!!今日も昨日も一昨日もその前もずっと!!そして明日も明後日も明々後日もその先もずっとずっと可愛いんですよ!!!」

 

「お、おう……」

 

「蜜璃さんが可愛いことは不変!!でもそれを私や伊黒様がいくら思っても、言葉にしなければ蜜璃さんには伝わらないんですよ!!可愛いと思ったなら言葉にして下さい!!蜜璃さんは可愛い!!はい!!!」

 

「え…?」

 

「蜜璃さんは可愛い!!はい!!!」

 

「か、甘露寺は可愛い……」

 

「声が小さい!!蜜璃さんは可愛い!!!はい!!!!」

 

「か、甘露寺は可愛い!」

 

「蜜璃さんは可愛い!!!」

 

「甘露寺は可愛い!」

 

「蜜璃さんは可愛い!!!!」

 

「甘露寺は可愛い!!」

 

「……いいでしょう」

 

 小芭内の声に満足げに頷いた楓子は

 

「では次に参りましょう」

 

「まだあるのか……?」

 

 大声で恥ずかしいことを言わされてげっそりとした小芭内はため息をつく。

 

「次、帰宅するために蜜璃さんを屋敷まで送っていた時の事です」

 

「あ、ああ」

 

「伊黒様、蜜璃さんの手を繋ぐか繋がないか決めあぐねて挙動不審になってたでしょ?」

 

「うッ!?な、何故それを……?」

 

 楓子のジト目での言葉に小芭内は額に汗を浮かべる。

 

「蜜璃さん、『伊黒さんがなんだか心ここにあらずで気もそぞろで!もしかして私、何か粗相をしてしまったのかしら!ヨヨヨ……』って悲しんでましたよ!!」

 

「その無駄にうまい甘露寺の声帯模写はやめろ」

 

「最後の最後で詰めが甘いんですよ!!何を最後に不安にさせてるんですか!!?」

 

「い、いや、しかし……」

 

「悩むくらいならそこはガッ!と手くらい繋いでくださいよ!!初等学校の子達でも手くらい普通に繋ぎますよ!!この間、任務で保護した10歳の男の子と蜜璃さん手ぇ繋いでましたよ!!何10歳の子どもに負けてんですか!!?」

 

「グッ……」

 

 楓子の言葉に反論できず押し黙る。

 

「まったく、何チキってんですか。男らしく行ってくださいよ」

 

「ちきって…とはなんだ?」

 

「怖気づくって意味です!」

 

 そんなことより!と楓子は机に両手をついて小芭内を睨むようにジトッと見る。

 

「蜜璃さんだって男らしく引っ張ってほしいと思ってます!次に手を繋げそうな機会があれば迷わず行ってください!いいですね?」

 

「…………」

 

「い・い・で・す・ねッ!?」

 

「あ、ああ……」

 

 ズイッと顔を寄せてくる楓子の気迫に小芭内は頷かされる。

 

「で、です。最後に今回の逢引の流れですが」

 

「あ、ああ……」

 

「前回の逢引とほとんど流れ一緒ですよね?」

 

「………そうだったか?」

 

「前回は観劇した後洋食店で食事、その後買い物です」

 

「ほ、ほら、全然違うではな――」

 

「一緒です」

 

「い、いや、前回は演劇を――」

 

「キネマ観るのと演劇観るの大差ないですよね?」

 

「………前回は洋食で今回は甘味を――」

 

「どっちも食事ですよね?」

 

「…………」

 

「その後の買い物だって」

 

「違う商店だったぞ」

 

「でも買い物でしょう?」

 

「……ああ」

 

ギヌロッと睨む楓子の雰囲気に小芭内は思わず頷く。

 

「まったく、これでは先は長そうですね」

 

 はぁ、とため息をつく楓子。

 

「押しが弱いというか、ヘタレと言うか、もうちょっと頑張ってほしいですねぇ」

 

 楓子の言葉に小芭内はムッと顔を顰める。

 

「まったく、こんなので本当に蜜璃さんをものにしようという気はあるんですか?」

 

「おい、さっきから聞いていればなんだその言いようは。貴様の今の階級は『丙』だろう?柱である俺に随分な物言いではないか?もう少し敬った言い方はできんのか?他の隊士にも示しがつかん。お前のようなものを継子にしていると甘露寺が何と言われるか……」

 

「すべて事実ですから。言われたくないなら頑張って下さい。蜜璃さんと交際したいんでしょう?」

 

 小芭内のねちっこい言いように楓子はため息をつく。

 

「別に俺は別に甘露寺とどうこうなろうなんて……」

 

「またその話ですか?その話、結構前にも散々しましたよね?」

 

「そ、それは……」

 

「蜜璃さんとどうこうなろうと思ってない?ハァァッ!?蜜璃さんのこと大好きな癖に何言ってんですか!」

 

「ッ!」

 

 楓子の言葉に小芭内は顔を赤く染める。

 

「蜜璃さんのこと好きなんでしょう!?蜜璃さんを誰かに取られたくないんでしょう!?だからなんだかんだ文句言いつつ私の助言聞いてるんでしょう!?いい加減素直になって下さい!このやりとり毎回やるこっちの身にもなって下さい!」

 

「うぅ……」

 

「蜜璃さんの事が好きなんですよね!?」

 

 顔を赤く染めたまま小芭内は唸り声を漏らし

 

「(コクリ)」

 

 小さく頷く。

 

「あぁ!?あんですって!?」

 

「……きだ」

 

「あんだって!?あたしゃ耳が遠くてねぇ!!もっと大きな声でお願いしますよ!!」

 

「~~~~!!」

 

 わざとらしく耳に手を当てて叫ぶ楓子の様子に唇を噛みながら小芭内はさらに顔を赤く染め

 

「か、甘露寺の事が好きだ!!」

 

「んなこと知ってますよヴァァァァァカッ!!!」

 

「縊り殺すぞッ!!!!」

 

 意を決した様子で叫ぶ小芭内よりも大きな声で叫び返す楓子に小芭内が怒声をぶつける。

 

「蜜璃さんのことが好きなんですよね!!!?」

 

「~~~くぅ……好きだ!」

 

 楓子の叫びに小芭内は半ば自棄になりながら叫び返す。

 

「声が小さい!!!」

 

「好きだ!!」

 

「もっと!!!」

 

「好きだぁ!!!」

 

「誰が誰を!!!?」

 

「俺は!!甘露寺のことが好きだ!!!」

 

「蜜璃さんが好きかぁ!!!?」

 

「好きだぁ!!!」

 

「蜜璃さんが好きかぁ!!!?」

 

「好きだぁ!!!」

 

「蜜璃さんと逢引したいかぁ!!!?」

 

「したい!!!」

 

「蜜璃さんと手を繋ぎたいかぁ!!!?」

 

「繋ぎたい!!!」

 

「蜜璃さんに毎日ご飯作ってもらいたいかぁ!!!?」

 

「作ってほしい!!!」

 

「蜜璃さんの×××に×××して××××して×××××したいかぁ!!!?」

 

「したい!!!――はっ!?」

 

 応じたところで小芭内は気付いた、自身がとんでもない問いに頷いてしまったことに。

 

「キャ~!伊黒様ってば大胆!蜜璃さんの×××に×××して××××して×××××したいなんてぇ!!」

 

「違っ!いまのはお前につられて!!というか嫁入り前の女がそんなことを口にするんじゃない!!」

 

「手も繋げないのにそんなこと考えてるなんていやらしい!!伊黒様のむっつり助兵衛!!」

 

「だ、誰が助兵衛だッ!?」

 

「やぁらしかッwwwやぁらしかッwwwやぁらしかッwwwやぁらしかッwwwやぁらしかッwwwやぁらしかッwww」

 

「~~~///」

 

 囃し立てる様に手拍子を打ちながら言う楓子に小芭内は耳まで真っ赤に染めて拳を握り込んで俯きながら体を震わせ――

 

「フンッ!!」

 

「ギャフンッ!?」

 

 楓子の脳天に拳を落とした。

 

「酷い!殴りましたね!?お母様にもぶたれたことないのに!!乙女の頭を何だと思ってるんですか!!」

 

「うるさい!お前がバカなことを言うからだろうが!!」

 

「楓子怒った!蜜璃さんに言いつけてやるんだからッ!!キィ~ッ!!」

 

「やめろ馬鹿がぁぁぁぁ!!!」

 

 その後、蛇屋敷では半刻に渡ってドタドタと走り回る音が響いていたという。

 

 

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