恋柱の継子、人の恋路に世話を焼く   作:大同爽

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二度目の小ネタ集です。
前回の小ネタ集に同じく一話分にするにはボリューム的に…と言うお話をセットにしてます。
セットにしていますが書いてるうちに思ったよりボリュームが出た上に前回よりも一本多い四本セットでございます。そのせいでこれまでで一番文字数が多くなりました。

本日のお品書きは
○恋柱の継子と派手(音)柱
○恋柱の継子のキレた話
○恋柱の継子と産屋敷家の『呪い』
○恋柱の継子と疑惑の水柱師弟
の四本です!





恋16.5 恋柱の継子と小ネタ集②

○恋柱の継子と派手()

 

 

 

 それはある日のこと。とある用事で出かけた楓子はその帰り道で意外な人物に出会った。

 

「よぉ!恋柱んところの継子!」

 

「おや、これはこれは音柱・宇髄天元様。こんにちは」

 

 通りの向かいから歩いてきたその大柄な男――宇髄天元は親し気に右手を挙げて声をかけ、楓子はお辞儀しながら応える。

 

「ちょうどよかった!今からお前らんところに行くところだったんだ!派手に幸運だ!」

 

「おや、そうでしたか。しかし、すみません。蜜璃さんは本日任務に出ていらっしゃって不在なんです」

 

 天元の言葉に申し訳なさそうにいう楓子。しかし――

 

「あぁ、違う違う。今日用があったのはお前さんだ」

 

「私…ですか……?」

 

 天元は手を振って否定しながら言い、その言葉に楓子は首を傾げる。

 これまで楓子と天元ではあまり面識はなかった。無論自身の師である蜜璃と同格の階級に位置する天元のことは知っているし、天元が蜜璃と合同の任務を行ったことも何度かあったのでその際に顔を合わせることはあった。

 しかし、今回のようにわざわざ向こうから訪ねてくるような理由に思い当たる節は無かった。

 本気で理由がわからず首を傾げる楓子の目の前で天元は口を開く。

 

「お前さんにいくつか訊きたいことと頼みてぇことがあってな」

 

「はぁ……私でお力になれることであれば」

 

「おう!――で、さっそく本題なんだが」

 

 言いながら天元は手に持っていた風呂敷から一冊の本を取り出す。

 

「お前さん、これ知ってるよな?」

 

「……ええ。『妖滅の刃』ですよね?最近人気ですよね。蜜璃さんと伊黒様も愛読してらっしゃいます」

 

「おお、らしいな」

 

「その本が何か?」

 

 楓子は内心ドキリとしながら平静を装い訊く。そんな彼女に天元は頷きながら

 

「まどろっこしいことは無しにして単刀直入に訊くが――」

 

 そこで一度区切った天元は楓子をまっすぐに見せ

 

「これ、お前さんが書いてるだろ?」

 

「……なんのことだk――」

 

「あ、言っとくが質問の体を取ってるだけで裏は全部とれてるぞ。だからお前がいくらすっとぼけ様が証拠を突き付けるだけだしその手間を省きてぇから素直に認めろ、芸鋤ビエル先生?」

 

「…………」

 

 言いかけた楓子の言葉を遮って天元が言う。そんな宇髄の言葉に楓子は少し黙り

 

「あぁ!あんな所に超巨大な筍がニョキニョキとぉぉぉッ!?」

 

「あぁ?」

 

 天元の背後を驚愕の表情で指差しながら叫ぶ。楓子の言葉に天元は後ろを振り返り

 

「ッ!!」

 

 その瞬間楓子はすぐさま身を翻し全力で駆け出す。

 ちなみに彼女は脚力にかなり自分でも自信を持っている。楓子曰く「今ならウサイン・ボルトにも勝てる」とのことだ。

 そんな彼女はその自慢の脚力にものを言わせ一気に駆け抜け、最初の曲道を曲がり

 

「おいおい、急に逃げんじゃねぇよ」

 

「ギャァァァァァァッ!!?」

 

 曲がった先で壁に背中を預けて立つ天元の姿に楓子は驚愕とともに絶叫した。

 

「な、ななな!?なんで!?」

 

「舐めるな?俺は鬼殺隊の柱である前に忍だぞ?この程度で撒けると思うな」

 

 驚く楓子の言葉に天元はニヤリと笑いながら言う。

 

「そして、逃げたということはさっきの俺の問いは肯定ってことでいいな?」

 

「そ、それは……はい、その通りでございます」

 

 天元の言葉に楓子は力なく頷く。

 

「あのぉ~?」

 

「おん?なんだ?」

 

「今日こうして来られて、私の秘密の仕事を暴いたってことは……やはり怒っていらっしゃるんでしょうか?」

 

「……はぁ?」

 

 楓子の言葉に天元は首を傾げる。

 

「だ、だって…勝手に宇髄様をモデルにした登場人物とか出してますし……」

 

「いや?別に怒ってねぇが?」

 

「あれ?そうなんですか……?」

 

 天元の言葉に楓子は首を傾げ

 

「ハッ!?そうか!つまりこのことをネタに私を脅すんですね!私のことを手籠めにするつもりなんですね!?」

 

「いや、ちげぇ」

 

「『このことを他の奴らにばらされたくなかったら、わかってんだろうな?グヘヘヘェ~』って私のことを美味しく戴こうって腹づもりですね!?私のことを犯すんですね!?エロ同人みたいに!!エロ同人みたいに!!!」

 

「だからちげぇってってか『えろどうじん』ってなんだ!?」

 

「いいでしょう!しかし、これだけは覚えておいてください!身体はモノにできても心まではモノにできませんから!」

 

「聞けよ!!」

 

 鋭い視線で言う楓子に天元が怒鳴る。

 

「はぁ…たく、んなことしねぇよ」

 

「……そうなんですか?」

 

 ため息をつきながら頭を抱えて言う天元の言葉に楓子はきょとんとした顔をする。

 

「いやぁよかった~。宇髄様は忍者ですしてっきりそう言う展開かと……」

 

「お前の中の忍者のイメージなんなんだよ?」

 

「男の忍者は捕らえた捕虜の女性にエロい拷問するイメージ、クノイチは捕まってエロい拷問受けるイメージですね」

 

「俺を含めた全ての忍者に謝れ」

 

「すいません、次巻の小説の内容でそう言う描写入れてたんで思考がそっち方向に行っちゃいました」

 

 ジト目の天元の言葉に楓子は頭を掻きながら謝る。

 

「しかし、脅すためじゃないなら何故わざわざそれを言いに?」

 

 そこでふと楓子は気になった様子で訊く。

 

「ん?あぁ、実はうちの嫁たちがこの小説のファンでな」

 

 言いながら天元は手に持っていた風呂敷を解く。そこには先ほど天元が取り出したのと同じ先日発売したばかりの『妖滅の刃』最新刊があった。

 

「お前さんにサイン頼みたくてよ。一つ派手に書いちゃくれねぇか?」

 

「……え?マジっすか?」

 

「マジマジ。派手に大マジだぜ」

 

 呆ける楓子に頷きながら持っていた本と万年筆を差し出す天元。

 

「……サインねだられたの初めてですよ」

 

「そうなのか?」

 

「まあ正体不明の覆面作家で今日までやってきましたから。『芸鋤ビエル』が私だって自力で気付いて指摘してきたのも宇髄様以外では伊黒様だけですし」

 

「へぇ、伊黒の奴がねぇ。よく気付いた以前によくこの本を手に取ったな」

 

「蜜璃さんに勧められたそうです。気付いたのも真白と天寺の逢引の場面が伊黒様と蜜璃さんの逢引をそのまま書いてたんでバレちゃったんですよ。ちなみに蜜璃さんは気付いてません」

 

「そのまんま書く奴も書く奴だが、それに気付かねぇ当の本人もどうなんだ?」

 

「まあ蜜璃さん超天然ですし。そこが可愛らしいんですけどね」

 

 呆れる天元に楓子は頷きながら答える。

 

「それで、サインですね。書くのは構いませんが二つお願いがあります。無理なら別に聞いてもらえなくてもいいんですが」

 

「おう、なんだ?」

 

 楓子の言葉に天元が訊く。

 

「まず一つは芸鋤ビエルの正体が私だって奥様三人には伝えないでほしいんです」

 

「おう……構わねぇがどうして?」

 

「いや、だって恥ずかしいんですよ」

 

「あぁ……」

 

 楓子の言葉に天元は納得したように頷く。

 

「まあずっと覆面作家してて急に知り合いから愛読してるって言われたら照れ臭いか」

 

「あ、いえ、そう言うことではなく」

 

 天元の言葉に楓子は首を振る。

 

「実は次の巻で卯月のクノイチの奥さん三人が敵に捕まってエロい拷問受ける場面書いちゃったんでモデルの方たちに私がそれ書いたってバレたら恥ずかしいじゃないですか」

 

「さっき言ってたのそれか!?てめぇ人の嫁さんモデルに何書いてやがんだ!今すぐ破棄しろ!」

 

「すいません、もう編集者さんに渡してOK貰っちゃったんでもう手遅れっすね」

 

「おいぃ……!」

 

「いや、こう考えましょ?モデルではありますが卯月のお嫁さんと宇髄様の奥様たちは別人です!だから奥様三人がエロい拷問受けるわけじゃないんで!」

 

「そりゃそうだろうがよぉ!」

 

「担当編集者さんからは絶賛いただいたんできっと面白いはずですから!ちなみに本番行為はしませんから!」

 

「そう言う問題じゃねぇよ!」

 

 楓子の言葉に天元は怒声を上げる。

 

「まぁ、出版社には駄目元で問い合わせてみますけど、期待しないでくださいね?」

 

「まぁ…とりあえず今はそれでいい」

 

 楓子の言葉に天元は頭が痛そうに目頭を押さえて頷く。

 

「とりあえず、黙っておく件は了解した。というかそんなもん聞いたら言えるわけねぇわ。――で?もう一つのお願いはなんだ?」

 

「はい」

 

 天元の問いに頷いた楓子は口を開く。

 

「私、あの上弦の弐を討伐するときにも使いましたが、独自で作ってる小道具があるんですが」

 

「ああ、あの噂の目くらましの爆弾とかくっさい爆弾とか辛い爆弾な。俺が今日来たのもそいつを見てみたいと思ったからなんだよ」

 

「あ、そうでしたか。私も常々宇髄様が使う火薬玉とか他の忍道具に興味がありまして。よければ作り方教えてもらえないかなぁって。無理なら見せてもらうだけでもいいですから」

 

「ああ、忍秘伝のものもあるから全部が全部教えてやることはできねぇが、教えてやれる範囲でなら構わねぇぞ」

 

「そうですか!よかった!実は今新しいものを開発中でして」

 

「へぇ?どんなのだ?」

 

 嬉しそうに微笑む楓子の言葉に天元が興味を持つ。

 

「名前はまだ決まってないんで今のところ『ごきげんようお久しぶり爆弾(仮)』て呼んでるんですけど」

 

「長ぇ名前だな。どういう爆弾なんだ?」

 

「大したものじゃないですよ?炸裂したら中に仕込んである〝これ〟が辺り一面にぶちまけられるんですよ」

 

 言いながら楓子は懐から〝それ〟を取り出す。それは親指ほどの大きさの真っ黒く平たい、六本の足が生えた虫で――

 

「ゴキブリじゃねぇぇか!!?」

 

 楓子の手の中のものに天元が絶叫する。

 

「おまっ!?女がよくそんなもん持てるな!忍の俺でも一瞬躊躇うぞッ!?」

 

「いえいえ、よく見てください。これ、作り物ですよ」

 

「あぁ?……よく見りゃ確かに……」

 

 楓子の言葉に天元はまじまじと観察して納得したように頷く。

 

「これを大量にリンゴくらいの大きさの入れ物の中に詰め込んで、衝撃を与えることで中身のこれを辺り一面にぶちまけるって寸法なんですが、外側の入れ物の強度のバランスが難しくて。脆すぎるとホントにちょっとした刺激で割れたり、うまいことぶちまけるためにぎゅうぎゅうに詰め込んでる中身の圧で割れるし、かと言って固くしすぎるとうまく割れないんですよねぇ……」

 

「お前恐ろしいもん作るな……」

 

「鬼とはいえ元は人間ですから。遺伝子に刻まれた〝これ〟への嫌悪感には抗えないんですよ」

 

 感心したような呆れたような微妙な顔をする天元に楓子は悪い顔で笑う。

 

「ちなみになんで『ごきげんようお久しぶり爆弾』なんだ?」

 

「頭とお尻の二文字で略して『ゴキブリ爆弾』です」

 

「……ああ!」

 

 楓子の天元がポンと手を打つ。

 

「まあなんか面白そうだしその願いも聞いてやる」

 

「よかった!ではサイン書かせていただきます!」

 

「おう、ありがとうよ!」

 

 頷いた楓子に天元が本と万年筆を渡し

 

「あれ?宇髄様って奥様は三人ですよね?なんで本が四冊なんですか?」

 

「あぁ、そいつは俺の嫁の分と俺の分だ」

 

「……へ?」

 

 答えた天元の言葉に楓子は呆けた顔をする。

 

「俺も読んでんだ。面白れぇよな、これ。俺の分も派手にサイン書いてくれや」

 

「…………」

 

 そう言ってニカッと笑う天元の顔を数秒茫然と眺めた楓子は

 

「はぁ?なんですか口説いてるんですか?ごめんなさい無理です一瞬そのイケメンな顔にときめきかけたけどよく考えたら四人目の奥さんとか普通に嫌です」

 

「口説いてねぇわ」

 

 早口で捲し立てたが天元はため息混じりにツッコんだのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

○恋柱の継子のキレた話

 

 

 

 それはある日の恋柱邸でのこと

 

「そう言えば今日は大好はいないのか?」

 

「ううん。いるわよ」

 

 お互いに任務が非番だったので午後のお茶を飲んでいた小芭内と蜜璃。いつもならいそうな楓子の不在に首を傾げる小芭内に蜜璃が答える。

 

「今奥で作業してるわよ。呼んでくる?」

 

「いや、いい。別に用事があったわけではないしな。ただ珍しいな、あいつなら客が来たら茶の用意もしそうなものだが」

 

「今は手が離せないのよ」

 

 小芭内の疑問に蜜璃が答える。

 

「最近ご近所の人が飼ってた白兎が出産してね。その赤ちゃんを一羽貰ってきたの。ふーちゃんは今その世話をするための兎小屋を作ってるのよ」

 

「兎か」

 

「うん、私が前から猫を飼ってるし、ふーちゃんも動物飼いたかったらしいの。だからちょうどいいって」

 

 言いながら蜜璃は微笑む。

 

「ああやって動物と戯れてるの見るとふーちゃんも年相応の女の子って感じよ。いつもはすっごく大人びてるけど」

 

「そうか」

 

「相当気に入ってるみたいね。芥子(からし)ちゃん芥子(からし)ちゃんって可愛がって、小屋もものすごく凝ったもの作ろうとしてるわよ」

 

「からしちゃん?白兎なんだろう?」

 

「ええ。なんでも昔話から由来して名前つけたって」

 

「昔話?」

 

「ええ。ほら、『かちかち山』ってお話で白兎が背中を火傷した狸の背中に芥子味噌を塗りたくるって描写があったでしょ?」

 

「あぁ……よりによってなんでそこから由来した!?」

 

 蜜璃の言葉に納得しかけた小芭内は途中でツッコみを入れる。

 

「ふーちゃんって物語が好きで、昔話も好きなんですって。日本のお話では特に『かちかち山』が好きなんだって」

 

「それはまた変わってるな。あいつなら桃太郎とか鬼退治のお話が好きかと思ったが」

 

「ふーちゃん曰く『兎の狸へ一気に痛めつけるんじゃなくてジワジワ報復する感じが最高に私好みだ』って。あと『もし私が鬼舞辻無惨を追い詰めたらあのくらいジワジワと苦しめてやりたい』とも言ってたわね」

 

「前から思っていたがあの継子は心の闇が深すぎないか?恐ろしすぎるぞ」

 

 蜜璃の言葉に小芭内はため息をつき

 

「ああ、そう言えば」

 

 そこでふと思い出したように顔を上げる。

 

「恐ろしいで思い出したんだが、君の継子、前に鬼殺隊に入ってから一度しか本気で怒ったことが無いと言っていたんだが。それも君関連のことで、と」

 

「あぁ……」

 

 小芭内の言葉に蜜璃は微妙な顔で頷く。

 

「あの時は訊くのを躊躇ったんだが、いったい何があってそうなったんだ?」

 

「ん~…まあなんて言うか、ふーちゃんは私の代わりに怒ってくれたんだけど……」

 

 言いながら蜜璃は思い出すような素振りを見せ

 

「あれは、まだふーちゃんが鬼殺隊に入って私の継子になったばかりの頃のことなんだけどね?一緒に任務に就くことになって、ある街に行ったの」

 

 蜜璃は語り始める。

 

「その街では夜な夜な人が消えるって事件があって、昼間のうちにその被害者の関係者とか、被害者の目撃が途絶えたあたりを調べてたんだけど、そうやって街の中を歩き回っているときに地元の男の人が声をかけてきてね」

 

「ほう?」

 

 蜜璃の言葉に何かを感じ取った小芭内は目を細める。

 

「『見ない顔だねぇ~』とか『この辺初めて~?』とか『良かったら案内するよ~』とかあれこれ声をかけてきたんだけど、私たちも任務で来てたし事情を知らない人を巻き込むのも気が引けたの。それに何よりふーちゃんがものすごく嫌がったの」

 

「…………」

 

 小芭内はそれが現代で言うところの『ナンパ』であることを感じ取り、嫌そうに眉をしかめる。

 

「ふーちゃんも頑なに断るし、私もやんわり断ってて、それでも相手の人は『ちょっとお茶でも飲みながら話そうよ~』とかしつこく言ってきてね。それでも断り続けてたら……」

 

「断り続けてたら?」

 

「その…男の人の機嫌がどんどん悪くなって、急に『いい気になりやがって』って悪態つき始めてあれこれ暴言も……」

 

「…………」

 

 蜜璃の言葉に小芭内は顔を顰める。

 

「まあでも任務中だったしあんまり目立ちたくなかったから反論せずに放っておいたの。ふーちゃんはものすごく不機嫌そうだったけど」

 

「…………」

 

 小芭内はその話にもし自分がその場にいたならすぐさまその男を痛めつけていただろうな、と考えながら聞いている。

 

「それで、ひとしきり悪態ついた男の人は最後に『そんな変な髪の色した化け物の醜女なんかこっちから願い下げだ』みたいなこと言って……」

 

「……おい、その街の場所を教えてくれ。その男の特徴も。今すぐなます切りにしてくる」

 

「い、伊黒さん!落ち着いて!?」

 

 横に置いていた日輪刀に手をかけた小芭内に蜜璃は慌てて止め

 

「それに、その人そのあと十分痛い目にあったというか…あわせたというか……」

 

 蜜璃は苦笑いを浮かべる。

 

「男の人が言った言葉でふーちゃんの堪忍袋の緒が切れちゃったみたいでね、男の人がそのまま踵を返して去って行こうとするのをズンズン近寄って行ってそのまま後ろからスパーンと男の人の足に蹴りを入れてね」

 

「お、おう……」

 

「そのままスッテ~ンと大の字で転んだ男の人の額をすっと人差し指で抑えてね。『あなたのそのご自慢の面白みのない黒髪を今すぐ頭蓋骨叩き割って鮮血で赤く染めてやろうか?』ってものすごく冷たい声で言ったの」

 

「…………」

 

「私、その時ふーちゃんの後ろにいたからふーちゃんの顔が見えなかったんだけど、ふーちゃんに見下ろされながらその台詞を言われたその男の人はね、恐怖に引き攣った顔でそのまま往来の真ん中で失禁してたわ」

 

「うわぁ……」

 

 その様子を想像したのか小芭内は蜜璃の言葉に相手の男を不憫に思って引き攣った顔で声を絞り出す。

 

「私もふーちゃんのそんな雰囲気初めて見たから驚いちゃってふーちゃんの圧に圧倒されちゃってたんだけど、ふーちゃんが日輪刀に手を掛けたところで私もやっと正気に戻って慌てて止めに入ったの」

 

「それ斬ろうとしてたんじゃないか……?」

 

 以前に半殺しにするつもりだったと語っていた楓子の言葉との違いに小芭内は茫然と言うが

 

「ふーちゃん曰く『安心してください、峰打ちで骨を叩き折るだけですから』ってすごくいい笑顔で言われたわ」

 

「……なるほど」

 

 蜜璃の言葉に一応は納得したように頷く。

 

「その後は私も全力で止めに入ったし、相手の男の人も本気で土下座で私たちに謝罪を……というか命乞いをしてたわ。私、今日までにあれを超える命乞いって見たことないわ」

 

「そこまでか……」

 

 蜜璃の言葉に小芭内は呆れた様子で呟く。

 

「闇が深いかどうかはわからないけど、ふーちゃんの本気の一端を見た気がするわ……」

 

「そうか……」

 

 苦笑いの蜜璃の言葉に小芭内は頷き

 

「実際に見た君は今の俺の10倍は感じ取ったんだろうな……今までも常々思っていたが、あいつは何者なんだ?齢15歳で膨大な医学知識を得て、柱にすら恐怖させる威圧感持つとかいったいどんな幼少期を過ごせばこう育つんだ……?」

 

「ごくごく普通の家庭で、ご両親がお医者さんだったから一般階級よりもいい暮らしはしてた、とは聞いてるけど……」

 

「ごくごく普通とはいったい……?」

 

 楓子という存在に二人の柱は首を傾げるばかりだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

○恋柱の継子と産屋敷家の『呪い』

 

 

 

 

「――走り去る黄色い車を見送るクラリスと老人と一匹の老犬。そんな彼女たちの隣に一人の男が駆けつけます。

 

『くそぅ!一足遅かったか!ルパンめ!まんまと盗みおって!』

 

 悔しげに言う銭形にクラリスは言います。

 

『いいえ、あの方は何も盗らなかったわ。私のために戦ってくださったんです』

 

『いや!奴はとんでもないものを盗んでいきました!』

 

 しかし、確信を持って否定する銭形の言葉にクラリスは見当がつかず茫然とします。そんなクラリスに銭形は答えました。

 

『あなたの心です』

 

 銭形の言葉にハッとしたクラリスは

 

『……ハイッ』

 

 笑顔で頷きました。

 

『では!失礼します!』

 

 そう言って銭形は敬礼をしウィンクすると丘を駆け下りていきました。迎えに来た警察車両に駆け込んだ銭形は運転する部下に指示を飛ばします。

 

『ルパンを追え!地の果てまで追うんだ!』

 

 銭形の指示に答えるように警察車両は高らかにサイレンを鳴らして走っていきます。

 そんな警官たちを手を振って見送るクラリス。

 

『なんと気持ちのいい連中だろう』

 

 クラリスの隣で老人が呟きます。

 

『私、ずっと昔からあの方を知っていた気がするの。ルパン…きっと!きっとまた会えるわ!』

 

 そう言ってクラリスはずっと彼らの去って行った方向を眺めていました」

 

「「「「「…………」」」」」

 

「クラリスに見送られたルパンたちは車を走らせていました。

 少し切ない顔で進行方向を見るルパンに次元はハンドルを握りながら茶化すように言います。

 

『いい娘だったなぁ~……おめぇ、残っててもいいんだぜ?』

 

 しかし、ルパンはそれに黙ったまま答えません。

 そんな彼らの車に一台の自動二輪が並走します。

 

『あらぁ、不二子ちゃんッ?』

 

『ルパン見て!私の獲物!』

 

『……あぁ!偽札の原板じゃないのよ!?』

 

 不二子の言葉に二輪の二台を見れば、そこには偽札づくりで使われた原板が顔をのぞかせていました。

 

『ぅわぁ!ぅわぁ!おぉトモダチになりたいわぁ!ぅわぁ!』

 

『じゃあね、ルパン!』

 

 原版に手を伸ばすルパンでしたが、そんなルパンに短く挨拶すると不二子はそのまま二輪の速度を上げます。

 

『あらら!あらぁ!ちょっと!お待ちなさいよぉ!お待ちなさいってばぁ!』

 

 ルパンは慌てて手をばしますが不二子はそのまま走り去って行きます。そしてその直後、背後からサイレンの音が響きます。

 

『いぃけねまぁったとっつぁんだぁ!』

 

『ルパァン!今度こそ逃がさんぞぉ!』

 

 銭形たちに追いかけられながら、ルパンたちは走っていくのでした

 

 ――おしまい」

 

「「「「「…………」」」」」

 

 楓子の語りが終わったところで聞いていた五人の子ども達はホッと息をつき

 

 パチパチパチパチ

 

「やぁやぁ、ご清聴ありがとうございました!」

 

 子ども達の拍手を受けて楓子は照れたように頷く。

 現在楓子達がいるのは鬼殺隊の責任者である産屋敷の邸宅、その一室。

 楓子の前に並ぶのはよく似た顔つきの、四人は白髪の少女で一人は黒髪の少年――現当主の産屋敷耀哉の子ども達である。

 

「ありがとうございます、楓子さん!今日のお話もとても楽しかったです!」

 

「いえいえ、輝利哉くん達が楽しんでくれてよかったです」

 

 代表するように言う中心に座る少年――産屋敷輝利哉の言葉に楓子が笑顔で頷く。

 と、そんなタイミングを見計らったように

 

「失礼します。楓子さん、そろそろお館様の準備が整いました」

 

「あ、はい。今行きます」

 

 現れたあまねの言葉に頷いた楓子は五人に視線を向ける。

 

「それでは、今日のところはここまでで。また次回お会いしましょう」

 

「はい!今日もありがとうございました!」

 

「「「「ありがとうございました!」」」」

 

「いえいえ。今度はそうですね…お話ではなく何か科学実験でもしましょうか。スライムとか作りましょうかね」

 

「すらいむ?」

 

「洗濯糊と水とその他いろいろを混ぜて作る『掴める水』って感じの感触のねんどのようなものですかね?独特の肌触りで面白いですよ」

 

「それはとても楽しそうですね!ぜひそれで!」

 

「ええ。では準備しておきますね。それではまた来週」

 

 目を輝かせる輝利哉達に微笑みかけ、楓子はあまねについて行く。

 

 

 ○

 

 

 

「――以上が現在進行中の医療技術の現状です」

 

「ふむ、ありがとう」

 

 私の言葉に対面するお館様はニッコリと笑みを浮かべて頷く。

 

「君の発案の技術はどれも順調な進行具合のようだね。この調子で進めてくれるかい?何か必要なものが出来たらいくらでも用立てよう」

 

「ありがとうございます」

 

 お館様の言葉に私は頭を下げる。

 今日はお館様に私から進言し、研究を進めている医療関係の技術についての定例報告の日だ。

 ここで進捗具合を報告し必要なものがあれば相談、お館様の許可をもらいさらに研究を進める、というのがこの報告会の流れだ。まあ基本的にはお館様から許可がもらえないことはこれまでなかったので、それほど堅苦しい会議ということでもない。

 

「そう言えば、今日も輝利哉達に物語を語ってくれたそうだね。ありがとう楓子」

 

「いえいえ、私なんかの語りで楽しんでいただけて何よりです」

 

 と、お館様の言葉に私は微笑む。

 以前の輝利哉くんが風邪で看病した時以来、私は彼にせがまれ度々物語を語って聞かせた。

 最初は不定期に、産屋敷家で保存している過去の記録の整理のために訪れた際に語っていたのだが、いつの間にかギャラリーが増え五人の兄妹全員の前で語って聞かせるようになっていた。

 そして、いつしかお館様の鶴の一声で五人の子ども達の家庭教師のようなものを仰せつかっていた。

 最初始めた当初は『楓子先生』と呼ばれ、先生なんておこがましいと恐縮しているうちに『楓子さん』で落ち着いた。落ち着いたのはいいのだが、今度は彼らのことを『くん付け』『ちゃん付け』で呼ぶように言われてしまった。最初は断って頑なに『様』で呼んでいたのだが、これまたお館様の鶴の一声により『くん付け』『ちゃん付け』を強要されてしまった。結果いまでもかなり恐れ多いもののとりあえずは五人とも『くん付け』『ちゃん付け』で呼んでいる。

 もちろん敬語だけはそのままだ。これだけは頑として譲らなかった。譲ってなるものか!恐れ多い!

 そんなわけで今では月に一度の定例報告とは別に二週間に一度、産屋敷家のご子息ご息女への勉強会もどきのようなものを行っている。

 まあこの二度目の人生ですでに天涯孤独で親類のいない私にはこうして輝利哉くんたちとの触れ合いの時間は、まるで年の離れた従弟たちと遊んでいるようで楽しかった。

 それに勉強会と言っても大抵は今日のように私が物語を語って聞かせるか、楽しんでできる科学実験を行うだけなのだが……

 

「君にあの子たちの相手を任せて正解だったようだ。毎度毎度あの子たちはとても楽しみにしているようだよ」

 

「勉強になってるか分かりませんけど、いいんでしょうか?」

 

「構わないよ。あの子たちにはちゃんと教育は受けさせている。君との時間は息抜きのようなものだよ」

 

「そうですか。それならいいんですが」

 

「それに、君との時間は彼らにとっても十分にいい刺激になっているようだよ。先日も庭先を五人でウロウロしていると思ったら、虫なんかを集めていたようでね」

 

「ほう。それはそれは」

 

「今もいくつか世話をしているようだよ。特にダンゴ虫がお気に入りのようで、『王蟲』と呼んで可愛がっているよ」

 

「そ、それはそれは……」

 

 お館様の言葉に私は苦笑いを浮かべる。そう言えば私も彼らくらいの時にテレビで某風の谷が放送されるたびにダンゴ虫見つけてきては飼ってた覚えがあるなぁ。まあ彼らにそのお話を語ったのは私なのだが……。

 

「本当に君には感謝しているよ。ありがとう」

 

「そんな、恐れ多いです」

 

 頭を下げるお館様に私は恐縮して手を振って否定する。

 

「特に輝利哉が君に懐いているようでね」

 

「そう言えば私が『様付け』をやめることを嫌がったら、頑なに食い下がってたのも輝利哉くんでしたね」

 

 私の言葉にお館様は楽し気に微笑む。

 

「私は一人っ子ですし、蜜璃さんはホントの姉みたいに思ってますけど、ご子息たちと関わっていると私も姉の気分で楽しいです」

 

「そうか、それはよかった……」

 

 お館様は頷き

 

「そう言えば、以前から君の意見を聞きたいと思っていたことがあるんだが」

 

 と、そこでお館様はふと口を開く。

 

「楓子、君の見解でいいのだけれど、君はこの産屋敷家に伝わっている『呪い』についてどう思うかな?」

 

「すみません、どう…とは?」

 

「そうだね、『呪い』の正体でも、その構造でもなんでもいい。聡明な君から見てこの『呪い』はどう見えるかな?」

 

「……私の知識では以前からどうする手立てもないことはお伝えしてると思うんですが……」

 

「そう言うことではないよ。そうだね……極論で言えばこの『呪い』とは、本当に『呪い』だと思うかな?」

 

「…………」

 

 お館様の言葉に私はその真意はよくわからないが、とりあえず少し考えてみて

 

「そうですね……医学の力で治せる治せないなど正直皆目見当がつきませんし、なんの確証もありませんが……」

 

 ゆっくりと口を開く。

 

「あくまでも、あくまでも私の推測ですので、話半分程度に聞いていただければと思うんですが……」

 

「いいよ。言ってごらん」

 

 私の言葉にお館様は優しく頷く。その雰囲気に私は少し緊張を解き

 

「私の所感では、これは神仏による『呪い』では無いと思います」

 

「ほう?」

 

 私の言葉にお館様は興味深そうに目を輝かせる。

 

「そもそも前提として私は『呪い』ってものに否定的なんですが、それを抜きにしてもこの産屋敷家に伝わっている『呪い』は不自然な点が多く思います」

 

「と言うと?」

 

「最大の不自然な点は『何故呪いの影響が鬼舞辻無惨本人に出ていないのか?』ということです。これが神仏の呪いなら鬼になった本人に何も手を出さず、その血縁者である産屋敷家を呪うというのは些かおかしく思います」

 

「ふむ、確かにその意見は頷けるね」

 

 私の言葉にお館様は頷く。

 

「ならば、神職の人間と婚姻することで寿命が少しずつ延びた、ということについてはどうかな?これは神仏の『呪い』ということへの証拠と言えるのではないかな?もし神仏によるものでないのなら、この産屋敷家の短命はどういう理由で起こってると思うかな?」

 

「………本当にこれは推測でしか無いんですが」

 

 お館様の問いに私はゆっくりと口を開く。

 

「この『呪い』は一族に鬼を出したことへの神仏によるものでは無く、その件の鬼――鬼舞辻無惨本人によるものだと思うんです」

 

「ほう?と言うと?」

 

 私の言葉にお館様はさらに興味深そうに若干前のめりで続きを促す。

 

「鬼舞辻無惨はその血によって自身の配下である鬼を増やし、その血による繋がりで配下の鬼を支配しています」

 

「そうだね」

 

「そして、産屋敷家は元を辿れば鬼舞辻と血縁のある家です。つまり、やつと産屋敷家には血の繋がりがあるんです」

 

「ッ! なるほど!つまり!」

 

「そう、その血の繋がりが何かしらの作用を起こしている……例えば()()()()()()()()()()()()()()()とか、そう言った類のことが起きているのではないかと思うんです。鬼舞辻本人にその自覚があるかどうかわかりませんが、恐らく自覚なしでしょう。自覚があったらそれを駆使して産屋敷家を断絶させることも可能でしょうから」

 

「ふむ……確かに頷ける話ではある」

 

 そこでお館様は「だが」と断り

 

「ならば何故神職との婚姻で『呪い』が緩和されたのかな?」

 

「それこそやつとの血の繋がりがあったからです」

 

「どう言うことかな?」

 

 お館様の問いに答えた私の言葉にお館様は首を傾げる。

 

「人間の血と言うものには遺伝子――DNAと言うものがあります。これは要約して言ってしまえばその人を形作る情報そのものです。これが血縁関係者はかなり類似してくるわけですが、これが子に伝わっていく時、片方の情報だけでなく両親共の情報が子どもには伝わります。父親の家系と母親の家系その両方のDNAが混ざり合って子どものDNAは形成されるんです」

 

「それはつまり?」

 

「代を重ね、鬼舞辻と限りなく同じだったDNAに他のDNAが混ざり合うことで血の繋がりが薄まっていったのではないかと思うんです」

 

「ッ!」

 

 私の言葉にお館様が息を呑む。

 

「なのでこの場合、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()のではなく、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()んだと思うんです」

 

「つまり、こう言うことかい?この『呪い』の為に婚約する相手を神職に限定する必要はない、と?」

 

「まあ…端的に言ってしまえば……」

 

「ふむ……」

 

 頷く私にお館様は考え込むように黙る。

 その沈黙は長く重く、遅まきながら私は自分の発言を顧みる。

 今私が行ったのはこの千年間で産屋敷家が『呪い』への対策として取り組んできたことを無意味とまではいわないまでも、間違いだったと切り捨てるようなものじゃないだろうか?

 ……あれ?これ捉えようによってはかなり失礼なことじゃないか?

 

「あ、あの!お館様!今のはあくまでそう言う風にも考えられる、と言うだけで――」

 

 慌てて口を開いた私にお館様は

 

「楓子」

 

「は、はい!」

 

「素晴らしい意見だ」

 

「………はぇ?」

 

 にっこりと微笑んでいったお館様の言葉に私は呆ける。

 

「なるほど、確かにこれまで盲目的に『呪い』だと信じてきたが、今君が語ってくれた内容の方が納得できるし現実的だ」

 

「…………」

 

 うんうん頷きながら言うお館様の言葉に私は唖然としたまま

 

「……え、怒らないんですか?」

 

「??? 何をだい?」

 

 私の問いにお館様は首を傾げる。

 

「だ、だって今の私の話は、これまでの産屋敷家の努力を否定するもので……」

 

「だが実際それが真実だったならこの千年、私たちは間違っていたわけだろう?」

 

「いや、事実なら、ですけど、私の考えが間違ってる可能性の方が高いんじゃ――」

 

「それなら私たちが行ってきたことだって間違っていた可能性があるよ」

 

「えぇ~……」

 

 ニコニコととんでもない爆弾発言をするお館様に私は茫然と呟く。

 だって今のって現当主自らこれまでの歴代の当主たちのしてたことが間違ってたというようなものじゃないか。

 え、いいの!?それをあなたが言っちゃっていいの!?

 

「と言うか、私個人としては君の推測が正しい方が好ましいね」

 

「??? どういうことですか?」

 

「フフ、こっちの話さ」

 

 その言葉の意味が分からず首を傾げる私にお館様は微笑む。なんだかはぐらかされてしまった。なんとなくそれ以上追求しづらい。

 

「まあとにかく、今日はとても有意義な話が聞けた。ありがとう、楓子」

 

「は、はい……」

 

 そう言ってお礼を言うお館様に私は曖昧に頷く。なんかよくわからないけどお館様が今の話を好意的にとってくれたのなら幸いだ。危うく今までの努力が水の泡になるところだった……。

 

「これからも君のその素晴らしい見解と意見を活かしてほしい。君とは輝利哉たちや私たち産屋敷一同、末永くよき付き合いを続けていきたいと思っているよ」

 

「そんな、勿体ない限りです」

 

 微笑んで言うお館様の言葉に私は恐縮しながら頭を下げる。下げるのだが……

 

 ――なんだろう?今の言葉若干含みを感じた気がする……。

 

 私は人知れず首を傾げるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

○恋柱の継子と疑惑の水柱師弟

 

 

 

 その日、私はまこちゃんを訪ねて水柱邸にやってきたのだが――

 

「えぇ、まこちゃん〝また〟鱗滝さんのところに行ってるんですか?」

 

「……ああ」

 

 私の言葉に冨岡様が頷く。

 

「ここんところよく行ってますよね」

 

「……そうか?」

 

「そうですよ!遡れば一年半くらい前からですかね?」

 

「ッ!」

 

 私の指摘に冨岡様は息を飲んだように見えるが流石、一切顔に出さない。

 

「……鱗滝さんどこか悪くされてるんですか?」

 

「……いや、元気だ」

 

 私の問いに冨岡様は首を振る。

 

「…………」

 

「…………」

 

 そんな冨岡様の様子に私はジッと顔を寄せる。しかし、冨岡様は一切表情を変えない。

 

「……まあそれならいいですけど」

 

「ああ」

 

 私の言葉に冨岡様は頷く。

 

「あ、そう言えば聞きました?半年後にある藤襲山での最終選別についにカナヲちゃんが参加するそうですよ」

 

「……ああ」

 

 と、そこで私は思い出したように冨岡様に振る。

 冨岡様もそれに頷く。

 

「しのぶから聞いてる」

 

「そうでしたか」

 

 冨岡様の言葉に私は納得して頷く。

 

「早いものですね~。知ってます?カナヲちゃんが全集中の呼吸の修業受けられるように推薦したの私なんですよ?」

 

「そうか」

 

「しかも、カナヲちゃんって実は独自に見稽古で呼吸を練習してたんですよ。それを見抜いたのも何を隠そう私なんですよ」

 

「そうか」

 

「ええ!」

 

「…………」

 

「…………」

 

「…………」

 

 蝶屋敷の子たちはものすごく驚いていい反応してくれてたのに、この人反応薄過ぎて驚いてるのか感心してるのか全く伝わってこない。

 

「そ、そう言えばですね!偶然にもその半年後の最終選別の監督係、私も参加するんですよ!」

 

「……そうか」

 

 なんか一瞬…ほんとに一瞬の間があった気がする。

 最終選別の監督係とは私が情報戦略部に所属した際にお館様に進言した案だ。

 鬼殺隊になるために育手や柱の継子として修業をした人間は『藤襲山』で行われる最終選別に参加する。

 私もマコちゃんと同時期に参加し七日間生き残ったことで鬼殺隊に入ることができた。

 しかし、この最終選別と言うものが実に過酷で、参加者の生存率は恐ろしく低い。

 内容は鬼の嫌う藤の花が年中咲き誇り囲われた山の中に鬼殺隊士が捕らえた鬼が蔓延る状態で、その山で七日間生き残るというものなのだが……これ前世から思ってたけど内容的にどうなの?

 そりゃ強い隊士を選りすぐる為に厳しい条件にするのはしょうがないと思うよ?でもさ、だからって何故隊士になるか死ぬかの二択しかないの?些か厳しすぎやしません?

 この最終選別で心折れたり、隊士になってからの過酷さを垣間見た結果戦えなくなったら死ぬしかないっておかしいでしょ。

 あとあの手鬼のような例もある。山の中で何十年も生き延びて選別に参加した人を喰らって力をつけた鬼が今後も現れるかもしれない。そんなのと遭遇したら呼吸を習得したてのまだまだ未熟な人じゃ対応できない。

 そんなこんなの理由で山の中に参加者のように私のように経験のある一定以上の階級の隊士を複数名配置し万が一殺されそうになった参加者がいれば救出、試験を失格として安全な場所に連れて行き、以降は本人の意思で次回以降の最終選別を受けるかどうかを決められるようにしている。

 この制度を取り入れたことで最終選別の生存率は格段にアップした。

 そして、そんな監督役に次回私は参加することになったのだ。

 そしてそして、同時に私はなんとなくここ一年半冨岡様とまこちゃんが隠していることについて予想を立てている。と言うかもうそろそろ時系列的に〝そう〟なのだろう。

 

「大好……」

 

 と、そこで冨岡様が口を開く。

 

「……よろしく頼む」

 

「は、はい……」

 

 呟くような言葉に一度頷き

 

「………え?今私は何をお願いされたんですか?」

 

 よく考えてもわけがわからず首を傾げる。

 

「……最終選別の監督役の件だ」

 

「あぁ……」

 

 首を傾げる私に冨岡様が答え、その答えにやっと納得する。

 それと同時に

 

「え?でも今度はなんで私は冨岡様から監督役の件を頼まれる様子があったのかって言う疑問が出てきたんですが……?」

 

「…………」

 

 私の言葉に冨岡様は黙ってそっと視線を逸らす。

 

「……冨岡様」

 

「……なんだ?」

 

「……なんか隠してません?」

 

「……隠してない」

 

「嘘だッ!!」

 

 私の問いに顔を背けたままいう冨岡様に私は叫ぶ。

 

「絶対嘘だ!!後ろめたいことないならこっち見て言ってくださいよ!!」

 

「…………」

 

 冨岡様は私の言葉に答えず、頑なに顔を背け続ける。

 

「冨岡様!冨岡様!!と~み~お~か~さ~ま~!!!」

 

「…………」

 

「おいこっち見てください!!こっち見ろよ!!後ろめたいことないならちゃんとこっち見てくださいよ!!」

 

「…………」

 

「ねぇ!!ねぇ!!ねぇ!!冨岡様!!冨岡様ってば!!と~み~お~か~さ~ま~!!」

 

「…………」

 

 意地でも視線を合わせてやろうと追いかけるが冨岡様も冨岡様で、頑なに顔を逸らし続ける。

 揺すっても殴っても何しても頑なに顔を合わせようとしない。

 

「…………」

 

「…………」

 

「………………」

 

「………………」

 

「……………………」

 

「……………………」

 

 数秒の間謎の攻防を繰り返し、私は最終手段にでる。

 

「『もう、冨岡さんは意地悪ですね。だからみんなから嫌われるんですよ』」

 

「ッ!?」

 

 バッと声のした方に冨岡様が目を見開いて視線を向ける。その視線を受けながら私は

 

「『でも、そんな冨岡さんのこと、私嫌いじゃないですよ』」

 

「…………」

 

 ニヤニヤ笑いながら先ほど同様にしのぶさんの声真似で言うと冨岡様の視線が一気に冷めていき絶対零度になる。

 

「ねぇねぇ、今しのぶさんが言ったと思いました?しのぶさんが来たと思いました?」

 

「…………」

 

「ねぇねぇ、今もしかしてちょっと期待しました?期待しましたよね?」

 

「…………」

 

「ねぇねぇねぇ、なんでしのぶさんが来たって期待したんですか?ねぇなんでなんですか?」

 

「…………」

 

「ねぇねぇ冨岡様!冨岡様ってば!教えてくださいよ!なんで!?ねぇなんで今期待したんですか!?ねぇねぇねぇ!」

「(ブチッ)」

 

 と、気のせいか何かが切れる音が聞こえた気がした。そして次の瞬間私は

 

「グエッ!?」

 

 冨岡様に抱えられるように首を絞められていた。ちょうどアレだ、那田蜘蛛山で炭治郎を追いかけようとしたしのぶさんを冨岡様が止めたときのあんな感じだ。違うところを挙げるならあの時はしのぶさんは首が絞まらないように抱える冨岡様の手と自分の首の間に手を入れていたが、今の私はそれができていない。ガッツリ首が絞まってる。

 

「と゛、と゛み゛お゛か゛さ゛ま゛!し゛、し゛ま゛って゛ま゛す゛!し゛ん゛で し゛ま゛い゛ま゛す゛!」

 

「…………」

 

「と゛、と゛み゛お゛か゛さ゛ん゛!!ほ゛、ほ゛ん゛と゛に゛!!」

 

「…………」

 

「あ゛、あ゛ぁ……し゛ぬ゛……」

 

「…………」

 

 意識が若干朦朧としてきたところで

 

「ぶはッ!?」

 

 ようやく拘束が解かれた。

 ビターンと投げ出される形で地面に放り出された私は大きく息を吸い込み

 

「ゴホッ!ガハッ!」

 

 酸欠寸前の肺に急激に空気が流れ込み思わず咳き込む。

 そのまま両ひざと両手を地面についたまま呼吸を整え

 

「殺す気かぁぁぁぁぁぁッ!!?」

 

 絶叫しながら立ち上がって冨岡様の胸倉を掴む。

 

「綺麗なお花畑が見えましたよ!大きな河も一緒に見えましたよ!向こう岸で死んだ両親が手ぇ振ってましたよ!!危うく渡りかけたじゃないですか!!!」

 

「……悪い」

 

「悪いで済むかぁぁぁぁぁッ!!!」

 

 いつもの無表情で言う冨岡様の胸倉を掴んでガクガク揺さぶる。冨岡様はされるがままで、しかし、その眼はあまり反省していないような半眼だった。

 

「いいですか!?確かに私今思えばかなり鬱陶しかったかもしれませんけど!!それでも!それでも落ちる寸前まで首絞めないでください!!」

 

「……次は気を付ける」

 

「次の前にそもそも女の首を絞めんなぁぁぁぁッ!!」

 

 一切反省してなさそうな抑揚のない声に私はさらに叫ぶ。

 

「いいですか!?絶対!絶対ダメですから!!誰に対してもそうですけど特に女の人!!女の人の首絞めちゃ絶対ダメですからね!!わかりましたかッ!!?」

 

「……わかった」

 

「ホントにわかってんですかねぇこの人は……」

 

 抑揚のない声で頷く冨岡様に私は大きくため息をつく。

 

「……そう言えばお前に相談があるんだが」

 

「この状況でよく相談持ち掛けられますね!?」

 

 口を開いた冨岡様の言葉に私は驚愕しながら叫ぶ。

 

「はぁぁぁ……まあいいですよ。で?なんですか?」

 

 私は大きくため息をつきながら冨岡様を見る。

 

「……実は最近心臓がおかしい」

 

「え……?」

 

「不整脈、と言うんだろうか?急に動悸が、痛いくらいに激しくなったりキュッと締め付けられるように痛むことがある」

 

「ちょ!?それガチのヤバいやつじゃないですか!?なんでもっと早く言わないんですか!?」

 

「特に問題なく過ごせていた……」

 

「問題大ありですよ!あなた仮にも柱の一人なら自分の健康状態くらいもうちょっと気を配ってくださいよ!!」

 

「鬼との戦いでは不整脈は起きていない」

 

「だとしてもですよ!!」

 

 何でもない様子で言う冨岡様に私は慌てて言う。

 

「いったいいつ頃から不整脈起こり始めました!?覚えてます!?」

 

「ああ……確かあれは一年くらい前……」

 

「一年も前!?なんで今日までほっといたんですか!?」

 

「特に問題なく過ごしていたから」

 

「だ~か~ら~!!……いえ、もういいです」

 

 冨岡様の言葉に再び怒鳴りかけて、結局同じこと繰り返すことになりそうだったので私は頭を振る。

 

「で?一年前のどんな時に不整脈を感じたんですか?」

 

「そう…あれは一年くらい前……いつもの通りご飯を作りに来てくれたしのぶに『イッヒリーベディヒ』と言われた時、思えばあれが最初だった……」

 

「………え?ん?はい?」

 

 しみじみと言う冨岡様の言葉に私は一瞬呆けて眉間に手を当てて揉み数秒考える。

 

「え~っと、他には無いですか?」

 

「ああ、ある」

 

 私の問いに冨岡様は頷き

 

「先日はしのぶが楽しげに笑っているところを見たときに起きた」

 

「…………」

 

「あと、さっきのお前の声真似の時」

 

「あぁ、さっきの」

 

「さっきのもそうだが、しのぶに『だからみんなから嫌われる』と言われると心臓のあたりがキュッと絞められるように痛む……」

 

「…………」

 

「これは…何か病気なんだろうか……?」

 

「あぁ~そうっすねぇ……」

 

 冨岡様の問いに私は数秒考え

 

「あぁ~もう病気ってことでいいんじゃないですか?」

 

「……なんだか急にテキトーになってないか?」

 

「いやいや、そんなことないですって」

 

 首を傾げる冨岡様の問いに手を振りながら否定する私。

 

「まあ実際のところ厄介な病気ですよ。麻疹みたいなもんですけど不治の病です」

 

「ふ、不治の病……!?」

 

 私の言葉に冨岡様は驚愕の表情を浮かべ

 

「な、なんとかならないのか……?」

 

「あぁ、無理ですね。もう一生付き合ってくしかないですねこれは」

 

「そ、そうか……」

 

「まあ不治の病ですけど命にかかわることはないんで大丈夫ですよ」

 

「そうなのか」

 

「ソウソウ、ソウナンデス」

 

 頷きながら言う私を見ながら冨岡様は

 

「……やはりテキトーになってないか?」

 

「ナッテマセンヨ」

 

 冨岡様の言葉にため息をつきながら答える。

 

「なんて言うか、拍子抜けしたというか…喜んでいいのか、気付いてないことに嘆けばいいのか……とにかく今はこの胸焼けしそうな気持ちをどうにかするために珈琲が飲みたいです」

 

「そ、そうか……?」

 

 よくわからず首を傾げながら頷く冨岡様を見ながら

 

「とりあえずカフェー行きましょう、冨岡様のおごりで」

 

「……何故だ?」

 

「相談乗ってあげたでしょう?あと首絞めた慰謝料ですよ」

 

「…………」

 

 私の要求に腑に落ちない顔でしきりに首を傾げる冨岡様。そんな冨岡様を放っておいて私は歩き出す。

 そのまま少し進んだところで振り返り

 

「ほら、何してんですか?行きますよ!」

 

「…………」

 

「は~や~く~!」

 

「……ああ」

 

 いまだに腑に落ちていない様子で、しかし、これ以上考えるのが面倒臭くなったらしい冨岡様は頷き私の後に着いてくるのだった。

 




ちなみに今回のお話の中で楓子ちゃんが話している『呪い』については、あくまでも考察です。
独自解釈です。



~大正コソコソ噂話①~
楓子と会った後、試作品の『ごきげんようお久しぶり爆弾(仮)』を借りて帰った天元ですが、彼の留守中に掃除をしていた須磨さんがうっかり落として炸裂。奥さん三人で大騒ぎする大惨事となりました。
その後家に帰った天元は奥さん三人からこっぴどく怒られました。



~大正コソコソ噂話②~
楓子の出版社に持って行っていた『妖滅の刃』ですが、何とかギリギリで間に合い卯月の奥さん三人がエロい拷問を受けるシーンは削除されました。



~大正コソコソ噂話③~
楓子ちゃんの頑張りの末、恋柱邸のお庭にはおおよそ兎が一羽住むのには大きすぎるほどの大作の兎小屋が完成しました。楓子は時々そこで芥子ちゃんと戯れながら昼寝をしてるそうです。



~大正コソコソ噂話④~
楓子の推察を聞いた日から、楓子は報告やお勉強会の後にそのまま流れで産屋敷一同との食事に誘われるようになったそうです。お館様からの誘いなのでよっぽどの急ぎの用事がない限りは楓子もその誘いに応じています。



~大正コソコソ噂話⑤~
カフェーに行ってからも『不治の病(仮)』を気にする義勇に楓子は自作の薬を処方しました。しかし、その薬の実態はただのラムネ菓子でした。



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