恋柱の継子、人の恋路に世話を焼く   作:大同爽

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年内最後の投稿です。
先日とうとう「劇場版鬼滅の刃 無限列車編」がめでたく興行収入1位となりましたね。
少し前にフライングでお祝いしてしまいましたがこれで本当に日本一ですね。
いやはや実にめでたい!
しかも続編のアニメ企画が進行中との話も聞きました。
これは期待が膨らみますね!



そんなわけで最新話です!






恋20 恋柱の継子と長男

「アァ~!アァ~!コノ先ダァ!コノ先ダァ!」

 

「はいよ~」

 

 私は頭の上で首に赤いスカーフのまかれた私の鎹鴉――『(ヘイ)』の言葉に相槌を打ちながら歩く。

 狭霧山を発ってからはや二日が経っていた。

 鱗滝さんに見送られた私は黒の案内に従って炭治郎くんと合流するために向かっていた。聞いたところによると炭治郎くんの方も私が狭霧山を発った時点ですでに浅草を出ていたので原作通りなら恐らく次は『鼓の屋敷』だろうか。『鼓の屋敷』と言うことは善逸くんとも合流するころでもある。

 もしかしたらもうすでに善逸くんとは合流した後かなぁ~、なんて思っていた私は――

 

「痛い!!痛いよ!!やめて!!痛い!!」

 

「お、落ち着いて!!」

 

「うやぁぁぁぁぁぁッ!!」

 

 進行方向から叫び声が聞こえた。

 視線を超えのした方向に向けると頬に赤い平手の跡がくっきりと着いた金髪の少年――善逸くんと、彼に向かって怒りの形相で両手を振り回す少女、そんな彼女を後ろから羽交い絞めにして必死に止めている市松模様の羽織の少年――炭治郎くんの姿があった。

 

「よりにもよってこの状況かぁ……」

 

 私はその状況にため息をつき、しかし、少し歩を速めて三人に駆け寄る。

 

「ちょっとちょっとどうしたの?」

 

「あ、あなたは!」

 

 と、私の登場に炭治郎は目を見開くが、その炭治郎よりも先に

 

「お、大好さぁぁぁんッ!!」

 

 善逸くんが私の背中に隠れるように泣きついてくる。

 

「ねぇ、状況が全く見えないんだけど、なんで善逸くんは泣いてるの?なんでその女の子はそんなに怒ってるの?」

 

 私が問うと炭治郎に抑えられていた少女が怒りの形相のまま叫ぶ。

 

「どうもこうもありません!その人急に私に結婚してくれ、俺はもうすぐ死ぬんだ、とかわけのわからないこと言うんです!!」

 

「だってそれは君が俺のこと好きって――」

 

「言ってません!!」

 

「ヒィィィッ!!?」

 

 再び殴り掛かりそうな剣幕の少女に善逸くんが悲鳴を上げる。

 

「いつ私があなたを好きと言いましたかッ!?具合が悪そうに道端に蹲っていたから声をかけただけでしょうッ!?」

 

「えぇぇぇぇぇぇッ!?俺のこと好きだから心配して声かけてくれたんじゃないのぉぉぉぉぉッ!!?」

 

「いや、それ普通に私も同じ立場なら声かけるわね」

 

「ほらぁ!!」

 

 驚く善逸くんに私は冷静に答え、私の答えに少女が叫ぶ。

 

「だいたい私には結婚を約束した相手がいるので絶対にありえません!!それだけ元気なら大丈夫ですね!!さようなら!!」

 

 そう言って少女は踵を返す。

 

「あ、待って!」

 

 と、そんな少女を私は呼び止める。

 

「なんですか!?」

 

 まだ怒った様子で振り返る少女に私はそっと頭を下げる。

 

「ごめんね、この子たちは私の後輩なの。後輩が迷惑をかけちゃったみたいで本当に申し訳ない。せっかく親切心で声をかけてくれたのにね」

 

「い、いえ……」

 

 私が頭下げたことに驚いた様子の少女は少し慌てた様子を見せ

 

「そ、その、私も少し驚いてしまってキツい言動になってしまったかもしれません」

 

「いやいや、急に抱き着かれて結婚を迫られたら仕方ないよ。君は何も悪くないから」

 

 申し訳なさそうに言う少女に私は首を振り

 

「この子には私から十分に注意しておくから、本当に迷惑かけてごめんね」

 

「い、いえ、もういいですから。それでは」

 

「うん、ありがとうねぇ~」

 

 お辞儀して去って行く少女を手を振って見送った私は振り返る。と、そこではまるで悲しい生き物を見るような目で善逸くんを見下ろす炭治郎くんがいた。

 

「なんだよその顔!!」

 

 その顔に善逸くんが叫ぶ。

 

「やめろぉぉぉッ!!なんでそんな悲しい生き物見るみたいな憐みの目で俺を見るんだぁぁぁッ!!」

 

「いや、お前自分が何してるかわかってるのか?お前の為に楓子さんが頭まで下げたんだぞ?先輩に頭下げさせるなんて恥ずかしくないのか?」

 

「やめろぉぉぉぉぉッ!!冷静に俺の今の現状を言葉にすんじゃねぇよぉぉぉぉぉッ!!」

 

 炭治郎くんの言葉に善逸くんは頭を抱えて泣き叫ぶ。

 

「もう最悪だよ!!結婚できないし、叩かれるし、大好さんに謝らせちゃうし!!」

 

 叫びながら善逸くんは炭治郎くんを睨みつけ指差す。

 

「お前ぇ!!全部もとはと言えばお前のせいだ!!お前が邪魔しなきゃこうはならなかったんだぞ!!お前責任とれよな!!お前のせいで結婚できなかったんだからなぁ!!」

 

 叫ぶ善逸くんの言葉を受けて炭治郎くんは

 

「…………」

 

「だからその憐れむ顔やめろよなぁぁッ!!」

 

 先程よりさらに憐れむような顔で善逸くんを見るのだった。

 

 

 ○

 

 

 その後さらに泣き叫ぶ善逸を宥めた楓子と炭治郎はそのまま三人で歩いていた。

 

「というわけで、改めて私は階級『乙』の大好楓子。久しぶりだね、炭治郎くん、善逸くん」

 

「お久しぶりです、楓子さん」

 

「……お久しぶりです」

 

 楓子の言葉に炭治郎は笑顔で、善逸はまだ涙の浮かぶ瞳で少し元気のない様子で応える。

 

「どうしたんだい、善逸くん?さっきの子に殴られたところがまだ痛むの?」

 

「いえ、それもう大丈夫なんですけど、落ち着いてきたら腹減ってきて……」

 

「何か食べるもの持ってないのか?」

 

「無い……」

 

 炭治郎の言葉に答えた善逸に楓子は背負っていた大きなリュックをいったん置いて中に手を入れ

 

「じゃあこれを食べるといいよ」

 

 そっと竹の皮に包まれたおにぎりを差し出す。おにぎりは全部で四つ並んでいる。

 

「今朝泊まった宿屋で用意したものなんだけどね。よかったらどう?」

 

「い、いいんですか!?」

 

「いいよいいよ。多めに作っておいたから」

 

「じゃ、じゃあ……」

 

 言いながら善逸は楓子の差し出すおにぎりの一つに手を伸ばす。

 

「あむ……ッ!うまッ!!」

 

 かぶりついた善逸は目を見開く。

 

「何これうんまッ!?」

 

「気に入った?私秘伝の肉味噌を入れてみたんだけど」

 

「めちゃくちゃうまいっす!!」

 

 楓子の言葉に頷いた善逸はうまそうにおにぎりを食べる。

 

「いい食べっぷりだねぇ。もう一個いる?」

 

「ありがとうございまぁす!!」

 

「コラ善逸!それは楓子さんのなんだからそんなに食べたら楓子さんが食べる分が減っちゃうだろ!」

 

「あぁ、いいよいいよ。私非常用に携帯食料用意してるから。それより炭治郎くんも食べる?」

 

「い、いえ、俺は自分の分があるので」

 

 言いながら炭治郎も自分の懐から楓子と同じような竹の皮に包まれたおにぎりを取り出す。そこには楓子のものより一回り大きなおにぎりが一つ入っていた。

 

「育ち盛りの男の子がおにぎり一個じゃ力出ないでしょ。ほれほれ」

 

 言いながら楓子は自身のおにぎりを一つ炭治郎のおにぎりの横に並べるように乗せる。

 

「じゃ、じゃあ……」

 

 楓子の勧めに頷いた炭治郎は楓子のおにぎりを手に取り口に運ぶ。

 

「ん!美味い!」

 

 そしてすぐにその顔をほころばせる。

 

「美味しいですよ楓子さん!」

 

「それはよかった」

 

 炭治郎の言葉に嬉しそうに頷いた楓子は自身もおにぎりを頬張る。

 

「うん、我ながらいい出来だ」

 

 楓子自身もその味に満足げに頷く。

 そのまま三人は並んでおにぎりを頬張りながら歩く。

 そして、食べ終えたところで

 

「ところで、なんで大好さんは――」

 

「あ、楓子でいいよ。私入隊は先だけど歳は善逸くんとは同い年だし」

 

「えぇ!?タメだったのッ!?」

 

「そういえば真菰さんの一つ下って聞いてるからそうなるんだ……」

 

 楓子の言葉に善逸が驚愕する。炭治郎も納得した様子で頷いている。

 

「てっきり年上かと思ってた……めちゃくちゃ落ち着いてるし……」

 

「まあ二人よりも長く戦ってるからかねぇ。人生経験の差ってやつよ」

 

「なるほど……」

 

「で?何が訊きたいの?」

 

「あぁ……えっと、大よs――楓子さんはどうして俺たちと合流したんですか?」

 

「敬語じゃなくてもいいんだけどね」

 

「さ、流石に同い年でも先輩なんで……」

 

 楓子の言葉に善逸が苦笑いで言う。

 

「も、もしかしてこれから行く任務はそれだけ大変なんですか!?」

 

「あぁ、違う違う。任務の内容と関係なく合流することになってたんだよ」

 

「どういうことですか?」

 

 楓子の言葉に炭治郎も首を傾げて訊く。

 

「ん~…まあ隠す気なかったし初めから言うつもりだったんだけど」

 

 そう断りを入れて楓子は頷き

 

「私はね、炭治郎くん。君を調査するっていう鬼殺隊の最高責任者であるお館様から勅命を受けてここに来たんだよ」

 

「え……?」

 

「えぇぇぇぇッ!?」

 

 楓子の答えに炭治郎は茫然と呟き、善逸は驚愕で叫ぶ。

 

「ど、どういうことですか!?炭治郎の調査って、こいつ何かやらかしたんですか!?」

 

「ん~…やらかしたようなやらかしてないような……」

 

「な、なんですかそのあやふやな感じは……?」

 

「というか、善逸くんもなんとなく察してるんじゃないの?」

 

「ッ!」

 

「善逸……?」

 

 楓子の指摘に息を飲んだ善逸に炭治郎が目を見開く。

 

「…………」

 

 楓子の指摘に押し黙った善逸だったが、意を決したように顔を上げ

 

「そ、それは……炭治郎が背負ってる箱の中に、鬼が入ってることですよね?」

 

「ッ!」

 

 善逸の言葉に炭治郎は息を呑む。

 

「善逸……お前わかってて知らないふりしてくれてたのか……?」

 

「……鬼を連れているのはわかってた。鬼は人間とは全く違う音がするんだ。俺は耳がいいから分かるんだ」

 

 炭治郎の問いに善逸は呟くように答える。

 

「でも、炭治郎からは泣きたくなるような優しい音がする。今まで聞いたことが無いくらいに優しい音が」

 

「優しい音?」

 

 善逸の言葉に炭治郎は首を傾げる。

 

「人に限らず動物は全部、いろんな音を発してるんだ。呼吸音、心音、血の巡る音……それを注意深く聞くと相手が何を考えているか、なんとなくわかるんだ。でも俺は人によく騙された。自分が信じたいと思った人をいつも信じたんだ」

 

 炭治郎の問いに答えるように口を開く善逸。

 

「鬼殺隊なのに鬼を連れてる炭治郎。でも、そこには必ず事情があるはずだ。俺が納得できるだけの理由があるはずだって、俺は優しい音を発してる炭治郎を信じたいと思ったんだ」

 

「そっか……」

 

 善逸の言葉に炭治郎は呟き

 

「……二人の言う通りです」

 

 ゆっくりと頷いた炭治郎は二人を見る。

 

「この箱には、鬼が――俺の妹が入ってます」

 

「妹……!」

 

「…………」

 

 炭治郎の言葉に善逸は茫然と呟き、楓子は黙って聞いている。

 

「二年前、俺の家族は鬼に襲われました。俺はちょうど出かけていて、帰った時にはもう手遅れでした。唯一生き残ってた妹の禰豆子も、その傷口から鬼の血を受けたせいで鬼になってしまったんです」

 

「そんな……!」

 

 善逸は炭治郎の話に息を呑む。

 

「でも、禰豆子は鬼になってすぐも飢餓状態だったのにも関わらず、目の前に俺がいたのに精神力で鬼の衝動を抑え込んで俺を襲うことはなかったんです。それからこの二年間、禰豆子はたったの一度も人を襲ってないんです!」

 

 炭治郎はそこまで言ったところで真剣な眼差しで楓子を見る。

 

「お願いです!信じてください!俺はどうなっても構いません!どんな罰でもうけます!だから禰豆子は!禰豆子だけは助けてください!禰豆子は一度も人を襲ってない、俺と一緒に戦えるんです!」

 

「……悪いけど、そのお願いには応じかねるね」

 

「ッ!?」

 

「そんな……」

 

 懇願する炭治郎に楓子は首を振る。彼女の言葉に善逸は息を飲み、炭治郎は今にも泣きそうな様子で顔を顰める。

 

「だって、私は君と君の妹ちゃんの両方を助けるためにこうしてやって来たんだよ?片方だけしか救えないんじゃ私の目的は果たされない」

 

「え……?」

 

 楓子の言葉に炭治郎が茫然と呟く。

 

「信じて…くれるんですか……?」

 

「もちろん。だって君は冨岡様に救われ導かれ、鱗滝さんとまこちゃんに育てられたんでしょ?私が信頼する三人が信じたんだ。それだけで私には十分に信じるに値するよ」

 

「楓子さん……ありがとう…ございます……!」

 

 楓子の言葉に炭治郎は涙を浮かべる。そんな彼の頭をそっと撫でる楓子。

 

「うん、よく頑張ったね」

 

「いえ…禰豆子は俺の唯一残された家族だから……長男の俺が頑張らないと……」

 

「……そう」

 

 言いながら楓子は頷き

 

「その気持ちはえらいと思う。でもね、辛いときは辛いって、痛いときには痛いって言っていいんだよ。これは先輩としての助言でもあるけど、医学に携わる人間としての苦言でもあるんだよ」

 

「それどういう……」

 

「君、あばら折れてるでしょ?」

 

「ッ!?」

 

「そうなのか炭治郎!?」

 

 楓子の指摘に炭治郎が息を飲み、善逸は驚愕する。

 

「……はい」

 

「やっぱりね」

 

 炭治郎が頷いたのを見て楓子は大きく息をつく。

 

「診察するからちょっとそこに座って上脱いで」

 

「はい」

 

 楓子の言葉に素直に従った炭治郎は楓子の指差す道の端に腰かけ上着とシャツを脱ぐ。

 

「ふむ、一応は応急処置はされてるみたいね」

 

「は、はい。珠世さ――浅草で出会ったお医者さんが診てくれたんです」

 

「なるほど、その方はかなり腕がいいね。治療も適切で丁寧だわ」

 

 楓子は背負っていたリュックを降ろし炭治郎の身体を診察、状態を見た後にリュックから薬箱を取り出し、中から粉薬を一つ取り出す。

 

「とりあえずこれ飲んでおいて。痛み止めだよ」

 

「ありがとうございます」

 

「でも、これはあくまでも痛み止めだから。痛みを和らげることは出来ても根本の骨折が治るわけじゃないから何の解決にもなってない。この任務が終わったら療養しないと悪化するかもしれない」

 

 使い終わった医療具を片付けながら楓子が言う。

 

「わかった?痛いときは痛いって言えばいいの」

 

「で、でも、俺は長男だから我慢できます!次男だったら我慢できなかったけど!」

 

「………はぁぁッ!?」

 

 炭治郎の言葉に楓子が顔を顰める。

 

「何を馬鹿なこと言ってるんでしょうねこの子は?」

 

「ばッ!?」

 

 楓子が呆れたように肩をすくめる様子に炭治郎があんぐりと口を開ける。

 

「いい!?そもそも痛みを我慢しなくてもいいの!『痛み』って言うのは身体の信号なの!『痛み』があるってことは身体に異常があるってことなの!その信号を無視し続けたらあとあと手遅れになることだってあるの!そりゃぁ多少の痛みでピィピィ泣き言を言うよりは我慢する方がいいわよ!?でも君のそれは限度を超えてるわ!」

 

「で、でも……」

 

「長男だろうが次男だろうが、長女だろうが次女だろうが関係ない!痛みは我慢しなくていいの!痛いときにどこがどう痛いのか言ってくれないと医者はどうすることもできないの!症状を黙ってる患者なんて医者の敵だから!」

 

「うぅ……」

 

 楓子の言葉に炭治郎は反論できず押し黙る。

 

「まあでも、君の気概に免じて特別に痛みを感じなくする呼吸法を教えてあげよう」

 

「え…そんなのあるんですか?」

 

「あるよ」

 

 驚く善逸に楓子が頷く。

 

「いい?全集中の呼吸って言うのは万能ではないけれど、できることの幅は広いの。使いようによっては怪我を止血することもできるし毒の巡りを遅らせることもできる」

 

「し、知らなかった……」

 

 楓子の説明に善逸が呟き、炭治郎も驚いた表情で見ている。

 

「そんな呼吸法の中で、海外の格闘術『システマ』の呼吸法に〝どれだけ殴られたりしても痛みを感じない〟って言うものがあるんだよ。今日はそれを教えてあげよう」

 

「「ゴクリ……」」

 

 楓子の言葉に炭治郎と善逸が緊張に息を呑む。

 

「いいかい?システマの呼吸のやり方は、まず鼻から息を吸います」

 

「「は、はい」」

 

 言いながら楓子が鼻から大きく息を吸う。

 

「次に吸った息を口から吐きます」

 

「「はい」」

 

 今度は大きく口から息を吐く楓子。その様子を一つも聞き逃さないという様子で二人は見つめる。

 

「これを小刻みに素早く繰り返します」

 

「「はい」」

 

 スハスハスハと素早く何度も小刻みに鼻から吸って口から吐く呼吸を繰り返す楓子。続きを促すように二人が大きく頷き

 

「以上!」

 

「「はい……はいッ!?」」

 

 楓子の言葉に二人は驚きの声を上げる。

 

「……え?それだけですか?」

 

「うん。それだけ」

 

「「…………」」

 

 炭治郎の言葉に頷く楓子に二人が困惑したように顔を見合わせる。

 

「あ、その顔は信じてないなぁ!」

 

「い、いえ!そんなことはないですよ!?」

 

「よろしい、実践して見せよう」

 

 言いながら楓子はリュックに手を入れ短い竹刀のようなものを取り出す。

 

「善逸くん、これで今から私のお尻を叩いてごらん!」

 

「えぇッ!?俺ですか!?」

 

「そう!思いっきり来て!私はその痛みをさっきの呼吸で見事飛ばして見せよう!」

 

「い、いやでも……」

 

「大丈夫!『システマ』と私のことを信じなさい!」

 

 竹刀を受け取りながら困惑する善逸に楓子は自信満々に言う。

 

「そ、それじゃあ……」

 

「さあバッチ来いッ!ちゃんと思いっきり来てよッ!」

 

 楓子の自信満々な様子に竹刀を構える善逸。そんな彼に楓子が膝に手をついた状態でお尻を向ける。

 

「じゃ、じゃあ行きますよ!」

 

「来いッ!!」

 

 善逸の言葉に楓子が力強く応じる。

 

「フンッ!」

 

 そんな楓子のお尻へ善逸が竹刀を振るう。

 

 バシーンッ!!

 

「ひぐッ!――スハスハスハスハスハスハスハスハスハ!!」

 

 高い衝撃音と共に楓子がビクッと身体を震わせ背筋をピーンと伸ばして口から短い悲鳴を漏らす。しかし、すぐに小刻みに呼吸をし始める。

 

「スハスハスハスハスハスハスハスハスハ!!ス~…ハ~……」

 

 小刻みに呼吸を数度繰り返した後、最後に大きく鼻から吸って口から吐いた楓子は

 

「全然痛くないよ」

 

「「嘘だ!!」」

 

 平静の表情で言う楓子に二人は声を揃えて叫ぶ。

 

「嘘じゃないよ。ホントにちっとも痛くないから」

 

「絶対嘘ですよ!目が涙目ですよ!?」

 

「す、すみません!俺思ったよりいい勢いで叩いちゃって!!」

 

「全然平気。蚊が止まったかと思った」

 

「ならなんで泣いてるんですか!?」

 

「泣いてないし?泣いてないのになんで泣いてるとか言ってんの?ちょっと何言ってるかわからない。これあれだから、あくび出ただけだから。昨日ちょっと夜更かししちゃっただけだから。あぁ~眠てぇなぁ~!」

 

「「えぇ~……」」

 

 涙を拭いながら伸びをする楓子に二人が困惑した様子で口を茫然と開く。

 

「それはそうと、少し休憩しようか」

 

 言いながら楓子は道端に転がっていた大きな岩に腰掛け

 

「ハフ~……」

 

「あ、今お尻冷やしてますよね。痛いから岩の冷たさでごまかしてますよね!?」

 

「やっぱ痛かったんじゃないですか!」

 

「痛くないもん!この程度我慢できるもん!」

 

 二人の言葉に楓子は慌てて叫びながら立ち上がる。

 

「私長女だから耐えられるから!次女だったら耐えられなかったけど!」

 

「それさっき炭治郎が言ってたやつ!!」

 

「痛みに長男も次男も長女も次女もない、痛いのを我慢しなくてもいいって言ったのは楓子さんじゃないですか!?」

 

「うぅ……」

 

 二人の言葉に押し黙った楓子は

 

「………正直に言っていい?」

 

「はい」

 

「もちろんですよ」

 

 二人が頷いたのを確認し

 

「………めちゃくちゃ痛いよぉぉぉぉッ!!」

 

「「やっぱり……」」

 

 言いながら楓子は自身のお尻を抑えてへたり込む。そんな楓子の様子に二人は頷く。

 

「無理ぃぃぃッ!!めっちゃ痛いよぉぉぉッ!お尻が割れるぅぅぅッ!」

 

 叫びながら抑えた自身のお尻をペタペタと触り

 

「ハッ!?」

 

「ど、どうしたんですか?」

 

 突如その顔に驚愕の表情を浮かべる。その様子に炭治郎が心配した表情で訊く。と――

 

「私の…私のお尻が割れてる!真っ二つに!!」

 

「えぇッ!!?」

 

「いやいや二人とも落ち着いてください!お尻はもともと割れてるから!」

 

 楓子が恐怖に慄いて言う言葉に驚く善逸。そんな二人に炭治郎が冷静にツッコむ。

 

「うぅ~…痛いよぉ~……炭治郎くん、患部さすって~……」

 

「はい……ってできるわけないですよ!!患部ってお尻ですよねッ!?」

 

「えぇ~……」

 

 応じかけた炭治郎は慌てて首を振る。そんな炭治郎に楓子は不満げに口を尖らせ善逸の方を見る。

 

「仕方ない。じゃあ善逸くんに頼――」

 

「ッ!!?」

 

「――もうかと思ったけどやっぱヤダ」

 

「なんでッ!?」

 

 一瞬で否定された善逸がショックを受けた様子で叫ぶ。

 

「だって善逸くんの目つきと手つきがなんか卑猥だから」

 

「俺のどこが卑猥だって言うんですか!?」

 

「目が血走ってるし鼻息荒いし指がワキワキ動いて気持ち悪い」

 

「くそぅッ!!」

 

 楓子の言葉に善逸が悔しそうに膝を叩く。

 そんな光景を茫然と見ている炭治郎に楓子は

 

「と、このように痛みを我慢しているとこういう面倒なことになるので気を付けようね?」

 

 涙目になりながら痛みを堪えて笑みを浮かべ左手で自身のお尻をさすりながらそっと炭治郎の肩に右手をポンと乗せて言う。

 そんな彼女に

 

「そうですね……」

 

 炭治郎は苦笑いを浮かべて頷くのだった。

 




改めまして、このお話が年内最終の投稿となります。
思い返せば一話目を投稿してはや二か月。
この二か月の間にこんなにもたくさんの読者の皆さんに読んでいただき親しんでいただけたこと、非常にうれしく思います。
これからも皆さんが楽しんでいただけるように頑張りますので、来年もよろしくお願いします!
最後に一つアンケートのご協力をお願いします。
現在新年一発目のお話を番外編にするか、本編を進めるかで迷ています。
なので読んでいらっしゃる皆さんに選んでいただきたいと思います。
締め切りは1月2日まで。
そこまでの投票数で決めたいと思います。
ちなみに番外編の内容は楓子たちの新年会のお話にしようと思っています。
クリスマスのようにみんなで集まってワイワイパーティーをするという内容を予定しています。ただ、まだ他の本格的に楓子意外と絡んでいないかまぼこ隊たちは出ない予定です(;^ω^)
そんなわけでぜひアンケートにご協力お願いします。

今年一年ありがとうございました。
また来年もよろしくお願いします!



~大正コソコソ噂話~
楓子のリュックにはいろいろなものが入っています。治療用の薬や包帯などの医療器具。他にも干し肉や乾パンなどの非常食、戦闘用の閃光弾などの各種アイテムなどが入っています。
また、戦闘中にいちいち地面に置いて開けなくてもいいように側面にもチャックを取り付け中身を取り出せるようにしてあります。


新年一発目の最新話について

  • 番外編 恋柱の継子と新年会(仮題)
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