恋柱の継子、人の恋路に世話を焼く   作:大同爽

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連日投稿です。
前の話を読んでいないかも、という方はそちらからどうぞ!






恋22 恋柱の継子と秘する友情との別れ

「「できた……」」

 

 執筆を続けること約一時間が経過した。

 ほっと息をつく声に炭治郎が視線を向ければ、そこでは誇らしげに原稿用紙の束を掲げる響凱とそれを嬉しそうに頷きながら見ている楓子の姿があった。

 最初こそその状況の特異さに驚き困惑した炭治郎だったが、楓子の説明と「少しでいいから時間が欲しい」という願いからいつでも動けるように二人の近くで待機していた。

 炭治郎の心配をよそに特に何の問題も起こらず、二人は原稿の改定を終わらせた。

 

「大好氏!小生は!小生はやり遂げたぞ!」

 

「ああ、響凱氏!あなたは誇っていい!よくぞ私の鬼のようなダメ出しを耐え抜いた!」

 

「大好氏!!」

 

「響凱氏!!」

 

 感涙に咽び泣く響凱に楓子は嬉しそうにうんうんと目に涙を浮かべながら頷く。

 

「え~っと……終わったんですか?」

 

「ああ炭治郎くん、ごめんね。今完成したよ」

 

「そ、そうですか……」

 

 楓子の言葉に苦笑いを浮かべながら響凱に視線を向ける。

 響凱は恐ろしい強面を安心と慈愛、感涙に咽び泣きながらそっと自身の原稿用紙の束を胸に抱いていた。

 

「小生は…人間だった頃、好きで行っていた執筆業を、誰からも評価されることはなかった……趣味で行っていた鼓も、趣味の域を超えることはなく決して人に教えられるほどでもなかった……」

 

「響凱氏……」

 

 響凱の言葉に楓子がそっと名を呼ぶ。そんな楓子の声にフッと笑みを浮かべる響凱。

 

「それがどうだ、鬼になってなお捨てられなかった執着が、こうして今果たされた。小生の小説を面白いと、好きだと言ってくれ、あまつさえともに手直しをしてくれる者に巡り合えようとは……そして、こうして小生の小説は最大の出来へと昇華することができた……」

 

 言いながらフッと笑みを浮かべて響凱は楓子と炭治郎に視線を向ける。

 

「だから、小生はもう十分に満足した」

 

「響凱氏……!」

 

「それって……!」

 

「大好氏、そして小僧よ……小生の頸を斬れ」

 

「「ッ!!」」

 

 響凱の言葉に二人は息を呑む。

 

「響凱氏……いいの?」

 

「ああ」

 

 楓子の問いに響凱はしっかりと頷く。

 

「小生は鬼となり多くの人を殺めすぎた……こんな罪深い小生があまりにも満たされすぎた。これ以上を望むのはこれまで小生が殺め、傷付けてきた者たちに対してあまりに失礼だ。だから、小生はここまででいい」

 

「……そっか」

 

 響凱の言葉に頷いた楓子は炭治郎へ視線を向け

 

「炭治郎くん、頼みがあるんだ。君に、響凱氏の頸を落としてほしい」

 

「お、俺ですか!?」

 

「うん。君の使う水の呼吸、その一つである伍の型、『干天の慈雨』で、せめて痛みなく送ってあげてほしい」

 

「…………」

 

 楓子が言いながら頭を下げる。炭治郎はそんな楓子を数秒見つめ

 

「わかりました」

 

 しっかりと頷く。

 

「すまない、大好氏。こんな罪深き小生に慈悲を与えてくれて、心より感謝する」

 

「いいよ。私と響凱氏は鬼狩りと鬼の関係ではあったが…もしも人として会うことができたなら、きっといい友達になれたと思う――思っても、今は立場上『友』と呼べない……だから、これは私から贈れる最大限の友情と親愛の証だよ」

 

「大好氏……その言葉だけで小生は十分だ。ありがとう」

 

 そっと楓子の言葉に響凱は頭を下げる。

 

「大好氏……」

 

 顔を上げた響凱は楓子を見据えて口を開く。

 

「もし……もしも小生がまた再び人に生まれ変わり、また物書きとなって大好氏に巡り遭うことができたなら、またともに小説を書いてくれるか?」

 

「…………」

 

 響凱の問いに優しく微笑んだ楓子はゆっくりと頷き

 

「もちろん。その時はちゃんと友達になろう、響凱氏」

 

「……ありがとう、大好氏」

 

 楓子の言葉に目に涙を浮かべ深く頭を下げる響凱。そのままそっと目を閉じ

 

「小僧よ」

 

 顔を上げた響凱は炭治郎へ視線を向ける。

 

「すまぬ、手間をかける」

 

「いえ……」

 

 響凱の言葉に応じた炭治郎は響凱の隣にそっと立ち

 

「……あなたは先程、鼓は趣味の域を出なかったとおっしゃっていましたが」

 

「???」

 

 炭治郎の言葉に響凱が首を傾げる。そんな響凱へ真剣な表情で、しかし、優しく言う。

 

「あなたが人を殺したことは許せません。でも、あなたの鼓の血鬼術は、凄かったです」

 

「ッ!?」

 

 炭治郎の言葉に響凱は目を見開き、フッと表情を綻ばせ

 

「……そうか…小生の血鬼術は…凄かったか……そうか……」

 

 噛み締める様に呟く。

 

「小僧、名は?」

 

「……竈門炭治郎です」

 

「竈門炭治郎よ」

 

 頷いた響凱は炭治郎へ視線を向け

 

「感謝するぞ」

 

 そっと微笑んだ。

 響凱の言葉に炭治郎は複雑そうな顔で頷く。

 

「さあ、竈門炭治郎、頼む」

 

「……ああ」

 

 響凱の言葉に頷いた炭治郎は日輪刀を抜いて構える。

 

「さようなら、響凱氏」

 

「ありがとう、大好氏」

 

 楓子の別れに応えた響凱はそのまま目を閉じ頸を斬りやすいように俯く。

 そんな響凱へ日輪刀を向け大きく息を吸った炭治郎は

 

「水の呼吸、伍の型、『干天の慈雨』!」

 

 響凱の頸へ日輪刀を振り下ろした。

 

 

 ○

 

 

 

「…………」

 

 安らぎに満ちた顔で炭へと変わっていく響凱の頭へ両手を合わせ見送った楓子は

 

「……さぁ、行こうか炭治郎くん」

 

「……はい」

 

 優しく微笑んで言った楓子に炭治郎が頷き

 

「あ!ちょ、ちょっとだけいいですか!?」

 

「??? いいけど……」

 

 首を傾げる楓子にお礼を言いながら炭治郎は懐から小さなナイフを取り出し、まだ辛うじて残っている響凱の上半身に刺す。

 突き刺されたナイフの柄の部分に血が吸い上げられていく。

 

「何それ?」

 

「あぁ……えっと、話すと長くなるんですが、鬼の研究をしてるお医者さんがいまして、その人に頼まれたんです。できるだけ多くの鬼の血を集めてほしい、と」

 

「へぇ?鬼殺隊にいたかな、そんな人?私、医療部門に所属してるんだけど……」

 

「あ、いえ……鬼殺隊の人じゃなくて……外部の方なんですが……」

 

「外部?」

 

 首を傾げる楓子に少し逡巡した炭治郎は意を決した様子で口を開く。

 

「じ、実は…その方は鬼舞辻無惨に敵対する鬼の方なんです」

 

「ッ!」

 

 炭治郎の言葉に楓子は眼を見開き

 

「……その方は…信頼できるの?」

 

「はい!あの人は、珠世さんは鬼舞辻の呪縛から抜けることができた方です!禰豆子を、鬼を人間に戻すことができる薬を作ろうとしてくれているんです!」

 

「鬼舞辻の呪縛から抜けられたというのは信用できるの?罠の可能性は?」

 

「ありません!()()()()()()()()俺だけじゃなく珠世さん達にも追っ手を差し向けていました!何より珠世さんからは嘘をついている臭いは――」

 

「ちょちょちょ!ちょ~っと待って!今聞き捨てならない言葉が聞こえたんだけど!?」

 

「へ?」

 

 興奮した様子で叫ぶ楓子に炭治郎が首を傾げる。そんな炭治郎に楓子はズズイと顔を寄せガシッとその両肩を掴み

 

「今、()()()()()()()()()()って、言った?」

 

「え?ええ、言いましたけど……それが何か?」

 

「……どうやら君は自分がどれほど凄い状況に遭ったかわかってないようだね」

 

 困惑した様子の炭治郎に楓子がため息をつき

 

「いいかい?ここ数百年、鬼殺隊の隊士は鬼舞辻無惨と出会うことすら叶っていないんだよ」

 

「え……?」

 

「そうだな……私の知る限り記録として残っているのは約四百五十年前、現在の全集中の呼吸による戦闘方法が確立された頃が一番直近じゃないかな?」

 

「四百ッ!?」

 

 楓子の言葉に炭治郎が驚愕に口をあんぐりと開ける。

 

「とにかく!鬼舞辻無惨に遭遇して生存してるって言う事実は、それはもうとんでもない快挙で――」

 

 興奮した様子で言う楓子だったが、その言葉を

 

――ニャァァァン

 

「「ッ!?」」

 

 響いた猫の鳴き声に遮られる。二人はビクリと体を震わせながら鳴き声のした方に視線を向ける。

 そこには首にお札のようなものを貼り背中に革製のカバンを背負った三毛猫がいた。

 

「猫?なんだってここに?」

 

「あッ!君が珠世さんのところに届けてくれるんだな!」

 

 合点が言ったように手を叩いた炭治郎は肉体が消滅し畳に刺さったナイフを抜き取る。

 

「よしよし、ありがとう」

 

 微笑みながら猫の背負うカバンを開けて中にあった巾着にナイフを入れる。

 

「これでよし!じゃあ、気を付けて!」

 

 カバンのふたを閉めて炭治郎が言ったのを合図に屈んでいた猫は身を起こし歩き出し

 

「ちょぉ!待って!炭治郎くんの話が本当なら無惨に関する耳寄りな情報私持ってるから!ちょっと伝言を――」

 

 言いながら慌てて三毛猫に駆け寄る楓子だったが――

 

――ニャァァァン

 

 現れたとき同様の鳴き声を上げ、直後まるで煙のように掻き消える。

 

「ノォォォォォォォッ!!」

 

 あと一歩で掴める手前だった楓子は駆け寄った勢いのまま畳に顔面からスライディングする。

 

「だ、大丈夫ですか!?」

 

 慌てて駆け寄る炭治郎に楓子は顔を上げないまま訊く。

 

「ねぇ?現れた時も一瞬だったけど、なんで今の猫一瞬で消えたの?」

 

「あぁ…愈史郎さん――珠世さんの協力者の鬼がいて、その人の血鬼術だと思います……」

 

「……左様で」

 

 炭治郎の言葉にむくりと顔を上げた楓子はため息をついて身を起こす。

 

「しゃあない、またの機会に伝えてもらうとしよう」

 

「あの……信じてもらえるんですか、珠世さん達のこと?」

 

「おいおい、炭治郎くん、さっきまでの見てなかったのかい?」

 

 炭治郎の問いに楓子が肩をすくめながら振り返る。

 

「私はつい今しがたも鬼との友情を育もうとした女だぜ?何より君が信頼した相手なんだから、私も信じるさ」

 

「ッ!ありがとうございます!」

 

「まあ君の妹ちゃんの存在同様に鬼の協力者なんて鬼殺隊の隊士の中には受け入れがたい人も多いだろうから、あんまりおおっぴらには言わない方がいいよ」

 

「は、はい!気を付けます!」

 

「ん、わかってくれたなら、よし!今度こそ行こうか」

 

 大きく返事した炭治郎に頷き、楓子は身を翻す。

 

「正一くん達のお兄さんはもう見つけてあるんだよね?」

 

「はい!臭いも覚えてます!」

 

「よし、じゃあ案内よろしくね」

 

「はい、任せてください!」

 

 こうして楓子は炭治郎の案内で正一たちの兄――清と合流した。

 合流時に部屋を入れ替える鼓が消えたことで混乱した清が部屋に入ってきた二人によく確認せずに手当たり次第に部屋にあったものを投げつけるという出来事はあったものの、自分たちに向かってくるあらゆるものを炭治郎に向けたものも含めてすべて楓子が叩き落としたので特に怪我はなく済んだ。

 そのまま足に怪我を負っている清を楓子が背負い炭治郎と並んで屋敷を出るべく歩く。

 臭いを元に屋敷を意気揚々と出た楓子達だったが、そこでは思わぬ様子が広がっていた。

 

「オラァッ!ケッ!オラァッ!刀を抜いて戦え!この弱味噌がァッ!!」

 

 そこでは筋肉質な上半身を晒した両手に刃毀れでガタガタになった刀を二本握った猪頭の人物が炭治郎の背負っていた箱をその身を覆いかぶせて守る善逸を蹴りつけていた。よく見ればその猪頭の人物は鬼殺隊の隊士の制服のズボンを履いていた。

 

「「ッ!!」」

 

 驚愕に息を呑む二人の前で猪頭に蹴倒された善逸が箱を抱えたまま地面を転がる。

 

「もういい!お前ごと箱を串刺しにしてやるゥッ!!」

 

 言いながら猪頭は右手の刀を逆手に持ち振りかぶり――

 

「やめろぉぉぉぉぉッ!!」

 

 その瞬間、楓子の隣にいた炭治郎が叫びながら駆ける。

 清を背負っていたために楓子は反応が一歩遅れた。

 楓子が止めに入る前に猪頭の人物に肉薄した炭治郎は拳を振り被り、猪頭が動くよりも先にそのお腹に拳を叩きこむ。

 

「ガハッ!!?」

 

 ボキボキッという音と共に炭治郎に殴られた猪頭が吹き飛ばされる。

 

「骨折ったぁぁぁぁぁッ!?」

 

 その光景に先程までボコボコにされていた善逸が驚きの声を上げる。しかし、そんな善逸の声も届いていないらしい炭治郎は怒りに満ちた表情で大の字で倒れ伏す猪頭を睨みつける。

 

「お前は鬼殺隊員じゃないのか!?何故善逸が刀を抜かないかわからないのか!?隊員同士で悪戯に刀を抜くことはご法度だからだ!!それをお前は一方的に痛めつけて、楽しいのか!?卑劣、極まりない!!」

 

 拳を握り叫ぶ炭治郎。

 彼の視線の先で倒れたままだった猪頭は

 

「ガフッ!ゴホッ!ゴホッ!グハッハハハハハハハハハハハハハッ!!」

 

 咳き込みながら笑い声をあげ始める。

 

「はぁ…はぁ…はぁ…ハハハッ!そう言うことかい!悪かったなぁ!じゃあ、素手でやり合おう!!」

 

 言いながら猪頭はムクリ頭を上げる。

 

「いや!まったくわかってない気がする!!まず――」

 

 その猪頭の言葉にツッコみながら言いかけた炭治郎だったが、それを聞かずに猪頭はバッと身を翻して立ち上がり、そのまま地面に転がる刀には目もくれず素手で炭治郎へと駆ける。

 

「隊員同士でやり合うのが駄目なんだ!素手だからいいとかじゃない!」

 

 叫ぶ炭治郎だが、なおも猪頭は訊く耳を持たず攻撃を仕掛ける。炭治郎は回避に専念し攻撃を躱し続ける。

 そんな二人を尻目に楓子は清を背負ったまま善逸に歩み寄り

 

「善逸くん大丈夫?あぁあぁ~、酷い顔。青タンに鼻血まで。これは手痛くやられたねぇ~」

 

「え!?あ、いや!いいんですかあれ放っておいて!?」

 

「まあそうなんだけど……個人的にはああやってぶつかり合って得る友情もあるかなぁって……」

 

「い、いやそんなこと言ってる場合ですか!?ほらぁ!炭治郎も応戦しだしましたよ!?」

 

「………はぁ、しゃあない。止めるかぁ」

 

 善逸の叫びに改めて二人の様子を見た楓子は大きくため息をつきスタスタと二人に歩み寄っていく。

 二人は戦いに夢中で気付かない。そのまま互いに拳を握り互いに向けて繰り出し――

 

「やめんかぁ!!」

 

「「ガハッ!?」」

 

 二人の拳が互いに接触する寸前、二人のそばに立った楓子はそのまま二人の頭を殴りつける。

 苦悶の声を漏らして二人とも倒れ伏す。

 

「拳で語り合うのもいいけどある程度でやめないと終わらなくなるからこれでおしまい!まだやることあるんだからこれ以上じゃれ合ってる暇ないの!」

 

「楓子さん的にはあれはじゃれてる範疇なんだ……」

 

 楓子の言葉に善逸があんぐりと口を開ける。

 

「いつつ……す、すみません。つい頭に血が上って……」

 

 殴られた頭を押さえて炭治郎が申し訳なさそうに言う。

 が、猪頭は――

 

「てめぇ邪魔すんじゃねぇぞ!」

 

 怒声を上げながら立ち上がる。

 

「これ以上やるとじゃれ合いじゃすまなくなるでしょ!君も骨折ってるんだからここいらで手打ち!」

 

「知るかぁ!!関係ねぇ奴が口挟むんじゃねぇよ!乳もぎ取んぞゴラァァッ!!」

 

「はんッ!やれるもんならやってみなよ!最初に言っておくけど私か~な~り、強いから!!」

 

「面白れぇじゃねぇか!どんだけ強いか見せてみろやぁぁぁッ!!」

 

 叫びながら猪頭は楓子に向けて拳を放つ。が、楓子はその拳を難なく受け流し

 

「フンッ!」

 

 そのままその右腕を捻るようにねじり上げ相手の腕をとるような変型コブラツイストのような体勢に持ち込む。

 

「行きマ~ス♪」

 

 そのまま楓子はにこやかに天を高らかに指さし、変型コブラツイストに捕らえた状態から勢いよく相手ごと前方宙返りをして後頭部から地面に叩きつけた。

 

「ガハッ!?」

 

 地面に叩きつけられた猪頭は苦悶の声を漏らしてぐったりと地面に倒れ伏す。

 

「す、すげぇ~……」

 

「あんな動き、初めて見た……」

 

 その光景に感嘆の声を漏らす善逸と炭治郎。

 三人の兄妹たちも楓子の放った技に唖然としている

 

「ウィ~!!!」

 

 そんな面々の前で猪頭のそばに立ち上がった楓子は高らかに右腕を突き上げる。

 

「て、てめぇ……!」

 

 楓子の足元から苦悶の声を漏らしながら猪頭がゆっくりと立ち上がる。

 が、そんな彼の頭から被っていた猪の被り物がズルリと落ちる。

 顔を晒した猪頭にその予想外の素顔に楓子を除く全員が少なからず驚きの表情を浮かべ

 

「えぇぇぇッ!?女ぁぁぁぁッ!?えぇぇッ顔ぉぉぉぉッ!?」

 

 中でもひときわ驚いた善逸が叫ぶ。

 そんな善逸の声に顔を抑えた猪頭だった少年は頭を振って

 

「あぁん?なんだコラァ、俺の顔になんか文句でもあんのかッ!?」

 

 少女と見まがうほどの整った顔に薄ら笑いを浮かべたまま少年が問う。

 

「気持ち悪い奴だな……ムキムキした身体に女の子みたいな顔がのっかってる……」

 

「何俺の顔ジロジロと見てやがる!?」

 

「べ、別に!?見てないよ!」

 

 少年に睨まれた善逸はそそくさと三人の兄妹たちの後ろに逃げる。

 

「君の顔に文句はない!」

 

 と、炭治郎が口を開く。

 

「そうだねぇ、こじんまりしてて色白だし、なかなか美形でいいと思うよ」

 

「殺すぞテメェら!!」

 

 炭治郎の言葉に頷きながら言った楓子。そんな二人に少年が怒声を上げる。

 

「テメェ、このアマァ!もう一度俺と勝負しやがれ!!」

 

「さっきので力の差分かったでしょう。そんな事やってる暇ないの。君も手伝ってほしいくらいなんだから」

 

 指さしながら言う少年に楓子はため息をつく。

 

「え~っと…君名前は?」

 

「あぁん!俺の名前は嘴平伊之助だァ!よぉく覚えておきやがれ!!」

 

「よしよし、伊之助くん。じゃあ君にも仕事を頼もう」

 

「はぁッ!?仕事だァ!?」

 

 楓子の言葉に眉を顰める伊之助。

 

「そう。この屋敷の中には亡くなった人の遺体がたくさんある。それを全部埋葬するんだよ」

 

「知るかぁ!なんでそんなこと俺がしなきゃいけねぇんだ!?だいたい生き物の死骸なんて埋めて何の意味があんだよ!?やらねぇぜ俺は!!」

 

「……ふ~ん、そっか」

 

 伊之助の答えに楓子はフッと意地悪い笑みを浮かべ

 

「なるほど、私に受けた攻撃の痛みでできないんだぁ~」

 

「……はぁぁんッ!!?」

 

 楓子の言葉に伊之助が怒り心頭の様子で顔を顰める。

 

「ごめんねぇ~、結構思いっきり技きめちゃったからねぇ~。しょうがないしょうがない」

 

 言いながら楓子はポンポンと伊之助の肩を叩き

 

「伊之助くん、君はそこで休んでいるといいよ。私たちでやっちゃうからねぇ~。しかしまぁ、あの程度で働けなくなるくらい痛かったなんて…フフ、伊之助くん、お可愛いこと」

 

「はぁぁぁぁぁんッ!!!?」

 

 楓子の煽るような言葉に怒り心頭、最後の憐れむような言葉にぶちぎれた伊之助が叫ぶ。

 

「できるわぁぁぁぁッ!百人でも二百人でも埋めてやらぁぁぁぁッ!!」

 

「そうかそうかぁ~。じゃあ穴掘りよろしくねぇ~。私たちで屋敷の中の遺体を運び出すからねぇ~」

 

「上等だぁッ!!いくらでも穴掘ってやらぁぁぁぁぁッ!!」

 

「うんうん。元気がいいねぇ、道具はこの屋敷の玄関のところにあったからそれ使ってねぇ~」

 

 楓子の言葉に叫んだ伊之助はさっそく駆け出して行った。

 それを見送りながら楓子は

 

「フフ…なんたらとハサミは使いようってね…フッフッフッフ~」

 

「うわぁ…悪い顔してるぅ……」

 

 ほくそ笑む楓子に善逸が引いた顔で見ている。そんな視線を楓子は気にせず振り返り

 

「さ!私たちもご遺体運んじゃおぉ!」

 

「はい!」

 

「は、はい……」

 

 楓子の言葉に力強く頷く炭治郎と善逸も頷き

 

「あ、あの僕たちも手伝います」

 

 と、三人の前に兄妹たちがやって来て言う。

 

「あら、そう?じゃあ悪いけど埋葬に使うから石を集めて来てくれる?」

 

「石?」

 

 楓子の言葉に兄妹たちは首を傾げる。

 

「うん。墓石代わりにするから大き目のやつとかあとお墓の周りを囲うから拳大くらいのも、いろんな大きさの見繕ってきてくれる?出来るだけたくさんお願い」

 

「なるほど!」

 

「わかりました!」

 

「私も頑張って見つけてくるね!」

 

「うん、よろしくね~」

 

 頷いた三人を見送り

 

「じゃ、私たちもご遺体運び頑張りましょうか!」

 

「はい!」

 

「は、はい!」

 

 楓子の言葉に頷いた炭治郎と善逸と共に再び屋敷へと入って行くのだった。

 




楓子ちゃんと響凱の許されざる友情でした。
きっといつか楓子ちゃんは再び彼と巡り合えることでしょう。
その時はきっと、良き友人になれることでしょう。



~大正コソコソ噂話~
楓子ちゃんは響凱が書き直した小説を屋敷から持ち出しています。いつか響凱の名義で出版社に口利きをして出版してもらおうと考えています。
それはそう遠くない未来、数年後には伝奇小説マニアの中で有名な名作となるのですが……それはまた別の機会に。


~大正コソコソ噂話②~
楓子ちゃんが伊之助に放った技は実在するプロレス技「ケツァル・コアトル」と言うものです。
前世で楓子ちゃんが好きだったスマホアプリゲームの2.5次元舞台で、女子プロレスラーが自身が演じたキャラクターをイメージしその名前をとって作った技です。


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