恋柱の継子、人の恋路に世話を焼く   作:大同爽

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連日投稿です。
二話目である今回は楓子ちゃんについてと、彼女が鬼殺隊に入った経緯についてのお話です。





恋2 こうして少女は推しと出会った

 私が継子である彼女に出会ったのはまだ私が柱になる前の事だ。

 

 

 

 鎹鴉の伝令に急ぎ向かった先、とある屋敷の居間で血濡れで倒れ伏す夫妻の姿と、今まさに鬼に壁際まで追い詰められた少女の姿があった。

 私は一息に飛び込み

 

「恋の呼吸・弐ノ型 懊悩巡る恋!!」

 

 今にもその鋭い爪を少女へと振り下ろさんとする鬼の首を私は斬り落とした。

 

「大丈夫!?どこも怪我してない!?」

 

 ゴトリと落ちた首とともに塵と消えていく鬼を見ながら鞘に日輪刀を納めた私は慌てて膝をついて少女の身体に視線を巡らせる。

 10歳ほどの少女の身体には小さな傷が見られ、逃げようと抵抗したときに折られたのか右足が骨折していたが、大量の出血も致命傷となりそうな大怪我も見られなかった。

 

「よかった…右足以外は平気そう……」

 

 ホッと一息ついた私は、しかし、その少女の様子に息を呑む。

 

「あ……あぁ……」

 

 少女は目を見開き私の顔を見つめたまま呆然と口を開いて過呼吸気味に荒い息をする。

 その表情や瞳には生き残ったことへの安堵、しかしそれ以上のありとあらゆる感情が見られる気がする。

 そこでハタと気付く。恐らくこの少女は後ろで絶命している夫婦の娘なのだろう。今彼女は生き残ったことへの安堵と同時に両親を失った悲しみに押し潰されようとしている。

 

「ッ!」

 

 震える少女を思わず私は抱きしめた。

 

「ごめんね……私があともう少し早く来てたら、あなたのお父さんもお母さんも死んでいなかったかもしれない…本当にごめんね……」

 

「あぁ……」

 

 優しくあやす様に抱きしめながら少女の背中を優しく撫でると、

 

「うぅ…うぅ……!」

 

 少女は嗚咽を漏らし始め

 

「あぁ…!うわぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

 ボロボロと涙をこぼし泣き始めた。感情のダムが決壊したように彼女は声が枯れるほど泣き叫んだ。

 

 

 

 その後、蝶屋敷に運ばれ骨折している右足の治療を受けた少女――大好楓子ちゃんの下に私は暇を見つけてお見舞いに足を運んだ。

 日増しに回復していく彼女の様子に安堵していた私はある日見舞いに訪ねた時、楓子ちゃんから思わぬ申し出を受けた。

 

「蜜璃さん、お願いします!私に鬼を倒す術を教えてください!私をあなたと一緒に戦わせてください!」

 

「楓子ちゃん!?」

 

 訪ねた病室のベッドの上で折り目正しく土下座する彼女の言葉に私は慌てて駆け寄る。

 

「あ、頭を上げて!急にどうしたの!?」

 

「私、蜜璃さんみたいに強くなりたいです!鬼を倒せるように!蜜璃さんに助けられたこの命で蜜璃さんの助けになりたいんです!」

 

「楓子ちゃん……」

 

 顔を上げた楓子ちゃんの瞳に宿る強い感情に私は息を呑む。

 楓子ちゃんは恐らくご両親を殺した鬼たちへの強い感情を滾らせている。多くの鬼殺隊士たちのように。

 

「教えて楓子ちゃん、あなたは鬼殺隊に入ってどうしたいの?」

 

「……私は、私が鬼と戦うことで誰かが救われるなら、誰かの幸せを救えるのなら、蜜璃さんに助けてもらった命をそれを救うために使いたいんです!」

 

 楓子ちゃんは私の問いに力強く答える。

 鬼殺隊に所属している隊士たちの中には家族や大切な人を鬼に殺された人が数多くいる。彼ら彼女らは自身の受けた悲しみや恐怖を他の誰かに味わわせないために戦うことを志している。彼女もまたその志を原動力に立ち上がろうとしているのだろう。だからこそ私は――

 

「わかったわ、楓子ちゃん!」

 

 彼女の申し出に頷いた。

 

「あなたの気持ち、受け取ったわ。あなたが戦えるように私が全力で手助けするわ!」

 

「ありがとうございます!」

 

 こうして私は彼女に鬼殺隊入隊の為の手助けを始めた。

 手始めに彼女に鬼と戦うために必要不可欠な『呼吸』の習得。これは私の師でもある炎柱・煉獄杏寿郎さんにお願いした。

 事情を説明すると煉獄さんは快く引き受けてくれた。楓子ちゃん自身炎の呼吸に適性があったようでめきめきと力を付けた。そして、一年間の修行の後、受けた最終選抜で彼女は見事七日間生き延び、晴れて鬼殺隊の一員となった。同時に私も御館様から正式に恋柱の地位を拝命、楓子ちゃんを継子として弟子に取ったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 私、大好楓子は所謂転生者と言うやつだ。

 この大好楓子と言うのも今の名前で、前世での私は令和の時代を生きるうら若き女子大生だった。好きなモノは漫画などのサブカルチャーで、一番好きだったのは『鬼滅の刃』という作品だった。漫画原作でアニメ化もし、そのアニメも当初深夜放送だったのにも関わらず老若男女問わず爆発的な人気を博し、テレビアニメの続編のエピソードを劇場放映した折には記録的大ヒット。日本の興行収入の記録を短期間で塗り替えるほどだった。

 原作の単行本最終巻を読んだ時には感涙の涙で咽び泣いたものだ。

 そして、その数日後、私はトラックに轢かれて死んだ――と思ったら、気付いたら赤ん坊になっていた。

 

 一瞬何が起きたのかわからなかった。一瞬24年分の人生を追体験するのかと思った私だったが、それはすぐに違うと確信した。

 私を「楓子」と呼び、微笑む一組の夫婦、そして周辺環境が明らかに私の知っている文明レベルとは幾分劣る様子に私は自身が前世の記憶を保持したまま転生したことを悟った。こういう時数多くのサブカルチャーに触れていたおかげですぐさま自分の置かれている状況を理解できた。

 

 周囲が日本語を話していることから日本だということはわかっていた私は両親が購読している新聞で今が明治時代だと知った。なるほど、日本と文化形態が似ている異世界に来たという可能性も考えていたが、それは否定された。

 なんで令和から明治に転生した?などいくつかの疑問はあったもののとりあえずは私はこの第二の人生を謳歌することにした。どう足掻いたところで現代の私に戻れるわけがない。と言うか戻れたところで私事故で死んでるはずだし。

 そんなわけで私は大好楓子として生きることにした。幸い医者として働く父のお陰でそれなりに裕福な暮らしはできたので特に不満はない。私も前世では大学まで進学していたので、多少現代と明治では教育内容に差はあるものの初等教育なんてなんのその、現代知識のお陰でなんなら神童とまで呼ばれるレベルで学校でも好成績を発揮していた。

 しかし、そんな二度目の人生が10年にいたった頃、私の幸せな第二の人生は転機を迎えた。

 近所の学友の家に遊びに行った帰り道、友人宅で夕飯までいただいてしまった私は月の輝く夜の道を歩いて帰った。玄関をくぐった私は両親がいるであろう居間に向かった。

 

「ただいま~」

 

 ドアを開けて入った居間で最初に感じたのは咽返るような鉄臭さ次いで視界を埋め尽くすような赤。そして、居間の中心で両親に喰らいつく人物の存在。

 

「あぁん?」

 

 クチャクチャと咀嚼音を漏らしながらその人物は私に視線を向けた。

 口元を私の両親の血で真っ赤に染め、禍々しい顔で私を睨むその存在を私は知っていた。それを理解すると同時に

 

(ここ『鬼滅の刃』の世界じゃねぇかぁぁぁぁぁ!!!)

 

 心の中で絶叫していた。

 道理で令和の時代から明治時代に転移してるワケダよ!!

 

「ッ!」

 

 とりあえず逃げようと踵を返した私だったが。

 

「逃げられる訳ねぇだろうがッ!!」

 

「ガハッ!?」

 

 逃げようと一歩踏み出したところで鬼に腕を掴まれ引っ張られ、部屋の壁に叩きつけられる。

 

「キヒヒヒヒッ!子どもかぁ。子どもの肉は柔らかくてうめぇんだよなぁ~!」

 

「ヒッ!?」

 

 私を見ながら涎を垂らす鬼の姿に私は恐怖を感じどうにか逃げようと脚に力を込め――

 

「おっと!」

 

 バギッという鈍い音ともに右足があり得ない方向に曲がった。

 

「あぁぁぁぁぁぁッ!!!?」

 

 痛みに震え絶叫を上げる。

 

「キヒヒヒヒッ!いいなぁ、いい悲鳴だなぁ~。たまんねぇよ」

 

 鬼は下品な笑みを浮かべながら口元の涎を拭い

 

「さぁ、そろそろここいらで、いただくとしようかねぇ~」

 

「い、いや……あ、あぁぁ……」

 

 痛みと恐怖でボロボロと涙を流しながら私は首を必死に振って抵抗するが、それすらも鬼にとってはスパイスだと言わんばかりにニヤリと笑い

 

「んじゃま、いただきま~すッ!」

 

 笑みを浮かべたまま鬼は鋭い爪の生えた手を振りかぶる。

 その瞬間私は悟った。

 

――あ、死んだ。これ死にましたね。

 

 死の間際、スローモーションに見えるというのは本当のようだ。鬼によってゆっくりと私に迫る鋭い爪の輝きが見える。あぁ、もう駄目だ。一度死んだ経験がある分死ぬことへの覚悟が決まるのがはやい。

 そんな私の視界の端に美しい桃色が見えた。なんだろう?と思った瞬間、私の視線の先で鬼の首がポーンと飛んだ。そんな状況ではないとは思いつつも、その光景は黒髭危機一髪を彷彿とさせた。

 首が飛んでチリとなっていく鬼の背後から

 

「大丈夫!?怪我はない!?」

 

 胸元の大きく開いた黒い服に白い羽織を着た桃色の髪の女性が必死な顔で跪いた。

 私はこの人を知っている。

 

(か、甘露寺蜜璃ちゃんだぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!!!?)

 

 そう甘露寺蜜璃ちゃんだった。私の前世での最推しの甘露寺蜜璃ちゃんが目の前にいた。

 え、やばッ。可愛い!めっちゃ可愛い!顔ちっさ!!おっぱいおっきぃ!!腰ほっそ!!桜餅カラーの髪めっちゃ可愛い!!

 

「よかった……右足以外は平気そう……」

 

 蜜璃ちゃんは呟きながら安心したように息をつく。

 こ”え”か”い”い”!!

 何このエンジェルボイス!!声だけで美少女じゃん!!可愛いの暴力だよこれ!!

 え、ていうか待って!!私今推しと同じ空気吸ってる!!?推しが今私と同じ次元に存在している!!?ナニコレ!!?私死ぬのか!!?あ、一瞬前まで殺されかけてたんだった!!と言うことはもしかしてコレは死の間際の私が見ている夢なのでは!!?

 あぁ、推しの夢を見ながら死ねる。なんて最高な走馬灯でしょうか……。

 と、一瞬で思考が廻ったとき、私は蜜璃ちゃんに抱きしめられていた。

 柔らけぇぇぇぇぇぇぇぇぇッ!!?めっちゃいい匂いするぅぅぅぅぅぅッ!!?息をすれば蜜璃ちゃんの匂いで鼻腔が幸せ!!!肺が蜜璃ちゃんの香りで満たされる!!!

 

「ごめんね……私があともう少し早く来てたら、あなたのお父さんもお母さんも死んでいなかったかもしれない…本当にごめんね……」

 

「あぁ……」

 

 めっちゃいい娘!!!私今推しに心配されてる!!!ヤバイ!!!推せる!!!一生推す!!!

 そこまで考えたところで私の両親を喰われた怒りや恐怖、鬼滅の世界にいるという驚愕、前世での推しに会えた興奮など、感情の許容量を超えた。結果私は――

 

「ゔぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

 汚い声で号泣していた。

 無理、推しが可愛すぎる。いい娘過ぎる。ファンサが供給過多すぎる。ダメ、無理、死ぬ。吐く、ぎぼぢわるい。尊過ぎて死ねる。

 

「ゔぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

 そのまま私は推しの胸で鼻水と涎を垂れ流して号泣した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 推しの胸で汚い声を上げて鼻水と涎を垂れ流して号泣した精神年齢34歳がいた。と言うか私です。

 蜜璃さんに救出された私はそのまま蝶屋敷に運ばれて治療を受けた。

 折られた右足以外はほとんど軽症だったので骨がくっつくまで安静にするということで私は蝶屋敷にお世話になることになった。

 蜜璃さんは少なくとも時間を見つけて度々見舞いに来てくれた。その時にはおまんじゅうなど甘味を手土産に来て一緒に食べながらのんびりと過ごした。ちなみにそのお土産の甘味はあり得ないほどの量を毎回持って来るがその大半が蜜璃ちゃんの胃袋に消えていった。そう言うよく食べるところもいい。いっぱい食べる推しが好き♪

 最初は助けてもらった恩義も込みで「甘露寺様」と呼んだらめっちゃ謙遜して少しの問答の末「蜜璃さん」で落ち着いた。そう言う謙虚なところも推せる。

 

 

 

 そう言えば蜜璃さん以外にも胡蝶姉妹にも出会った。優しい菩薩のような姉のカナエさん、活発なしのぶさんの姉妹。原作でも蜜璃さんに次いで好きなキャラたちだ。二人とも優しい人たちで何かと気遣ってくれる。

 それだけにこの二人に数年後に待ち受けている運命を思うと、なんとも物悲しい気持ちになる。

 そこまで考えたところで、私はハタと思い出した。原作での蜜璃さんの迎える末路を。

 原作を読んでいるときにはその末路に涙したものだ。しかし、漫画で読んでいるときにはあれはあれで感動的だったし良い最期だったように思っていた。まあ納得はしきれないところはあったが……。

 しかし、こうして目の前に彼女がいて、言葉を交わし関わった今、私にはあの結末を受け入れることは出来なくなった。

 どうにかして彼女を救わなくてはいけない。その為に私にできることはないかと考え続けた結果、一つの結論に至った。

 〝私が彼女のそばで共に闘い、運命を覆す〟のだと。

 そう思い至った翌日、私を訪ねて来た蜜璃さんに土下座して鬼殺隊に入隊したいことを伝えた。

 最初は困惑していた蜜璃さんは私に問いかける。

 

「教えて楓子ちゃん、あなたは鬼殺隊に入ってどうしたいの?」

 

 その問いに私は蜜璃さんを見据えて答える。

 

「……私は、私が鬼と戦うことで誰かが救われるなら、誰かの幸せを救えるのなら、蜜璃さんに助けてもらった命をそれを救うために使いたいんです!」

 

 そうだ。私は私が戦うことで少しでも原作の流れを改変できないかと思っている。私と言う異物が介入することで死の運命にある人達の運命をいい方向に上書きできないか、そのために私は戦う術を学びたい。

私の覚悟を汲んでくれたようで、蜜璃さんは最後には応じてくれた。

 こうして、私は蜜璃さんの紹介で炎柱・煉獄杏寿郎さんに師事し、炎の呼吸を修得、最終戦別に参加し見事鬼殺隊になった。その際、思わぬ出会いと、今後の私の目標への重要な出来事があったのだが、それはまた別の機会に語るとしよう。

 とにかく、私が鬼殺隊として入隊した頃、時を同じくして蜜璃さんも正式に恋柱の地位を拝命。私は恋柱の継子として蜜璃さんに師事するようになるのであった。

 




この物語の楓子ちゃんの前世は若干今の時間とはずれがあります。
彼女は12月に発売の鬼滅の刃の最終巻までを読破したうえで死んでいるので結末までの知識がすべてある状態になっています。
ご了承ください。
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