恋柱の継子、人の恋路に世話を焼く   作:大同爽

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恋23 恋柱の継子と藤の花の家紋の家

 鼓屋敷の遺体をすべて外に出し、伊之助が掘りまくった穴へと埋葬を済ませた頃、炭治郎の鎹烏が下山するように告げるので日が傾き始めた頃に下山する一行。

 楓子や炭治郎に食ってかかる伊之助を半ば引きずりながら下山する中、山道の途中で家路につくために別の道を行くことになった清たち三兄妹。稀血である清には楓子の持ち物の一つである藤の花の匂い袋を渡すことで、今後は鬼に狙われることもないだろう。

 お礼を言いながら頭を下げ続ける三人に手振りながら楓子たちは山道を行く。

 

「あの…今はどこに向かってるんでしょうか?」

 

 鎹烏の案内する先にアタリを着けている様子の楓子に炭治郎が訊く。

 

「三人とも怪我してるし、疲労も溜まってるからねぇ~。たぶん藤の花の家紋の家に向かってるんじゃないかな」

 

「藤の花の家紋の家?」

 

 聞き覚えのない単語に善逸がオウム返ししながら首を傾げ、炭治郎も同じく首を傾げる。

 

「藤の花の家紋の家って言うのは鬼殺隊に協力してくれる人たちのことだよ。昔鬼殺隊の隊士に助けられた一族で、そのことを恩に思って今も私たちの活動に支援してくれたり、無償で尽くしてくれる。今みたいに休息や治療の場を提供してくれたりするんだ」

 

「「へぇ~」」

 

 楓子の言葉に炭治郎と善逸が感心した様子で頷く。

 と、ここまで黙っていた伊之助が鼻息荒く胸を逸らせる。

 

「はんッ!俺は全然疲れてもいねぇし怪我もしてねぇ!」

 

「嘘つけぇぇぇッ!炭治郎に殴られた時アバラ折られてたんだろ!?」

 

「そんなもん痛くも痒くねぇぜッ!」

 

 善逸のツッコミに叫んだ伊之助は楓子を指さし

 

「てめぇ!さっきは油断してわけわかんねぇ投げ技喰らったが今度はそうはいかねぇ!勝負だ!俺は必ず隙を見てお前に勝つぞ!」

 

 ビシッと指さしながら楓子に宣言する伊之助。そんな伊之助を数秒見つめた楓子は

 

「ト~モ~ダ~チ~♪」

 

 裏声のカタコトで言いながらニコニコと微笑んで指さす伊之助の人差し指に自身の人差し指を伸ばしてくっつける。

 

「お前何してやがんだッ!?」

 

 そんな楓子へ怒声を上げながら伊之助がバッと手を離す。

 

「いや、私君と戦うつもりないから仲良くなろうと思って」

 

「ふざけんなッ!俺はお前と仲良くする気はねぇッ!」

 

「うんうん。お前じゃなくて私は大好楓子って言うんだよ」

 

「おみくじプー子!俺はお前に勝つ!!」

 

「誰なんだそれは!?大好楓子さんだ!!」

 

 伊之助の間違いに炭治郎が怒る。が、それを楓子がニコニコと笑いながら首を振り

 

「いいよいいよ。間違うこともあるって。それにちゃんと敬意を払っていれば名前なんて何でもいい、ウンコでもいいわ……ウンコはイヤ!!」

 

「ならなんで言ったんですか!?」

 

 自分で言って自分で叫ぶ楓子に炭治郎がツッコむ。

 

「まあ何て呼ばれてもいいし、挑んでくるなら好きにすればいいけど……度が過ぎたり無関係な人に失礼なことしたら、容赦しないから、ね?」

 

 そう言ってニッコリと笑う楓子の背後にゆらりと般若のオーラが幻視され、三人はゾクリと背筋を震わせた。

 そんな話をしつつ四人は進む。

 そして、山を下りる前には茜色になっていた空はいつの間にか星空に代わる頃、四人の目の前には大きなお屋敷の門があった。門には楓子の言葉通り藤の花を家紋として掲げていた。

 

「ここが……」

 

「そ、藤の花の家紋の家。鬼殺隊の支援者の家だよ」

 

 善逸の言葉に頷きながら応える楓子。

 と、四人の目の前で門の横の扉がゆっくりと開き小柄な老婆が現れる。

 

「はい?」

 

「夜分に失礼します。我々は鬼殺隊の者で、私は大好楓子というものです」

 

 楓子が代表して名乗る。ちなみに楓子の背後では老婆の姿を見て「お化け!?」と失礼なことを言った善逸が炭治郎に殴られていた。

 

「鬼狩り様、ようこそおいで下さいました。どうぞ」

 

 四人に向けてお辞儀した老婆は四人を中に招き入れる。

 

「こちらへ」

 

 老婆に連れられるままに屋敷に入り長い廊下を進むと

 

「お食事の用意をしておりますので、お先にお風呂へお入りください。お着換えの用意は中にしております」

 

「ありがとうございます」

 

 老婆に礼を言った楓子は三人に視線を向け

 

「じゃ、三人とも行っておいで」

 

「え?」

 

 楓子の言葉に炭治郎たちが驚きの声を漏らす。

 

「楓子さんは入らないんですか?」

 

「入るよ?でも、後でね」

 

「んだよ、一緒に入ればいいじゃねぇ――」

 

「楓子パ~ンチ!」

 

「げふッ!?」

 

 言いかけた伊之助の言葉を楓子の拳が遮る。

 

「やれやれ、伊之助くん。そう簡単に見せるほど私の裸は安くないんだZE?」

 

「あぁんッ!?どういう意味だッ!?」

 

 殴られたことに対する怒りで叫ぶ伊之助にため息をつく楓子。

 

「いや普通に考えて浴室一つしかないんだから私か、君たち男三人か、どっちかしか入れんでしょ?」

 

「……あぁ!んだよそう言うことかよ!」

 

 楓子の言葉に伊之助がやっと合点が言ったようにポンと手を打つ。

 

「ささ、三人で入っておいで」

 

「でも、別に俺らからじゃなくても楓子さんから入ったらいいんじゃ?」

 

「私は髪長いから洗うのに時間かかるし、何より長風呂派だから。三人の後でゆ~っくり入るよ」

 

「そうですか……」

 

 申し出た善逸の言葉に首を振る楓子。

 

「ささ、遠慮せず行っておいで」

 

「……わかりました。すみませんが、お言葉に甘えます」

 

「どぞどぞ」

 

 炭治郎の言葉に頷きながら手で浴室のドアを示す楓子。

 楓子に促され三人は浴室に入って行く。

 三人を見送った楓子は

 

「では、おばあさん、よければ夕食の用意を私にも手伝わせてください」

 

 笑顔で老婆に提案する。

 

「そんな、お客様である鬼狩り様のお手を煩わせるわけには……」

 

「私、料理が趣味なんです。お邪魔にはならないと思いますよ」

 

「ですが……」

 

「三人がお風呂入っている間暇なので、何か暇を潰せるものが欲しいんですよ」

 

「そう、ですか……」

 

 楓子の言葉に頷いた老婆は頷き

 

「では、こちらでございます」

 

「はい、よろしくお願いします」

 

 楓子は老婆の案内に着いて行くのだった。

 

 

 ○

 

 

 楓子が手伝って料理が完成したころ、炭治郎達が風呂から上がってきたので四人で食事を食べる。

 食べるのだが――

 

「はぐッ!はぐッ!はぐしゃぐッ!あぐッ!しゃぐッ!」

 

「箸使えよ……」

 

 両手で鷲掴みにしてご飯を食べる伊之助に善逸が注意する。その光景を炭治郎もあきれ顔で、楓子も苦笑いで見ている。と――

 

「はぐッ!!」

 

「「あッ!」」

 

 一瞬の隙に楓子のお膳からさつま芋天を強奪した伊之助はそれを口に放り込む。その光景に炭治郎と善逸が思わず声を漏らす。

 

「…………」

 

 楓子はそんな伊之助をの顔をきょとんとした顔で見つめる。

 

「むへへへ~ッ」

 

 伊之助は憎たらしく笑みを浮かべると

 

「はぐッ!」

 

 再び楓子のお膳から今度はエビ天を強奪して頬張る。

 そんな伊之助を数秒見つめた楓子はにっこりと微笑み

 

「うんうん、いい食べっぷりだね。もう一個食べる?こっちの煮物も味が染みてて美味しいよ?」

 

 言いながら自身のお膳の上のてんぷらや煮物の入ったお椀を伊之助に差し出す。

 

「……はぁ?」

 

「あ、お茶碗が空だね。ご飯よそってあげるね」

 

 呆ける伊之助を他所に楓子は伊之助のお膳のご飯茶碗を手に取っておひつからご飯をよそう。

 当初の目的では楓子を怒らせられなかった伊之助だったが、怒らせるどころか楓子の世話焼きの性分を刺激してしまう結果になった。

 

「てめぇ何勝手に――」

 

「伊之助、これ食べたか?これ楓子さんが作ったらしいぞ?」

 

「そうそう、この金平ごぼう味付けが我ながらいい出来で自信作なの!」

 

 文句を言いかけた伊之助だったが楓子に加え、炭治郎まで世話焼きに加わる。

 

「ほらほら、どんどん食え伊之助」

 

「おかわりたくさんあるからねぇ」

 

「う……うぅ……うがぁぁぁぁぁぁッ!!」

 

 頭をガシガシと引っ掻き回して怒る伊之助を楓子と炭治郎は微笑ましげに眺めていた。

 その後、夕食を終えると炭治郎達三人は寝室に案内され老婆の呼んだ医者に診察を受けることとなった。

その間に楓子もお風呂に入り、おじさんのような「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛~」と声を浴室に響かせて数日ぶりのお風呂を堪能した。

その後楓子はさっぱりした気持ちで上がり、身支度をして炭治郎達のもとに戻った。

 

「で、だよ」

 

 炭治郎達にあてがわれた寝室で三人の体面に座った楓子は真剣な表情で口を開く。

 

「三人ともアバラ折れてて早めに休んだ方がいいところなんだけど、少し私に付き合ってほしいの」

 

「ええ、もちろんいいですよ!」

 

 楓子の言葉に炭治郎が力強く頷き

 

「どうかしたんですか?」

 

 善逸もそれに応じ

 

「ケッ!この程度なんてことねぇからなぁ!仕方ねぇから付き合ってやるよ!」

 

 伊之助も偉そうに頷く。

 

「うん、ありがとう。じゃあさっそくなんだけど、炭治郎くん」

 

「はい?」

 

 三人が頷いたことに微笑んだ楓子は炭治郎に視線を向け

 

「昼間、鼓屋敷でも聞いたけど、君は鬼舞辻無惨に遭遇したんだよね?」

 

「え……?」

 

「はい!数日前、浅草で」

 

「えぇぇぇぇぇッ!!?」

 

 楓子の言葉にあんぐりと口を開けた善逸は頷いた炭治郎に驚愕の声を上げる。

 

「おまッ!?まじかぁぁぁぁぁッ!?鬼舞辻無惨に会ったぁぁぁぁッ!?」

 

「誰だ?そのおむすび南無参ってのは?」

 

「誰ッだよそれぇぇッ!!鬼舞辻無惨だよ!!鬼の総大将!!全部の鬼は元を辿ればそいつが原因なんだよ!!てかなんで鬼殺隊にいるのに知らねぇんだよ!!?」

 

「俺は強ぇ奴と戦えりゃぁそれでいいんだよ!――鬼の総大将か…面白れぇ!俺が倒してやる!ガハハハハハハッ!!」

 

「この千年誰も倒せてないんだぞ!無理に決まってんだろ!そもそも鬼殺隊の人間が探し回ってるのに尻尾すらつかめてねぇんだぞ!!」

 

 大口をたたく伊之助に善逸が呆れた顔でツッコむ。

 

「善逸くんの言う通り、これまで尻尾の掴めてなかった鬼の総大将である鬼舞辻無惨。そいつに炭治郎くんは遭遇できた。顔も見たんでしょ?」

 

「はい!今もしっかり覚えてます!」

 

 楓子の問いに炭治郎が頷く。

 

「今まで顔すらもわかっていなかった鬼舞辻無惨……でも、ここにその顔を目にした人がいる……」

 

「そうか!なら炭治郎の記憶をもとにすれば……!」

 

「そう、炭治郎くんの記憶をもとに鬼舞辻の似顔絵を作ればこれはとんでもない快挙!これまで動いてなかった状況が動く、大きな進歩になる!」

 

「な、なるほど!!」

 

 楓子の言葉に炭治郎が目を輝かせる。が、すぐに顔を顰め

 

「でも、すみません…俺あんまり画才は無くて、似顔絵は自信無いです……」

 

 しょんぼりしながら言う。そんな炭治郎にニヤリと楓子は笑い

 

「大丈夫!その点は心配いらない!なぜなら――」

 

 言いながら部屋に来た際に持って来ていた自身のカバンを探り

 

「何を隠そう、私は似顔絵の達人だぁああッ!!」

 

 左手にスケッチブック、右手の指の間に鉛筆や万年筆を握る楓子がカッ!と目を見開いて自信満々に叫ぶ。

 

「似顔絵の……!」

 

「達人……!?」

 

「なんかよくわからねぇが凄そうじゃねぇか!!」

 

 そんな楓子の言葉に三人は目を見開く。

 

「フッフッフッフ~、さあ炭治郎くん。君の見たという鬼舞辻無惨の特徴を教えてくれるかい?まずは髪型から!」

 

「は、はい!――えっと、髪型は頭に白い帽子を被っていたのでよくわかりませんでしたが、こう…黒髪の前分けで、なんて言うかうねうねとわかめみたいに波打ってて……」

 

「ふむふむ、その帽子って言うのはどんなの?」

 

「えっと、俺も名前は知らないんですが、被る部分があって、こうツバがぐるっと周りを一周取り囲んでて、こうぐるっと黒い布が張ってあって……」

 

「あぁ、中折れ帽か!わかったわかった!じゃあ次に輪郭は?」

 

「えっと………」

 

 こうして楓子の問いに炭治郎は鬼舞辻の顔を記憶に思い起こしながら言葉と共に時に身振り手振りを交えながら説明する。

 そんな似顔絵制作をすること数分後――

 

「出来上がり!」

 

 楓子がバッと手を挙げて言う。

 その楓子の描いた似顔絵を見た炭治郎は

 

(上手い!――けどなんか似てない!!)

 

【挿絵表示】

 

 

 自身の記憶の中の鬼舞辻無惨の顔と絶妙にどこか違う雰囲気のその似顔絵に口籠る。

 そんな炭治郎の様子に気付かない楓子は自信満々に胸を逸らし

 

「ふふん!どうよ!なかなかのもんでしょう?」

 

「えっと……そうですね、上手だと思います…よ?」

 

 そんな楓子に炭治郎が言い淀んでいると、横からその似顔絵をのぞき込んだ善逸と伊之助が

 

「こ、これが鬼舞辻無惨……確かに異様な雰囲気してる……(ゴクリ)」

 

「はんッ!こんな奴俺が一捻りで倒してやるぜ!ガハハハハハッ!!」

 

 緊張で生唾を飲み込む善逸と、高らかに笑う伊之助。二人は鬼舞辻無惨に会っていないので炭治郎の葛藤は伝わらない。

 

「これは有力な情報だ。ちゃんとお館様に報告しないとね」

 

 画材を片付けながら楓子が言う。

 

「これで一歩平和な世の中に近づいたよ。三人とも、これからも一層頑張ろうね!」

 

「は、はい!」

 

「おうよ!」

 

 楓子の言葉に、少し怯えながらも頷く善逸とニヤリと獰猛に笑う伊之助。

 そんな三人の雰囲気に、炭治郎はこの困惑を口にできないのだった。

 と、そんな時――

 

――カリ…カリカリ…カリカリカリ……

 

 部屋の隅に置かれていた箱から引っ掻くような音が聞こえてくる。

 

「あ、禰豆子起きたのか!」

 

 その物音に炭治郎はいったん似顔絵のことは置いておいて三人に視線を向ける。

 

「楓子さんや善逸にもまだちゃんと紹介したことなかったですね。ちょうどいいので、紹介します」

 

 炭治郎の言葉に呼応するように箱がガタガタと揺れ始める。

 

「え、待って出てこようとしてる!?そりゃ炭治郎のことは信じてるけどいきなり鬼が出てくるのはこっちとしても心の準備が――」

 

 と、あれこれ言っている善逸を尻目に箱の扉がゆっくりと開く。

 

「って、鍵かかってないんかぁぁぁぁぁいッ!!」

 

 飛びのいた善逸はそのまま楓子の後ろに身を隠す。楓子と伊之助は何も言わず箱を見ている。

 四人が見る中でゆっくりと開いた扉が完全に開ききり、中からのっそりとだぼだぼの着物を纏った口に竹筒を加えた幼女が現れる。

 

「禰豆子!」

 

 その様子に炭治郎は微笑み

 

「………へ?」

 

 想像していた鬼とは真逆の見た目のものが出てきたことに善逸は一瞬呆ける。

 そんな善逸を他所に完全に箱から出た幼女――禰豆子はゆっくりと立ち上がる。と、同時に4、5歳程度だった肉体が徐々に膨らんでいき、見る間に12歳前後ほどにまで成長する。

 

「カァァァァァッ!?」

 

 その姿、容姿に目を奪われた善逸は、まるで雷にでも打たれたような衝撃を受ける。

 

「あぁん?」

 

 その様変わりした姿に伊之助も一瞬驚いた様子は見せたもののすぐに特に興味なさそうになる。

 

「へぇ、思ったよりも可愛らしい子が出てきたね」

 

 楓子は微笑みながらゆっくりと立ち上がり、禰豆子に歩み寄り視線を合わせる。

 

「こんばんは、私は君のお兄さんの先輩で大好楓子って言うんだよ。よろしくね、禰豆子ちゃん」

 

「……ム~」

 

 楓子がにっこりと笑いながら自己紹介をして右手を差し出す。と、禰豆子はそんな楓子の顔と右手を交互に数回見た後

 

「ムー!」

 

 楓子の手を取って頷いた。

 

「ハハッ、よかった。楓子さんは全然禰豆子を怖がってないんですね。禰豆子の方も楓子さんのこと気に入ったみたいですし」

 

「もちろん。もとからまこちゃん達が信じてる禰豆子ちゃんを私も信じるって決めてたし、何よりこんな可愛い子なら心配ないよ」

 

「ありがとうございます」

 

 楓子の言葉に頷いた炭治郎は伊之助に視線を向け

 

「伊之助もよかったら禰豆子に……」

 

「…………」

 

 炭治郎の言葉に伊之助は少し考え

 

「興味ねぇ」

 

 言いながら布団に寝ころび

 

「眠い。寝る」

 

「あ、ああ……」

 

 頷いた炭治郎の声が聞こえたかわからないが、すぐに伊之助は鼻提灯を膨らませてイビキをかき始めた。

 

「もう寝た……やっぱり疲れてたんだなぁ」

 

 その様子に炭治郎は苦笑いを浮かべ

 

「ほら、善逸はどうだ?鬼は怖いかもしれないが、禰豆子は大丈夫だから」

 

 そう言って善逸に視線を向ける。

 と、そこではあんぐりと口を開けていた善逸が

 

「ア゛ァァァァァァァァァァッ!!!」

 

 汚い高音を上げた。

 

「ど、どうした善逸!?」

 

「何かあった?」

 

 その声に思わず耳を塞いだ炭治郎と楓子の問いに

 

「ど、どうしよう炭治郎…楓子さん……」

 

 ガクガクと口を震わせながら善逸は

 

「めぇぇぇぇぇっちゃ好みぃぃぃぃぃぃぃッ!!!」

 

「「…………へ?」」

 

 その叫びに炭治郎と楓子は揃ってポカンと呆けた顔で首を傾げる。

 

「は?え?はぁッ!?何この子めちゃくちゃ可愛いッ!!え、女神!?天女!?可愛い!!超可愛い!!うわっひゃぁぁぁぁぁぁぁッ!!」

 

 叫びながら善逸は飛び上がり、そのまま禰豆子に駆け寄り

 

「初めましてぬぇぇぇずこちゅわぁぁぁんッ!!俺、我妻善逸ぅぅぅッ!!君のお兄さんの親友なんだよぉぉぉッ!!よぉぉぉろしくぬぇぇぇぇぇッ!!」

 

「おい、今サラッと勝手に炭治郎くんの親友名乗ったな」

 

 クネクネと体をくねらせながら言う善逸の言葉に楓子がツッコむが善逸はまったく聞いていない。

 

「えへへへ~、えへへへ~。ぬぇぇぇずこちゅわぁぁぁんッ!ぬぇぇぇずこちゅわぁぁぁんッ!」

 

 クネクネと動きながらだらしなく笑う善逸に

 

「ム~」

 

 禰豆子も困惑した様子で眉をしかめ

 

「ムゥッ」

 

 そっぽを向いて善逸から逃げ出す。

 

「あぁんッ!逃げないでよね~ずこちゅわぁぁんッ!」

 

 そんな禰豆子を善逸が追いかける。そのまま部屋の中を数周歩き回った後

 

「ムゥッ!」

 

「おっと……!」

 

 禰豆子は楓子の背中に隠れる。

 

「アハハハ~ね~ずこちゅわぁぁんッ!」

 

 そのまま善逸も楓子の背中側に回ろうとして

 

「おい善逸、やめろ!禰豆子が嫌がってるだろ!」

 

 その前に善逸の前に炭治郎が立ち塞がる。が――

 

「えへへへ~、えへへへ~」

 

 善逸はニヨニヨと笑みを浮かべたまま

 

「なぁ炭治郎~炭治郎~」

 

「な、なんだよ……?」

 

 炭治郎へすり寄る。そんな善逸の様子に炭治郎も後退る。そんな炭治郎を追って善逸は距離を詰め

 

「ねぇ~?炭治郎のこと、お義兄様って呼んでもいい~?」

 

「は、はぁ!?なんだよそれ!?なんでそんなこと……!?」

 

「なぁ~いいだろ~?炭治郎お・に・い・さ・ま~?」

 

「~~~ッ!」

 

 善逸の猫撫で声にゾワゾワッと炭治郎の背中に悪寒が走る。

 

「やめろ!お前にそんな風に呼ばれるとなんか気持ち悪い!」

 

「あぁん!そんなこと言わないでくれよ~炭治郎お義兄様~!」

 

「やめてくれぇぇぇ!」

 

 善逸の言葉に炭治郎は顔を顰めるが善逸は気にした様子無くむしろどんどん距離と詰めていく。

 そのまま耐え切れなくなった炭治郎が今度は逃げ出すが善逸は

 

「ま~ってよ炭治郎お義兄様~!」

 

 猫撫で声のまま炭治郎を追いかける。

 そのまま先程まで禰豆子と善逸がしていた鬼ごっこを炭治郎と善逸に顔ぶれが変わって数周繰り返し

 

「ふ、楓子さん!た、助けてください!善逸が変なんです!」

 

 炭治郎は楓子に助けを求める。が――

 

「うん、もういい時間だし寝ようか。鬼と戦ってみんな疲れたよね~。ここは男の子ばっかりだし、禰豆子ちゃんは私の部屋で寝る?」

 

「ムー!」

 

 楓子はニコニコと笑ったまま背後に立つ禰豆子に言う。言われた禰豆子も頷く。

 

「ちょぉっ!楓子さん!?禰豆子まで!?」

 

「じゃあねぇ、炭治郎くん、善逸くん。おやすみ~」

 

「ム~」

 

 呼び止める炭治郎に、しかし、笑顔のまま手を振って去って行く楓子と、同じように手を振る禰豆子。

 そのまま二人は炭治郎達の寝室を後にし、残された炭治郎と善逸の追いかけっこはそれから数十分の間続いたのだった。

 




楓子による鬼舞辻無惨の似顔絵制作でした。
これもまた百年ぶりに上弦の鬼討伐に次ぐ快挙になる――かも!?
一応楓子ちゃんの名誉のために言っておくと、彼女はいたって真面目にあの似顔絵を描いています。



~大正コソコソ噂話~
結局善逸の炭治郎への呼び名は炭治郎が全力で嫌がったので変わらず「炭治郎」と呼び捨てで落ち着きました。


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